バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第15回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

聴覚障害者が語る日常生活と移動〜交通機関利用時におけるあるべき姿(支援・配慮)と現状のギャップについて〜

開催日時
令和4年11月7日(月)午後1時30分〜午後3時45分
趣旨説明者
渡部 安世氏(NPO法人兵庫県難聴者福祉協会 バリアフリー部長)
講演・パネリスト
志方 龍氏(宝塚市身体障害者福祉団体連合会 会長)
渡部 安世氏(NPO法人兵庫県難聴者福祉協会 バリアフリー部長)
安藤 美紀氏(NPO法人MAMIE(マミー) 理事長)
コーディネーター
六條 友聡氏(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
鈴木 千春氏(障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議 運営委員)
コメンテーター
石塚 裕子氏(大阪大学大学院 人間科学研究科附属未来共創センター講師)

講演概要

■導入・課題提起
「多様な「聞こえ方」の整理、個々への対応の必要性について」 渡部 安世氏

 聞こえにくい・聞こえない方を考えた時、どのようなコミュニケーションがあるか。私の場合は手話、筆談等ですが、コミュニケーションの背景には、環境、本人の心境、捉え方、個性、聞こえ方、障害体験があります。また、環境の中に、対話相手のコミュニケーションなどが挙げられます。表出されたコミュニケーション手段だけではなく、これらの背景を理解することで、接遇や設備の情報アクセシビリティ推進に繋がります。
【聞こえ方、環境について】
 具体的な聞こえ方は言い表せない面がありますが、特徴、症状として8つ挙げられます。
 @全く聞こえない(補聴器を着けていない状態で全く聞こえない、着けていても聞こえない)。A音が小さく聞こえる。B音が歪んで言葉として聞き取りが難しい。C高い音もしくは低い音が聞こえにくい。D片方が難聴で音の方向が掴みにくい。E聞こえるが、言葉どおりに理解出来ない。F音が大きく歪んで聞こえ、大声はかえって聴き取れない。G賑やかな場所で聴きたい音声が聞き取れない。
 本人の聞こえ方だけではなく、環境によってもコミュニケーションが左右されます。@騒音、Aマスクや仕切り、B顔・口が見えない、C相手の話し方、D相手の声、E話が長い、F話のスピードが速い、G会話人数が多い。このような環境で聞き取れない、読話の読み取りに疲れる、誰が何を話しているか分からなくなります。
【コミュニケーション手段】
 聞こえ方や環境などによって組み合わせや使い分けをしています。筆談があれば良い、手話があれば良いということではなく、設備・接遇は1つでは補完できないことをご理解ください。
【聞こえにくい聞こえない人の人数と社会に求められるもの】
 総務省の調査では、聞こえにくい方(難聴自覚者)は3,386万人。約3人に1人という計算です。聴覚障害で障害者手帳を取得している方は、身体障害者手帳全て合わせて約34万人。先ほどの難聴自覚者から引いても、3,350万人も聞こえにくさを自覚しています。普通の話し声が聞こえにくく、日常生活で支障をきたしていても手帳に該当せず、福祉サポートが受けられていない状況です。聞こえにくい・聞こえない人が社会にいることを前提に、聞き取りやすい音声環境、音声以外の見える形での情報提供が社会に求められています。
【法律・ガイドライン】
 2022年5月、情報アクセシビリティについての法律が制定されました。内容を要約すると共生社会の実現に向けては、情報の十分な取得利用・円滑な意思疎通が極めて重要であり、事業者の責務としても明記され、障害者基本法やそのほかの法律への反映を行うとしています。当事者団体や個人が都度求めてきましたが、法が制定されたことは社会においても大変大きな意義があります。
【まとめ・課題提起】
 @情報アクセシビリティの推進には背景の理解が必要であるということ。A聞こえない・聞こえにくい人が社会にいることを前提とし、聞き取りやすい音声環境、音声以外での見える形での情報提供が必要ということ。B情報アクセシビリティ法の反映が必要ということです。
 特に交通事業者にお伝えし一緒に考えていただきたいことは、支援・配慮は、特別なことでも、合理的配慮の対象でもないということです。少しの工夫や情報アクセシビリティを取り入れることは支援・配慮ではなく、通常のサービスと認識いただき、スピード感を持って取り組んでいただきたいと思います。


■講演1
「聴覚障害者の日常生活について(手話言語者の場合)」 志方 龍氏

 私は、手話言語者で生まれつきのろう者、補聴器を使っています。職業はIT関係のプログラマーです。
 手話言語は、多様性があると考えます。理想としては、社会のあらゆる場面で手話言語を使う環境にしたいと考えていますが、どこでも手話があるわけではなく、社会的環境が十分に整備されていないのが現状です。私の職場では口話と筆談を使うことがあります。聴覚障害者の就労環境はさまざまです。
【手話と日本語について】
 手話が使えるからといって、(必ずしも)日本語が使えるというものでもありません。日本語の内容というのはなかなか理解しにくい面があります。聞こえる人は日本語を習得する過程で、幼少時から家族や環境、周りの人が話している情報が無意識に入って、自然に身につくといわれています。一方で、生まれつき聞こえない方は自然に日本語が入ってきません。文字だけを頼りに勉強するので日本語の獲得はとてもハードルが高いのです。皆さんが英語を第二言語として習得するようなイメージです。
 先日、オリンピック・パラリンピックでの閉会式や開会式に手話通訳がついたことが話題になりました。話題になるくらい少ないということです。緊急放送の時は、字幕だけでは正しい情報が伝わるのか、きちんと避難行動が出来るかが深刻な問題だと考えています。内容の理解が不十分、正しく判断できなかった人が逃げ切れないという問題が起こりえるため、情報の獲得手段の整備が必要です。
【日常生活】
 日常生活では見た目だけでは聞こえない人と認識されず、補聴器を使わない人もいるため、歩行時に後ろから急に来た自転車にぶつかりそうになるなど怖い経験があります。社会的環境は、音声情報を前提に構築されています。
 コロナ禍で特に困ることは、透明ではないマスクが着用されていることです。口元が読み取れずコミュニケーションが断絶されている状態です。コミュニケーション支援ボードなどで意思疎通をして、カバーするという選択肢もあります。企業などでは在宅勤務が進み、社内でのコミュニケーション手段としてチャットやメールの利活用が進んでいますが、音声だけのWeb会議参加はなかなか難しく、孤独感を持ってしまう例もあります。
【問題提起】
 @全く耳が聴こえない人がいることを想定してほしい。補聴器を使えば少し聴こえる人もいますが、「聴こえること」と「内容が理解出来ること」は別問題です。聴こえない人にとっては、手話で簡単な挨拶を表してくれる、絵を描いてくれるといった工夫がありがたいです。
 A電車の運行情報、避難情報等の必要な情報が伝わらないような場合、本人にとって命の問題に直結します。伝えるための対応策を検討する前に、なぜ必要なのか、現場から経営者の方まで、全員、皆さんが共有できる社風は必要だと思います。
 B現場と当事者とのコラボレーションが大事です。私たち障害者は、自分の障害については詳しいですが、現場については事業者の皆様がプロです。双方の共同作業があることが一番いいと思います。
 お客様は聞こえて当たり前と考えず、聞こえない人が来るのではないかという可能性を意識すること、「観察する力」が大事だと思います。


■講演2
「難聴、中途失聴者の立場から」 渡部 安世氏

 私は中学生ごろから高い声が聞こえにくくなり、言葉が抜け落ちるような聞こえ方を感じてきました。進行性の感音性難聴で、つまり聴力が落ちていくという診断を受けました。
 今は聴覚単独では1番重い2級で、補聴器なしでは救急車が近くに来てもサイレンが聞こえないレベルです。コミュニケーション手段は、発話・手話・筆談・音声認識アプリを活用しています。口の形から言葉を読み取る読話は苦手であまり読み取れません。緊張すると声がどもることもあります。
【感音性難聴について】
 難聴になって難しくなったことは、まずインターホンや目覚まし時計の音や冷蔵庫の開けっ放しのときの注意音が分からなくなりました。学校では、先生が教科書のどこを話しているか分からず、いつ当てられるかびくびくしていました。
 電車のアナウンスも聞こえにくくなりました。聞こえない人がいるのに視覚情報が少ないなど、なぜバリアフリーが進んでいないのか疑問を持つようになりバリアフリーに関わることになりました。
 これらは障害者手帳を取得するレベルに達していない時の話です。音声は非常に便利で生活に根ざしていますが、取得レベルでなくてもここまで情報が得られず、コミュニケーションができず人との良好な関係を続けることが難しいことを知ってほしいと思います。3千万人以上おられる難聴自覚者の中には、程度の違いはあってもこういった状況の方も多いと思います。
【日常生活】
 私が日常生活で使用しているものを紹介します。
@「Apple Watch(アップルウォッチ)」。洗濯機の終了音や旅行時のホテルの目覚ましは聞こえないため、タイマーの振動を活用しています。
A福祉機器。来客インターホンや火災報知器の音で反応し、点滅や振動します。振動機器は枕の下に入れているので、就寝時も来客や火災発生を知ることが出来ますが、マンションの別室で報知器が稼働しても反応せず、もしもの時は取り残される危険があります。
B「UDトーク」。音声認識アプリで日常生活や会社での会議や研修で使用しています。
C「電話リレーサービス」。これまで電話番号しかないお店には直接来店して予約もしくは諦めていましたが、今はこれを使っています。
 日常生活でうれしいことは、スーパーなどで聞こえないことを伝えると、袋やお箸などを取り出し、実物を見せてくれることや、手話で「ありがとうございました」と伝えてくれることです。手話が間違っていることもありますが伝えようとしてくれた点でお客様として接遇されていると思えます。また、「耳マーク」の設置は、聞こえにくい・聞こえないことに理解があることなので、聞こえにくいことを伝えやすく筆談もお願いしやすいです。
【電車の利用時】
 電車に乗る前に乗換案内アプリで発着時間、乗換駅を調べます。降車駅が分かるよう、なるべく電光掲示板のある車両に乗りたいですが、混雑時や急ぎの時、電光掲示板がない車両、そもそも電光掲示板がない車両もあります。車内が混むと掲示板が見えにくく、気付いたときにはドアが閉まって降りられないこともあるので、すぐに降りられるよう扉のそばに立つことが多いです。扉の近くで立ちスペースがあると助かります。地図アプリでも自分が今どこにいるかを確認しますが、たびたび操作するため気が抜けないです。遅延があると電光掲示板に情報がないかを探し、不十分な場合は鉄道会社や乗り換え案内のアプリ、Twitterなどで情報を探します。情報がない時は駅員さんを探します。周囲に尋ねるのは最後です。よくお客様同士の助け合いといわれますが、音声社会の中で音声以外のコミュニケーションを求めるのはハードルが高いです。これまでも周囲に尋ねたことはなく、駅員さんのいる窓口に並ぶことが多いです。最近はホワイトボードに情報が書かれていることがありますが、改札外だけではなく改札内にもほしいです。
【まとめ・問題提起】
 手帳に該当しないレベルの難聴でも日常生活や人間関係に困ること、聞き取りやすい音声環境、音声以外の見えるかたちでの情報提供が必要であること、音声によらなくとも連絡が取れるようにすることは、聞こえにくい・聞こえない人だけのためではない。
 そして、聞こえていたけど、今は聞こえにくい・聞こえない1人の体験から感じることとして改めてお伝えしたい。
 聞こえていたときは、音声情報が自然に入ってきて困ることはほとんどありませんでした。音声情報を必要とするお客様に対しては音声での案内が整備されています。でも難聴になって音声情報を得られなくなると文字情報が少なく、困ることがたくさん出てきました。私はお客様ではなくなったのかと感じました。音声情報以外を必要とするお客様を情報弱者や交通弱者とラベリングし、通常のサービスではなく、支援・配慮である、特別なニーズであると区別しているように思います。
 なぜ、聞こえにくく・聞こえなくなっただけで、案内情報がなくなるのか、疑問に感じています。お客様という大きなくくりの中に、聞こえにくい・聞こえない人を含めて取り組んでほしいと思います。


■講演3
「聴導犬とともに生きる」 安藤 美紀氏

 私は聴導犬利用者です。聴導犬とは聞こえない人をサポートする犬のことです。私は生まれつき全く聞こえません。言葉の訓練で高校生の時に話せるようになり、会話は口の形を見て読み取っています。
 私のコミュニケーション方法は、筆談のほか「UDトーク」の使用、周りで音がするかどうかの確認のため補聴器をマナーとして装着しています。その他、空気を読む。周りに何かあるか、目で情報を探す。言葉があれば読む。口の形を見て読み取る。聴導犬と一緒にいるので犬の動きを見ることも大事です。犬は音がすると耳がピクピク動くので、聴導犬が向く方向に何かあるか見るようにしています。聴導犬は生活の色々な音を聞いて全部教えてくれるだけではなく、私に必要な音だと判断して教えてくれます。幼少時、マミーという犬と住み、音にマミーが反応すると私が追いかけて、何の音か教えてもらっていました。犬は聴力と鼻の力が人より優れているので、一緒にいることで音を知りました。今は2代目の聴導犬とともに活動を広げて19年目になります。
【移動について】
 新幹線では多目的室は電光掲示板がないため予約しなくなり、普通の指定席に座るようにしています。ここで困るのは隣の人がどんな人か分からないこと。隣の人が声をかけることもあるので、障害者のための席が欲しいと思います。ベビーカーや子どもが多く、悪意なく犬を触る子どもが多いので、聴導犬が落ち着けるところがあったらいいなと思います。
 障害者割引は「みどりの窓口」で並んで買いますが、出来たら切符売り場で買えたらありがたいです。列に並ぶと聴導犬に「可愛い、偉い」と言ってくれたり、「犬が居る」と言われたりと気を遣います。在来線でも聴導犬のスペースがありますが、車いすの方などが来ると気を遣います。車いす・ベビーカーのマークはあるものの聴導犬のマークはありません。マークがあると居ても気を遣わなくて良いので、出来れば聴導犬(補助犬)が居ていいマークも作ってほしいです。
 移動時について困りごとは、聴導犬と一緒に乗り物に乗る際、目が見えないと思われることです。よく「私に掴まって下さい」と言われ、「目は見えています」と言うと驚かれます。私は話せるので「盲導犬ではなく聴導犬です」と説明すると分かってもらえますが、東京では「聴導犬」の文字を理解してくれますが、関西では盲導犬と思い込む人が多く、対応が大変です。また、最近はスマホのながら歩きが増え、私のほうが避けるということが増えて危ないです。他には多目的トイレが1つしかないときはなかなか使えないです。仕方なく女性トイレに行って「犬が居る」と言われたこともあります。
 うれしかったことは、私が困ったときに駅員さんが声をかけてきて、私に口を大きく開けて丁寧に対応頂いたこと。「指定席の場所まで一緒に行きましょうか?」と言って頂いたこと。聴導犬がいるから広い道を教えてくれたことや、必要な情報をメモに書いてくれました。
 聴導犬を見て聞こえない人だと分かってもらえた時が1番嬉しかったです。
【入店拒否について】
 いろいろなお店やタクシー、ホテルで拒否されたことがあります。聴導犬がまだまだ広まっていないこともあって、お店の人や知らない人は「犬はダメでしょう」と言うことが多い。「聴導犬で、補助犬です」と伝えますが「でも犬でしょう」と言われる。私があまり強く言わないでいると周りの人が怒ってしまい、問題が大きくなってしまうので、これまでの経験からどうやったら分かってもらえるかを考えながらコミュニケーションを取っています。コミュニケーションが取れれば問題は起きないです。私はクレーマーではないです。1人の人間として話をすることが大切です。


■パネルディスカッション
◎コメンテーター 石塚 裕子氏

【講演者3人のお話を聞いて】

 異なる背景、お1人の方でも複数のコミュニケーション手段を使っていること、多様なコミュニケーションの取り方があると分かりました。対応の要望や取り組み方法について話されましたが、他の人にも役立つと思います。例えば、優しい日本語の使用は来日している外国人や子どもにも、コミュニケーションボードは知的障害のある方にも分かりやすい手段として使えると思います。
 聞こえにくい・聞こえない方たちが求めているニーズは、みんなのためのサービスだと思います。特別なサービスとして考えるのではなく、全てのお客さんが安心・安全に利用して楽しむためのサービスの提案という考え方は、障害の対応を先進的に取り組んでいるアメリカでは新しい概念としてAFN(Access and Functional Needs)と言われています。人の個別性から考えるのではなくニーズから考える。ニーズに対してどう対応するか。対応すれば誰に対して役立つか。困りごとから考えるというアプローチです。まさしく今日の内容だと思います。

◎コーディネーターからパネリストへ質問

【六條氏】

 交通機関を利用してサポートが重要になるのは、@緊急事態発生時、A運行異常時、B通常時のいずれにもあると伺ったことがあります。みなさんの経験の中で具体的なエピソード、あって良かった・もっとこうあれば良いのにと思うポイントをお聞かせください。

【渡部氏】

 電車のバリアフリーについて調査した際、脱線事故の車両に乗っていた聴覚障害の方にヒアリングをしました。「事故時、聴者の家族と一緒に居たが、1人だったら何も分からなかった。現場も混乱していて他の乗客もパニック状態。何を話されているのか、案内自体にも気付かなかった」と言っていました。お互い助け合うことも必要だけど、鉄道会社やスタッフの方に、例えば「聞こえにくい・聞こえない人に情報提供します」と紙に書いて、聞こえにくい人を探して、情報提供して欲しい。とのことでした。紙を見た手話通訳の方、要約筆記をされている方にサポート頂けることもあると思います。

【志方氏】

 電車利用時、緊急のことが起きて電車が止まった経験が何度かあります。帰宅途中とか止まってしまった区間がニュースや字幕があれば分かりますが、車内では音声のアナウンスだけで字幕の情報がなく1時間くらいずっと待っている状況でした。見た目では聴覚障害者だと分からないため、困っていることが周りの人に気付いてもらえなかった。私自身も聞こえないと言い出しづらくて、次にどうすればいいだろうかと迷いました。
 その時は、周りの乗客の行動を見て真似をして降車しました。次に何をしたらいいのか全く分からないままでした。目で見える情報などについても、改めて聞こえる人も聞こえない人も同じようにいただけるように考えていただきたいと思いました。

【安藤氏】

 聴導犬と一緒に電車に乗っていた時、突然電車が止まり困ったことがありました。アナウンス内容は分かりませんでしたが、周りの方が聴導犬を見て、私が聞こえないことを理解して、内容や情報を教えてもらいました。周りの方からの情報で助かりましたが、それがなければ、私は分からないまま電車の中に居たと思います。聴覚障害者は置いていかれる、孤立してしまうと思いました。
 飛行機では時間変更や遅延をすぐ来てくれて情報を教えてくれましたが、周りに人がいると聴導犬を見て私の障害が分かるのでサポートしてもらえます。でもやはり怖いと思ったのは、私が1人で車を運転している時、高速道路で渋滞情報がないときに一生懸命スマホで情報を探してもアナウンスもラジオの内容も分からないことです。私は3年前、高速道路で雨天時にスリップして壁にぶつかる単独事故を起こしましたが、車が動かなくて何も出来なかった。聞こえない人は電話も出来ず、どうしようと思いましたが、ガソリンスタンドの方に助けてもらいました。私が聞こえないと分かってくれて、代わりに電話をしてくれて助かりました。事故や災害時、1人になったら怖いなと思います。

【六條氏】

 視聴者から質問。まずはタクシーについてです。タクシーを予約するときはどうしていますか。FAXやアプリでしょうか、また乗車しているとき、困るのはどんなことですか。

【渡部氏】

 タクシーは、予約ではなくアプリで呼びます。その場合運転手さんとのコミュニケーションが難しい。読話も出来ないので、乗ってすぐに聞こえないことをお伝えして、一方的に行きたい場所を伝えます。行き先近くの道の説明が難しいとき、通じているか分からないこともあるので「手前の止めやすい場所でいいです」と言ってしまいます。どうしても聞き取らないといけないと思ったときは「UDトーク」を使います。こういうコミュニケーション手段があることを知ってもらいたいと思います。観光でタクシーに乗ると、運転手さんが観光地とか地元のお店を紹介してくれますが、それがなかなか聞こえなくて情報を得られないのが残念です。

【志方氏】

 タクシーに乗車する際に運転手さんは、運転しながら途中で(音声で)話される。しかしながら聞こえなくて分からないので、コミュニケーションが難しいと感じます。運転手さんに伝えたい内容、例えば行きたい場所、有名な観光地、名所やお勧めがあれば、紙に書いてコミュニケーションを取って下さい、といったことを運転手さんが(工夫して)教えてくださればうれしいです。

【安藤氏】

 聴導犬と一緒に講演で福岡、京都に行くことが多く、タクシーを使うことがあります。駅前のタクシー乗り場で、「うちのタクシーはバリアフリーの車ではないから、他を当たってくれ」と言われたことがあります。普通のタクシーでも乗れる旨伝えましたが、運転手さんは盲導犬と思われたようで、一方的に話してきました。私が「聞こえない」と言うと「何で話しているの」と言われました。聴導犬をタクシーの中に乗せて待機させていたら、運転手さんは聞こえていると思って話してくる。話している内容を「UDトーク」のアプリを使って理解して、答えるようにしましたが、運転手さんに「本当は中国人でしょう。日本語うまいね」と言われました。話すイコール聞こえると思われがちです。
 聴導犬、聴覚障害のことをよく分かっていない人もたくさんいると思います。こういった点は聴覚障害者の困るところだと思います。

【六條氏】

 では、バスの利用時にご不便な点はありますか。

【渡部氏】

 バスはあまり乗りません。行きたい所について運転手さんに聞くことはできますが、運転中には難しいため、伝えてもらうタイミングが難しいです。長距離バスや観光バスは移動途中で休憩時間があると思いますが、聞こえにくくなった頃は、自分が難聴だと伝えることができなくて、置いていかれないように休憩時間もバスの中に居ました。今は休憩時間を書いてもらったりしています。怖いと思うのは、バスで急に「手すりをつかんでください」という放送や点灯表示の際です。表示を見ますが気付くのが遅かったりします。

【志方氏】

 バス、タクシーは共通点があると思います。運転手さんは1人で忙しいため、なかなか丁寧に分からないことを聞きにくい。コミュニケーションが取りにくいというのがあります。1人ではなくサポートする方が事業者の方で(車内に)いらっしゃれば、その方に聞くとか、ゆっくりコミュニケーション取れると思いますが、残念ながらバスもタクシーも、電車のような2人体制と違い、1人だと聞きにくい所がとても不便に感じます。前もってコミュニケーションボードみたいな形で、料金がいくらなのか、行き方、よく聞かれる例を絵などで示す「コミュニケーション支援ボード」を作っていただくような工夫があるとすごくうれしいです。運転手さん1人の際に、あれこれ尋ねるのは申し訳ないと思うので、コミュニケーションが出来る環境を作ってほしいです。この課題を考えていく必要があると思いますし、配慮をお願いしたいと思います。

【安藤氏】

 バスは運転手が1人で頑張って運転しているから声をかけづらく、行き先の確認も遠慮してしまいます。聞こえない人の対応に慣れていない人も多く居り、こちらも気を遣います。目と目を合わせ、口が見えるようにしたいが、聴導犬を連れているので犬が踏まれないか気になり、なかなか出来ず、聴導犬を連れてバスに乗るのは怖い。車外から見て、車内のスペースや犬が座れる場所があるかどうかも分からないのでバスの利用には勇気が必要です。聴導犬自体が乗れるかどうかという心配もあります。また、聴導犬が乗ると周りに犬アレルギーの人、犬が苦手な人もいるかもしれないという面で気を遣うのであまり乗りたくないのが本音です。

◎視聴者から(Slidoを通して)パネリストへ質問

【鈴木氏】

 航空業界から2点質問です。
 「飛行機を利用される際、機内での困りごとを教えていただけますでしょうか。」、「飛行機を利用された際、よかった経験がありましたら、教えていただきたいです。」についてお答えください。

【渡部氏】

 普段、補聴器をしていますが、飛行機の中は音が大きく響きすぎて聞こえないため補聴器を切っています。搭乗時にチケットを見せて、聞こえないのでお願いしますと伝えています。スタッフの接遇、特に飲み物カートが回る際は、いつ話しかけられるかと、スタッフの動きを目で追ってしまって疲れます。声をかける時は手を視界に入れてくれると嬉しいです。海外に行った際は英語が苦手なため飲み物を指差して伝えましたが、他の場面でも声なしのコミュニケーションができたので、どこでも同じようにできると良いです。あと緊急時の対応として、酸素吸入器等の説明がありますが、最近は映像に手話や字幕が付くようになったので、どこでも対応頂けたらいいと思います。

【志方氏】

 渡部さんと重複しますが、飲み物がワゴンで運ばれる時に、声で話しかけられても何を言っているか分かりません。目で見て分かる工夫、イラストのような視覚的情報を頂ければ助かります。
 嬉しかったサービスとしては、聞こえないことを前もってお知らせした際に、すごく丁寧に伝達情報を書いていただいたことです。他の事業者の皆さまの方でも出来るようにしていただければと思います。コミュニケーションの工夫に関しても、(工夫された状態が)当たり前になってほしい。(障害あるなしに関わらず、)皆、同一の対応を共通して実施していただければと思います。

【安藤氏】

 私は昔からANA、JALを利用します。他の航空会社に乗ろうとしたこともありますが、受付の人が対応に慣れておらず困っていました。マニュアルを見ながら一生懸命頑張ってくれていますが、私も気を遣ってしまいます。ANAとJALはスタッフがベテランで、他のお客様に迷惑をかけないよう、お客様一人一人が困らないように、私の席の周りに誰も座らないようにするとかさまざまな対応を行ってくれています。利用して嬉しかったことは、飛行機の中で「向こうに着いたら寒い」とか、「雨が降っているので、気を付けてお帰りください」とか温かい言葉を頂くことです。気持ちが良く乗れる状態が1番です。

【鈴木氏】

 聞こえないという不安を持って移動されているという日常を知ることが出来たと思います。また、さまざまな聞こえ方があるということを知っておくことで相互のコミュニケーションにとても役に立ちます。当事者と事業者が一緒に考えることが大切だと気付かされました。

【石塚氏】

 タクシー、バス、航空機とそれぞれの方から質問頂けて非常に良かったと思います。一方で、聞こえにくい・聞こえない人が何に困っていらっしゃるのかということを、私たちが知らなかったという表れでもあるかと思いました。
 嬉しかった対応として、映像を使う、絵を用いる。例えば、航空機での飲み物サービスはコロナ禍で指さし用のボードで示されるようになりましたが、この対策が聞こえにくい・聞こえない人にも、健常者にも役立つという全体的なサービスの向上に繋がり、多くの方が交通機関を利用する良いきっかけにもなるのではと感じた一方で、聴導犬利用者の安藤さんのお話では、バスに乗りにくい点や緊急時の情報伝達など、なかなか一筋縄では解決出来ない課題も確認出来ました。
 当事者と事業者、周辺の乗客となる市民も一緒になって、 知恵を出して、考えていくことが大事だと思いました。先ほど紹介したAFNは、困り事から考えていくことが必要だという事から出来た概念です。たくさんの困り事が確認出来ました。色々な立場の人の知恵を出し合って考えていける良い機会になったと思います。

【六條氏】

 御三方のお話を伺って強く感じたのは、公共交通でコミュニケーションが取れないことに不安があるということ。交通事業者もなるべく支援ボードやUDトーク等を活用頂ければと思います。当事者も一緒になって、市民の方にどう伝えていくかがすごく大事と思いました。

【鈴木氏】

 登壇いただいた皆様ありがとうございました。

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