バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第81回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

旅客船におけるバリアフリー化推進セミナー@大阪

開催日時
令和8年8月28日(金)15:00〜16:55
開催場所
ATCエイジレスセンター セミナールーム
参加者数
69人
趣旨説明者
澤田 大輔(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)
調査報告者
��橋 徹(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)
基調講演者
尾上 浩二 氏(DPI日本会議 副議長/NPO法人ちゅうぶ 代表理事)
話題提供者
安田 真之 氏(NPO法人ゆに 理事/立命館大学生存学研究所 客員研究員)
松本 江理 氏(NPO法人日本補助犬情報センター 理事/日本聴導犬パートナーの会 代表)

講演概要

■趣旨説明「本セミナーについて」澤田 大輔

 現在、旅客船を含む交通機関のバリアフリー化の整備は、バリアフリー法に基づく「移動等円滑化基準」と、それを補う『バリアフリーガイドライン』で進められている。基準は、あくまで入口であり、最低限満たさなければならないものであるが、利用者の使い勝手という面では課題がある。
 また、問題のひとつとして、事業者や設計者は、障害のある人がバリアフリー設備をどのように使用しているのか、想像が及んでいないことがある。バリアフリー設備があること=(イコール)ちゃんと使えることではない。これからの旅客船事業においては、当事者参画を行いながら様々な視点から見ていく必要がある。

■調査報告「旅客船におけるバリアフリー化の課題 〜実態調査を通じて〜」��橋 徹

 「旅客船バリアフリーガイドライン」の記載内容の不十分さや、船舶の設計・施工が最低基準を満たすことにとどまっている現状を踏まえ、3隻の旅客フェリーの実態調査を行い、ガイドライン改定の方向性について検討した。
 調査結果を以下の3つにまとめると、
 �@現在ガイドラインに掲載されていない施設・設備であっても、設計・建造時から配慮が必要である。
 �A設計者等の障害者等への基本的な知識不足があるため、設計段階から障害当事者との意見交換を行うようにする。
 �B船舶で採用可能な設備等の技術開発を行う必要がある。

■基調講演「施設整備における当事者参加の必要性」尾上 浩二 氏

 障害者運動とは、「社会的障壁に取り囲まれたジャングルの中、必死にけもの道を探すように前進し道を作ってきたのが障害者運動」である。私たちが街にくり出すことで、バリアを可視化し、様々なものが動いてきたと実感している。
 当事者の声を元に生まれたバリアフリーは様々ある。例えば、鉄道の車両乗降部の段差・すき間の解消も当事者が参画している。リニアモーター方式の鶴見緑地線で段差解消が実現し、かつて不可能と言われていた旧来方式である千日前線においても、全駅で段差解消が実現した。その際、様々な障害当事者が参画し、試作品の検討をすることで、「段差20mm以下、すき間30mm以下」の基準を作った。
 旅客船のバリアフリー化に関しては、2021年11月に国土交通省地方運輸局の移動等円滑化評価会議の近畿・九州分科会の協働事業として乗船体験を行った。船内の共有部分では、エレベーターが大きく、通路幅も車椅子使用者がすれ違えるすばらしいものであった。一方、客室は扉が重く、車椅子で回転するスペースもなかった。「フェリーは動くホテル」という説明があり、「動く」という点についてはバリアフリー化が進んでいると感じたが、ホテルという宿泊施設としてはもう一工夫ほしい印象であった。「乗れる」だけでなく、「船内でいかに快適に過ごせるか」ということが重要である。
 その後、2025年9月、新造船の「さんふらわあ むらさき」に乗船したところ、レストランの座席は可動席であり、複数の車椅子使用者が同じテーブルで食事を楽しむことができた。また、バリアフリールームは、自動扉や動線の確保されたレイアウトであり、そしてベッド下にはクリアランスが設けられており、2021年の乗船会の意見を受け止め、反映していただいていたことがうれしかった。
 ガイドラインがあることで、「基準さえ満たしておけばいい」という“なんちゃってバリアフリー”が増えている。使いやすさや使い勝手という面はこれまで欠けていた視点であり、これからは量も質も充実させるために、ますます当事者参画が重要である。

■話題提供�@「旅客船利用の実際と今後のバリアフリー化への期待」安田 真之 氏

 以前は、他の乗り物と比べて圧倒的に広い空間で、長時間過ごす旅客船には不安があった。しかし、同行者と一緒に旅客船を利用した際、バリアフリー設備や船員の対応によって旅客船の楽しさを知り、それ以来一人でも利用するようになった。
 旅客船を利用するときに直面した困りごととして、例えば、客室のルームキーがQRコードだったため正しい位置に合わせることが難しく、カギを開けた時の音も小さいので、空いたかどうかわからないことや、バリアフリー設備(点字表示)があっても、障害物によって使えなかったり、破損したりしていたことがあった。
 好事例としては、ターミナル入口に音声案内があったことで迷わず窓口に行けたことや、船内案内で「レストランは5階右手後方にございます。」と位置も案内してくれたこと等があった。ホームページについても、画像だけでなく文字での案内があったことや、障害者割引やサポートの依頼がホームページ上でできるようになっていた。接遇については、「案内所にスタッフがいるので、いつでもお声がけください。」という一言で、“ここに行けば大丈夫”と安心することができた。一方で乗船中はいい意味で放置されており、そっと見守る・気にかけるということが重要ポイントだと感じた。
 旅客船は、単なる交通機関でなく、非日常やゆとりといった部分も求められており、バリアフリー化を進めることは、結果的にこのような旅客船ならではの価値を高めていくことに繋がると考える。今後、期待することは、安心安全に乗船できるイメージを持つため、情報発信をすること、オンラインで障害者割引予約を可能にすること、画像だけでなく文字でも情報を提供すること等である。
 また、バリアフリー設備が本当に使えるものかは障害当事者でないとわからないため、障害当事者参画の取組をスタンダードにすることを期待したい。障害者にとってわかりやすい情報発信は、乗客の立場に立って必要な情報を考えるため、結果的に誰にとってもわかりやすい情報になる。また、障害者は接遇を受けるエキスパートであるため、職員研修の際に障害者を呼んで対話することで、より素晴らしい旅客船の環境が整っていくと考える。

■話題提供�A「聞こえないバリアへの気づきと今後の期待」松本 江理 氏

 音は、無意識にどこからでも入ってくる。サイレンや非常ベル、クラクションなど、何かを気づかせるために音が使われるが、聴覚障害者はそれを聞く事ができない。そのような音を知らせてくれるのは家族や道具であり、それらを合わせた最終秘密兵器が聴導犬である。聴導犬が音を知らせてくれることで、寝ていても後ろを向いても、トイレに入ってもいいという安心感があり、頼りになっている。
 身体障害者補助犬は、聴導犬以外に盲導犬、介助犬の3種類が法律で認められているが、認知度が低いため、不適切な対応を取られることもある。私たちが困らないように設備を整えることやサポートすることは、特別なことではなく当たり前のことであり、そのような当たり前の生活を求めている。しかし、その理解がなかなか得られず、特別にサポートが必要ということが、“特別扱い”ということになってしまう。
 一方、聴覚障害者は、移動の困難がないため、外見上障害があるようには見えない。そのため、困っているように見えず、自分からもSOSを出さないでいると、“いない”ことにされ、バリアフリーを考える時、聴覚障害者の対応が考えてもらえない。しかし、実際は、何か起きた時に非常アナウンスがわからない、トイレに入っているときに非常ベルが鳴ってもわからず取り残される等、聞こえないことは命に関わることがある。
 ユニバーサルデザインやバリアフリーは掛け算だと考えている。まず気づくこと、そして正しい知識を持つこと、そして何かしらのアクションを起こすことが必要である。聞こえない人が来るかもしれないとメモ帳をいつも持つ、そのアクションだけで実は大きなユニバーサルデザインの一歩になる。そのような気づく人、事業者になっていただきたい。

■質疑応答

(参加者�@)

 今回の見学会では、廊下の壁の下に避難誘導ラインが連続して設置されており、聴覚障害者も目で確認しながら避難経路をたどることができる非常に有効な設備だと感じた。このように、非常時における聴覚障害者の対応マニュアルや、聞こえない、聞こえにくい人が安心して船旅を楽しむことができるハード面、ソフト面での工夫や取り組みがあれば、聞かせていただきたい。

(商船三井さんふらわあ 担当者)

 聴覚障害のお客さまが乗船される際には、フラッシュチャイムを貸し出しており、非常時にはライト部分が点滅して光るようになっている。フラッシュチャイムを貸し出している部屋は船員が把握しており、避難誘導の際には直接お声がけし、避難集合場所まで案内する仕組みになっている。

(松本氏)

 聴覚障害者は、視覚を奪われることがとても恐ろしいので、真っ暗な時でも光る誘導ラインやフラッシュライトをつけるなど、非常時は命にかかわるので工夫を検討していただきたい。

(商船三井さんふらわあ 担当者)

 非常時には、船内のサイネージや客室のテレビは「非常事態が発生しています」という表示に変わるようになっている。また、客室のテレビでは、到着時間やレストラン営業時間などの情報も出ている。ご意見いただいたライン式の避難誘導灯や光警報装置の増設等についても、今後検討していきたい。

(参加者�A)

 聴覚障害や視覚障害のお客さまに話しかけるときの工夫を教えていただきたい。

(安田氏)

 視覚障害者の場合、名札が見えないので、自分が何者なのか言ってから用件を伝えるということが一つである。声をかけても気づかない時は、名前を呼んでみたり、そっと肩をたたくというコミュニケーションの取り方もある。

(松本氏)

 聴覚障害者の場合、視界に入っていただくことが重要である。前方に回って顔が見えれば気づく事ができるし、下を向いていたら手を前で振ると気づくことがある。会話は、筆談やUDトーク(※1)などスマートフォンの音声認識アプリという方法がある。
 一方、事業者の問い合わせ窓口が、電話のみであることがいまだにあり、リアルタイムに問合せしたくてもできないことがある。現在は、電話リレーサービス(※2)のような公共インフラが広がりつつあるため、事業者のインフォメーションでも取り入れることを検討していただきたい。
※1 UDトーク・・・音声認識と自動翻訳を活用した生活やビジネスの様々なシーンで活用できるアプリ
※2 電話リレーサービス・・・聴覚や発話に困難のある人(以下、きこえない人)と、きこえる人(聴覚障害者等以外の人)との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができるサービス

(参加者�B)

 現在、便利なアプリケーションなどハードとソフトの間のものができてきたが、安田氏が旅客船においてハード面とソフト面のバランスで思うことがあれば伺いたい。

(安田氏)

 日本は、ハード面はすごいが、折角の設備も人が乗らなければ役に立たないため、これからの課題はソフト面だと考えている。

(参加者�C)

 当事者参画において、団体の長や肩書のある方に参画していただくことは結果的にアリバイ的な当事者参画になってしまうこともあると考えるが、これから当事者参画をどのように作っていくのか。また、障害者側はどのような参画ができるのかということについて、ご意見いただきたい。

(尾上氏)

 団体の長だからダメということではなく、団体の中でも実際にそのテーマや課題に関して社会的障壁を感じ困っていたり、関わっている当事者を推薦するやり方がある。また、当事者団体側の努力として、DPI日本会議では、障害当事者バリアフリーリーダー養成講座という人づくりの部分に取組んでおり、その修了者を事業者の研修において講師紹介させていただいている。

配布資料
  • 調査報告(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団 ��橋氏)【PDF/4,910KB】【テキスト/8KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
  • 基調講演(DPI日本会議 副議長/NPO法人ちゅうぶ 代表理事 尾上氏)【PDF/2,438KB】【テキスト/13KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
  • 話題提供�@(NPO法人ゆに 理事/立命館大学生存学研究所 客員研究員 安田氏)【PDF/2,599KB】【テキスト/15KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
  • 話題提供�A(NPO法人日本補助犬情報センター 理事/日本聴導犬パートナーの会 代表 松本氏)【PDF/4,049KB】【テキスト/9KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します