バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第80回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

旅客船におけるバリアフリー化推進セミナー@東京

開催日時
令和8年6月23日(火)14:00〜15:50
開催場所
大手町プレイス ホール&カンファレンス101
参加者数
36人
趣旨説明者
澤田 大輔(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)
調査報告者
橋 徹(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)
基調講演者
尾上 浩二 氏(DPI日本会議 副議長/NPO法人ちゅうぶ 代表理事)
話題提供者
工藤 登志子 氏(DPI日本会議 バリアフリー部会長補佐)

講演概要

■趣旨説明「本セミナーについて」澤田 大輔

 現在、旅客船を含む交通機関のバリアフリー化の整備は、バリアフリー法に基づく「移動等円滑化基準」と、それを補う『バリアフリーガイドライン』で進められている。
 鉄道駅に設置されるエレベーターの寸法は、当初、車椅子使用者を想定した最低限の基準が定められた。しかし、近年はスーツケースを持った旅行者やベビーカーでの利用が増えたことにより、最低限の基準を満たすだけでは十分とは言えない状況となっている。
 バリアフリー化の整備にあたっては、基準を満たすことはもちろんのこと、それを超える取組も推奨されている。しかし、事業者や設計者は、障害のある人がバリアフリー設備をどのように使っているのか、想像が及んでいない面があり、使い勝手の悪い設備が浸透している。
 使い勝手や円滑な利用といったバリアフリーの質の向上が今後の課題であり、本日のセミナーは、それを考えるきっかけになることを期待したい。

■調査報告「旅客船におけるバリアフリー化の課題 〜実態調査を通じて〜」橋 徹

 「旅客船バリアフリーガイドライン」の記載内容の不十分さや、船舶の設計・施工が最低基準を満たすことにとどまっている現状を踏まえ、3隻の旅客フェリーの実態調査を行い、ガイドライン改定の方向性について検討した。
 実態調査の結果、バリアフリー化されていても、実際の利用が想定されていない配置や、船内での過ごし方が限られる設備整備、ガイドラインで触れられていない施設での配慮不足等があることが明らかとなった。
 また、ガイドラインでは、推奨基準による記載が多いため、その都度、個別の判断が必要になることや、設置意義や細かな配慮事項については記載がないことが明らかになった。
 以上の調査結果を以下の3つにまとめると、
 @現在ガイドラインに掲載されていない施設・設備の利用可能性を拡大するため、それらの掲載を加えることが望ましい。
 A実際の障害者の利用を想定した整備を行うため、設計段階から障害当事者との意見交換等を行うようにする。
 Bさらなるバリアフリー化を進めるため、設備等の技術開発を行う必要がある。

■基調講演「施設整備における当事者参加の必要性」尾上 浩二 氏

 中学時代に友人と初めて地下鉄に乗った経験が、私のバリアフリーへの関心の原点であり、障害の有無に関わらず、誰もが自由に移動できる世界の広がりに感銘を受けた。以来、障害者運動に携わり、大阪府の「福祉のまちづくり条例」制定などに関わってきた。本日は、バリアフリーにおいて、単に基準を満たす「量」だけでなく、真の「使いやすさ(ユーザビリティ)=質」を高めることがいかに重要か、そして、その鍵は「当事者参画」にあることを、大阪での実践例を交えて紹介する。
 エレベーターの例では、上肢に障害があり、手で操作ボタンを押せない仲間が、エレベーター内に閉じ込められる事故があった。この教訓から、かごの外にある操作ボタンを押せば、かご内でボタンを操作しなくても特定の階には必ず止まって扉が開くという仕組みのエレベーターが開発された。この開発は、わずかなプログラムの改修で実現し、今や大阪の地下鉄では標準となり、「かご内でボタンを押さなくていい」ということが市民の常識となった。
 また、鉄道の扉に貼付してある車両編成と号車番号、ドア位置が書いている点字シールは、多くの視覚障害当事者が参画しながら開発した。この点字シールは、関西に限らず多くの鉄道に広がっている。
 次は、鉄道の車両乗降部の段差・すき間の解消についてである。リニアモーター方式の鶴見緑地線で段差解消が実現し、かつて不可能と言われていた旧来方式である千日前線においても、全駅で段差解消が実現した。その際、様々な障害当事者が参画し、試作品の検討をすることで、「段差20mm以下、すき間30mm以下」の基準を作った。また、ホームから車両扉まで2段階の勾配にして緩やかにかさ上げすることで、視覚障害者が躓かないようにし、同時に車椅子使用者も緩やかな勾配で利用できるようになった。
 旅客船のバリアフリー化に関しては、2021年11月に国土交通省地方運輸局の移動等円滑化評価会議の近畿・九州分科会の協働事業として乗船体験を行った。船内の共有部分は、エレベーターが大きく、通路幅も車椅子使用者がすれ違えるすばらしいものであった。一方、客室は車椅子で回転するスペースがなく、ベッド下にクリアランスがあれば回転できたかもしれない残念なものだった。これは、当事者が事前にチェックしていれば簡単に防げたはずである。
 長い時間を過ごす旅客船においては「乗れる」だけでなく、「船内でいかに快適に過ごせるか」ということを、当事者目線でチェックできているかが重要である。
 2025年9月に、新型の「さんふらわあ むらさき」に乗船したところ、レストランでは複数の車椅子使用者が同じテーブルで食事を楽しむことができ、バリアフリールームは自動扉や動線の確保されたレイアウト、そしてベッド下にクリアランスが設けられていた。2021年の船舶は、基準を満たす一方、ガイドラインに記載がない細かな部分が抜けている、基準のでこぼこが表れた結果だった。
 基準やガイドラインがあることで、「基準さえ満たしておけばいい」という「なんちゃってバリアフリー」が増えていることが実感としてあるが、実際は基準やガイドラインは最低限の入口であり、そこから当事者と共により高いものを作っていくことが重要である。

■話題提供「障害当事者から見る旅客船のバリアフリーの現状」工藤 登志子 氏

 旅客船に実際に乗船した体験から、感じたことをお話しする。
 ある水上バスは、現地のチケット売り場まで行かないと障害者割引のチケットが買えず、当日まで乗船できるかわからなかった。また、乗り場へのアクセスは、車椅子使用者と健常者で動線が分けられていた。船内は、車椅子スペースが後方部のフリースペースのみで、進行方向の景色がほとんど見えず、排気臭も気になった。客室へは階段があるため行けず、デッキからの景色が見られないことも残念だった。
 他の水上バスでは、乗り場へのアクセスは健常者と一緒だったが、船までの通路が潮の干満差により急勾配になっており、身の危険を感じた。船内の車椅子スペースは、目線の高さに柱があったため、景色がまったく見えなかった。また、通路下の客席や屋上のオープンデッキまでは階段で移動する必要があり、行くことができなかった。
 クルーズ船は、船内のエレベーターが業務用であったため、乗務員に声をかけなければ使えないが、はじめに降りた階には乗務員がいなかった。また、4階へ行くには階段を使う必要があるため、4階にあるバーの利用や景色を見ることができず残念だった。バリアフリートイレは扉が閉められないほど狭く、入れたとしても、開閉ボタンが車椅子では押せない位置にあり、閉じ込められる危険性があった。
 どの旅客船も電動車椅子で乗ることはできたが楽しむことはできず、「誰もが同じように楽しめる」設計の必要性を感じた。また、バリアフリー設備であっても使い勝手が悪いことから、設計段階から当事者参加や、バリアフリー基準やガイドラインの見直しの必要性を感じた。

■質疑応答

(参加者)

 今日の講演を聴いて、他の公共交通と比べ、旅客船のバリアフリー化が遅れていると感じた。特に小型船においては手探り状態であり、当事者が参画した小型船のバリアフリー化は聞いたことがなく、工藤氏が話していた残念な事例が多くあると考えられる。そのため、これから小型船のバリアフリー化も進んでほしいと感じた。

(参加者)

 船に限らず、乗ることはできるが移動中外が見えないという問題がある。これから旅客船のバリアフリー基準を整備する中で、視界の確保について積極的に取り入れることで、他の乗り物にも影響するように進めていってほしい。

(参加者)

 造船所の設計者は内装のデザイナーではないため、バリアフリー法は知っていても今日のような話は知らない。そのため、設計の際のポイント等をまとめたハンドブックのようなものがあれば活用できると感じた。

(工藤氏)

 障害者も様々なところに行きたい気持ちはあるが、行けるかどうかわからないため躊躇してしまう。好事例を作っていただき、行けることがわかれば、口コミで情報が広がって多くの車椅子使用者が外に出られるようになる。これをきっかけに、バリアフリー化に積極的に取り組んでいっていただけると嬉しい。

(尾上氏)

 船舶のバリアフリー化は、他の分野と比べてこれからやるべきことがたくさんある。これは大変だがやりがいがあることで、当事者の意見から開発する余地があるということである。携わっている人たちからすれば、白地のキャンパスに当事者と一緒に描いていく取組であり、ぜひ楽しみながら進めていただきたい。

配布資料