バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第17回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

ユニバーサルツーリズムの取り組み〜兵庫県の事例から〜

開催日時
令和5年10月6日(金)14:00〜16:30
開催場所
三宮研修センター5階 505会議室
参加者数
83人
趣旨説明者
大塚 毅彦氏(明石工業高等専門学校建築学科 教授)
講演者
西田 紫乃氏(一般社団法人INCREW 代表理事)
パネリスト
飯塚 理能氏(あかしユニバーサルツーリズムセンター)
井村 千帆子氏(ぶりりあん生活介護事業所)
井村 恵美氏(特定非営利活動法人たゆらぎ 理事長)
原 弘幸氏(特定非営利活動法人兵庫県難聴者福祉協会 理事兼組織部長兼労働対策部長)
コーディネーター
鞍本 長利氏(特定非営利活動法人ウィズアス 代表)

講演概要

■趣旨説明
大塚 毅彦氏

 2000年初頭からバリアフリーやユニバーサルデザインの重要性が認識され、2005年には鞍本氏がいち早くユニバーサルツーリズムセンターを立ち上げた。国の機関も取り組みを進め、2013年に観光庁が実証報告、2016年には障害者差別解消法が成立した。SDGsの影響力もあり、来年からは民間企業も合理的配慮が義務化される。
 兵庫県では、今年4月に「ユニバーサルツーリズム推進条例」が施行され、旅行・観光業者を後押ししている。
 世界でも障害者を含む幅広い人々が旅行を楽しめるよう取り組みが行われており、2025年の大阪・関西万博は「超高齢社会対応万博」として高齢者も楽しめるための取り組みが進んでいる。
 ユニバーサルツーリズムにおいて、旅行者に合わせたサービスを提供する姿勢が重要である。県内では、神戸や明石の観光地やユニバーサルな場所を紹介する「bito(びと)」という雑誌が障害者によって制作されている。兵庫県では宿泊施設に認証制度を創設し、ユニバーサルなサービスを提供する施設を認証し、県の観光ウェブサイト(HYOGOナビ)に掲載するなど様々な取り組みが行われている。


■講演
「兵庫県におけるインクルーシブツーリズムの実践」 西田 紫乃氏

 2022年兵庫県豊岡市に事務所を設立、北近畿エリアを中心に水陸両用のアウトドア車椅子を活用して、夏は「ヒッポキャンプ」冬は「デュアルスキー」とアウトドア活動を展開している。自然豊かで季節ごとのアクティビティが楽しめる地域だからこそ、行きたいところに行けないではなく、地域の価値創出に重点を置いて活動している。春はツリーイングというロープを使った木登りの体験、夏はヒッポキャンプでのフロート体験、冬はデュアルスキーの体験などを提供している。季節の合間には社会の抱える課題や観光モビリティの可能性などを議題に出前授業も行っている。
 今年9月には、豊岡演劇祭2023においてバリアフリーサポートを実施した。学生バリアフリーチームが観劇実習を手伝い、介護タクシーにも協力いただき、他地域からの参加者が目的地に到着する流れをサポートした。2年間の活動の中で、初めての参加者は場所、アクセス、トイレや休憩の環境、どんな人が迎えに来てくれるのか、そして、どんな体験ができるのかを気にされているのが分かった。そして、一度体験し、これなら大丈夫、安心、受け入れ体制が整っていると分かれば、リピート参加に繋がり、思いっきり楽しむぞとなる。リピーターになると、みな次回は一緒に楽しみたい人を連れてくることも分かったことである。
 活動において大切にしたい3つの要素としては、

@アサイン(役割を知る):自分と相手の能力を理解し、事前に状況を把握して無理のない範囲に落とし込む。

AFIND(一緒に見つけ考える):やりたいこととできることを考え、理想と現実を客観視し、ハードとソフトの両面から整え、叶えていく。

BENJOY(一緒に楽しむ):縦並び関係ではなく、横並びの関係で活動し、無理なく一緒に体験を楽しむことを心がける。

 活動から見えた課題としては、トイレのバリアやアクセスの問題、情報不足が挙げられる。特に田舎ではアクセスが難しい。Webで情報収集は可能だが具体的な情報が得られない場合もある。ハード面は整っていても、スタッフのユニバーサルな対応が不足している場合もある。活動の実践において問題点を発見し、改善に努めているが、一次交通利用時のバリアや二次交通との連絡の問題、施設内の階段の存在などがある。
 体験を通じて本当の思いや願いが明らかになり、利用者やご家族の潜在的なニーズが見えてくるので、具体的なヘルプを示すために最終的には「体験」が重要だと考えている。


■パネルディスカッション

◎自己紹介

【鞍本氏】

 障害のある娘への20年以上の介護経験から、ユニバーサルツーリズム活動を立ち上げた。
 2005年から、全国5地域から始まった活動が、現在では32地域に広がった。今後は、高齢化による障害者増加への対応が必要であり、ユニバーサルツーリズムにも繋がると考えている。障害者の問題を将来の自分の問題として捉え、企業も持続可能な取り組みとして共に考えることが必要だ。

【飯塚氏】

 旅行が趣味で、公共交通機関を使って風景や景色を楽しんでいる。車椅子を使う前から、両親と全国各地に出かけてきた。普段の移動でも多目的トイレが必要であり、ユニバーサルデザインとバリアフリーの重要性を自覚している。

【井村氏】

 娘が自傷やパニックに苦しみ、手がかかりすぎて施設に預けられなかった経験から、自らショートステイ事業を立ち上げた。今後、娘や他の重度障害者に石けん販売の企画やPRに携わらせたい。

【原氏】

 生まれつき両耳が聞こえず、補聴器を使用。手話は聴覚障害者とのコミュニケーションのために覚えた。インクルージョン教育で口話が可能になり、コミュニケーションが出来る。製薬企業に勤めており、将来的には聴覚障害者向けのバリアフリーな医療環境を提案し、社会に貢献したい。

◎講演についての感想

【飯塚氏】

 アウトドアはなかなか難しい分野だが、なぜ取り組まれたか。

【西田氏】

 但馬移住時、土地の持つポテンシャルに魅力を感じ、都会から体験、観光に来る人が多く、障害のある方にも体験してほしいと考えた。また、夏は海のアクティビティ、冬はスキーのインストラクターで生計を立てている人が多く、挑戦した。

【井村氏】

 今後高齢者が増える一方で支援する福祉関係者は減っていく。人手不足をよく耳にして危機感を覚える。
 協力してもらう側の意識も高めていかないといけないと認識している。

【原氏】

 出前授業が印象に残った。10年、20年後を見据えて小学校に赴いて授業するのは非常に良い。すごく良い観光モビリティとして成立するのではないか。大事なのはリピート率。初めての体験は非常に大事。行政と地域の民間団体等と一緒に取り組む仕組みを構築してほしい。

◎障害当事者の思うユニバーサルツーリズム

【飯塚氏】

 旅行に出かける際、鉄道だと駅員がいるかどうかの問題があり、バスだとスロープを掛けてもらって乗り込むが、歩道がないバス停ではスロープの角度が急になる。手動車椅子の利用者の場合は、本人の不安も大きく、さらに運転手にも負担をかけてしまう。ロータリーなどの整備にも繋がることであり、事業者だけではなくて、自治体にも働きかけ、使いやすさを考えてほしい。

【井村氏】

 ヘルパーがいる場合は電車を利用する。混雑を避けるためになるべく空いている車両を選ぶなど工夫するが、娘は人混みが苦手。満員電車に乗る際は車両の端やドアの近くに2人で囲んで乗せている。
 遊園地によく行くが、アトラクションに乗る際や音楽が流れる場合、迷惑をかけないように後席を要望する。ディズニーランドでは柔軟に対応してくれる。出来ることと出来ないことがあると理解しているが、存在を頭の隅に置いていただくだけでもありがたい。

【原氏】

 デジタルサイネージの導入やスマートバス停での情報提供など多くの取り組みが進んでいる。聴覚障害者にとって有益なものであり、モビリティの改善提案からビジネスチャンスにも繋がると期待している。

◎今後のユニバーサルツーリズム

【飯塚氏】

 観光バスでは車椅子対応が難しいが、路線バスなら対応頂ける場合も増えてきた。
 鉄道やフェリーでも車椅子スペースの整備が進んでおり、車椅子での乗船、バリアフリールームの設置をしている事業者もある。ハード面の整備が進む一方、エレベーターのない駅でも駅員の声かけ、接遇を受けた経験は多い。引き続き、ソフト面の配慮も大事にしてほしい。

【井村氏】

 ディズニーランドへのバスツアーを企画し、春休みに同級生と行った。娘の障害をみんな理解しており、娘が騒いでも問題なく、誰も文句を言わなかった。障害者とあまり関わったことがない人たちを対象に、障害者との交流や体験が含まれるようなツアーがあれば、ビジネスチャンスになりえると思う。私たち障害当事者の家族も安心出来るし、ツアーにワクワクして参加される方々が必ずいる。

【原氏】

 文字による情報保障や支援の充実を期待しているが、聴覚障害者の中には視覚よりも聞こえることを優先する人もいる。補聴器をつけて会話を優先する立場からすると、車内アナウンスが聞こえにくい場合があり、直接補聴器に届くと嬉しい。災害時等にはアナウンスを直接補聴器で聞きたい。
 情報保障のツール「ヒアリングループ」の導入が進むことを期待している。オーストラリアやニュージーランド、特にパースは、ヒアリングループが街中に配置されており、聴覚障害者にとって利便性が高い。イギリスのエジンバラやロンドンでもヒアリングループが整備されている。

【鞍本氏】

 今後のIT化で、便利なツールの普及を期待している。事業所が利益を上げつつ、人々の笑顔にも繋がるWin-Winの関係が望ましい。緊急時の状況を一例に考えると分かりやすい。聴覚障害者は非常ベルが聞こえず、視覚障害者は非常口の判別が難しい。車椅子利用者は非常口への移動が困難。これらに対応すれば、緊急時の状況改善に繋がる。
 交通機関の取り組み方も変わってきている。単に「運ぶ」だけでなく、「旅を楽しんでもらう」ことに焦点を当てている。ただし宿泊や飲食など周囲との連携が重要である。キーワードは当事者から見えてくる。

◎質疑応答

○旅行に行った先で入浴介助が心配だが、手配はどこでも出来るか。

 旅行先でのバリアフリー環境でいえば入浴介助は重要。バリアフリー施設であっても、男女別の浴場のため、全盲の奥さんは利用出来なかった例があった。課題を解決する仕組みを整えることが必要であり、旅行先でスムーズにサービスを利用出来るようにしていくことが重要。

○西田さんと同様の取り組みを進めている地域はあるか。

 豊岡以外の地域として、兵庫県ではユニバーサルツーリズム推進条例の影響もあり、姫路や淡路・但馬地域等が連携を進めている。


■まとめ
大塚 毅彦氏

 鞍本さんが仰られた「キーワードは当事者から」のとおり、交通事業者、当事者といろいろな対話の機会を増やしていくことがすごく大事。西田さんの講演では、キーワードとして福祉、地方、地域創生が挙げられた。
 また、私はゼミ生に学生時代にツーリズムのいろいろな体験をやっておくと、当たり前になっていくという所を伝えており、若い人たちへの期待もある。ハッピーになる一言の声かけ、難しいかもしれないが本当に大事だ。
 最後に「ダイバーシティ・インクルージョン」について原さんに説明頂きたい。

   
【原氏】

 「ダイバーシティ・インクルージョンに必要なスキル」としては3つの手法がある。

@コンフリクト・マネジメント:コンフリクトを避けずに、お互いがWin-Winの状態になるよう衝突し、対立を解決する手法。この姿勢は、サービス業や飲食店などで重要である。

A心理的安全性:会議やコミュニケーションの場で、心理的な安心感がないと、参加者が発言できなくなる場合があり、特に当事者の立場で配慮を求める場面で重要。心理的安全性が確保されていないと、不快な思い出が残る可能性がある。

Bアンコンシャス・バイアスの自覚:無意識の偏見に気づき、それを克服するために実践を重視する手法。教育を通じて、将来の交通モビリティを活性化するために、意識を高めることが重要である。

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