バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第10回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

精神障害当事者に聞く日常生活と移動〜優しい公共交通機関を目指して〜

開催日
2019年9月2日(月曜日) 15:00〜17:40
開催場所
大阪科学技術センター 4階 401号室
参加者数
106名
講師
自立生活センターリングリング ピアカウンセラー 船橋裕晶氏
社会福祉法人ぷろぼのテクノパークぷろぼの 高の原事業所 吉川ひとみ氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授 三星昭宏氏
コメンテーター
大阪大学大学院 人間科学研究科未来共創センター 特任講師 石塚裕子氏

講演概要

船橋裕晶氏「精神障害者にとってのバリアフリーとは?」

(以下、講演概要)

講師:船橋氏
■公共交通機関(観光)の利用者の多様化

 精神障害はとても多い障害です。鬱、双極性障害、統合失調症を三大精神病と言います。

 鬱は、気分が凄く落ちてしまいます。ただ落ち込むだけじゃなく、嫌なイメージばかり浮かび、自分自身を責めてしまったりします。結果的に生きているのがしんどいと思い、自殺に至る人もいます。自殺までいかないにしても、体が全く動けなくなり、顔を洗う、トイレやお風呂に行くのさえもしんどくなってきます。こういう状態が長く続き、そして、良くなって来たり、また悪くなったりすることもある。季節によっても変化があります。低気圧や台風が来てもそうです。
 双極性障害は、鬱時と躁状態があります。人によって異なるが、躁状態では身体が何だか動けてしまう。のめり込んでしまい、色んなことができてしまう。寝ないでも色々なことができる。幸せ感でいっぱいになってしまうという人がいます。或いは、鬱状態を持ったまま、すごく動いてしまう方もいる。躁状態が上がれば自分ではなかなか止められません。
 統合失調症のよく言われる症状は、妄想、幻聴、幻視があります。幻聴は何か声が聞こえてくる。僕が皆さんを見ていると、皆さん何かしゃべっているような気がして来る。色んな声が聞こえ、悪い事ばかり聞こえて来ます。

 妄想では、テレビから誰かが出て来るような気がしてしまったり、電波によって操られていると感じてしまったりすることもあります。自分の中に起きている事と、実際の事との区別ができなくなってしまうような状況になってしまうこともあります。苦しく怖くなってしまった状態になり、酷くなると入院してしまいます。
 その他にもたくさんの障害の種類があります。強迫性障害、解離性障害、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)も挙げられます。一個一個の障害について理解するというよりは、このように色んな障害の人がいるということを覚えておいて欲しいです。精神障害は誰もがなりえる障害です。僕も元は健常者です。精神障害者は日本に約320万人位いるとされています。統合失調症、パニック障害は100人に1人は罹る病気だとも言われています。新幹線の車両に1人か2人位はいる割合です。


■精神障害の特徴

 見た目に分かりにくい事が第一に挙げられます。だから、誤解を受けやすいです。例えば、凄く不安になって来ると、話が止まらなくなって来ます。相手の返答を待たずに話し続けるので、相手は驚いてしまいます。また、急にイライラしてしまい、上手くコミュニケーションとれなくなって来ます。それから、暗そうに見えてしまい、それで、いじめの対象になりやすくなります。
 発症時は、階段を上がって行くのも凄くしんどいです。知らない人から見ると「若いのに何でそんなにしんどそうな顔しているのだろう?」と言われることもあります。パニックになって暴れてしまうと、「あいつはヤバい奴だ」と言われることもあります。
 薬をたくさん飲んでいらっしゃる方もいます。薬の影響で、ふらつき、だるさ、眠気が出て、体がうまく動かなくなって来ます。動作がスローモーになったり、ろれつが回らなくなって来る感じがします。そういう時に駅員さんに何かを聞こうしても、上手く喋れないとか、逆に、不安だからたくさん喋ってしまい、駅員さんを逆に不安にさせてしまっているかも知れません。
 見た目に分かりにくい障害ゆえに障害者として理解、認識されにくい。僕を見てなかなか障害者だということは分かりにくいと思います。分かりにくいので、本人も助けを求めにくいということがあります。見た目に分からないから、本人の努力が足りないとか、もっと頑張れと言われやすいということがあります。


■望ましい対応とは

 車いすに乗った人のサポートは、例えば段差があればスロープを付けるというように、考えつきやすいです。では、精神障害の人のサポートをどうしたら良いだろうということが、本当に分からないと思います。
 僕がかつて受けて良かった接遇があります。新幹線の中でパニック発作になった時のことです。離人感と言って、幽体離脱のような状態になり、新神戸駅到着後に地下鉄に乗れなくなったのです。改札を入った後、動けなくなってしまったのです。駅員さんに説明して、何とか駅を出たいと思いましたが、出してくれるか凄く不安になってしまいました。
 その時に駅員さんがしてくれたことは、「大丈夫ですか?」と単純に聞いてくれただけでした。その一言の気遣いので、まず私は安心できました。それから、しっかり話を聞いてくれたことで、自分が尊重されていると、凄く感じることができました。人の話をしっかり聞いて貰えるということは、精神障害者にとってとても重要なことだと思います。
 忙しい時もあると思いますが、私達から話しかけた時に、そっけなかったり、無視をされたりすると、余計に不安になってしまいます。出来るだけ、こちらに体を向けて、うなずいて、ちゃんと話を聞いて欲しいと思います。
 その他に人からして貰いたいことに、話したことをメモにして貰うことがあります。凄く助かります。例えば、電車の時間を聞いた時に、それをメモにして貰って渡されるとホッとします。道順を示したマップで「ここです!」と、具体的な説明をして貰うと更に安心できます。


■安心できるツール、施設とは

 ヘルプマークが最近出回って来ました。自分は見た目に障害者と分からないので、凄くしんどい時にヘルプマークが世間に認知されていると安心です。ベンチや休憩室がたくさんあると、しんどくてもちょっとずつ休みながら進んでいけるので安心します。調子の悪い時に、文字が読めない人がいます。だから、イラストやマークが付いていると安心するという声もあります。文字が大きいと更に安心します。ホームドアは、身体障害の方や視覚障害の方から必要性の声が上がることが多いと思いますが、私達にとっても安心します。精神障害者の中には「飛び降りろ!」と言われているような強迫観念がある方もいて、発作的に飛び込みそうになったりすることもあります。ホームは崖と一緒です。危ないです。従って、ホームドアがあると私達は助かります。駅にコンシェルジュのようなスタッフがいて、声を気軽に掛けてくれると、自分達からも聞きやすいという意見もあります。


■移動のしやすい世の中に向けて

 障害者割引という制度があります。私は、移動介助を使っている時があります。元気な時は一人分だけで公共交通機関を利用できますが、移動介助利用時は二人分の運賃を払う必要があります。これは障害を持ったゆえの出費です。差別解消法で言われる合理的配慮というものが、なされていない状況だと私は思います。
 精神障害者は、一人一人症状が違います。例えば、切符を買うのに手伝って欲しいという人もいれば、教えてもらえれば手伝いはいらない人もいます。個室で休みたい人もいれば、個室は嫌だから皆がいる所が安心と言う人もいます。一人一人どういうサポートが欲しいのかは異なりますので、公共交通に従事する方々には、是非きちんと私達の話を聞いて欲しいなと思います。


吉川ひとみ氏「移動の自由により人生が広がる 〜症状の不安定さを支える〜」

(以下、講演概要)

講師:吉川氏
■はじめに

 私の障害は双極性障害です。昔は躁鬱病と言われていました。テンションが高い時期と、低い鬱の時期があるという病気です。約10年前の26歳頃に発症しました。色んな仕事を経て、今は自身の経験を活かして働きたいと思っている障害者を応援する、やりがいがある仕事に就いています。


■精神障害の症状

 双極性障害U型は、鬱と躁の状態が入り乱れる感じでやって来ます。体と心の状態が一致している時もあれば、ちぐはぐになっている時もあります。外見から分かりにくい病気だと言われています。脳の中でミステイクが起こっています。例えば、脳から信号が送られても、意識がはっきりしない、情報処理などの知的な機能が働かなかったりします。例えば、駅員さんが言うことを覚えにくかったりします。また、五感が正常に動かなかったり、思考のプロセスに歪みが生じたり、感情・気分が不安定だったり、事実に対して不適切な感情や気分になってしまったりします。そういうことが脳の中で起こり、精神障害者の言動が変と周りから思われます。
 具体的な症状です。軽躁状態はテンションが高くて活動的な状態です。本人は気分が良いのです。多弁になって相手を振り回してしまう、注意散漫になって事故や失敗をしてしまう、イライラして対人トラブルになってしまうなどの特徴があります。抑制が効かない無分別な状態ですから、社会的な信用を失いやすいです。性格とかモラルの問題と誤解されてしまう傾向がありますが、実は病気がそうさせているということを分かって欲しいと思います。
 鬱状態では、思考力や理解力が低下してしまいます。乗換でまごつき、駅員の話を聞いても理解できずに焦り、申し訳ない気持ちになります。また、急にパニック状態になり、涙が止まらず呼吸が上手くできなくなることもあります。一声掛ければ駅員さんも助けてくれるのだろうが、その一声が掛けられません。そして、疲れやすい特徴があったり、薬を飲んでいる方にありがちですが、喉が渇きやすい特徴もあります。


■精神障害者にある特徴

 予期不安というものがあります。目的地に着いて駅構内が複雑だったらどうしよう、出口が分からなかったらどうしようと不安になります。駅構内の情報が不十分な時は余計不安になります。また、上にある路線図の運賃表示と、下にある券売機を、見比べ続けてしまうこともあります。
 休憩スペースについて。その質、隣席との距離、そして、設置の向きも気になります。席がホームに向いていて、ホームに吸い込まれそうになるイメージを持ってしまいます。照明の明るさも精神障害を不安にするとも言われています。光の向き、照度も考えてデザインをして欲しいと思います。
 感覚過敏です。電車のアナウンス、メロディ、乗って来た人の臭いで気分が悪くなってしまうことがあります。私の場合、電車の音が凄くうるさく感じて、いつも耳栓を付けています。このように自分を守らないといけないことがあることも知って頂けたらと思います。
 弱冷車が1両しかないこと。冷房が強く感じます。精神障害の薬を飲んでいると、免疫力が低下して寒さに弱くなり、風邪をひきやすくなります。結構着込んだりします。
 心理的なバリアを感じることもあります。精神障害を理解していないと、怖い、面倒臭い、扱いにくいと思われてしまいます。すると、それが相手方の態度に出てしまい、私達は凄くダメージを受けてしまいます。
 乗客とのトラブルもあります。若いのに優先座席に座ってけしからんと、怒られることも精神障害者にはあります。そういう怖い目に遭うことも心理的なバリアです。


■バリアを解決するために公共交通機関に望むこと

 精神障害者は、怖い、面倒臭いという思いを改めるためには、尊厳を持った一人のお客様だという認識を、もう一度持つことが大事だと思います。このような研修を定期的に受けることも大事です。正しい知識を得て活かし、それを現場に持ち込み、更にブラッシュアップする。現場で問題が起こった時には、専門家を呼んでケースを検討する。そして、同じようなトラブルは起こさないようにする。こういったことが必要だと思います。同時に、当事者と触れ合う機会も設けて欲しいと思います。
 精神障害者を急かさないで欲しいです。私達は緊張しています。考えがまとまりません。言葉が出て来ません。同じ話をくり返してしまいます。思っていることと違うことを言ってしまうこともあります。
 これを改善するには、現場の方にはまずリラックスした雰囲気を作って欲しい。忍耐強く聞いて欲しいです。思い込みで話を進めないで、具体的に「はい」「いいえ」で答えられる質問の方が、思考が滞っている相手に対しては、有効なことがあります。
 なぜ精神障害者は駅員の説明を聞いても理解できないのか。駅員さんは業務的で早口で言うことが多いと私は感じました。呪文みたいに聞こえることがあります。従って、一文を短く、難しい言葉は使わないでして欲しいと思います。
 他の乗客とのトラブルを、私は経験しています。鬱の時は行動が鈍く、他の乗客がイライラして怒って来ることがあります。そういう時は、他の乗客の些細な言動が気になって、心が落ち着かなくて、しんどくなってしまうことがあります。乗客同士のトラブルに駅員が遭遇した際は、きちんと関係を調節し、周りの人に説明をし、障害のある人にも理解できるように説明して欲しいと思います。精神障害を持っている人に対しては、落ち着くまで待つ。そういう根気強さも必要だと思います。
 パニックに遭遇した際の対応です。パニックは30分前後で終わるので、駅員としては、冷静になって楽な姿勢で息を吐くように相手に伝えて下さい。その後、静かな場所に誘導します。更に、保護者や支援機関へ連絡して下さい。このような手順を覚えて下さったら対応できると思います。


■ヘルプマークについて

 ヘルプマークを付けていることで、自分が弱者であることをさらし、ひょっとして攻撃の対象になるのではないかという不安があります。また、裏面に記載された個人情報が悪用されるのではないかという心配もあります。
 ヘルプマーク保持者らしさについてです。ヘルプマーク保持者は障害者らしく、しんどそうに座っていて欲しいという感情が、世間にはあるのではと想像してしまいます。これは今後どういうふうになっていくのだろうと思います。席を譲るなどの思いやりのある行動を、皆が求めているとは限らないですが、ヘルプマークを付けている方を見かけた時には、自分が主体的に助けた方がいい、そういうふうに思って頂けるようになることが大事だと思います。


■最後にお伝えしたいこと

 見守りについてです。障害者だけではなく、どのお客様に対しても、気づきや変化を感じて欲しいです。その変化の様子を観察することによって、最適な関わりを導くことができると思います。その観察と関わりは、次の心掛けから生まれます。研修を受けていること、必要な配慮を理解していること、尊厳を守ったコミュニケーション力があることです。
 そして、関わりの最後には「ありがとうございます」という言葉を付けて下さい。精神障害者も頑張って自分のことを説明したり、相談したりしています。それを労う感じで「ありがとうございます」、一緒に問題を解決して「ありがとうございます」と言われると、精神障害者も凄くエンパワーメントされた気持ちになります。こういったコミュニケーションを心掛けて頂けたらと思います。


石塚裕子氏「まちづくりの担い手としての当事者〜聴き書きの協働実践を通じ〜」

(以下、講演概要)

講師:石塚氏
■はじめに

 西日本豪雨の被災地で復興の街作りのお手伝いをしています。一緒に協働している相手が精神障害の方々のグループで、本日のテーマに関連があるのではないかということでお話させていただきます。
 現地で息の長い支援活動をできる方を探していたところ、NPO法人岡山マインド「こころ」代表の多田さんに出会うことになりました。「こころ」は、精神障害当事者が主体となって作った作業所で、グループホーム、就労支援などを行っています。
 真備町の被害状況についてです。住まいの空間が殆ど水没し、51人もの方が亡くなられました。その8割から9割は高齢者、特に障害がある高齢者という非常に厳しい現実がありました。例えば足の不自由な高齢者の方が2階に逃げられず、1階で亡くなった方が8割以上を占めていました。20代のお母さんと5、6歳の女の子の親子が亡くなった事例がありました。知的障害があった方々で、平屋に住んでいた為、家の中では逃げることができずに亡くなられました。このような大変な状況は、阪神淡路大震災から25年経っても変わらず、同じ失敗がくり返されているという現実です。
 その原因は、当事者主体で物事が考えられずに街が作られ、支援体制が組まれたりしていることと、私自身は考えています。真備町の復興では、様々な当事者が主体になった街作りをお手伝いしたいと今奮闘しているところです。このような中で、「こころ」と真備町の福祉事業者の連絡会の方々をはじめ、さまざまな人を巻き込んで、人の復興と街の復興に挑戦する取り組みを支援しています。


■真備での取組み

 その幾つかをご紹介します。一つは「まちコン」と言われる被災者が、月に一回集まり、お互いの元気を確認し合い、情報交換をする場を精神障害当事者の方が主体となって作っています。
 二つ目は復興ビジョンの提案です。倉敷市では2019年1月に復興計画案が公表されましたが、その前に高齢者、障害者を中心に601名もの方の声を集めて、市に提出する活動を行いました。ここで掲げた理念は、お互いに復興して行くということと、ダイバーシティを実現することを盛り込んで、障害当事者と支援者から提案しました。
 三つ目は、真備への想い数珠つなぎプロジェクトを去年11月から始めました。これはリレー形式で被災者一人一人の声を聞き取り、ニュースレターにして他の被災者に伝えるという活動です。「こころ」の仲間の一人である矢吹さんという方と一緒に聞き取りをし、今現在20人目まで続いています。
 一緒に活動して気付いたのは、障害がある当事者は、人の話を聞きに行く機会、立場が少ない中で、統合失調症を患ってらっしゃる矢吹さんは、自分自身がご苦労をされているので、人の弱さ、辛さに凄く気付く力をお持ちです。なかなか言葉にできない言葉を聞き取る才能を持っていらっしゃって、障害当事者として、被災当事者として、それから、地域住民として、住民の声を聞きとる大切な役割を果たしています。
 このような活動を通じて、まちづくりの担い手として多様な当事者に関わっていただくことは非常に大切と思っています。今回の取り組みのポイントは、参加者ではなくて主催者として関わることです。交通バリアフリー基本構想会議等に当事者参加ということで、様々な当事者に参加いただきますが、それはあくまでも客体として参加しているのであって、その人達が主体的に何かやっていくというところまでは、まだまだ至っていないと思います。意見を聞かれるばかりではなく、聞く側に立つことで、自分自身が凄く成長していると感じると、矢吹さんはおっしゃっていました。


■当事者が復興支援に関与できる原動力とは

 何故そういうことが真備ではできているのか。「こころ」というグループがあり、そこに我々外部の者が仲間に入れていただき、一緒に行動しています。矢吹さんが今年1月の講演でお話されたことを紹介します。「災害があり不安もあったが、災害後、地域の人達との関係が密になった。挨拶程度だった人が車に乗せてくれたり、話しかけてくれたりする機会があった。復興ビジョンを提案したり、インタビューをして真備の街に帰って来てほしいという声を聞く中で、障害があろうが高齢であろうが、子供であっても、自分達の力で街を復興できると思えるようになって来た。只、今は沢山の仲間が被災のストレスで調子を崩している。でも、それを支えながらこれからも交流会を開催して行く。街作りへの希望が自分を支えてくれている。」というお話をされています。


■インクルーシブな社会を目指して

 このような経験を通じて、まちづくりには様々な可能性、役割があると私は思っています。作業療法の中で意味のある作業という言葉があります。それは、何か疾患を受けた人達が、生活や仕事に戻るために作業療法を受けますが、その作業には意味がなくてはいけない。その意味というのは、その人達が自ら意思表示した作業であること、その人の生活史の中にある作業であること、それを行うことで新たな自分に繋がる作業であること、というのが意味のある作業と言われています。まさしくこの意味のある作業というのは、まちづくり活動の中に沢山あると思います。まちづくりの中に多様な人が参加し、主体となって活動できることは、多様な人の活躍の場をつくる、それがまちづくりではないかと改めて感じています。
 しかし、まちづくりに当事者が主体的に関わろうと思っても、一人で参加できるのかというと、そうではない。参加可能な環境をつくっていく必要があります。つまり、インクルーシブな状況をつくること。インクルーシブとは、大多数の人達が、少数派を入れて上げるみたいな概念で捉えられることもありますが、そうではなく、少数派は少数派の人達で仲間と言えるような小グループをつくり、それぞれの小グループが有機的に連帯していく。これがインクルーシブな状況だろうと思っています。ただ、その仲間のカテゴリーと呼ばれるものは、永遠に固定化したものではなく、場面、場面に応じてそのカテゴリーが変わる。例えばまちづくりで言えば、観光を考えている時はAさんが中心となり、環境を考える時はBグループが中心になってというように、まちづくりには様々な課題やテーマがある中で、それぞれの得意分野で活動できるような、緩やかな連帯の下で、複雑に動いている状態が、多分、様々な当事者がまちづくりに活動できるインクルーシブな社会ではないのだろうか考えています。


【主な質疑応答】


(質問者)

 パニックに陥った方への対応はどのようにすればよいですか。

(回答者・吉川氏)

 パニックと言っても怒りを表出している、涙を流して呼吸困難に陥っているなど、色んな形があると思います。まずは、係員の方が冷静になる事です。係員が焦ると、本人もなかなか落ち着けなく、状態が悪化するとまでは言わないですが、いい状況にはなかなかならないと思います。先ほど講演で申しましたようにパニックは30分位で収まります。本人もパニックの対処法を知っている場合と知らない場合とあります。出来れば腹式呼吸ができるようにしてほしい。胸を折って膝の中に頭を入れる。これで深い呼吸ができるようになります。この体勢を整えてあげて、本人は吸おうとするので「息を吐きましょう」と声かけです。
 そして、落ち着いて来たら別室に移動したいのか、人がいない所に行きたいのか、いる方がいいのか、本人の望むことを確認します。また、どこか連絡してほしい所はありますかと、聞くことも大事かと思います。また、怒りを表出されている方、周りに危害を加えそうな方の場合は、「こちらで落ち着かれますか」と優しく誘導したり、場合によっては警察を呼ぶことになっても仕方がない場面も経験した事があります。

(回答者・船橋氏)

 僕はよく動悸が酷くなったり、不安になって周りが気持ち悪く見えてきたり、居ても立っても居られなくなったりします。過呼吸になる人もいます。
 私は特急が苦手です。どちらかというと、各駅停車がいいです。何故かと言うと、しんどい時すぐ降りられるからです。今日新快速でここまで来ました。三宮の次は芦屋、そして、尼崎、大阪に止まります。早くていいのですが、芦屋までの間が随分長いのです。で、凄く降りたいのです。でも、降りられないのです。調子が悪い時は普通に乗ったりします。

(質問者)

 駅員等とのヒューマンコミュニケーション、或いは、昨今タッチパネルが主流となった券売機等の機器類の操作性等ついて、事業者に望むことはありますか。

(回答者・吉川氏)

 現場の人が疲弊しないために、課長さんだったり、社長さんなどのマネジメントする側が、考えて動いて、風通しのいい職場作りをしていっていただけたらと思います。心に負荷が掛かっているスタッフであったり、乗客でないように、時代ですのでそこを見直していただきたいと思います。
 機器のことですが、それは人によると思います。スマホ世代の人だとタッチパネルはできると思うが、スマホを持っていなくて、それこそ入院で出て来た浦島太郎状態の人だとタッチパネルは分からないと思います。どうしたらいいのかと言うと、駅員さんがいてすぐ聞きやすい環境であるといいと思います。また、切符を買う手順を券売機の横に書いておくことも考えられると思います。今あるものを全部変えてしまわなくても、何か補助的なものを使って皆に分かり易くすることを、できるんじゃないかと思います。

(回答者・船橋氏)

 その機器に関しては、人によって違うのです。僕はタッチパネルをできます。1年間病院で過ごしていたら、色んなことできなくなるし、周りの世界がすごく怖くなります。人も怖くなります。スマホいじっている人を見るだけで、自分がまた通報されるんじゃないかという不安になったりします。
 そういう人が、タッチパネルだけだと混乱するのだと思います。視覚障害の方にとってもタッチパネルは使いにくいと思います。だから、ボタン式券売機を1つは作っておいてほしいということもあります。
 駅名表示について、知的障害の方の講演で、漢字だと分かりませんと聞きました。漢字にフリガナを付けるのが良いかと思いますが、付けるのが困難な場合は、平仮名でよいと僕は思います。

(質問者)

 サインに関して更に要望ありますか。

(回答者・吉川氏)

 ピクトはたまに分からないことがあります。ピクトだけの表示というのも、ちょっと私としては心細い気がします。斬新なピクトを使う時は、もしもの時の為に、下に情報を書いておいてほしいなと思います。
 遅れによる振り替え輸送に関する情報について、掲示板に一覧表で掲示するというのは、分かり易いので、どの会社でも取り入れて欲しいと思います。

(回答者・船橋氏)

 車いすマークやトイレマークは、もうみんな知っていて分かりやすいです。でも、ピクトをネットで探していて、受付のマークだったのですが、意味が分かりませんでした。突然そういうものが出てくると、全く分からないことがあります。新しいものに対しては、仮名表示があると分かりやすいと思います。

(質問者)

 道路の標識について、ご意見はありますか。

(回答者・吉川氏)

 高速道路の表示で、車と歩道の間が分からなくなり、高速道路に入ったことがあります。私自身は、免許を持ってないので、勉強しないと標識関係は分からないです。精神障害者の中では、その親が子供に対して、車の免許を取らない方がいいよと止める人が多く、標識について分からない人は、結構多いと思います。

(回答者・船橋氏)

 私は運転免許を持っています。「凄い」と言われました。健常者時代に取りました。パニックになるので、電車に乗らず、車に乗っている人もいます。車の方が自分の好きな時に止められ、どこででも降りられるので良いという理由で車を運転するのだと思います。

(質問者)

 音情報について。駅では様々なアナウンスが流れます。それ対して何かストレスになっているということはありますか。

(回答者・吉川氏)

 車内では、電車の運行情報などの大事な音声情報と、広告宣伝に関する音声情報があって、それら音声情報がごっちゃになって、情報の取捨選択ができなくなることがあります。ここは広告が流れないゾーンのような区分をホームに作って貰えたら、大事な情報だけ聞けるから有り難いなといつも思っています。

(回答者・船橋氏)

 私自身は、調子によります。自分がちょっとしんどい時には色んな音が気になって来ます。全ての音が怖くなったりしたりします。だから、サイレントゾーンがあったら楽だなと思います。

当日の配布資料及び質疑応答