第21回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要
「大阪・関西万博」で“目指したもの”と当事者から見た“現在地”
- 開催日時
- 2025年9月12日(金)13:30〜16:00
- 開催場所
- ホテルプリムローズ大阪 3階 高砂
- 会場参加者数
- 51人
- オンライン参加者数
- 81人
- 趣旨説明
- 三星昭宏氏(近畿大学 名誉教授)
- 報告
- @ 視覚障害者の立場から:海老澤弥生氏(きんきビジョンサポート)
A 高齢者の立場から:宮脇由子氏(JAわかやま女性会 わかやま地域本部 直川支部副支部長)
B 車いす使用者の立場から:六條友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん 理事)
C 学識者の立場から:柳原崇男氏(近畿大学理工学部 教授)
D 聴覚障害者の立場から:長宗政男氏(公益社団法人大阪聴力障害者協会 会長)
E LGBTQ+の立場から:塩安九十九氏(新設Cチーム企画 主宰)
F 知的・精神障害者の立場から:上宮俊一氏(社会福祉法人大阪市手をつなぐ育成会 業務執行理事)
G 学識者の立場から:室ア千重氏(奈良女子大学 生活環境学部 准教授) - まとめ
- 新田保次氏(大阪大学 名誉教授)
講演概要
■趣旨説明 三星 昭宏 氏
本勉強会では、「大阪・関西万博」のユニバーサルデザイン(以下、UD)の取組みに関して、これまでの経緯と目指すものについて、それぞれの立場から報告していただく。
今回の万博では、「東京オリパラ」のUDの取組みを凌ぐことを目標に、日本で開催して良かったとなることを目指して、準備の過程から各種ガイドラインの作成に当事者の方々が参画したという特徴がある。また、現在、大阪市の基本構想の見直しを行っているが、このUDを更に近畿地域の中で発展させて、国や府のガイドラインに新しい方向を与えるという目標がある。このUDの特徴は、@設計段階からの当事者参画、A多様なトイレの設置、BLGBTQの方への対応、Cトイレの機能分散、Dクールダウン・カームダウンスペースの設置、Eバリアフリー情報提供の新しい工夫、Fスマホによる視覚障害者の誘導や情報提供、G五感で参加可能な当事者参加ツールが挙げられる。
さらに、もう一つの大きい目標が、2027年に開催される「横浜園芸博」への成果・教訓の承継である。
■報告@「視覚障害者の立場から」海老澤 弥生 氏
「shikAI」と「ナビレンス」が導入され、視覚障害者が単独で会場内を自由に行きたい場所に行けたことは、大きな進展だった。また、万博スタッフの対応は素晴らしく、今までにない幸せな体験ができたが、課題もあった。例えば、パビリオン内では家族等が展示物や状況を伝えるのは難しく楽しめなかった。同伴者がいてもスタッフの説明が必要。また、国内外のパビリオンの違いとして、国内はマニュアルを大切に、海外は人を大切に運営していると感じた。設備面では階段や案内板、柱の表示のコントラストが悪かった。
「夢洲駅」では、天井の照明が残念で、改札に向いて縦に設置されていれば、改札へのルートが分かったと思う。また、モニター付きのインターホンは、カバーを掛けられ、利用できなかった。
会場内は点字ブロックが敷設されていたが、柵・ポール・待機列で塞がれ危険だった。また、点字ブロック上を歩行中、パーソナルモビリティにひかれて白杖が折れた。チケット購入は、スマホの操作ができず、いきたくてもいけないとの声が多かった。その他、アプリの技術を有効利用できていなかった点がある。「ナビレンス」は設置位置が決められており、点字ブロックから見つけにくかったり、「shikAI」は誘導ブロックに敷設許可がでず、展望デッキやパビリオン直前までは行けなかった。特にトイレでは「ナビレンス」、「shikAI」、「点字ブロック」の連携が不十分な箇所があり、単独で視覚障害者が利用できるトイレが少なかった。デザイン面で出来上がったものにあとから2次元コードを張ることはむずかしく、歩行支援アプリは、ハード整備として、設計段階から検討していただきたい。
■報告A「高齢者の立場から」宮脇 由子 氏
万博アプリは、高齢者の私には利用しにくく、結局、友人がチケット等を予約してくれた。また、当日に予約用パソコンのある場所に行ったが、全部予約済みであった。そのため、列に並んでいる際に待ち時間が分かる掲示板が各所にあれば良いと思った。
パビリオン内では、「次の展示に行くためには階段がある」などの事前案内があれば、安心して見学できると思った。映像のある所では、少し暗いので足元に不安を感じ、上映される映像は背の低い人は見えにくいので、スタッフの案内があれば良いと思った。
大屋根リングのエスカレーターは、ゆっくりと動いていたので安心して利用でき、トイレは各所にあって迷わず利用できたが、空き表示があれば良かった。
■報告B「車いす使用者の立場から」六條 友聡 氏
「弁天町駅」には、JRホームの床にメトロ中央線に行く案内があり、黒と緑に着色され見やすく、エレベーターは17人乗りであり、バリアフリートイレは2か所あったので利用しやすかった。ただし、メトロからJRへのエレベーターは、車椅子使用者が一人しか乗れないので待ちの行列があった。ここは検討会で改善を希望していた箇所でもある。
「桜島駅」の改札でも音声案内されていたと思うが、通路が傾斜路となっているため、雨で床がすべらないのか気になった。また、「桜島駅」にあるバスレーンは1番から12番あり、駅から1番までは距離が長いので歩行困難な方などはしんどいのではと感じた。
「夢洲駅」のホームから改札口へのエレベーターは、ガイドラインの規定のもので片袖タイプ、24人乗りであったが、ベビーカーや車椅子使用者は30〜40分待つことになり混雑していた。一方で改札から地上へのエレベーターは、貫通型の片袖タイプで、車椅子使用者4人は乗れず効率が悪かった。
旅客船の「まほろば」は、岸壁からスロープのタラップで乗船するが、途中で90度に曲がる箇所での方向転換が大変だったが、船内の車椅子スペースは蹴り込み口もあり利用しやすかった。
万博会場の入口には多目的レーン(優先入場口)があり、車椅子使用者、視覚障害者、ヘルプマークを付けている方等が入れるようになっており、アクセシビリティセンターでは車いすや歩行器の貸出もあった。
今回、設計段階から当事者が参画し、中間時点でモックアップによる検証も行ったが、ハードとソフトの一体的な取組が必要な場面において、肝心なソフトのところが詰め切れず大きな課題が残った。「横浜園芸博」では、そこも含めて取り組んでいただきたい。
■報告C「学識者の立場から」柳原 崇男 氏
海老澤さんから報告のあった「shikAI」とは専用アプリでQRコードを読み込むと万博内で現在地から各パビリオンへ誘導できるものであり、「ナビレンス」とは専用アプリでコードを読み取れば情報を得られものである。これらの課題として、ハードと情報提供システムの連携ができていなかったこと、ハードの検討時期と情報システムの検討時期が異なり、うまく連動することができていないことが挙げられる。また、アプリ自体も晴眼者や若い人でも使いづらく、視覚障害者にとってはさらに困難であった。「大阪ヘルスケア」のパビリオンでは、専用アプリをその場でダウンロードするようにスタッフに言われた。しかし、視覚障害者はスマホ利用に「VoiceOver」というアプリを使っていたが、専用アプリをダウンロードしたものの個人情報に同意するチェックボタンで反応せずに進めなかった。
会場整備では、ハードとソフトについて議論してきたが、UDガイドラインには、ウェブやアプリのアクセシビリティについて、「ウェブの基準に沿ってください」という一文だけでアプリケーションの検証は一切されていなかった。今後、このようなアプリケーションは普及し、バリアフリーやUDの大きな力になるので、障害者を入れて検証する場が必要であると考える。
■報告D「聴覚障害者の立場から」長宗 政男 氏
会場内の「パーソナルモビリティ」の利用案内の中に、視覚障害者や聴覚障害者には貸出できないとあったが、聴覚障害者が運転免許証を取れるようになったのは昭和48年、先輩方が裁判や署名運動で勝ち取った権利である。それを令和の時代に否定されたような気持ちとなった。大阪府の広域支援相談員に確認したところ、明らかな差別表現との見解があったため、大阪府が万博協会に申し入れをしたところ、表記が撤廃された一方、会場内での利用が制限された。
万博会場内で手話が排除されていた原因を確認するため、万博協会に聴覚障害当事者団体にヒアリングしたかどうか問合せをしたところ、開幕前に兵庫の難聴者協会に照会したとの回答があった。大阪にもろうあ団体や難聴者協会があるのになぜなのか疑問が残るとともに、そもそも「難聴者」と「ろうあ者」に対する必要な支援は異なることがわかっていなかった。
一方で、聞こえない人の求める配慮は、情報が見て分かるかどうか。私も何度か万博に行ったが会場内に大きな画面の動画が幾つもあったが、手話通訳はどの動画にも付いていなかった。万博は、世の中の縮図だと思うが、まだまだ日本社会で手話が軽視されていると感じた。次の「横浜園芸博」では、手話で情報保障が受けられるよう配慮をお願いしたい。
■報告E「LGBTQ+の立場から」塩安 九十九 氏
現代社会において、LGBTQ+の存在が想定されていないため、性別が2つしかない価値観を前提とした制度や慣習が根強く、そこから排除される人達は生きづらさを抱えている。万博では、様々な地域から多様な人が訪れて新しい未来の社会を作る場なので、基本理念の時点でLGBTQ+の存在を可視化し、問題意識を共有することが重要であることから、ガイドライン、研修、オールジェンダートイレの設置に重点的に取り組んだ。「オールジェンダートイレ」とは、性別に分かれていないトイレのことで、性別に関わらず使えるトイレの設置の要望を続けてきた。
その結果、ガイドラインでは、国や地域、文化、性別、世代、障害の有無に関わらず「性別」という曖昧な表現を「SOGIESC」に変えられた。施設設備では、オールジェンダートイレの規定ができ、交通事業者向けの「バリアフリーサポートブック」も作られ、その中にLGBTQ+の困り事、接遇のときに気をつけることも入れられた。当会で資料を作成・配布し、ボランティア向けのワークショップに自分たちの経験を伝えるため参加した。万博では、これまでにないほどオールジェンダートイレが設置され、それ自体はとても価値があり評価できた。オールジェンダートイレを知らない人が知る機会になり、良い実験場となった。しかし、万博の状況から見える現在地は、ガイドラインや理念が周知されておらず研修内容も不十分と感じられた。万博で成功した部分をきっかけに、誰もが使いやすいトイレが万博後の社会で広がるよう取り組みを広げていきたい。
■報告F「知的・精神障害者の立場から」上宮 俊一 氏
「カームダウン・クールダウンスペース」は、騒々しい環境が苦手でパニックになり自分の頭を叩いたり、大きな声を出すなどの症状が出てしまう人が、なるべく静かなところで落ち着いていただく場所のこと。会場内には、休憩所内の奥に1つ設置されていたが、そこには多くの人がおり、また一番奥にあったので、大声を出している人を案内するのは難しいと感じた。
また、「夢洲駅改札内」には一箇所設置されており、中は両サイドに二つに分かれていた。例えば、片方に大きな声を出している方を案内した場合に、もう片方に同じようなパニック症状の方を案内できるかというと厳しい気がした。設置するのであれば、独立させるか、距離を離した方が良かったと思う。
一方で、良かった場所は、西ゲート近くのスペースで、静かで落ち着けて、隣接する礼拝所もスペースとして使えると思った。利用するには事前に場所を把握していないと誘導しにくいと感じたが、会場でその位置を示すピクトグラムは分かりづらかった。
知的障害の方は、ゾーンの区分けがアルファベットだったので、自分の位置を含めてなかなか把握しづらいという感想があった。障害者用駐車場からの案内は、スタッフが多くいてスムーズに行けたという意見が多かった。聴覚過敏については、センサリーリストが公表され、うるさいパビリオンがどこか分かるようになっていた。聴覚過敏のある人は、多様でそれぞれに対応していくのは難しい。パピリオンに入るときにイヤーマフ、ヘッドホンのようなものを着けて入っても、予想に反した状況になる気がした。
■報告G「学識者の立場から」室ア 千重 氏
今回のガイドラインでは、車いす用トイレやオールジェンダートイレの数を増やす試みをおこなった。「カームダウン・クールダウンスペース」も様々な場所に設置する取り組みがあった。ただ、より多くの当事者の意見を聞かないと、本当に使い易いものを作るのは難しいと改めて思った。
報告D、E、Fの共通点としては、様々な取り組みがある中、情報が一元化されていなかったことが分かった。どこで手話の対応してくれるのか、どこに「カームダウン・クールダウンスペース」があるか、どこのパビリオンがどんな対応しているのかなどを個別に調べる必要がある場合、情報を調べることに大きな負担があった。ここが今後に向けて改善できればと思う。
特に、対応が無いのなら「無い」と書いて欲しいというはそのとおりだと思う。できているところは情報発信するが、出来ていないところや難しい部分は分かるように出す。うるさいという話についても、デシベル数や明るさを客観的に判断できる情報を出せるとより良くなると思った。
トイレについては、まだまだ課題はあるものの、オールジェンダートイレや男女別トイレは状況に応じて選んでいると感じた。トイレの検討会やカームダウン・クールダウンの検討会の中でどのような議論を経て作っていったのかは、万博協会のホームページで公開しているので、興味のある方は検索してほしい。
■まとめ 新田 保次 氏
今回の万博のガイドラインは、2020年のオリパラのガイドラインをベースに、それを更にアップデートしようということで多くの要素が入っていた。
視覚障害者の誘導では、点字ブロックだけではなく、「shikAI」や「ナビレンス」での情報提供というハード整備を行った実験場となり良かったと思うが、ハードとソフトの連続性に課題があった。また、高齢の方にはアプリが使いにくかった。デジタル万博や並ばなくてもよい万博と謳いながら全くできていなかった。
情報アクセシビリティも保障されていなかった。情報アクセシビリティは、聴覚障害者、視覚障害者等の移動困難者に対して情報保障をしていく必要がある。また、認知症の方、知的障害、発達障害、精神障害の人たちに対しての情報提供の問題も焦点を当てたい。
LGBTQ+の方からも報告があったが、研修は非常に重要でLGBTQ+の人の可視化についても、今回の万博でトライアルしたことは次につながることであった。男子・女子・オールジェンダーも含めて様々なタイプのトイレが設置されたので、そこは評価したい。
最後に、私としては今回の万博で、
@当事者参画の方法を丁寧にやったこと。それは当事者参画の主体の多様性もあるし、対象の多様性もある。
Aプロセスにおける量と質の充実。感覚過敏、高齢者も含めた移動に困難のある様々な人を含めて検討を行った。新しいガイドラインを作ったことは、横浜園芸博にも繋がる大きな成果だと思う。
B視覚障害者の誘導など最先端の技術を試して実証したこと。
C見えてきた様々な課題をきっちり整理すること。
の4つのレガシーが挙げられると思う。
- 配布資料
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- 趣旨説明(近畿大学 三星氏)【PDF/371KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 報告B(社会福祉法人ぽぽんがぽん 六條氏)【PDF/5,225KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 報告C(近畿大学理工学部 柳原氏)【PDF/1,040KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 報告D(公益社団法人大阪聴力障害者協会 長宗氏)【PDF/559KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 報告E(新設Cチーム企画 塩安氏)【PDF/1,493KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 報告F(社会福祉法人大阪市手をつなぐ育成会 上宮氏)【PDF/1,345KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します