バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第22回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

ユニバーサルデザインの視点からみる“大阪・関西万博”について
〜当事者参画から得られた成果と課題〜

開催日時
2026年3月6日(金)13:15〜16:40
開催場所
ホテルプリムローズ大阪 2階 鳳凰東
会場参加者数
50人
オンライン参加者数
70人
趣旨説明
三星 昭宏 氏(近畿大学 名誉教授)
前回の報告
勝山 嘉久 氏(公益財団法人 関西交通経済研究センター 業務部 課長)
取組報告@
前原 英樹 氏(大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部交通ネットワーク部 バリアフリー企画課長)
取組報告A
児玉 健 氏(大阪経済大学 非常勤講師)
取組報告B
石塚 裕子 氏(東北福祉大学 共生まちづくり学部 教授)
パネリスト
六條 友聡 氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん 理事)
竹田 幸代 氏(きんきビジョンサポート 会長)
吉川 ひとみ 氏(アクセス関西ネットワーク)
濱崎 はるか 氏(新設Cチーム企画)
コメンテーター
新田 保次 氏(大阪大学 名誉教授)
柳原 崇男 氏(近畿大学 理工学部 教授)
コーディネーター
石塚 裕子 氏(再掲)

講演概要

■目的/趣旨説明 三星 昭宏 氏

 「大阪・関西万博」のユニバーサルデザインは、私の知る限り日本で初めてこれだけの規模と内容で行った。
 ユニバーサルデザインは、関係する人ができるだけたくさん集まり、参画することが肝である。今回、良かったこと、課題と思うことを聞いて、これからのユニバーサルデザインのあり方、特に関西地方では当事者参画が端緒についたので、今後の生かしどころがたくさんあるので、それを聞いてほしい。


■前回の報告 勝山 嘉久 氏

 前回の勉強会は、万博会期中の昨年9月に開催し、準備段階からユニバーサルデザインの議論に関わり、尚且つ、実際に万博に行かれた方々に、会場内のバリアフリーや交通アクセスについて、どうだったのかを報告いただいた。


■取組報告@「Osaka Metroの取り組みについて」前原 英樹 氏

 「大阪・関西万博」に向けたアクセシビリティ確保の取り組みとして、ユニバーサルデザインの観点から大阪メトロで実施した施策を報告する。万博では、日常生活の中で地下鉄を利用しない方や府外からの来訪者など、多様な利用者が想定された。一方で、通勤・通学で日常的に利用する方も多く、双方が円滑に移動できるよう対策を検討した。特に、会場へのメインルートとなる中央線を中心に対応を進めた。
 「夢洲駅」では、大阪メトロでは初めてのカームダウン・クールダウンスペースを改札内外に設置した。混雑時に落ち着ける場所として整備したが、本来の目的以外で利用されるケースもあり、現在は駅長室内に移設している。トイレについても多機能トイレやジェンダーに配慮した設備を整備し、サイネージで個室の利用状況を確認できるようにした。また、「夢洲駅」では最大33名の案内スタッフを配置し、ピーク時には1時間あたり2万人を超える利用者に対応した。時間帯によって人の流れが変わるため、階段やエスカレーターの方向変更や仕切りの設置など、柔軟な運用で混雑の分散を図った。
 「弁天町駅」では、JR西日本と連携して乗換動線を整備し、床面の色分けラインによって進行方向を分けた。「本町駅」では、改札外も乗換経路として活用し、一方通行化により移動の円滑化を図った。さらに、各駅で整列乗車ラインや床面表示、多言語サインを整備するとともに、列車や駅の混雑状況や1週間先までの混雑予測をアプリで提供し、利用者が混雑を避けて移動できるよう取り組んだ。


■取組報告A「当事者参画による”気づき”から”かたち”へ」児玉 健 氏

 「大阪・関西万博」の日本館におけるユニバーサルデザインの取り組みについて報告する。私は、当時所属していた建築系の会社で約3年間、日本館のユニバーサルデザインに関するワークショップの運営に関わった。
 日本館は、生命が生まれ、育ち、亡くなり、再生するという輪廻の考え方をコンセプトとした円形の建物であった。設計では、博覧会協会の「ユニバーサルデザインガイドライン」に基づき、2022年6月からワークショップを開始し、基本設計、実施設計、施工段階まで継続的に意見交換を行った。設計・施工段階では、900件以上の意見が寄せられ、設計者、施工者、事業者が検討しながら可能な限り反映した。
 ワークショップには車椅子使用者、視覚・聴覚障害者、知的障害や精神障害のある方など多様な当事者が参加した。さらに、建設現場近くに実物大の外周回廊のモックアップを設置し、通路や設備を実際に体験してもらうことで課題を確認した。トイレ設備もショールームの模型等を用いて検討し、具体的な改善につなげた。
 外周回廊では、誘導ブロックを設置できない構造のため、レールガイドやラインガイドの新たな誘導設備を導入し、視覚障害者向け案内システムのナビレンスも採用した。トイレは、館内外に複数配置し、オールジェンダートイレと従来型を組み合わせて整備した。押しボタンと壁のコントラストの工夫やフラッシュランプの設置など、多様な利用者の意見を反映した。さらに、授乳室やカームダウン・クールダウンルームも整備し、ハード面では当事者との意見交換を通じてより使いやすい施設が出来上がった。
 一方で、設備などのハード面に比べ、運用やスタッフ対応といったソフト面の議論は十分とは言えなかった。今後は、設備整備と運用体制を一体的に考えるユニバーサルデザインが重要であり、日本館での経験が今後の公共施設整備に生かされることを期待している。


■取組報告B「大阪ヘルスケアパビリオンのコ・デザイン‐当事者参画のプロセスから生まれたモノ・コト」石塚 裕子 氏

 「大阪・関西万博」で大阪府市が出展した大阪ヘルスケアパビリオンにおける当事者参画の取り組みについて報告する。これまでの住民参加のまちづくりでは、余裕のある人や声を上げやすい人が参加しやすい一方で、参加が難しい人やニーズを表明しにくい「小さな声の人」の意見が十分に反映されない課題があった。ユニバーサルデザインにおいても同様であり、参加が難しかった人々の声をどのように取り入れるかが重要である。
 大阪ヘルスケアパビリオンは、万博会場で日本館に次ぐ規模の施設で、私はユニバーサルデザインの監修として約4年間、当事者参画のワークショップを企画・実施した。発言しにくい人が、排除されない環境づくり、知的障害や発達障害など参加機会の少なかった人の参加、多様な参加者が対等に関わることを重視し、会議ではなくワークショップやヒアリングを中心に計24回開催した。模型や実物大モックアップを用いた体験的な検討を行い、理解に時間が必要な参加者には個別説明の機会を設けるなど、情報共有にも配慮した。
 参加者は、車椅子使用者、視覚・聴覚障害者、知的・精神・発達障害のある人、医療的ケアが必要な人や支援者など計27人に及び、設計者や運営スタッフ、協力企業とともに対等な立場で議論した。また、建築設計だけでなく、展示内容や情報提供、サービス運営、スタッフ研修まで一貫して当事者参画を行い、研修では当事者と直接対話する機会も設けた。
 その結果、「みんなトイレ」の設計や同一動線による利用体験、会期中の改善活動などが実現した。「みんなトイレ」は、白紙の段階から当事者と専門家が議論して設計されたもので、多様な利用者が自然に使える空間として評価されている。この取り組みは、当事者と専門家が対等な立場で課題解決を考える参加のあり方を示したものであり、今後のユニバーサルデザイン推進にもつながる重要な経験となった。


■パネルディスカッション

【石塚氏】

 「大阪・関西万博」は、「未来社会のデザイン」を掲げ、会場全体が社会実験の場となった。ユニバーサルデザインの分野でも、日本館や大阪ヘルスケアパビリオンをはじめとして多くの新しい設備や仕組みが導入された。これらの成果を万博の一過性の取り組みで終わらせるのではなく、どのように社会に継承していくかが重要だと考えている。

【柳原氏】

 ShikAIは点字ブロック上のQRコードを読み取り音声で誘導する仕組みで、ナビレンスはカラーコードを遠距離から読み取り情報を取得できる技術。調査では、多くの視覚障害者が「分かりやすい」「目的地に到達できた」と回答しており、展示物の内容理解にも役立つことが確認された。
 一方で、大規模空間では音声だけで全体を把握することの難しさや、設備整備とシステム導入を一体的に計画できなかった点が課題として残った。

【竹田氏】

 視覚障害当事者として万博を約30回訪れた。会場全体に点字ブロックが整備され、さらにShikAIやナビレンスといった新技術が加わったことで、自分の力で会場を移動し、万博を楽しむことができた。新技術の導入は、開幕直前だったが、視覚障害者が主体的に行動できる環境が整ったことは大きな成果だったと感じる。

【六條氏】

 車椅子使用者の立場から見ると、今回の万博の最大の成果は当事者参画だったと感じている。ワークショップでは、約1800項目の意見が出され、駅や会場の設備整備に反映された。大型エレベーターやオールジェンダートイレ、カームダウンルームなど多様な利用者に配慮した設備が整備され、駅から会場、パビリオンへと連続したユニバーサルデザインが実現したことは大きな前進であった。

【濱崎氏】

 性的マイノリティの立場からオールジェンダートイレの検討に関わった。日本では、まだ標準的なモデルがない中で、実際に万博で整備されたことには大きな意義がある。検討の過程では、すべてを一つのトイレで解決するのではなく、複数のタイプを組み合わせて整備することが重要であると分かった。一方で、来場者だけでなく演者やスタッフなどバックヤードのトイレ環境についても、今後は検討が必要だと感じた。

【吉川氏】

 精神障害当事者としてカームダウン・クールダウンルームの検討に関わった。当事者や保護者など多様な立場の意見を直接聞きながら検討できたことは大きな意義があった。設備面は、概ね要望どおり実現したが、音環境や位置の分かりやすさなど改善点も残った。万博で得られた成果を整理し発信することで、公共施設などでも同様の設備整備が進むことを期待している。

【石塚氏】

 ここまでの議論から、設備整備だけでなく、検討のプロセスそのものが重要な成果であったと感じた。今回の経験を整理し、共生社会の実現に向けた取り組みとして社会に広げていくことが必要である。

【新田氏】

 今回の万博では、視覚障害者の支援技術としてShikAIやナビレンスが導入されたが、採用決定が開幕直前だったと聞き、今後の国際博覧会では施工段階、できれば設計段階から導入を検討する必要があると感じた。また、当事者参画によってガイドラインが精密化していった点や、交通アクセスのガイドラインが夢洲駅で実現した点も重要な成果。オールジェンダートイレの社会実装の試みや、精神障害のある方々の小さな声を丁寧に拾う取り組みも印象に残った。

【石塚氏】

 運用面についても考えたいと思う。ハード整備については、一定の評価を得ることができたが、実際の運用にはまだ多くの課題がある。万博で実現した取り組みを日常社会の改善につなげていくために何が必要か、意見を伺いたい。

【竹田氏】

 運用面では様々な課題を感じた。ShikAIは、点字ブロックのある場所に限定されており、ルートが途中で途切れることもあった。また、タグの存在自体に気づいてもらうことが難しいという課題もある。立体地図を触って初めて大屋根リングの一部が海上にあると知るなど、視覚障害者が環境を把握する難しさも実感した。さらに、混雑時には点字ブロックがポールで塞がれるなど、運用面での課題もあった。

【六條氏】

 「夢洲駅」では、インターホンが設置されていたが、混雑時には利用しづらい状況があった。車椅子使用者は乗換時の段差対応などで事前連絡が必要になるため、会期の途中で運用改善をお願いした。また、大型エレベーターでもベビーカー利用者が多く長い列ができ、ホームの混雑に不安を感じる場面もあった。ユニバーサルデザインでは、ガイドライン作成から設計、運用まで当事者が関わることが重要だと感じた。

【濱崎氏】

 ガイドラインにSOGIESCの視点を盛り込めたことは大きな前進であった。ただし、LGBTQの人が安心して参加できる環境が十分だったとは言えない。呼びかけ方や言葉遣いなど、日常的な配慮も必要。また、終盤にはオールジェンダートイレが本来の目的と異なる形で利用されているという声もあり、当事者参画で作った仕組みを維持していくことの重要性を感じた。

【吉川氏】

 初期のガイドラインには、想定されるケースに対して取るべき具体的な行動基準が示されておらず、「対応する」など曖昧な表現が多用されていた。そこで、新しいガイドラインでは、ユニバーサルデザインのあり方を具体的な行動に落とし込み、関わる人すべての判断・行動するための基準となるようにした。一方で、災害時対応の実地訓練がなかったことには不安を感じた。また、精神障害のある人は疲れやすいため、混雑の影響も大きく、安心して過ごせる環境づくりには入場者数の調整なども必要だったと感じた。

【柳原氏】

 学生とともに会場を評価した結果、ガイドラインへの適合率は93%と高く、ハード面では基準を満たしていた。しかし、会期後半の混雑により、スロープや点字ブロックが本来の機能を果たさない状況もあった。また、ガイドライン策定には関わったが、スタッフ教育などサービス面には十分関与できなかった点が課題であった。

【新田氏】

 今回の議論から、設備づくりとサービスの両面で多くの課題が明らかになった。新技術の活用やカームダウンルームなどの設備も、適切な運用が伴わなければ十分に機能しない。構想段階から設計、施工、運用、評価までのプロセスをレガシーとして残すことが重要であり、当事者と専門家が学び合いながら協働する仕組みを広げていく必要がある。

【石塚氏】

 今回の万博では、設備面で多くの新しい試みが行われたが、同時に運用面の重要性も明らかになった。整備した設備をどのように活用し、社会に理解してもらうかまで考えなければ、新たなバリアが生まれる可能性がある。今回の経験を踏まえ、今後も当事者参画の場を広げながら共生社会の実現に取り組んでいきたいと思う。

配布資料