バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第19回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

「大阪・関西万博」に向けて誰もが円滑に移動できる接遇・介助を考える
〜「交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK」の活用!〜

開催日時
令和6年9月20日(金)13:30〜16:00
開催場所
ホテル プリムローズ大阪 2階 鳳凰
参加者数
120人
基調講演
北川 博巳氏(近畿大学 総合社会学部 准教授)
取組紹介
南都 博志氏(大阪市高速電気軌道株式会社 建築部 駅リニューアル企画第1課長)
パネリスト
竹田 幸代氏(きんきビジョンサポート 代表)
六條 友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
長宗 政男氏(公益社団法人大阪聴力障害者協会 会長)
コーディネーター
美濃 伸之氏(兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科 教授)
コメンテーター
北川 博巳氏(近畿大学 総合社会学部 准教授)

講演概要

■基調講演
「自信をもって誰もが公共交通を利用できるために
〜『交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK』づくりを通して〜」 北川 博巳氏

【サポートBOOKの作成経緯と内容】

 私は、平成20年からエコモ財団、関交研と「交通事業者向けバリアフリー教育訓練」を実践してきた。その中で接遇・介助における困った事例や良い事例がたくさんあり、それを取りまとめることも大事であると考えた。そこで、万博開催を契機に交通事業者も接遇・介助についてよく分かるものが必要ということから、2年間をかけて『交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK』(以下、『サポートBOOK』)を作成した。
 作成過程では、障害のある人の協力のもとアンケート等で移動に関するニーズや事例を多く集め、良かった事例、悪かった事例、接遇のポイントなどをとりまとめ、分かりやすくするためイラストを主体とした。また、検討会で議論していく中で、交通モード別、障害別という分け方をせず、こういう時にこういう人が来たらどうするという状況別で整理をした。
 内容については、「Good事例/No Good事例紹介」と「困りごと事例と対応例」を主体とした。それに加え、移動時にどのような困りごとがあるのかを知ってもらうため、障害別の困りごと、LGBTQ+の説明も取り入れた。

【障害当事者からの思い】

 『サポートBOOK』の作成にあたり、障害当事者からしっかり書き込んでほしいという意見を紹介したい。
 @バリアフリーの施設や設備は整って来たが接遇は必要。Aプロとしての態度や表情を利用者は見ている。自分ではきちんとしているつもりでも、他から見ると配慮がないように見えることもある。B複合的な障害のある人もいるので、決めつけないことが大切。C過度な親切ではなく、おもてなしの心が必要。おもてなしでその人の要望を引き出しながら接してほしい。D利用者は早く答えがほしいが、スマートな対応になっていない時もある。画一的な対応だと雑な扱いに受け取られることもある。E自社の情報だけでなく他社の情報も知っていてほしい。F駅員等だけでなく万博のボランティアなど関係する人達にも参考にしてもらいたい。G混雑、悪天候時には臨機応変な対応が必要。

【まとめ】

 作成を通じて気づきがあったので紹介する。
 良い事例と悪い事例のギャップが大きかった。これは何が原因なのかと考えると、相互のコミュニケーションがまだまだ不足していると思う。
 「ヘルプマーク」というものがあるが、はたして当事者は本当に着用したいと思っているのか。実は、このようなマークが無くても普通に交通機関を利用できる世の中であればよいという意見があった。
 利用する側が自信を持って使える公共交通が大事である。海外の調査では、認知障害等で移動手段を使う自信がない人がいることが指摘されている。自信がなくなると使いたくなくなり、コミュニケーションが減少する。一方で、研修等において事業者の声を聞くと、どうコミュニケーションを取ればよいのか自信がない時があるとのこと。双方が経験や自信を積むことが大事である。万博で多くの方々が交通機関を利用されるので、経験と自信を積み上げる絶好の機会である。そして、万博を楽しむことができれば良いと考える。
 最後に、『サポートBOOK』のイラストを通じて、接遇・介助時に何が良くて悪いのか考える力を付けて欲しい。併せて利用者への対応という面では察する力、慮る力が非常に大切であると考える。今回の『サポートBOOK』もレガシーの一つとなることを期待している。


■取組紹介
「地下鉄駅舎のバリアフリー施策について」 南都 博志氏

 Osaka Metroでは地下鉄駅舎のバリアフリー施策について、現在以下11の項目に取り組んでいる。@エスカレーター・エレベーター、A可動式ホーム柵、B段差・すき間対策、C多機能トイレ、D授乳室、E案内設備、F視覚障がい者誘導用ブロック、G幅広改札機、H身体障がい者対応型券売機・点字運賃表、I二段手すり・点字案内、J折りたたみ式スロープ
 エレベーターは、ホームから地上までのワンルートの整備を2010年に全駅で完了している。現在はより便利に利用していただくため、ルートの複数化などの整備を進めている。
 多機能トイレについては、2016年にリニューアルした心斎橋駅を紹介する。大型の姿見鏡、可動式の手すり、オストメイト対応水栓、緊急ベル、チャームボックス、折りたたみ式の大型シート、自動水栓、ハンドソープ、便座クリーナー、温水洗浄便座などを備え付けており、20年前と比較すると大幅に器具類が増加し、出入り口は自動扉としている。これらはガイドラインに拠るところが大きく、社会のニーズを反映したものが形になったと感じている。また、トイレ全体として約1.5倍となった広さを余すことなくレイアウトし、女性用トイレにパウダーコーナーを追加している。一般トイレの各ブースを広くし、多機能トイレの機能の分散化も実施している。
 可動式ホーム柵の設置については、ホームから転落する心配がなくなり、目の不自由な方の恐怖心を解消できると考えている。また、段差・すき間解消により折り畳み式スロープを利用することなく、車椅子の方が自力で電車に乗り込むことができ、出発地から目的地まで駅員の介助なく自由に移動できることとなり、非常に大きな変化であると考える。この取り組みで運用面も大きく変わってくるため、ハード面の整備とソフト面のオペレーションは密接に関係している。
 私共建築施設に関わる建築技術者は、専らハード面の整備に関わっている。しかし、全てのスタートはソフト面からと考えている。様々なニーズや困りごとは、最初はソフト面での対応が必要である。そこで得た経験や知識、アイデアを元にハード面の整備に活かしている。そして、また皆様にご利用いただき、様々なニーズや困り事へ対応していく。このようなサイクルを繰り返している。
 バリアフリー推進には関係する皆様の連携が不可欠であり、今後も連携を深め、より良い鉄道に繋げて行きたい。


■パネルディスカッション

【CASE5】「運賃を支払う利用者への対応@」

(長宗氏)
 運賃の払い方が多様化している。運転士に聞く際、筆談具があると助かる。コロナ禍後マスクをしたまま乗務している人もいる。口元が見えないと、今話しているのか黙っているのか判断できない。相手が反応しなかったら、耳が聞こえない人かもという想像力を働かせることが大切である。
 運転士から挨拶など簡単な手話をしてもらえると、それだけでも利用者として安心できる。
(美濃氏)
 筆談具もあるが、今はタブレットなどでコミュニケーションを取る方法もある。
(竹田氏)
 視覚障害者はバス乗降時、タッチする場所が分からない。車両により異なる。近くにいる人が教えてくれることもあるが、運転士から教えてもらえたら嬉しい。
(六條氏)
 私は、車椅子使用者なので、運転士にスロープを出してもらう。折り畳み式の椅子を畳んでもらって乗る。その際、席を譲ってくれる人が多くなってきたが、昔はなかなか譲ってもらえないこともあった。運転士から声掛けしてもらったり、車内の空気感を良くしてくれることがあり、それは良かったと思う。
(美濃氏)
 利用者の中には、情報そのものが取れなかったり、情報が取れても判断ができなかったりする人もいる。ゆっくり話して貰えるとコミュニケーションが取れる人も多い。
(北川氏)
 どの障害のある人にとっても、マスクをしているとコミュニケーションを取りにくいとの声があった。CASE5の絵では補聴器を着けているが、全ての聴覚障害者が着けているわけではないことには、留意が必要。

【CASE12】「列車が緊急停車した際に情報を入手しにくい利用者への対応」

(長宗氏)
 改札口やホームに電光掲示板が整備され、見て分かる情報が増えた。しかし、音声放送と比べて情報量はまだまだ少ない。
 最近、電車が止まって情報を知りたいと思った時があった。その時はスマホでSNSをみて情報を収集しているが、本来緊急の時は、車掌からきちんと情報を伝えることが企業の責務だと思う。
 事故で避難する時、聞こえない人がいるかどうか、見ただけでは判断できない。その時は情報を紙に大きく書いて伝えるなど、聞こえる・聞こえないに関係なく全員に分かる方法で情報を伝える必要がある。万博では様々な国の人が来るので、日本語が伝わらない。聞こえない人への対応を基準にすることは、外国人にも効果がある。
(竹田氏)
 音声であれば私達は分かるが、貼り紙だと気づかない。災害時は普段使わないルートを使うことがある。駅の人混みの中では周りの状況も分からず難しいと感じる。代替輸送を使うのか、再開を待つのか迷うこともある。人手不足で大変だと思うが、困っている障害者を見かけたら、いつもと違うルートで来ているのではないかと想像して声を掛けてもらえたら嬉しい。
(六條氏)
 検討会で議論になったことを話したい。聞いて分かる人はいいが分からない人もいる。車掌が巡回する時に、情報が伝わりにくい人をどう判断するのか。そこを考えると、ホワイトボードやタブレットがあった方が良く、これを明記することが大事ではないかと意見した。当初、事務局は、それは困るという雰囲気もあったが、当事者としては掲載をお願いしたいと伝え、最終的に「望ましい」という表現を入れてもらった。当事者が集まってそこを議論できたことがすごく大事だったと思う。
(美濃氏)
 事前に情報を簡単に得られることは重要である。音声だけではなく、様々な媒体で情報を得られるようにする。また、外国人をどのように避難誘導するかなど、狭義の障害者だけではなく多様性に配慮することが大事である。
(北川氏)
 外国人も同じような状況にあるという話が出た。「遅延」や「運転見合わせ」はなかなか伝わらない。表現として、“やさしい日本語”は大事である。

【CASE23】「乗り継ぎをされる利用者への対応」

(竹田氏)
 大きな駅が大阪にはたくさんある。乗り継ぐ時に、「この先、私共は案内できない」などと決めている会社がある。周りの方が案内してくれる時もあれば、駅員が仕方なく乗り継ぎ先までと案内して下さる時もある。なるべく自分の足で移動したいが、そのルールはどうなっているのか。
 最近は、点字ブロックに誘導のためのQRコードが付いている所もある。それがあれば移動できるようになると思う。
(長宗氏)
 万博後の11月に東京でデフリンピックという、聞こえない人のオリンピックが開かれる。聞こえない人が世界中から集まって来るので、視覚で分かるような合理的配慮の提供や情報保障が進むことを期待している。
(六條氏)
 電動車椅子は、バッテリーで走っているので、充電が無くなると停まってしまう。大阪メトロの梅田駅で充電が切れたことがあった。どうしようかと思っても1人では何もできなかった。乗客と駅員に手伝ってもらい、駅員に「阪急梅田駅まで送ってもらえますか?」と伝えた。阪急梅田駅まで連れて行ってもらい、そこから阪急の駅員にバトンタッチしてもらい、茨木駅まで送ってもらった。その時は柔軟に対応してもらえた。
(北川氏)
 A社もB社もお互いが少し連絡を取り合えば、ミーティングポイントで引き継ぎもできる。一方で、慣れている人はある程度の所までのご案内で「大丈夫」ということもある。

【CASE3】「無人駅でインターフォンやモニターを介した利用者への対応」

(竹田氏)
 無人駅も困っている。ICカードでタッチしたのに、改札が開かないことは日常茶飯事。「駅員を呼んで下さい」とお願いができず、困ることが多い。インターフォンを探せずに困ることもある。駅員がいる駅は素晴らしいと日頃から感じている。
(長宗氏)
 オンライン窓口で切符を買ったことがある。障害者手帳を使う時は、カメラに手帳を見せるが、オペレータの言っていることが分からないので、スマホのメモ画面をカメラに見せた。その際はモニター越しに筆談で対応してもらえた。オペレータに対しても教育をしてほしい。無人駅ではインターフォン等で会話することができないので、人を配置してほしい。
(六條氏)
 最近はモニターやカメラが増えている。車椅子使用者の目線だと画面越しに映っているかどうか分かりにくいことがある。
 近鉄電車のモニター検証会に参加して、意見を伝えたことがあった。その際、意見交換で盛り上がった。こんなやり取りが交通事業者とできれば素敵だと感じる。
(美濃氏)
 事業者との意見交換は大事な要素である。

【最後に】

(竹田氏)
 普段から障害者の外出支援をしている。見えにくくなったり、見えなくなって外出が怖くなった人がいる。そのような方には、「家から駅まで頑張ったらなんとかなるよ。そこからは駅員がサポートしてくれるから、どこまででも行ける」と言っている。駅員を頼りにしている。
(長宗氏)
 聴覚障害者は身体障害者の中でも障害程度が幅広いと思う。耳は2つあるが、片耳だけ聞こえない人、両耳とも聞こえない人、軽度の難聴の方もいる。手話を知らない聞こえない人もいる。
(六條氏)
 『サポートBOOK』を見るだけではなくて、当事者が内容を伝えることが大切だと思う。バス事業者との研修を10年以上行っている。他の利用者からも変わったと言ってもらえることが嬉しい。積み重ねがすごく大事。各事業者も地域の利用者と会話することが大事で、そのことで障害の理解が進むと思う。そうすることで誰もが乗りやすい乗り物になればと思っている。
(北川氏)
 公共交通は今大変な状況にある。人が減って交通機関の利用者も減ってくる。駅員も業務が多忙なので、どこまでできるのかという問題もある。大事なのは目の前の人が何に困っているのか、どうすれば解決できるのか、それをしっかりコミュニケーションしながら支援してほしい。どこにいくのか、どうしたいのか慮りながら取り組んでいただければと思う。
(美濃氏)
 今後、万博本番に向けて、各交通事業者にはこの『サポートBOOK』を是非ご活用していただきたい。

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