バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第16回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

駅無人化と障害者の困りごと〜みんなが利用しやすい駅を目指して〜

配信期間
令和5年3月14日(火)10:00〜3月31日(金)17:00
趣旨説明者
六條 友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
講演・パネリスト
堀 篤子氏(アクセス関西ネットワーク)
松尾 剛志氏(国土交通省近畿運輸局鉄道部管理課長)
三原 ひろみ氏(アクセス関西ネットワーク)
松倉 由夏氏(アクセス関西ネットワーク)
吉川 ひとみ氏(アクセス関西ネットワーク)
コメンテーター
六條 友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
鈴木 千春氏(障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議運営委員)
コーディネーター
新田 保次氏(大阪大学 名誉教授)

講演概要

■趣旨説明
六條 友聡氏

 ここ最近、人員配置の見直しで駅員が常駐しない駅やインターホンが設置された無人駅が増えてきたことで、障害当事者にとっては大変困ることがある。今回の勉強会を通じて、視聴の皆様にはその現状を知っていただき、困りごとを一緒に考えていくきっかけにしてほしい。


■調査報告
「無人駅のインターホン調査から見えた課題」 堀 篤子氏

 障害当事者である私たち自身が無人駅の困りごとを明らかにすることが大事であると考え、多様な方の参画のもとインターホンに焦点を当て、調査を実施した。
 インターホンの設置場所は、各社とも改札、券売機、精算機の横にあり、基本的には分かりやすい。しかし、視覚障害者が自力で探して、たどり着けた数はたったの23%。点字ブロックは改札までの誘導のみでインターホンへの誘導はない。また、音声案内もほぼ整備されていない。改善には、インターホンの設置場所の統一、点字ブロック・音声案内の整備が必要。
 弱視の方は、目でみて場所を確認するため、彩度・明度比のあるハッキリとした色がよい。車いす利用者は、接近出来るよう、足乗せ部分(フットレスト)が当たらないように凹みの整備が必要。また、ボタンの高さは、各社だいたい105p〜130pとなっており、届かない、届きにくいという声が多くあったため、高い場所、低い場所にボタンがあるとよい。上肢・腕が使いづらい人には、車いすのフットレストで当てても繋がる仕組みがあればさらによい。ボタンの大きさや形状は、エレベーターと同じくらいのもの、ボタンの向きは正面向き、適正な位置に点字の表記もあるとよい。
 さらに、画面表示機能やチャットなどの文字情報で対応出来るものが無く、ほとんどが音声対応のみ。聴覚障害者のうち、聞こえないが発話出来る人が音声のみ対応のインターホンを利用した際、会話が出来る状態か分からず、いつ会話を始めたらいいか非常に困る。改善には、画面表示などで意思疎通が出来る機能、双方向でやり取り出来る機能が望ましい。画面表示があれば、ジェスチャーや身振りでの確認や、YesかNoで通じるため、知的障害者も安心出来る。
 ソフト面の課題は音の大きさ。電車の走行音や人の雑踏などの音で聞き取れないという報告が多い。音声案内の音量も小さく、接近しないと分からない。案内間隔が長く、気が付きにくいという意見もある。そのほか、駅の無人化の公表がないため行ってから無人駅であると分かることがあり、移動の見通しや介助の相談が出来ず大変困る。無人の時間帯などの情報やサポート依頼の連絡先を駅の掲示板やWEBで公開、視覚障害者向けにも音声で案内して欲しい。
 無人駅だからといって待たせても当たり前は避けてほしい。無人駅におけるインターホンは重要な設備であるため、誰もが安心して使えるよう、改善を図ってほしい。


■情報提供
駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドラインの概要について
国土交通省近畿運輸局 鉄道部監理課長 松尾 剛志氏

 無人駅の現状は、2001年度で総駅数9514駅に対して無人駅が4120駅。2019年度では、総駅数9465駅に対し無人駅数が4564駅となり、約20年間で総駅数に占める無人駅の割合が43.3%から48.2%と増加。駅の無人化は、鉄道事業者の一方的な経営判断のみによって利用者の利便が損なわれないようにする必要がある。国土交通省では、考慮する事項、安全性など具体的な目安を示すべくガイドラインを作成したので、駅係員の配置を見直す際は内容を最大限尊重することが望ましい。


■座談会

【新田氏:調査報告についての感想】

 障害当事者である登壇者の皆様から、生の声を伺う非常に良い機会。駅無人化における困りごとの状況、さらに困りごとの改善方法について議論を深めたい。

【三原氏】

 私は視覚障害者。現在の視力は、右目のみ0.01で視野も狭く、点字ブロックや道路の線、周りもぼんやり見える程度。私には無人かどうかがそもそも分からない。インターホンの設置場所も各社で異なり、券売機の仕様も異なる。テンキーがないものは視覚障害者にはほぼ使えない。節電設定などでは画面の文字が見えず、弱視の人でも使えない場合も多い。点字ブロックで誘導された券売機が節電や故障の場合でも私には分からない。ICカードの使用可否も音が小さくて分からない。タッチする場所が微妙に異なり、検知されず、不正乗車となることもあり、初めて行く駅や使用頻度の少ない駅は不安を感じる。弱視の人が今までは乗れていたのに今は乗れない人が増えていると聞く。精算機まで点字ブロックが誘導していない場合もある。視覚障害者は基本的にタッチパネルの操作が難しいためテンキーが欲しい。無人だと降車時も不安である。

【松倉氏】

 私は聴覚障害者。両耳に補聴器を装用し、職場では手話や音声認識アプリを使って働いている。聴力に関しては、補聴器をすれば音に気付くことは出来るが、人の言葉を聞き取れない。
 困るのは、無人時間帯のインターホン情報がWEBなどで周知されていない電鉄会社があること、耳マークの表示と筆談で応対する旨の記載があっても音声のみの対応があること、駅員にインターホンの構造を質問しても分からない故か答えてもらえないことがある。非常時、音声のみのインターホンだと取り残されるのではないかと不安。

【堀氏】

 私は簡易電動車いす使用者。車いすではスロープ板の介助を依頼して乗降しなければならず、通勤・通学、障害者の利用が多い時間帯は電車でいうと2〜3本、時間で30〜40分と長い待ち時間になることもある。駅により無人や係員配置、応援体制が一定でない現状もあり、時間も見通せず非常に使いづらい。終日無人駅か、時間帯無人か、改札が無人だけか、情報提供がWEBや駅の掲示で周知されていない会社もあり、行動の予定を立てるのがなかなか難しい。
 ハード的には、インターホンの構造が多様な障害者の利用実態に即しておらず利用出来ない場合も多々ある。無人化が拡大している状況下、これまで一人で利用出来ていたのに介助者が居ないと不安で利用出来ない、電車でのお出かけを諦める人がいるのではと心配。無人駅の利用はなかなか厳しい現状。

【吉川氏】

 私は精神障害者。最寄り駅は時間帯無人駅だが、最近駅員を見ていない。駅員は何かあれば、聞ける、助けてくれる存在、緊急時にも秩序を守ってくれて無意識に安心する。無人化により利便性や安全性が損なわれた場合、体の負担になるほどの不安やストレスを抱えたまま電車を利用しなければならなくなることは大きな課題。どうすれば安全・安心で、利便性も保った駅の運営になるか考えると、1つは無人化の回避。時間帯無人も含めて子会社や業務委託、近隣店が担う簡易委託がある。また、無人化にする、しないに関わらずコミュニケーションツール、駅係員のコミュニケーション能力・方法、話し方も含め考えていかないといけない。

【新田氏】

 特に重要と考えられている困りごとの問題点を解消、改善するにはどうしたらよいか。

【三原氏】

 無人かどうか、無人の時間帯を音声で案内すれば分かりやすい。無人の場合、インターホン利用が必要になるため、場所を伝えるための音声案内や点字ブロックの誘導もほしい。弱視にも分かるようなボタンの色や大きさであれば探しやすい。点字ブロックと音声案内、両方あって初めて成り立つ。駅構内の音声案内板が改札の外にあると分かりやすい。トイレの音声案内なども一般の人にも使えて有効。券売機の規格統一、テンキー仕様、画面の明るさ、可能であれば音声で読み上げる画面が良い。

【松倉氏】

 モニター画面で筆談が出来るインターホンの設置と普及。駅員の表情確認も出来るとさらに良い。路線ごとの無人駅の情報、無人時間帯に駅を利用する際にWEB、掲示板への表示が欲しい。
 ソフト面では特に筆談でのスムーズな対応。大きな声で話されても聞こえない。耳マーク表示があるなら、的確な対応のためにも聴覚障害の基礎知識習得を図ってほしい。

【堀氏】

 バリアフリーの推進。ホームの段差解消、スロープ板不要の駅の拡大で、困難が随分と解消する。インターホンは多様な障害者が利用出来るよう改善し、利用に際しての重要なポイントを鉄道会社も設けていただけるとありがたい。
 ソフト面では、駅ごとの無人情報のWEBなどでの公表、待ち時間短縮をどうしたら図れるかの検討が必要。具体的には車掌による携帯スロープでの介助、利用の集中が見込まれる時間帯は必要に応じてアルバイト雇用あるいは委託など工夫してほしい。ガイドラインには無人化に際して自治体、障害者団体と協議することとしている。新規の無人化、運営体制の変更に対しても障害者、地元障害者と意見交換してほしい。現場の人は常日頃、この状況を感じながら対応しているので、改善の検討を進めてほしい。

【吉川氏】

 管理者の存在だけでなく駅機能を失わないようにすること。声掛け、乗客同士のフォロー、知的や発達、精神障害者は特に、制服を着て腕章をしている方は安全、他の一般乗客は知らない人で怖いという認識。存在が分かる姿の管理が望ましい。駅の機能を保持出来るなら高齢者の雇用創出でも、一日に数人利用の駅では簡易委託でもいい。体調不良、事故、災害や緊急時に初動でも頼れるならば良いので、施設管理者を募って無人にならずに済む方法を模索してほしい。地域に住む様々な方、ライフスタイルの人が参画し、どんな駅利用が望ましく地域社会の活性化にも役立つという視点で考えたい。
 2点目はインターホンの改善。時間帯無人の場合、駅舎に時間帯を示してほしい。WEB以外の周知も大事。券売機のトラブルやインターホン使用時、モニター越しの駅スタッフと会話しながら確実に問題解決出来るように教えて欲しいので、テレビ付きインターホンが券売機の横やホーム、改札といった色んな所にあればよい。障害特性で話すことが不得手な人も居るので、タッチパネル、字が書ける、ホワイトボード機能など、発話しなくても操作可能なものを障害当事者、高齢者や子ども、ITに慣れていない人などにも話しを聞き、作ることが大事。設置したから安心ではなく、多種類のやり方、アプローチ、さまざまなツールと接遇で、対応出来ればと思う。

【新田氏】

 皆さんのご報告や発言を受けて、コメンテーターのお二人からコメント。

【六條氏】

 障害当事者は皆、情報保障を希望されている。実際に地域や駅舎の課題等、各地域の実情にあった対応が重要。事業者や行政の方には「出来ない」というだけではなく、どうしたら出来るかを一緒に考えていくきっかけにしてほしい。

【鈴木氏】

 私は簡易電動車いすを使って約30年生活している。障害当事者にとっての大前提として、出来れば無人化は避けたい。無人化になる今の状況に対して、駅に関わる全ての人と考えたい。インターホン調査報告ではたくさんの方に協力を得た。調査での経験は次使えるかもしれないというきっかけ、一緒に考える場があれば参加していきたいということに繋がる。障害当事者の声から学んだことを踏まえつつ、駅を利用する全ての人と考え続けることが出来るきっかけになることを願っている。


■まとめ

【新田氏】

 今回、駅の無人化に対する深刻な困りごとが、特に障害者を始めとした移動制約のある方に生じている点が明確になった。それぞれの立場から改善に向けて提案もあって、これを参考に今後の無人駅問題の解消にそれぞれの立場から役立ててほしい。また、無人駅問題の解消には鉄道事業者だけの取組だけではなく地域における取組が必要。バリアフリー基本構想といったツールも非常に重要な意義を発揮する。無人駅は非常に広範な利用者の問題のため、一緒に考え、協調して取り組んでいくという視点が大切ということ。

配布資料