バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第75回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

旅客船におけるバリアフリー化推進セミナー@広島

開催日時
令和7年3月21日(金)13:30〜15:30
開催場所
広島港湾福祉センター 5階 大会議室
参加者数
36人
趣旨説明者
澤田 大輔 氏(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)
基調講演者
尾上 浩二 氏(DPI日本会議 副議長/NPO法人ちゅうぶ 代表理事)
講演者@
畑 俊彦 氏(障害者生活支援センター・てごーす 代表)
講演者A
福嶋 浩人 氏(復建調査設計株式会社)

講演概要

■趣旨説明

「本セミナーについて」 澤田 大輔 氏

 旅客船も交通モードの一つとしてバリアフリー化が進められており、バリアフリー化率は、57.8%で極端に劣る数値ではないが、他の交通モードに比べ低く、100%にするにはまだまだ取組が必要である。旅客船のバリアフリー化にも基準はあるが、最低限の水準を示しているものであり、『旅客船バリアフリーガイドライン』の記載も情報が不足している。
 バリアフリー化を行う際には、障害のある人も使えるかという「アクセシビリティ」に加え、使いやすいかという「ユーザビリティ」に配慮することが重要であり、基準を順守するだけでは使い勝手はよくならない。使う人がどう使っているのか、障害のある人も他の人と同様に苦労なく使えているかが重要である。
 当財団では、旅客船もより使い勝手がよいものを目指したいと考えており、今回のセミナーをきっかけに利用者目線でバリアフリー化を考えていただきたい。

■基調講演

「施設整備における当事者参加の必要性」 尾上 浩二 氏

 中学時代に友人と初めて地下鉄に乗ったことがバリアフリーへの関心の原点であり、障害があろうがなかろうが、自由に移動できる環境が重要と考えるようになった。その後、障害者運動に参加し、いわば社会的障壁に取り囲まれたジャングルを前進するように、障害者がまちに出て、その実態を見える化することで、その結果、関連の法制度が整備されるようになった。
 例えば、エレベーターの車椅子用ボタンについても、上肢にも障害のある人は手でボタン押すことができない。外でボタンを押してもらってカゴの中に入ったが、ボタンを押せず、1時間以上もエレベーター内に閉じ込められたという事故もあった。そのため、外で呼びだしボタンを押せば、中でボタンを押さなくても他の階に移動することができるエレベーターが採用されるようになり、大阪市の地下鉄では、その仕様がエレベーターのスタンダードになった。また、視覚障害者にとって、乗降する駅のホームでの位置がどこかが重要であり、何両編成の何号車の扉にいるかを点字と浮き出し文字で表示するシールをつくった。開発段階で、視覚障害者の意見を聴きながら進めた。最初から当事者と一緒に作っていれば、使いやすく、コストのかからないものが作れると思う。
 以前、バリアフリーは「西高東低」と言われたが、1990年代に大阪府で福祉のまちづくり条例が制定され、続いて、大阪市や大阪市営地下鉄でも計画・方針が打ち出されたことが大きく影響し、当事者の声を元にしてバリアフリー化が進められた。例えば、鉄軌道の車両乗降部の段差解消はかつて無理と言われたが、リニアモーター方式の鶴見緑地線で段差解消が実現できた後、旧来方式の千日前線でも全駅で段差解消が実現した。何故できたかというと、当事者の声を聞いたからである。段差20mm以下、すき間30mm以下を目標に定めたことが大きい。現在の千日前線では段差15mm、すき間20mm以内で整備されている。当時、車椅子の人、視覚障害の人の参加によるモニターの意見をもとに、2段階で勾配をつけることで対応している。
 2021年9月に大阪・関西万博の『ユニバーサルデザインガイドライン』が発表されたが、当事者を交えて作成されたものではなく、最低基準を並べただけのものであった。オリパラのレガシーにより、バリアフリー化は量だけではなく質のレベルが上がったが、オリパラ以前の水準に戻ってしまった。このため、国土交通省の移動円滑化評価会議近畿分科会を中心に3か月で見直しを行った。旧ガイドラインでは、車椅子使用者と同伴者が楽しめるスペースが全くなかったことなど、大きく見直しを行い、2022年に改定版を発表した。何故、最初から当事者に聞いてくれないのかと思った。
 旅客船のバリアフリー化に関しては、移動円滑化評価会議の近畿・九州分科会の協働事業として乗船体験が2021年11月にあった。それに参加しての個人的な意見であるが、乗船した船は、エレベーターが大きく、通路幅も車椅子使用者がすれ違えるものであった。一方で、部屋には車いすで回転するスペースがない、入口にクローゼットがあり入れない、というところもあった。フェリーは、動くホテルと言われ、共用部分は30年前に比べれば良くなったが、宿泊スペースとしてはもっと工夫が欲しいと感じた。旅客船での旅を楽しむには、船内でいかに快適に過ごせるかが重要であり、ユニバーサルデザイン化には、全てのプロセスへの当事者参画と評価が必要である。バリアフリーは量だけではなく、質が重要であり、ユーザビリティ、即ち使いやすいことが必要で、当事者参加による評価が必要である。最初から当事者の意見を聞いてもらえれば、もっと良いものとすることができる。これが、これからのバリアフリーのポイントだと思う。

■講演@

「広島県における交通バリアフリー化の実態と当事者参加の現状」 畑 俊彦 氏

 広島での取組として、広島電鉄とバリアフリー化について交渉を行ったことを紹介したい。
 低床車は、車椅子使用者がスムーズに乗車できて便利だが、低床車の割合は、昨年3月末時点で40%程度、残りの約60%は2ステップの車両である。割合的には低床車が増えてきたという感覚はあるが、時間帯等によっては2ステップ車両が多く、辛い思いをしている車椅子使用者もいる。以前、障害当事者が2ステップの車両に乗ろうとしたところ、乗車を拒否されて低床車を利用するようにと言われたことがあった。このため、広島電鉄と交渉を行い、乗車拒否をしないことのほか、低床車の拡充、乗務員の接遇改善を求めた。今は、乗務員への周知徹底が行われ、乗車拒否もないと思う。
 また、新サッカースタジアム建設の際、計画設計段階から障害当事者の意見として、市に5項目の要望をしたところ、オリパラを参考に新国立競技場のようにしていくなどの回答があった。さらに、ユニバーサルデザインに関するワークショップが非公開で開催され、てごーすは呼ばれなかったが、多種多様な障害者等の団体が参加したとのことであった。
 スタジアム内には初の取組となるセンサリールームが設置されており、ゼロピッチの車椅子席はないが、ピッチとの距離が近いため、車椅子使用者でも臨場感が味わえる。また、3階がコンコース状になっており、飲食店などを巡りやすい。3回行ったが、とても良かった。また、見学会にも参加したが、車椅子席の手すりの高さが工夫されていて、視線の低い人に併せて75cmにしていた。点字ブロックは、車椅子使用者が踏むと衝撃があるが、視覚障害者にとっては最低限の高さは必要である。健常者でも躓いたり、杖を使う人もいることから、障害者の意見を取り入れて細くて低い段差の点字ブロックを初めて採用したとのことである。エレベーターも24人乗りで、車椅子使用者が4人も入れる大きさである。素晴らしい施設ができたと思う。ただし、車椅子席のチケットの販売方法については、車椅子使用者1人に付添2人の席がばらばらの席にならずに確保できるように改善して欲しい。
 これからオープンする広島駅ビルのミナモアの内覧会にも参加し、全てを見たわけではないが、自分が見たところでは、車椅子使用者用のトイレはあるが、トイレ内に大型のおむつ交換ベッドが残念ながらなかった。ミナモアに対しても、事前に当事者の意見を言うべきだったと思った。今からでも改善点があれば、発言していこうと思う。
 最後に、国連の委員会でも言っているが、「私たち抜きで、私たちのことを決めないで!」と言っておきたい。

■講演A

「旅客船におけるバリアフリー化の課題」 福嶋 浩人 氏

 既に『旅客船バリアフリーガイドライン』はあるが、その記載内容が不十分であり、最低の基準を記載しているが、これを充足することが優先されていることを危惧して、今回、旅客フェリーのバリアフリー化の実態を把握し、ガイドラインの改定の方向性を整理することを目的として調査を行った。
 旅客フェリーと他の交通機関との違いは、大きいことのほか、パブリックスペースとプライベートスペースとがあり、むしろ駅などに近い。大きい船は比較的新しい船が多く、旅客の乗船時間も長いことから、今回の調査では、最近建造された3隻の大きな船を対象としてバリアフリー化の課題を探ることとした。なお、調査対象とした旅客フェリーは、バリアフリー化が充実していて良い船であることは認識した上で、課題を紹介する。
 バリアフリートイレについて、船内に1か所しかなく、違う階にいる場合はエレベーターを使わないと行けない。また、1か所しかないのであれば、ベビーシートは別に設置する、トイレ内の経路に連続した手すりを設置するなどして、機能を分散してバリアフリートイレへの集中を避ける工夫が必要と感じた。そのほか、おむつ台が設置されていて、上肢障害者には持ち上げることが困難であること、トイレ内の入口扉付近の動線上にハンドドライヤーが設置されていて、車椅子使用者の通行の妨げになる可能性もある。また、扉の鍵のつまみでは、サムターンが小さい事例があり、つまむ動作が難しい人には使いづらいため、レバー式が良い。トイレ内に介護者と利用者を仕切るカーテンもあるとよい。新国立競技場の建設の際には、利用者・当事者の声を聞いて設置したということであり、まだまだ利用者・当事者の声を聞く必要があると思う。
 車椅子スペースについて、旅客フェリーは長時間の乗船であるにも拘らず、路線バスと同じようなスペースの確保に留まっている。『ガイドライン』には、そもそも設置意義の記載がなく、パブリックスペースで車椅子使用者がゆっくりできるスペースは食堂ぐらいである。船内の多くの場所でスペースは必要であり、その記載が必要だと思う。
 バリアフリー客室について、車椅子使用者が届かない場所にハンガーや電源ボタン、開閉式換気口があるといったことや、室内のテーブルが固定されていて車椅子の転回の妨げになるといった事例が見られた。経路上では、入口部に段差があるため、スロープを設置する場合、併せて手すりがあるとよい。
 車両甲板からエレベーターへの経路が直角に曲がる事例もあり、これでは車椅子使用者が利用しづらい。そのほか、バリアフリー経路上に物が置いてあって手すりが使えない、浴室ではシャンプーやリンスが手の届かない場所にある、緊急通報ボタンにカバーが設置してある、点字ブロックがカーペットで隠れている、階段部の配色がよくないなどの問題点が見られた。
 また、『ガイドライン』で記載されていない施設、例えば、授乳室では車椅子使用者の利用しづらい設備の配置・構造になっている、大浴場では手すりが設置されていない、遊歩甲板や大浴場、一般客室などの入口は狭く、重い扉と段差があるなどバリアフリーに対する配慮が大幅に欠けている。少しの工夫で利用ができるようになる人は増えるはずであり、当事者との意見交換を行うことが必要と思う。
 まとめとして、1点目は、『ガイドライン』での記載状況と現場課題の対比でみると、『ガイドライン』に記載がある場合は何某かの配慮がされているが、記載のない施設・設備についても『ガイドライン』で取り上げることが重要である。
 2点目は、設計時に配慮されるとよいが、設計者が気づかないことも多くあるため、設計段階から障害当事者と意見交換を行うことが重要である。
 3点目は、扉は法令に従い防火扉を採用しているが、船内においてバリアフリー化に係る問題が扉の周辺で多く発生している。防火規格を維持したまま、バリアフリー化した入口扉の技術開発等も必要である。
 最後に、『ガイドライン』を改定したとしても、全てを取り込むことはできないので、設計者が幅広く、バイアフリー化に関する資料等を参照するよう、誘導する仕組みも必要と考えられる。

■質疑応答・助成制度の紹介

(参加者)

 高速船の乗船スロープの幅が狭いため、自分も含めて乗ることができず困っている人が多い。手動の車椅子使用者だけではなく、大きい電動車椅子使用者にも配慮した設備にして欲しい。

(事務局)

 事業者の方には、このような実態があることを知っておいていただき、乗船タラップの改修時に考えてもらいたい。なお、2025年度の海上交通バリアフリー施設整備助成制度について、これまでとほぼ同様であるが、対象施設や限度額を拡充する予定である。是非、ご活用を検討して欲しい。また、障害当事者が講師となる旅客船事業者向けバリアフリー研修も準備しており、活用して欲しい。

配布資料