バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第79回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

デフスペース・デザインやデフフレンドリー・デザインから新たな空間デザインを考える

開催日時
令和8年2月20日(金)18:00〜20:00
開催場所
交通エコロジー・モビリティ財団 会議室
会場参加者数
10人
オンライン参加者数
49人
講演者
杉山 祐一郎 氏(鹿島建設/博士(工学))

講演概要

「ろう者の当事者が24年間考えてきた空間デザイン」 杉山 祐一郎 氏

【はじめに】

 昨年のデフリンピック開催を契機に、「デフ」という言葉が社会的に広がった。ろうコミュニティにおいては「デフ」という言葉は当たり前に使われてきた言葉だが、一般には十分浸透していなかった。デフの意味は、単に「聞こえない」という意味だけではない。まったく聞こえない人、少し聞こえる人、生まれつき聞こえない人、後から聞こえなくなった人など、聞こえないといっても様々な人がいる。また、手話ができる人とできない人、発声ができる人と苦手な人がおり、私は生まれつきまったく聞こえず、手話はできるが発声は苦手である。
 手話は文法を持つ言語である。ろうには、言語学的な側面と医学的な側面があるが、言語学的な意味合いが強く、「ろう文化」がある。「デフ」という言葉の裏には、文化という意味が含まれていることを知っておいてほしい。
 私が、ろう者・難聴者の建築について考え始めたきっかけは2つある。1つ目は自身がろう者であり、快適に過ごしたいと考えたためである。2つ目は、フラッシュランプなどの機器を設置するだけで聴覚障害者への建築的な配慮となるのか疑問であったためである。
 私はこれまで、@フィールドワーク、A研究、B講演やブログ等で3つの啓発活動を行ってきた。
 フィールドワークでは、ろう者の住宅の見学や設計時の様子などの調査を行った。研究では、自身が感覚的に理解していたろう者の動きや特徴について、他者への伝え方を考え、工学的な実験を行ったりした。また、ろう者が快適に感じる空間に関する考察をブログで公開した。
 昨年10月、アメリカのワシントンD.C.にあるギャローデット大学を視察した。ギャローデット大学は、ろう者や難聴者が集まる大学であり、ろうの文化や歴史を蓄積している。ギャローデット大学では、デフスペースデザインガイドラインがまとめられ、そのガイドラインを基に、現在キャンパスの改修が進められている。大学を訪れて感じたことは、ガイドラインの内容が、私が以前発表したことと多くの点で重なっていたことである。
 学生の時に作成したホームページをもとに、お話しする。(一カ所に固まっている人々と点在している人々、円形になっている人々の写真)この写真の中に、ろう者がどこにいるのか。ろう者であればすぐにわかると思う。(隣り合って座り、身体を反らせて向かい合っている2人の写真)この写真は、研究で撮影した、ろう者が会話している様子である。会話をするために顔や手を見ないといけないため、身体を向かい合わせにしている。すぐ隣に座った状態では会話がしづらいため、身体を動かしている。
 研究の結果、ろう者の場合は会話に約2メートルの距離が必要であることがわかった。一方、聴者の場合は、既往研究により約1.5メートルという距離感になっている。この違いは、手話で話す際には空間が必要となるためである。2メートルが絶対ではなく、対面で目を合わせてコミュニケーションが取れる環境が必要である。
 ろうコミュニティでは有名な、ろう者が主演する「アイ・ラブ・ユー」という映画がある。この映画では手話を言語として扱っており、また、ろう者の日常生活がよくわかる映画となっている。相手の肩をたたく、手を振る、床をたたく、物を投げる等、ろう者が普段から行っている行動が出てくる。ろう学校で撮影した映像でも確認できたので、映画の演出ではないと考えてよい。このほかにも、照明の点滅で注目を集めるといった方法が用いられている。

【ろう者が過ごしやすい家とは】

 ろう者が過ごしやすい家とは、家の中のどこにいてもコミュニケーションが取れる家である。
 相手の目を見て話すために、視線が通るかどうか、相手がいるかどうか見えることが重要である。部屋ごとに壁や床があると視線が遮られ、部屋の外の様子がまったくわからなくなってしまう。そのため、情報を取りやすい空間を考える必要がある。まずは相手が見えることが大切である。ただし、全部見えればよいというわけではなく、視線が通るということが重要である。また、見え方も大切で、適切な距離が必要となる。学生の時、アメリカの建築を視察したとき、フランク・ロイド・ライトの建築を見学した。そこには廊下とホールにレベル差(廊下が低くなっている)があり、廊下の目の高さあたりからホールが見えるようになっており、ホールにいる人からも廊下にいる人が見えるようになっていた。このように、高さによって関係性が変わってくることが興味深かった。
 反射したものを見るという見方もある。例えば、ガラスドアの反射によって後ろの様子や誰かが来たことがわかる。また、手話では写真と同様、光が大切で、逆光では手話が見えなくなってしまう。この他にも、照明を工夫し、部屋の外に人が来た時にライトが光る仕組みがあっても良い。
 天候や人の行き来は、目で見て情報を把握する。カーテンを閉めていると外が見えず違和感があるため、外との関係性を作る必要がある。
 ろう者は目を酷使するため疲れやすい。そのため、家で会話がしやすいことだけでなく、植物を活用するなどして目を休ませることも重要である。

【デフスペースデザインとデフフレンドリーデザイン】

 次に、デフスペースデザインとデフフレンドリーデザインの違いについてお話しする。デフスペースデザインとは、ろう者の生活の中での動きや文化などが含まれているデザインである。(半円形に弧を描き、内側を向いて座る形のベンチの写真)この写真のベンチは、ろう者がデザインに参画している。
 一方、デフフレンドリーデザインは、結果としてろう者が使いやすくなったデザインや、聴者がろう者に配慮して作ったものである。(線路に対して90度回転して配置されたベンチの写真)この写真は駅のベンチである。電車が目の前を行き来すると、酔っ払いの転落の危険性があったため、向きが変えられた。その結果、ベンチの背面が線路と垂直になったため、電車が来ることが把握しやすくなり、ろう者にとっても便利なベンチとなった。
 階段は空間の印象を作る要素である。階段を上り、壁、道が続くことで印象が変わる。上がった先に人がいれば挨拶をすることができるが、人の後ろから上るとき、前の人に「待って」と伝えても、気づかず行ってしまう。階段だけでも様々な考え方がある。1階にいて、2階の情報を知りたいとき、ガラス越しにわかるため、(ガラス張りで上が透けて見える階段の写真)この階段はデフフレンドリーデザインの階段である。
 ろう者の場合、見るだけでなく振動も大切であり、振動によって気づくことがある。ただし、振動が大きすぎても困る。物理的な話をすると、波が重なった時に振動は大きくなるため、2階の洗濯機の揺れと建物の揺れが重なり大きな揺れになってしまう。ろう者は何が起こったのかわからず驚いてしまう。
 照明については、それぞれの部屋にフラッシュランプを設置してよいのか考える必要がある。設備に頼りすぎないことが重要である。学生のとき、建築的な配慮について考えた際、単にランプをつけるのではなく、空間を考えてから設備を整える、または同時に考えることが大事だと感じた。
 音が当たり前となっている聴者に、もし音のない世界があったらどのように感じるか、考えてほしい。以上、学生の時に作ったブログの内容をもとにお話しした。

【ろう者が暮らしている住宅の事例】

 次はろう者が暮らしている住宅の事例である。玄関を開けると目の前に鏡があり、鏡を見ると居間が見え、居間からも来た人が見えるようになっている。キッチンの壁の向こう側に玄関があるが、壁で玄関が見えないため、見えるように小さな穴をあけてある。階段の段差の間が空いており、階段の向こう側が見えるようになっているため、コミュニケーションが取れるようになっている。また、どこからでも玄関が見えるようになっている。2階の部屋に扉があるが、小窓があるため、格子の手すりを通して電気がついたとき部屋に人がいるとわかるようになっている。とにかく視線が通るということが大切である。この設計は、ろうの設計者が最初から関わり、一緒に考えた設計である。
 東京の住宅の事例では、2階フロアの真ん中にキッチンがあり、目の前を人が歩けるようになっている。廊下を挟んで階段があり、奥に段差がある。キッチンの腰壁によって見えない場所が出てきてしまうが、段差があることで視線が通るようになっている。階段は下から呼びかければ見えるようなデザインになっている。3階から2階を見たいとき、階段の目の前に鏡があるため、鏡を見ると2階が見えるようになっている。また、キッチンの壁の映り込みによって、キッチンの壁方向を向いていても後ろの人に気がつくことができる。1階に人がいると光るセンサーがあり、2階からも1階の状況がわかるようになっている。これまで見えることが大切だとお話ししたため、吹き抜けのイメージが強いと思うが、この家は狭いため吹き抜けを作る余裕がなく、段差、階段や映り込みを使って工夫した例である。フラッシュランプなどの機器を設置するだけではなく、空間によって解決できることが多くある。そのために、設計の段階で様々な人に意見を聞くことが大切である。

【デフスペースデザインガイドライン】

デフスペースデザインガイドラインを初めて読んだとき、自分の考えと同じだと感じたが、大きな違いがあった。アメリカの場合は組織レベルの大きな単位でまとめているが、日本の場合は個人レベルでまとめるしかない状況であったことである。
 ガイドラインの中で共感できることは様々ある。聞こえないからマイナスではなく、聞こえないことは当たり前という考えがある。つまり、聞こえないということは障害ではないということである。また、アメリカでも同様に、照明ではなく空間で工夫するという考えをもっている。ろう者の動きや会話を考慮してガイドラインをまとめており、個人の考え方と大学の考え方において重複するところがあり、嬉しく感じた。おそらく日本ではまとめることが難しかったと思う。
 (現地撮影の写真)始めに話したように、ろう者は円になって会話できる場があることが特徴である。アメリカに行ったとき、偶然、建物の内外でろう者同士の手話での会話が始まった。その様子を見て、私は納得し、感動した。建物の中にいる人から建物の外の人が見え、雨が降っていることがわかる。つまり、知らせてもらうのではなく、自分で見て情報を得られることが大切である。
 別の建物では、地面の勾配を活かしたスキップフロアになっており、ろう者が行き来して会話ができるようになっていた。また、直射日光が入らないなど、手話が見やすい工夫がされていたことや、日本の欄間のように、欄間を通して向こう側がわかるようになっていた。
 デフスペースデザインガイドラインの中には5つの項目がある。興味があればぜひ調べていただきたい。今まで聞こえない人の考え方についてお話させていただいたが、本当に大事なことは、人間の行動の感覚から空間を考えるということである。特別な技術や訓練ではなく、実際に見て感じることが大切である。バリアフリー法には、車椅子使用者のために勾配の数値を守るように記載されているが、数値を守るだけでは快適な空間を作れるとは言えない。人は十人十色のため、それをまとめることは難しく、それを知ったうえで人を見ていただきたい。

■意見交換会

(参加者A)

 フランク・ロイド・ライトのどの建築をご覧になったのか。

(杉山氏)

 ロサンゼルスのエ二ス邸を見てきた。

(参加者B)

 ろう者の知人はトイレに入るときドアを閉めないと言っていたが、杉山氏は家のトイレのデザインをする場合、どのようなデザインにするか。また、聴者の視点で作られた公共のトイレ(公園、駅、デパート等)にどのようなデザインが入ると、ろう者の方も使いやすくなるか。

(杉山氏)

 私の家は、聞こえる息子が2人いる。2人とも聞こえるのにドアを開けている。閉めなくていいのか聞くと、「困ったとき呼べないから」と言っていて納得した。恐らく、トイレの場合は、それぞれのやり方がある。開けていても家族であれば問題ない場合やトイレの壁がない場合、また、外と中に押すと光るライトがついているためドアを閉めている場合もある。どれが一番いいとは言えない。
 公共のトイレについて一番不安なことは、個室に入った時にノックがあるかもしれないことである。ノックされても気がつかないため、ノックがわかる何かがあると良い。

(参加者C)

 現在、デフスペースデザインやデフフレンドリーデザインの研究を行っている。私は聴者であるため、ろう者の方々の視点に十分に立った設計(特に、設備に依存しない空間デザインの発想)に難しさを感じいる。今後研究を進めていくにあたり、ろう者に寄り添った空間を設計する際どのような点に留意すべきか、研究を深めるための視点やポイントについてご教授いただきたい。

(杉山氏)

 まずは、聴者だけで進めるのではなく、ろう者と一緒に進める必要がある。ろう者の友人はいるか。

(参加者C)

 いないため、これから地域の手話サークルに入り、ろう者の方と接点を持ちたいと考えている。

(杉山氏)

 聴者でろう者の友人がいない場合、ろう者の協力者を集めることは大変である。まずは、ろう者に会って、仲間づくりをするところから始めると良いだろう。一緒に遊ぶ中で、おそらく様々なことが起こるため、実際に感じ、経験を積むことで研究に役立ててほしい。

(参加者D)

 杉山氏のほかに聴覚障害者の建築士はいるか。

(杉山氏)

 建築士の資格を持っているかということか。建築士資格保有者は何人かいる。また建築に関わる仕事をしているという意味であれば日本各地にいる。

(参加者E)

 デフフレンドリーデザインのことや、聴者がイヤホン等をしている状態と、聞こえない人の空間を把握するうえでの違いは何かと考えていたが、杉山氏から「文化である」という話があり、興味深かった。単純に人が円になって立っている写真など、言語が違うことで空間の使い方が違うということが興味深かった。
 もう一つ、見通しについて質問がある。今回の事例は住宅が多かったが、駅などの公共空間において、空間はいいが、人が多いため見通しが利かない等、作った時点ではよかったが運用していく中で、見えなくなってしまうこと等があるのではないかと想像していた。そういう事例があれば教えていただきたい。

(杉山氏)

 例えば、人が往来しているところは難しい。一番困るのは、人の往来で向こう側が見通せず、情報が入ってこないことである。正直に言うと、これが良いという事例はあまりない。中部国際空港のエレベーターなど、建物全体ではなく、部分的にいいものはある。
 困ったことは話せる。以前、名古屋で働いていたときの経験である。今は改装されていてもうないと思うが、地下街の出口付近でパトライトが常時点滅していた。普段は人の往来で見通しが悪くパトライトの存在に気がつかなかった。ある日、仕事帰りの夜遅くに人がいない中でパトライトの点滅に気がつき、避難しなければいけないのかと一瞬思った。なぜ光っているのかわからず不安に感じた。

(参加者F)

 日本の聴覚障害者の団体の中で、デフフレンドリーデザインという考えはどの程度認知されているか。

(杉山氏)

 恐らく、東京では多くの人が知っているが、地方では知らない人も結構いると思われる。以前、私は東海地方で何度か講演をしたので、知っている人は知っていると思う。