バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第73回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

みんなで考える共生社会の実現を目指したセミナー@さんふらわあターミナル(別府)

開催日時
令和6年5月24日(金)13:15〜15:15
開催場所
さんふらわあターミナル(別府)&オンライン
参加者数
110人
基調講演
橋 儀平 氏(東洋大学 名誉教授)
話題提供@
兵頭 賢昭 氏(株式会社商船三井さんふらわあ 西日本業務室 室長)
話題提供A
後藤 秀和 氏(NPO法人自立支援センターおおいた 理事長)
話題提供B
牧宏 爾 氏(別府市観光課 課長)
パネリスト
若杉 竜也 氏(別府・大分バリアフリーツアーセンター 代表)
加耒 伸也 氏(東九州設計工務株式会社)
東川 大 氏(株式会社TAP)
コーディネーター
澤田 大輔(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 次長)

講演概要

■基調講演

橋 儀平 氏

 私が、バリアフリーやユニバーサルデザインに出会ったきっかけは、1974年八木下 浩一(やぎした・こういち)さんとの出会い。八木下さんは、重度の障害がありながら、1970年28歳で小学校に入学された方。八木下さんは、同じ脳性まひの友人たちと、1973年に制度化された身体障害者療護施設ではなく、「まちの中で生活をしたい」と埼玉県川口市に要望していた。当時、日本では、大規模な収容施設が建設され始めた時期だが、八木下さんらはそれに反対。一方当時スウェーデンでは、施設をやめて、まちの中で障害者が住める集合住宅を造っていた。八木下さんたちとスウェーデンに調査で訪れた際、脳性まひ者協会の会長は、「今までは私たちが建築に合わせていたが、これからは建築が私たちに合わせてもらわないといけない」と言われた。
 2013年には、東京2020オリンピック・パラリンピック大会の招致や「障害者差別解消法」が成立し、その後の日本のバリアフリー関係の法改正に非常に大きな影響を与えた。2013年から10年間のオリパラの取組みの中で、当事者参画が大きなテーマとなり、オリパラ後のレガシーをどうするかという中で、当事者参画をベースとしたユニバーサルデザインの加速化、あるいは社会の多様化、共生社会、インクルーシブ社会のあり方などがクローズアップされてきた。当事者参画の中で重要なのは、@いろいろなプロジェクトを一緒に考えていくこと。Aその中で、実効方策も含め、当事者もその他の方々も、同じように責任を持つということ。B当事者参画で進められた整備の結果を検証すること。自分たちが設計したもの、あるいは事業として成立したものをそのままにするのではなく、メンテナンス、維持管理、チェックし続けること。利用者や市民の意見を伺う場合も、当事者自身も積極的に関わっていくことが当事者参画を進める側の使命としてある。
 また、取組みを進める中で2022年9月国連障害者権利委員会から日本に対して、障害者団体との緊密な協議を進め、アクセシビリティの行動計画や長期戦略を立てる必要があるとの勧告があった。
 その具体的対応に見合う一つが、バリアフリー基本構想の制度であると認識している。この制度をうまく活用するのが当事者参画への一番の近道。理由は、基本構想をつくるための協議会には、障害のある人を含めて、さまざまな関係団体や交通事業者、建築の関係者、あるいは市民の方々が参画している。協議会の中では、施設の種類や交通ルートの整備ばかりでなく、みんなで自分たちのまちをどの程度のバリアフリー水準にすればいいのか、どういう優先順位で進めていけばいいのかも決められる。しかし、基本構想をつくっている自治体は、まだ全国で2割に満たない状況。地域の魅力を掲げるときに、バリアフリーも含めて、さまざまな都市の魅力を発信していく、特に環境、歴史や伝統ということにも併せて、アクセシビリティのある環境をつくっていく、そのためにもバリアフリー基本構想の制度を活用したい。
 さらに、アクセシビリティ基準やユニバーサルデザインに関して、建築家、設計者、技術者等の意識向上を図り、研修を行い、継続的な能力構築の計画を強化することという勧告もあった。アクセシビリティのハード面では、交通計画も建築計画も、大学等の高等教育機関で学ぶ場があるが、教育の形態を少しずつシフトしていきながら、当事者の方の参画も得ながらこれからどういう社会にしたいのかということを問い続けたい。実務者へのリカレント教育も不足している。この教育部分の進展が差別や区別のない環境づくりに大きく反映されるはずである。

次に、私が関わった当事者参画の事例を紹介する。パターンは4つ。
 @基本設計が終わってから相談を受けて参画したパターン。
 A行政の公共事業のコンペの審査員として関わって、そのままユニバーサルデザインの専門家として関わるパターン。
 Bコンペを主宰する発注者側の一員として参画したパターン。
 Cコンペに応募する事業側のアドバイザーとして関わるパターン。

@さいたま新都心
 47ha旧国鉄の跡地をどう再開発するか。埼玉県は、「これからの都市は、子どもからお年寄りまで、性別を問わず、障害のある人も外国人も、すべての人が自らの意思で自由に訪れ、様々な人と交流し、安心して快適に活動できるまちづくりが求められています。」との理念を掲げていた。

A静岡県沼津市の公共事業の「健康福祉プラザ」
 構想段階から市が熱心で、構想でも市民参加、設計者が決まったあとの基本設計からも市民参加で進め、施工の段階では、市民参加でやったものをきちんと成功に導くために施設運営のボランティアを400名ほど集めて、2週間に1回程度の研修会を開催した。

B国立競技場
 最初の基本設計が終わって、障害者団体から「国際基準に合致していない、IPCの基準にも合致していない」とクレームがあり、その時にどうしたらいいかとの相談を受けたのが国立競技場に関わったきっかけ。基本設計の見直しをするため当事者参画をアドバイスした。

 当事者参画によるデザイン手法は設計をどうより良く変えていくのかという道筋。万能なバリアフリーやユニバーサルデザインはない。ある程度の合格点をとにかく満たしていく。残りはいろいろと対応してプラスしていくことで満足度を高める。大切なのは、少なくともハード面で区別や差別をしないということ。アメリカでユニバーサルデザインを推進ある人は、「区別は差別である」と明確に論じている。設計者がそう思っていなくても結果的にそうなってしまう。環境が差別や偏見を生み出す。
 当事者参画、つまり対話では、他者をリスペクトしていくことから、信頼できる対話が生み出される。そのためにも当事者との「出会う頻度」が重要。出会いがないと、学校の先生も、設計者も、行政の方々もわからない。わからないので基準が唯一のよりどころになってしまう。つまり、出会う頻度(機会)がなければ、インクルーシブな社会、共生社会の理解も行動も始まらないのである。
 その先は、当事者自身の気付きと行動により、当事者本人が意思を明確にして、主張していく、伝えていく、広めていく。それに対して周囲の方々がどうしっかりと受け止めて、共同歩調を取れるかだと思う。だからといって差別や偏見が簡単になくなるわけではない。なくならないといってもいいかもしれない。でも、少なくても気付きを「カタチ」に変えていかないと、議論したことの確認ができない。
 最後に、障害のある人をはじめ、いろいろな立場の人や困り事がある人が周りにいるのは、ごく自然で当たり前であるということ。いつの間にか、私たちが「心のバリアフリー」を叫び、当事者を特別にしてしまっていることがおかしい、ことだと感じる。

■話題提供@

新造船とフェリーターミナルのユニバーサル・デザイン化の取組みについて

株式会社商船三井さんふらわあ 西日本業務室 室長 兵頭 賢昭 氏

 「商船三井さんふらわあ」は、2023年10月1日に、首都圏〜北海道を結ぶ「商船三井フェリー」と、関西〜九州を結ぶ「フェリーさんふらわあ」が統合して誕生。定期航路で6航路、15隻を運航しているフェリー・内航RORO船会社。
 2019年11月に新造船建造を発表し、同時期に別府港新ターミナル整備の検討も開始。2023年1月に新造船が就航して、ターミナルも供用を開始した。新造船は、従来船と比較して、全長が約40m以上、幅も3m大きくなった。特徴として、1つ目は、環境問題に配慮して、燃料にLNG(液化天然ガス)を使用した日本初のフェリーであること。2つ目は、大型化して、総トン数は約2倍になったが、定員数は710名から716名と大きくは変えず、その分ゆったりとした空間としたこと。また、新造船もターミナルも当事者の声をできる限り取り入れた。新造船を就航してからは、ハード面の整備だけでなく、お客様の心に残り、喜んでいただけるため、ソフト面の対応が大変重要だと実感している。
 最後にユニバーサル・デザインには正解というものはない。変化していく社会環境に合わせて、技術革新の力を生かしながら、改善を進めていく必要がある。これからも海・陸従業員が一体になって、お客様のお困りごとに関する適切なサポートを行うように向上したい。

■話題提供A

「特別なバリアフリー」から「あたり前のバリアフリー」へ!

NPO法人自立支援センターおおいた 理事長 後藤 秀和 氏

 自立支援センターおおいたは、14名の障害者スタッフが働いていて、自立支援部門と観光部門の2つで活動している。
 2025年には、人口の3割が65歳以上の高齢者、人口比率の9.2%、1,159万人が障害者という社会。これは5人に2人という数字。要は、マイノリティ、マジョリティの話ではなく、あたり前に障害がある方、高齢者がいる社会であるということ。そのため、障害者や高齢者の方々が活躍して、社会参加していくことも重要になってくる。
 近年、高齢者は、息子や孫といった3世代で動く旅行が主流になっている。そこに備えるためには、もう既に福祉という目線のバリアフリーではなくて、あたり前の整えとしてのバリアフリーにする必要がある。ものをつくっていくなかでは、初めから当事者視線の意見を入れることが重要。4月からスタートした合理的配慮の義務化は、まだ事例やケースが少ないが、これからは行政だけではなく、民間事業者も合理的配慮をしっかりと考えて行う必要がある。強いて言うと、必ずバリアフリーにしないと大変なのかというわけではなく、もしかすると、観光においては、バリアフリー化することでビジネスチャンスが転がっているかもしれない。そういった目線でバリアフリー化に関する合理的配慮の義務化を含めてやっていく必要がある。
 まとめになるが、5人に2人が障害者または高齢者になるということで、必ず皆さんの周りにもいる社会になる。ご自身のそばに、そういった方々が近くにいると想定して、今後のものづくりや業務も含めて考えていただきたい。

■話題提供B

別府市のユニバーサルツーリズムの取組みについて

別府市観光課 課長 牧 宏爾 氏

 別府観光については、ピークが平成30年であり、国内、外国人観光客を含めて約900万人。そのうち国内が約820万人、外国人が約77万人。宿泊客が約250万人であった。コロナ後の令和4年度は540万人まで回復。令和5年度は、さらに増えていて、感覚的には好調に戻ってきている状況。
 ただし、別府市の課題としては、まず1つ目に、長期滞在の仕掛けが弱いこと。2つ目に、観光消費額が低いこと。この課題に対して別府市では、「ユニバーサルツーリズム」、「免疫力日本一宣言の実現」、「観光DX」、「食×観光」の4つの柱を掲げて取り組んでいる。
 特に、「ユニバーサルツーリズム」事業においては、バリアフリーツアーセンターと協力して啓発活動やモニターツアーの実施、また、国の高付加価値化事業を活用した宿泊施設の改修、歩道等の改修等のハード整備にも取り組んでいる。今後も誰もが安心して訪れることができる観光地づくりを進めていきたい。

■指定討論

別府・大分バリアフリーツアーセンター代表 若杉 竜也 氏

【コーディネーター】

コロナ禍で一堂に会することはできなかったが、ヒアリング等の活動を通じて、別府港UDターミナル推進協議会の役割をどう評価しているか。

【若杉氏】

私たち当事者が最初から委員として参加できたことがうれしく、非常に大きかった。さらにはコロナ禍でありながらも、非常に中身の濃い当事者ヒアリングが行えた。このすばらしいターミナルが出来たことも含めて非常にいいロールモデルになった。

【コーディネーター】

多様なニーズの中で、実現できたもの、実現できなかったもの、次の施設づくりに活かすべき点は何か。

【若杉氏】

実現できなかったものは、ほぼなかった。短い期間であり、コロナ禍のため、評価ができなかったこともあるが、当事者から得られたヒアリング内容を盛り込む事ことは出来た。

【コーディネーター】

別府・大分観光の選択肢として船旅の選択肢はメジャーになり得るか。

【若杉氏】

船旅はメジャーになれる。年間120件〜130件の相談を受けている中で昨年度の問い合わせの中に、新造船に乗って観光を楽しみたいという内容のものが増えた。これまでフェリーには、私も含めて車いすユーザーにとって使い勝手がよくないイメージがあって、躊躇する人がたくさんいたが、今回のバリアフリー化によって、興味がわいた人も多くいた。また観光に来られた方は、海上でのゆっくりとした非日常の体験ができたことで、観光プラス快適いう感想を持って帰られた。
それらを踏まえ、今まで主流であった飛行機や電車を使った観光に、船旅も並ぶと思う。同時に、別府市は大分県の真ん中に位置する土地柄、大分県の海の玄関口という位置付けから、3大公共交通として認識しながら、今後もいろいろなところに情報を広めていきたい。

<総括コメント:橋儀平氏>

協議会のリセットの仕方が重要。特に、協議会が終わった後始末をどうするか。次にターミナルを検証する機会がいつ訪れてくるのかを、ぜひ、別府・大分バリアフリーツアーセンターだけではなく、事業者に働きかけながらやっていくシーンが生まれるとよい。これは当ターミナルだけではなく、私たちの日頃の業務においても非常に重要。もう一度みんなでゆっくり議論することが、観光バリアフリーも含めて大事だと思うので、ぜひそのような機会をつくっていただきたい。

■指定討論

東九州設計工務(株)総合設計部建築設計グループサブリーダー 加耒 伸也 氏

【コーディネーター】

ユニバーサルデザインって正直面倒くさい?設計者の立場で各種条例、ガイドラインの読み込み、ディテールへの反映はどのような作業なのか。

【加耒氏】

我々は実際の工事の現場事務所でモックアップを作っていく手法を取るが、本件では工事のスピードが早かったため、実際のトイレスペースで検証を行い、設計を進めた。
一方で、設計時に常に気を付けている検証項目が、安全性。施設の中に閉じ込められないか、床が滑らないか、間口が足りているか、メンテナンス性など、それらを確かめながら一つ一つ確認していく。優先順位をしっかりと詰めて進めることが、設計の流れの中でディテールを決めていく作業。

【コーディネーター】

男女共用トイレ、補助犬トイレ、祈祷室、カームダウン・クールダウン、スルー型バリアフリー駐車スペースなど新しい試みに挑戦して感じたこと、発見したことは何か。

【加耒氏】

男女共用トイレは、初めてだったので、非常に苦戦した。また併記する英語や中国語等の外国語をどのように記載するべきかの課題もあった。

【コーディネーター】

UDは必要だとわかっているが・・・ 設計者の立場でユニバーサルデザインを進める時の課題は何か。

【加耒氏】

私たち設計者の立場も、UDの視点を取り入れた設計を続けていくと当たり前になる。「ノーマライゼーション」という言葉もあるが、それが世の中に浸透していくと、設計者としてすごく話がしやすい。

<総括コメント:橋儀平氏>

設計者にとって、安全性の問題は非常に大事なポイント。従来は、安全や寸法の問題によって、バリアフリーではなくバリアになっていた。この部分は知恵を出し合えば、それが行政当局などさまざまな機関や審査機関も含めて議論することによって一歩先に進むので、ぜひそういったチャンスも含めてがんばっていただきたい。
このような場に参加される設計者には理解が進んでいるが、圧倒的多数の設計者には、ぜひ加耒さんの経験を伝えていく場を多く設けてほしい。そうすることで全国的に広がっていく。

■指定討論

株式会社TAP 空間デザイン室チーフディレクター 東川 大 氏

【コーディネーター】

意見をとりまとめて会議資料に反映させる難しさや作業過程での気づきはあったのか。

【東川氏】

多くの団体・障害当事者の皆様と直接お会いし、お話をするなかで、非常に多くのご意見・ご要望と、実態としての困りごとをつぶさに耳にした。
私の当時の業務は設計者の加耒さんに、皆さんから吸い上げた意見を形にして一番肝になる部分を関係者で共有して、それを落とし込んでいくところまでの橋渡しをしていた。

【コーディネーター】

地下鉄の経験などと比較して、UDで進化していると感じたものは何か。

【東川氏】

福岡市の地下鉄七隈線の設計を、今から20年以上前に独自のUD視点をもって取組んだ。しかし、20年前ということもあり、その間に世の中の考え方もだいぶ変わってきた。特に、ユーザーの特性の部分での多様性、価値観の多様化。それらがより求められるようになってきているという実感がある。

【コーディネーター】

様々なプロジェクトを見て世の中の潮流の変化は感じることができるか

【東川氏】

設計の要望の中でも「UD」という言葉、考え方は浸透している。あとは設計事務所ごとに、得意・不得意の部分があると思うが、当事者に参画いただくという実体験があるところは少ない。

<総括コメント:橋儀平氏>

まずは分からなかったことが一つでも分かることがUDの切り口。一気に全部理解してもらうことは難しいが、そのチャンスがあれば諦めず、一歩ずつ広げていただきたい。

配布資料