バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第37回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

地域のバリアで地域リハ! 〜アクティビティのバリアはむしろ楽しみのひとつです〜

開催日
2016年11月4日(金曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム6B
講師
株式会社モノ・ウェルビーイング 代表 榊原正博氏

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

    

(以下、趣旨説明概要)

交通機関や道路等のバリアフリー化を進めていくことは重要であるが、地域におけるバリアを一斉に除去することはできない。しかし、障害当事者は日々の生活の中でバリアがあるからといってやりたいことを諦めるのではなく、やりたいことをやることが心身の回復や健康維持にとても大切である。そこで、9月25日に横浜・金沢漁港で開催された「釣りリハ!」を事例として、障害当事者がリハビリテーションを含んだイベントに参加することで得られる効果等について議論したい。

榊原正博氏「地域のバリアで地域リハ! 〜アクティビティのバリアはむしろ楽しみのひとつです〜」

(以下、講演概要)

講師 榊原さん

医療機器メーカーで設計等のモノづくりをしてきたが、人々が健康的に、生き生きに生活できるためのモノづくりがしたいと考え、スウェーデンで学んだことを活かした福祉用具の設計をはじめた。その中で最も重要だと感じたのが、ノーマライゼーションの考え方であった。
例えば、日本ではA地点からB地点まで移動する際、健常者はバスで230円かかるが、障害者は福祉タクシー等を利用するので数千円かかってしまう。一方、スウェーデンでは社会保障に違いはあるが、障害者も同じ230円で行くことができる。要は、目的を達成するために、手段は違っていても誰でも同じことができる仕組みが整っている。

そのような考え方を取り入れて、地域のアクティビティを活かせないかと考え、いろいろなイベント等を行っている。交通バリアフリーの先にあるアクティビティを想像しながら、ともに考えていただきたい。

◇「健康」の考え方について

「健康」とは、WHOの定義では、肉体的にも精神的にも社会的にもすべてが満たされた状態であることをいい、全世界共通の認識である。これを獲得するために医療や福祉がある。一方、1980年代にWHOでは、「ハンディキャップ」とはどのようにできているのか分類するための「ICIDH」を作成した。それによると、疾患や変調に基づき、機能障害があり、能力障害によってハンディキャップができていると言えるが、これは支援者の客観的な評価に基づいて作られているため、障害当事者の主観的な要素が入っていなかった。そのため、新たな概念として「ICF」を作成した。

「ICF」とは、心身機能や活動、参加に対して環境や個人の条件によって健康を判断する仕組みである。ただし、日本においては、この状態から健康になっていくのか、それとも悪くなっていくのかが考えられていない。そこで、スウェーデンでは「健康生成論」が考えられている。「健康生成論」とは、健康になるための力・要因を強くする理論であり、例えば「寝たきりにならないように身体機能を向上させ、生活行為が継続できるようにすること」である。その対義語が「病因論」であり、病気の原因となるリスク要因を排除する理論である。日本では、「病因論」を中心的に考えていることから高度医療が発展しているともいえる。ICFにより評価すると、健康状態の点しかわからない。しかし、健康生成論で評価すると、その人のベクトルが健康なのか、病気なのかわかる。具体的には、物事について「意味付けが出来ている」「理解できている」「処理・対応ができる」のSOC(sense of Coherence)の強弱によって、その人は健康になっていくのか、病気になっていくのかがわかる。
つまり、スウェーデンで行っているリハビリテーションとは、身体機能を良くするとか、外出できるようにするとかではなく、SOCを強くすることによって健康にしようとしている。そのため、健康になるために外出したりするための環境をつくらなければならない。

◇参加できる環境づくりについて

第37回勉強会の様子

スウェーデンの支援の基本は、患者や利用者、ご家族、地域、ケアスタッフ、知らない人、私等の「安心」を作ることである。「三方よし」の言葉のとおり、それに係る人がすべて安心しないといけない。また、安心の反対として「不安」がある。不安は、心配、気兼ね、遠慮、劣等感、恐れ、あきらめ、引け目等の要素で構成されている。

「釣りリハ!」を始めたきっかけは、周りにリハ関係者が多く、当事者から釣りをしたいけれどできるかどうか不安であるとの声が多かったことである。そこで、来られない理由を排除し、来られる環境を整備することにした。具体的には、トイレの問題を解消し、気兼ねするから健常者は乗せないなどの不安を解消するため、車いすユーザーでも利用できるトイレのある釣り船を「貸切」にした。また、利用者と支援者の比率を1:2に厳守することによって、車いすユーザーの桟橋や乗下船をサポートができ、ケアスタッフも負担し過ぎず参加できるようにした。

なぜ、「釣りリハ」というイベント名にしているかというと、参加することがリハビリテーションの一つとなっている。具体的には、片麻痺の方に船べりの越え方を指導して乗船するなどである。一方、バリアフリーという言葉を用いると、すべてのバリアを解消しないと当事者が参加できなくなってしまうからである。

その理念をもとに規模を大きくしたのが、材木座海岸で開催した「鎌倉バリアフリービーチ」である。ここでは、昨年は70名、今年は130名の多数のボランティアの参加もと、実施できた。また、「安心」を作るため、@のぼりを立ててエリアをわかりやすくした、A車いすでのアクセスを容易にするため、経路をベニヤで敷き詰めたり、海の家を利用するためスロープを設置したり、最寄の駐車場を確保した、B海への出入りを工夫するため、ビーチ用車いすやリアカーを準備したり、障害特性に合わせたボランティアのサポートチーム(利用者1人に対し5人)で対応した。実施してわかったことは、参加することで何かをつかむきっかけとなっていた。例えば、来年も参加したときにシュノーケリングをしたいなどの意欲がかき立てられていた。また、バリアがあることが前提のため、リハビリテーションとしても効果が得られた。

◇湘南バリアフリーツアーセンター/神奈川県西地域活性化プロジェクトについて

通常の業務の他にアクティビティを楽しめるNPO法人を立ち上げた。全国的には日本バリアフリー観光推進機構や日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワークで情報提供している。障害当事者におけるバリアは人それぞれであるため、その人に必要なバリアの情報を提供しており、当センターの特徴としては、バリアフリーにリハビリテーションを加えている点である。

また、神奈川県西の足柄地域では、東洋医学の概念のひとつである「未病」について取組みが行われている。「未病」は、健康生成論と同じ考え方であり、未病を治す取り組みである「食」「運動」「社会参加」が観光の3大要素である「食事」「体験」「観光」と似ているため、観光することを推進している。

◇まとめ

スウェーデンで行われているリハビリテーションとは、今の自分の状態でバリアを越える方法を伝えるものである。そのため、日本で行われているリハビリテーションの身体機能を回復させるということに加え、参加するための乗り越え方を伝え、目の前のバリアを越えることによって自信を育み、健康になっていくことが本来のリハビリテーションだといえる。

例えば、「釣りリハ!」では大きな魚を釣って帰ることで、障害当事者に役割獲得ができる機会が生まれ、自信につながっていく。今後は、「みかん狩りリハ」や「カヌーリハ」に取り組んでいき、様々なリハビリテーションの機会を提供したい。

当日の配布資料及び質疑応答
     
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