バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第18回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

みんなで考える広域移動のバリアフリー化をめざした合理的配慮の提供

開催日時
令和6年2月19日(月)13:30〜16:10
開催場所
エル・おおさか(大阪府立労働センター) 6階 大会議室
参加者数
79人
趣旨説明者
石塚 裕子氏(東北福祉大学 総合マネジメント学部 教授)
講演者@
海老澤 弥生氏(きんきビジョンサポート)
講演者A
木川 菜都子氏(Transreport Japan 代表取締役コマーシャル・事業開発統括ディレクター)
講演者B
松田 純氏(国土交通省総合政策局 バリアフリー政策課 課長補佐)
パネリスト
海老澤 弥生氏(きんきビジョンサポート)
伊藤 薫氏(近畿日本鉄道株式会社 鉄道本部 大阪統括部 運輸部 運行課長)
山田 賢氏(明石市政策局 インクルーシブ推進室 室長)
六條 友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
コーディネーター
石塚 裕子氏(東北福祉大学 総合マネジメント学部 教授)

講演概要

■趣旨説明
「広域移動の特性と円滑化の課題」 石塚 裕子氏

 2000年に交通バリアフリー法が施行されてもうすぐ25年が経とうとしている。国の後押しもあり、交通事業者もバリアフリー化に取り組まれ、エレベーターやバリアフリートイレなど様々な施設整備が進められてきたが、今後に取り組まなければならない課題として3つあげられる。
 1つ目は対象者。近年、見えにくい障害といわれている知的、発達、精神の障害者やLGBTQ+の方など、多様な方への配慮を考えなければならない。
 2つ目は場面の拡張。これまでは徒歩圏を中心に買い物や通勤・通学等の日常生活の移動が対象であった。今後は、観光やレクリエーション、災害など非日常な事態に対してのバリアフリー化をどうすべきか。
 3つ目はエリアの拡張。バリアフリー法では、駅などの交通拠点を中心とし、基本構想は市町村単位で作成している。このため、都道府県、市町村を超えた広域の移動やその連続性を考えた時のバリアフリー化については十分に取り組まれていない。
 そのような課題がある中で、2年前に関西をフィールドとして広域移動の調査を行った。調査は、関西全体でモデルルートを14本設定した。また、関西の主要鉄道7社に実際の接遇マニュアルを提供いただき、オンラインインタビューを行った。調査から得られたキーワードは、以下の3つの連携である。@ICTを含むソフトとハードの連携、A交通事業者、観光事業者、自治体、ボランティアなど多様なセクター間の連携、B利用者、当事者とサービス提供者との連携。本日は、講演者、パネリストと議論しながら、それらの連携について一緒に考えていく第一歩になればと思う。


■講演@
「視覚障害者の広域移動について」 海老澤 弥生氏

 広域移動の調査では、どの駅でも親切に対応されたが、視覚障害者への合理的配慮は難しく、日常から困っていることが明らかになった。それは、無人駅での対応と会社が異なる公共交通機関の乗換である。
 広域移動する際、使い慣れていない駅が無人であると、まずインターホンが探せない。通路上に警告ブロックが敷設されていても、何を警告しているのか分からない。点字が付いていても読める人は少ない。インターホンらしきものを発見できても、不確かで利用するには勇気がいる。会社毎に形や大きさが異なるのも要因のひとつであり、インターホンを示す音声が必要である。
 会社が異なる交通機関の乗換は、自社施設を出た所で断られ、そこからどのように乗換を行えばいいのかわからない。点字ブロックはあるが、安全に歩けるというだけで行き先は分からない。つまり、途中の乗換駅でサポートが途切れ目的地にたどり着けない。大阪・梅田のターミナル駅でさえ乗り換えができない状況である。例え会社毎の合理的配慮が素晴らしいものであったとしても、サポートが途切れていては全ての合理的配慮が無駄になる。これこそが視覚障害者にとっての社会的障壁である。
 そのため、障害特性に合った合理的配慮の見直しが必要で、現在見落とされている案内がとぎれてしまうルートについて、公共交通機関同士が連携する仕組み作りをお願いしたい。視覚障害者は、情報障害者でもあり、テクノロジーを使いこなすには非常にハードルは高いが、音声の充実によりICTを使える視覚障害者も多数増えた。「shikAI」や「コード化点字ブロック」「NaviLens」など、歩行支援アプリを導入することでマンパワーを補い、一方で、テクノロジーを使いこなせない人にはマンパワーでの対応を確保いただける連携作りを検討してほしい。


■講演A
「世界初の障害者・高齢者向けEnd-to-Endマルチモーダル交通・体験プラットフォーム」 木川 菜都子氏

 当社のサービス内容は、お客様が移動するための介助をワンストップで予約するためのソリューション。アプリとウェブシステムを事業者だけでなくお客様へも提供している。
 鉄道で移動する際に焦点を当てると課題は大きく3つある。@時間がかかること、A信頼性への不安、B安全性への不安。また、障害者差別解消法の改正により、事業者による合理的配慮の提供が義務化される。法律が変わることでお客様の期待値が大きく変わって来る。こうした背景から今後鉄道業者が提供する介助のクオリティに対して、期待値が大きく高まってくると予測される。
 課題解決のため、テクノロジーを通して駅員と障害のあるお客様の両方の負担軽減を目指している。そのために当社はワンストップで介助の予約ができるプラットフォームを提供している。お客様は外出の際に介助が必要であれば、3クリックで介助予約ができ、事業者は事前にお客様の出発や到着時間を把握でき、スムーズに介助を行うことができる。異なる鉄道事業者とのシームレスなコミュニケーションも実現でき、幅広い障害者に使いやすいと思っていただけるUI、UXを提供している。
 当社の長期ビジョンとして、現在、鉄道と航空業界に展開を進めているが、最終的にはバスやタクシー、商業施設、ホテルなど色々な交通手段、施設と繋がることで、お客様が自宅から最終目的地までシームレスに移動できることを実現したいと考えている。


■講演B
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律及び国土交通省対応指針について」 松田 純氏

 障害者差別解消法は、共生社会を実現することを目指した法律。行政機関、事業者に対して障害者に対して障害を理由とする不当な差別的取り扱いを禁止すると共に、障害者から申し出があった場合に合理的配慮の提供を求める内容となっている。
 対象は、外見で分かる障害者だけでなく、知的、精神、その他様々な障害のある方も対象となっている。また事業者についても、ボランティア活動するようなグループも含めて広く対象としている。この法律を受け、各省庁は所管する事業のそれぞれに対し、合理的配慮、不当な差別的取り扱いがどういったケースに当たるかを対応指針としてまとめている。
 行政機関や事業者において、その事業を行うにあたり、障害を理由として他の障害者ではない方と比較して、正当な理由のない差別的取り扱いをすることを禁止している。具体的に「正当な理由」とは何かということが度々議論になる。個別のケースによるところとなるが、客観的に見てやむを得ないといえる場合は、不当な取り扱いとはならないといった整理がされている。仮に「正当な理由」があると判断した場合、障害者に丁寧に説明し、理解を得る努力が望まれている。ここが事業者と障害者の方々との対話の中で、一番重要なところになってくる。
 合理的配慮の提供が今回の法改正で義務化された。障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除くため、具体的に障害者から「バリアを取り除いてほしい」という意思表明があった際は、その実施に伴う負担が過剰でない場合には負担をする。また、合理的配慮の提供に当たっては、事業者と障害者との「建設的対話」を通じて相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが重要となってくる。


■パネルディスカッション

◎取組紹介

【伊藤 薫氏(近畿日本鉄道株式会社 鉄道本部 大阪統括部 運輸部 運行課長)】

 当社では、お客様に円滑にご利用いただくため、現在、京都線の山田川駅、大阪線の耳成駅、京都線平城駅でバリアフリー工事を進めている。スロープの改修、エレベーターや誘導ブロックの設置などを行っている。インターホンについても利用者からご意見をいただいており、より利用しやすい新型機種に順次更新することを検討している。
 大和西大寺駅で「改札口見守りシステム」を2020年から導入している。改札口に来られた白杖の利用者、車いす使用者をカメラとAIを使って検知し、駅係員に通知するシステムである。他のお客様対応をしていると気が付かないこともあり、このシステムが係員の支援に大いに役立っている。
 接遇、教育等のソフト面に関しては、支援学校の歩行訓練士による接遇研修、地域の目の不自由な方との駅を使った歩行訓練会の実施、バリアフリー接遇総合マニュアルの作成、配付等を行っている。また、奈良県視覚障害者の生活を守る会との懇談会を毎年開催し、鉄道をご利用いただくに際しての困り事などについて生のお声を聞かせて頂いている。

【山田 賢氏(明石市政策局 インクルーシブ推進室 室長)】

 明石市で実施したタクシー事業者向けの研修の事例を紹介する。合理的配慮自体は、不特定多数の方を対象に講じられる措置ではなく、個々のニーズに応えて提供されるものであることから、一人ひとり違うことを体感してもらうため、できるだけ多様な当事者に参加いただいた。そして、一方的に聞くのではなく、お互い話しをする中で伝わることがあるのではと思いディスカッション形式で行い、一緒に体を動かすことを積極的に取り入れた。初年度は視覚障害者、2年目は車いすユーザーをテーマに実施した。
 研修会では、視覚障害者へのお釣りの渡し方、車いすユーザーの移乗をテーマにワークショップも実施した。多くのタクシードライバーに本内容を知っていただくため映像教材としてDVD化し、市内のタクシー事業者へ進呈した。利用者一人ひとりには移動して何かを得たいという目的がある。そこをいかに汲み取ってご案内できるかを皆さんに知っていただくことができればと思っている。
 行政の役割は、今芽が出ていてそこに水やりをするようなものと思っている。水をやるのは当たり前だが、種を蒔いたけど芽が出なかったら、土を掘り起こしてみることもする。色々な状況を見ながら全体がより良くなるように考えていければいいと感じている。

◎ディスカッション

【六條氏】

 近鉄では当事者と研修や意見交換会をされているとのこと。合理的配慮については理解を進めていくことはすごく大事であり、今後もそのような企画などはあるのか。また、無人駅でのインターホンについても伺いたい。

【伊藤氏】

 歩行訓練は定期的には行っていない。この時は運輸局から声かけ頂き実施した。ご要望がありましたら、前向きに検討したい。また、インターホンの設置状況については課題として認識している。インターホンの更新にあわせて、場所を統一する、近づきやすい位置にするなど、意識している。

【六條氏】

 お客様に寄り添った活動ということで、そこでの気づきはすごくあると思う。継続的に色んな立場の人に参加していただくことが大切。企業側の方にもう少し積極的に発言してもらい、関わりを持ってもらうことが大事。特に知的障害、精神障害の方などにも関わってもらえると、色んな気づきがあると思う。
 一方、困っているお客様がいる時、どう対応するかを考えていただくことは大きな課題と思っている。私の場合、電動車いすが大阪梅田駅で壊れたことがあった。一人では移動できないので、誰かに助けてもらわないといけない。お客さんか、駅員かとなると、やはり駅員にお願いすることになる。
 タクシー研修はなかなかない。すごく踏み込んでされた。プロセスと今後の取組み教えて欲しい。

【山田氏】

 タクシー研修はあまりやっていないというお話を聞き、それでは取り組もうと思ったのが最初。ちょうど仲の良い職員が交通の部署にいたのでその人に提案し、タクシー協会に話をした。タクシー協会からは、明石市がコーディネートしてくれるなら是非となり、実施に至った。
 明石市の場合は、市内に13社の事業者がある。大都市になると協会を挙げて全社が連携して研修するのは難しいと思うが、明石市程度の規模の自治体では交通事業者との関係性が作れており、このような研修もできると思う。
 タクシードライバーも当事者も、こういう交流の機会はなかなかないと言っている。是非、このような機会を続けてほしいという意見だった。

【六條氏】

 日本全国でもあまり聞いたことがないので、ぜひこの取り組みを継続的に進めて、全国に広げて行ってほしい。外見から分からない障害、つまり精神障害や知的障害あるいは難病の方も対象に行っていただければと期待している。

【海老澤氏】

 インターホンに音声が付いていることはすごく嬉しいと思った。これからこのようなインターホンがどんどん他の鉄道事業者にも増えたらと思う。見守りシステムにしても、それがあると分かっているだけで安心して駅を通ることができる。私自身もホームから転落した経験があるので、そういった見守りをしていただけると嬉しい。
 途切れないサポートの解決策として、タクシーに乗ればいいと思われるかも知れない。しかし、視覚障害者にとってタクシーが、一番ハードルが高い。景色を見ながらそこを曲がるとか、そこで止まるなどが言えない。そのため、そこを対象に研修されたことは素晴らしい。当事者団体によっても強みが全然違うので、皆さんいい意見交換会をされていると思う。可能であれば、どういった意見が出たのか、お互いで公開し合うことができればよいと思う。
 途切れないサポートの実現について、降車駅から距離が離れている別会社の鉄道駅、船などに乗り継ぐ時、どのような仕組みがあれば乗り換えできるのか一緒に考えていただきたい。例えば、なんばで近鉄から南海に乗り換える場合、距離が離れている。私の経験からはお断りされたことはないので、とても助かっている。これはいつでもサポートしてもらえる駅毎の仕組のようなものがあるのか。マニュアルには書かれていなかったのでお聞きしたい。

【伊藤氏】

 難波駅は、非常に大きな駅ということもあり、係員が複数常駐している。結果的にいつ来ていただいても誰かが対応できるという状態になっている。難波駅での他事業者との連携については、お互いの駅長同士で協議している。例えば、近鉄から南海に行きたい時は、電話をして南海の駅員とここで落ち合いましょうというような約束を現場レベルで行っている。

【海老澤氏】

 駅長同士で交流できているのはいいなと思った。佐賀県の伊万里まで出張に行った際に、駅からホテルに行く必要があった。伊万里駅の駅員は一人だったが、ホテルに電話をしてくれて、ホテルの方が迎えに来て下さったことがあった。こういった近くの施設との連携も考えられると思う。
 私は、淡路島に仲間と行く。明石駅から淡路島への船着き場まで点字ブロックは付いているが、少し移動が難しい。駅員に案内をお願いするには、そこそこ距離がある。このような場合にどうしたら乗り換えできるのか。明石市として何かよい提案があれば教えて欲しい。

【山田氏】

 淡路島に渡る船着き場まではタクシーに乗るような距離ではない。ただ歩くとちょっと行くのが難しいという絶妙な所にある。そのため、駅近くの「あかし案内所」という施設とツーリズムセンターが連携している。そこに連絡いただいて、何度かご案内したことがある。
 今日、紹介のあったような技術の活用ももちろんあるが、やはり人による案内ということに苦労している。事業者だけでなく街の人に支援してもらうことも必要になる。ただ、親切心に甘えるということで片付けてしまうと、見える方と同様に移動できることの実現とは違ってくる。実際に色んな方の力を活用するという部分を具体的にシステム化する。例えば、Aさんはこの通りの向こうまでなら案内できる。そこから先はBさんが案内できるというように繋いでいく。このようなことを街ぐるみで考えていければ、もう少し広がっていくのではないかと思う。

【石塚氏】

 4人のパネリストの皆様には活発なディスカッションをしていただき、参加者の皆様もワクワクするような形で聞いていただけたと思う。
 利用者とサービス提供者が一緒に考えることで、さまざまな知恵、新しいアイデアもこのディスカッションで生まれたのではないかと思う。ただ、それをすぐに実現できるかというと、そこにはまた課題があるが、それを楽しみ、試行錯誤しながら皆さんと一緒に取り組んでいけたらと思う。

配布資料