第20回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要
誰もが快適に利用できる公共交通機関に必要なこと
〜「交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK」を通して〜
- 開催日時
- 2025年2月14日(金)14:00〜16:30
- 開催場所
- 難波御堂筋ホール 8階 ホール8A
- 参加者数
- 75人
- 主旨説明
- 北川博巳氏(近畿大学 総合社会学部 准教授)
- 事例紹介
- 吉川ひとみ氏(アクセス関西ネットワーク)
妹尾美紀氏(自立支援センターぱあとなぁ) - 取組紹介
- 植木智氏(新設Cチーム企画)
- 事例紹介
- 鈴木千春氏(障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議)
- コメンテーター
- 美濃伸之氏(兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科 教授)
- コーディネーター/
コメンテーター - 北川博巳氏
(再掲) - まとめ
- 新田保次氏(大阪大学 名誉教授)
講演概要
■主旨説明 北川 博巳 氏
本日お越しの皆様は、交通の現場で困っているから来られたと思いますが、正直、「これで100%安全、任せておけ」という『サポートBOOK』(以下、BOOK)ではありません。大事なことは、様々な事例や背景を知り、考えていただくことです。
このBOOKを取りまとめる上で工夫したところは、答えを1つとしていないところです。一見して分からないニーズもあります。それに対しては、様々な推察をしてほしい。色々なニーズや解決策をみんなで考えながら実践を積み重ね、分からない時はこのBOOKを時々見ていただく、そんな形で作成しました。「考える力」、「察する力」、「慮る力」が大事だと最近私は言っています。これらについて「なるほどな」と分かっていただければ幸いです。
■事例紹介「精神障害当事者の視点から」吉川 ひとみ 氏
精神障害の人とどうやってコミュニケーションを取ればいいのか。大事なことは、外見から分かりづらい障害があることに気づくこと。人の異変に気づく感度が必要です。困っている様子を感じたら支援が必要か、自分で解決できそうなのかを観察して判断する力が必要です。それから必要に応じて適切なお声掛けをする。声掛けの仕方は、「はい、いいえ」で答えられる質問がよい。理解の処理速度が遅くなっているので、相手の理解を確認しながら、「ゆっくり、はっきり、丁寧」に話してほしい。それから相手の表情、声色、目線も見ながら対応を変えてほしいです。
また、コミュニケーションを重ねて、建設的な対話で解決してほしい。建設的というのは、「できる、できない」の2択ではなく、「これはできないけど、これはできる」という代案を出して、納得いく落とし所をみつけること。必要なのは、対話の力であり、それに加え質問力や想像力は、過去の学びを元に探ります。
「Have a courage and be kind」という言葉をご紹介します。精神障害のスローガンでよく使われる言葉です。勇気を持って他人を慮り理解しようと努めてほしい。そして、メンタルヘルスの場面においては、特に「be kind to your mind」と言われ、自らのセルフケアも意味します。
【CASE13及びCASE15について】
いずれのCASEでも乗務員が冷静にならなければいけません。このようなケースがあると知っているだけで、50%くらいは冷静になれると思います。冷静になることで、自分自身の安全確保に目が行きます。その後、原因や本人の気持ちを把握して、適切な対応や質問をするという流れです。
乗り間違いなどのミスに対する気持ちの乱れは、落ち着いて対応することで大丈夫になることが多い。脳の器質的な問題から起きている場合(自閉症や知的障害、統合失調症など)は、常同運動といって、興奮、ストレス、疲れを感じたり、没頭している時に特定の動作を繰り返すことがあります。自分で止められる場合とそうできない場合があり、本人が精神の安定のため行っていることもあるので、無理矢理止めさせず見守る方がよい場合もあります。しかし、人に迷惑をかけてしまう場合、相手に悪気がないことを理解し、相手の気持ちに共感し、ペースを合わせ話すことが大切です。そして、音や光など刺激となる環境に調節や誘導、行動の代替を提案、行動の指示出し(何をしたらいいのか明確に)を穏やかに行います。暴力を伴う場合、間欠性爆発障害や強度行動障害などがあります。これは自分達での解決が難しく、暴力に発展した場合は、一旦降りてもらい救護室に入り、当事者が所属する施設や家族に連絡を取る必要があると考えます。
■事例紹介「知的障害当事者の視点から」妹尾 美紀 氏
私の頭の中では、困ってしまうと、パニックになり、イライラして不安になり、頭の中がグルグルし、「いーっ」となります。そして、周りの支援者に止められます。「いーっ」となるには理由があります。「なんでだろう?」と考えてほしいし、支援者にも聞いてほしい。ちなみに、私が最近ビックリしたことは、手に持っているお気に入りの物が落ちた時でした。周りからしたら「知らんやん」と思うようなことでも、その人にとってはすごく大事だったりします。
私たちがほしいサポートについて。私の場合は、文字が小さく、漢字が難しい文章は読めないので、支援者に説明し直してもらいます。読むのが苦手な場合、言葉にしてほしい人、書いてほしい人と色々です。
画面に流れる文字も読めません。優しい日本語で言ってもらえると私にも分かります。電車が止まって不安な時間でも、原因が分かると安心できます。難しいことや分からないことがあると、私たち知的障害者は不安が大きくなります。そもそも何が難しいのか、自分でも分からないことの方が多い。だから、ゆっくり話を聞いて、紙に書きながら答えを一緒に探してほしい。そうすることで気持ちの整理整頓ができます。
色々と紹介しましたが、周りの仲間は揃って「答えがない」と言います。人によって違うので、その人にとっての正解を一緒に探せれば良いと思います。
【CASE12について】
車掌さんが車内を回ってくれて、簡単な言葉で書いて説明してくれたら嬉しいです。聞こえない人、難しい日本語が分かりにくい外国人にも良いと思います。私の場合、聞いた話を暫く覚えられますが、混乱したり、急に聞かれたら分からなくなることがあるので、大切なことは書いて伝えてほしい。人によって何が苦手で難しいかは違うので、気持ちを向けて考えてほしいです。
■取組紹介「移動時のLGBTQ+の困りごと」植木 智 氏
性のあり方は複数の要素で構成されています。SOGIESC(ソジエスク)という概念は、4つの性の構成要素の頭文字(性的指向・性自認・性表現・性的特徴)を並べたもの。性のあり方は、「男か、女か」とか、「同性愛者か、異性愛者か」とはっきりと2つに分かれるものではなく、グラデーションがあります。これらが一致する人もいれば、しない人もいます。
近年は、認知度が上がって来ましたが、LGBTQ+の人は身近にいない、いるはずがない存在とされて来ました。従って、異性愛者で性別が一致している人という前提で話をされることが多々あります。そして、LGBTQ+は「異常者・不審者・未熟者」というような偏見を持たれることが多いです。公共交通機関は、逃げられない閉鎖空間であり、偏見を持ち自分を攻撃するかもしれない他人と一定時間一緒にいなければならないという特有な状況のため、緊張感や不安感を持つ人が多いと考えられます。
【交通機関での困りごと】
様々な理由から法的な性別を変更できない場合もあるため、交通系ICカードや定期券等の登録上の性別と外見が異なることで不正扱いされるのではないかという不安があります。接遇においては、性別の不一致を周囲に分かるかたちで指摘しない、本人確認が必要な場合は、その理由を明確に説明し、生年月日や顔写真で確認してほしい。
タクシーなどで性別や関係性について決め付けで話をされ、不必要に介入されることに不快や不安を感じます。マイノリティにとって、運転手は抗い難い存在になり得ることを自覚してほしい。例えば、「お姉さん」や「奥さん」など性別や異性愛に基づく表現ではなく、「お客様」や「お連れ様」といった性別を問わない呼び方をしてほしい。
【トイレでの困りごと】
男女に分かれたトイレには入りづらく、バリアフリートイレは、数が足りていないので不便を感じています。健常者に見えるため、「なぜバリアフリートイレを使うのか」という目で見られるのが辛い。従って、トイレの使用は、性自認を尊重してほしい。他者とトラブルがあった場合、職員は複数人で対応し、双方の話を個別に聞いてほしい。その際、できるだけ双方を離して話を聞き、不審者扱いせず公平に対応してほしい。
■事例紹介「社会モデルから考える香害・感覚過敏」鈴木 千春 氏
私は、数年前から一部の洗剤や柔軟剤が原因で、揮発している場面に遭遇すると頭痛や口内のしびれが生じ、不調に繋がっています。その後、多くの日用品を見直すと、石油由来の合成化学物質を含むものを私自身も多く使っていることに驚きました。
香害や化学物質過敏症の場合は、いくら自身の回りの日用品を整えても、家、職場、学校、交通機関等で香料に出会い、不調になり外出を諦めざるを得ないことがあります。車両内で他人の柔軟剤の匂いがあると、隣の車両に移動し、それでも無理な場合は次の駅で降ります。場合によっては、気を失うこともあると聞きます。私のようにスロープ介助を要する車いす使用者は降車駅まで動けないため、多大な不安と恐怖の中、乗車しています。皆さんは、トイレの消臭剤やハンドソープ、職員の制服の柔軟剤などの成分を確認して使っているでしょうか。家庭用商品、業務用商品にGHSマークが付いていないか確認してみてください。
駅と車両内の迷惑ランキングで、強い匂いが今年度は4位になっています。様々な団体から国や企業に働き掛けがあり、国会でも議員から質問されました。国にも働きかけられて、5省庁連名のポスターができています。まず事業者としてできることとして、啓発ポスターから掲示してください。
2024年4月1日から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されました。化学物質過敏症や香害に苦しむ人も対象となるため、事業者にも取り組みが求められています。
香害は、ニオイが「好き、嫌い」の問題ではなく、体調不良等を起こすため原因物質を避けなければなりません。つまり、ニオイを出す商品の側に問題の所在はあります。しかし、それらを使用する社会環境の改善という視点が抜け、個人の問題にされることも結構あります。
感覚過敏においても、特定のニオイや音の好き嫌いが強い人がいますが、それらは問題ではありません。しかし、その人個人の特性、あるいはこだわりとして捉えられてしまうと、「個人の感じ方の話、あるいは個人の問題」にされてしまいます。果たしてそれで現状の課題を本当に正しく認識できたことになるのでしょうか。接遇や環境の改善に必要なことは何かという視点で、一緒に考えてください。
【吉川氏】
近年、視覚的にもより刺激的なものを求める社会になっています。私は、人よりも眩しさを感じやすく、それで疲れや不安、いらいらなどで体調が悪化し困ることがあります。そのため、スマホ専用のブルーライトカットレンズをかけることで、明るい光のギラギラ感が緩和しています。
また、香害の被害を受け始めた一例として、トイレットペーパーがありました。香りをつけたトイレットペーパーを手にしたことで、吐き気や頭痛があったことがあります。トイレットペーパーの売り場に行くと、だんだん頭痛がして、香りのないトイレットペーパーは市販では少ないと思います。社会で規制するのも大事ですが、どのようにコントロールしたらいいかが今後の課題です。
【植木氏】
私は、聴覚と視覚に過敏があります。複数の音や高い音、反響音が苦手。パニック防止のため、ノイズキャンセリングのヘッドホンをしていますが、駅でスロープを出してもらわないといけないので、駅員と会話する時はヘッドホンの片耳をずらします。しかし、駅員が隣に立ったまま話しかけたり、移動中に話をされたりすると分からないことがあります。そのため、話しかける時は正面や斜め前から顔を向けて話しかけてもらえると分かります。
【妹尾氏】
電車に乗っている時、強い香水の匂いがすると私も頭が痛くなり、早く降りたい気持ちになることがあります。
音については、電気やテレビが付いている時、小さく「ピーッ」と聞こえるくらいですが、とても敏感な人は「うるさい」となり、テレビや電気を叩いて壊す人もいると聞きます。周りの音が全部大きく聞こえて、「わー」ってなる人も知り合いにいます。聞きたくなくても聞こえてしまうそうです。
■質疑応答
【質問】
見た目で分かりにくい当事者には、ヘルプマークを着けてもらえると対応の準備もできて有難いのですが、着けない人もいると聞いたことがあります。
【回答(吉川氏)】
ヘルプマークを着けるかどうかは自由です。私も着けないでいようと思った時期があります。着けない理由は、心理的抵抗感が一番だと思います。ヘルプマークを着けることで、自分は弱者だと周りに分かるからです。また、ヘルプマークを着けている人に攻撃性を向ける人がいて、私も被害者になったことがあります。
【質問】
駅のお手洗いで、他の利用者から「トイレの表示の性と異なる人物が入って来た」などとクレームが駅員に寄せられた場合、職員は複数人で対応し、双方の話を個別に聞き、公平に対応してほしいとあるが、具体的にどのようにしたら良いか。特にクレームを寄せられる方へはどのように説明するのが理想的か。
【回答(植木氏)】
4つのポイントとして、@話が聞こえないような距離にするなど、双方を物理的に離して話を聞く。Aトイレ使用についてはジェンダー平等・基本的人権の保障の観点から、性自認での利用を認めている旨を毅然とした態度で説明した上で、通報した人に対して様々な立場で利用する人がいることを説明する。B2つ目の説明がしやすいように、日頃から啓発ポスターなどを掲示しておく。C相手が納得せず、職員を罵倒・脅迫して来た場合は、カスタマー・ハラスメントとして対応する。があります。
【質問】
精神障害、知的障害の方が、BOOKの事例のように1人で公共交通機関を利用するにあたり、事前に利用の練習(訓練)をすることはありますか。また、サポートするシステム(スマホなどを利用して具体的な乗降方法を教えるなど)等はありますか。
【回答(妹尾氏)】
ヘルパーと何度か一緒に練習をしたことがあります。難波までは1人で来られるようになりました。1人でどこでも行ける人もいます。
■まとめ 新田 保次 氏
当事者の意見を聞きながら、このBOOKを簡潔にまとめられたことは非常に素晴らしい。ただ、これが完成形ではなく、今後は内容の豊富化と全国展開をしていただきたいと思います。
今日ご登壇していただいた4名からは、それぞれの立場から自分の抱えている心身的な特性を含めて色々な良い話を聞けました。LGBTQ+の人が抱えている課題、香害・感覚過敏の問題も提起されました。このあたりの実態を探ることが今後は重要だと思います。
今日は、「移動」が重要テーマ。交通事業者の方々は、まさに移動に係る障壁を無くすために色々と努力されています。今日の課題提起を受けて、より一層上の段階に持って行っていただけたらと思います。今日を出発点として頑張ってください。本日は有難うございました。
- 配布資料
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- 事例紹介(アクセス関西ネットワーク 吉川氏)【PDF/1,066KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 事例紹介(自立支援センターぱあとなぁ 妹尾氏)【PDF/1,062KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 取組紹介(新設Cチーム企画 植木氏)【PDF/1,246KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します
- 事例紹介(障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議 鈴木氏)【PDF/467KB】 ※配布資料の無断転載・転用等を禁止します