バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第9回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

災害時(地震等)における移動困難者への配慮を考える

開催日
2019年2月27日(水曜日) 15:00〜17:40
開催場所
ハービスPLZA5階貸会議室 8.9.10号室
参加者数
76名
講師
ひょうご震災記念21世紀研究機構 主任研究員 石塚裕子氏
NPO法人日本生活支援ネットワーク コーディネーター 椎名保友氏
ケアステーションきりん まちなか被災シュミレーション運営 波那本豊氏
コメンテーター
エコモ財団 松原淳
コーディネーター
近畿大学 名誉教授、関西福祉科学大学 客員教授 三星昭宏氏

講演概要

石塚 裕子 氏「公共交通機関等における災害時の共生の技法とは何か」

(以下、講演概要)

■公共交通機関(観光)の利用者の多様化

全世界の国際観光客数は13億2,600万人(2017年度)に達している。全世界人口の約15%が何らかの障害を持つ人と言われており、アクセシビリティの確保は観光の基盤であるといえる。

訪日外国人の数は増え続けていて、2013年以降5年連続で過去最高を更新中となっている。2017年には2869万人が日本を訪れ、2020年には4000万人を目標に据えている。

そうした中で、公共交通機関を使う観光客の多様化が進んでおり、障害者だけではなく、高齢者、妊婦、乳幼児、怪我をした人、荷物を持つ人などを含めると、利用者全体の30%以上が移動に何らかの配慮が必要とされている。


■災害時の“障害”を再考する

災害時の”障害”を再考するにあたって、障害の個人モデルと社会モデルに立ち戻って考える必要がある。

社会モデルを援用したとされる「災害時要援護者」の定義は、必要な情報を迅速かつ的確に把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難するなどの災害時に一連の行動をとるのに支援を要する人をいい、一般的に高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊婦等があげられる。しかし、災害時要援護者は新しい環境への適応能力が不十分であるため、災害による住環境の変化への対応や、避難行動、避難所での困難を来すが、必要なときに必要な支援が適切に受けられれば自立した生活を送ることが可能であるとされる。

社会モデルにおけるディスアビリティとは、「社会の障壁」と「それによって引き起こされる機会の喪失と排除」を指すが、災害時には、社会が必要な時に必要な支援を提供出来ない時に障害が生じる。従って、全ての被災者が災害時に要援護者になる可能性があり、災害時の障害は高齢者や障害者だけでなくすべての被災者の共通課題という「共通性」と、災害サイクルの中で障害を受ける人が変化するという「流動性」をもつことが特徴である。

訪日外国人が増える中、総務省消防庁により、「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」が平成30年3月に作成された。防火対象物の関係者が、外国人来訪者や障害者等に配慮した効果的な自衛消防体制を整備するため、取り組むことが望ましい事項を定めるという趣旨から、火災と地震を想定して作成された。

その中で取り組むことが望ましいとされた主な事項は、情報の視覚化、様々な利用者特性に応じた避難誘導、そして、従業員等への教育訓練の実施とされた。特に教育訓練おいては、日本語での対応が困難な場合を想定し、優しい日本語の活用や個別対応のための訓練が望ましいとされている。


■観光地におけるバリアフリーの取り組み

観光地における具体的な災害時対応の取り組みを紹介する。沖縄では、ホテルで様々な要支援者となり得る様々な人が参加し、避難訓練を実施した。訓練からは、健常者と比較すると、高齢者や障害者は2〜5倍の避難時間を要すること、そして、避難完了までの限界時間を超えたのは、聴覚障害者であったことが判明した。そして、移動介助に必要な特別な器具を使用し、練習を重ねると避難に要する時間は大幅に短縮可能であることも同時に判明した。

京都市の「帰宅困難観光客避難誘導計画」を紹介する。対処方針としては、@正確な情報を伝える、A安全な場所に留まらせる、Bターミナルに集中させない、などがあげられる。清水・祇園地区を例にすると、ピーク時観光客数は48,000人とされ、被災時にはその内の6,000人が自力での帰宅が困難となる恐れがある。この6,000人は、観光客一時滞在施設に収容することとなる。一般的には耐震性の高いホテルなどが想定されているが、運輸・交通業界と比べ、ホテル業界ではまだ認知度が高まっていないのが現状であり、今後の課題となっている。


■災害時の共生の技法を考える

「共通性」への対応として、バリアフリー・ユニバーサルデザインの普及が考えられる。不特定多数を対象とした事前措置と言える。そして、「流動性(多様性)」への対応として、合理的配慮、つまり、個々の場面における個人への配慮が考えられる。尚、この合理的配慮とは、「自己と目的を異にする他者から見ても「理に適った」といえる仕方で他者を尊重する態度」という意味である。障害者差別解消法においても、取り入れられた考え方である。

そして、困難を感じている当事者と、その困難な状況に関わっている人との間で、問題を解決するには、建設的な対話の中で「間に生まれるもの」、つまり、共生の技法がキーとなって来る。

空港のラウンジ、通勤電車内、ショッピングセンター、カフェなどは、様々な人間が一時的に集合する「仲介的」空間では、地縁でも知縁でもない、境界的なコミュニティを形成している。公共交通機関は、この境界的コミュニティと言える。境界的なコミュニティにおける合理的配慮を引き出すには、「多様な人々の存在の認知」と「恊働(対話・参加)」に尽きる。災害時に公共交通機関等における移動困難者への対応も、様々な人が一緒に考えていくことから始まる。

交通バリアフリーを先導してきた関西の地なら、公共交通機関等における災害時の共生の技法のプロトタイプモデルを創っていけるのではないだろうか。


椎名 保友 氏「生きづらさの多様化と都市災害 まちなか被災シミュレーションの実践」

(以下、講演概要)

■自己紹介

自分が知らない街で災害に出会うかも知れない。自分の周りにも色んな状況の人や事情   を抱えた人がいるかも知れない。自分が事情を抱えていたり、被災した時に怪我や情報の少ない状況に陥るかも知れない。被災時にはどのような状況に陥るかも知れない中で、いざという時に、周りの人みんなで助かるためにはどうしたらよいかを考えて、まちなか被災シミュレーションを行っている。

2011年秋から、「生きづらさの顕在化」を掲げて、運営チーム「アロハーズ」を結成した。チームのお約束事は、メンバーはアロハシャツを着ることにしている。


■まちなか被災シミュレーション「梅田地下街編」の紹介

本日は以前実施した梅田地下街編の被災シミュレーションを紹介する。2015年2月に、参加者48名で実施した。参加者はそれぞれ多様な事情を抱えていた。車いすユーザー、盲導犬ユーザー、言語障害、自閉症、精神疾患、高次脳機能障害、ベビーカー利用者、幼児、腰痛者、二日酔い者、妊婦など、抱える事情は様々だった。

毎回、参加者には10人のグループに分かれて、その土地の観光をまず楽しんでもらう。界隈をぶらぶらしたりお店で買い物するチームもいる。その最中に地震発生。そこから<みんな>で生き残ることを最大の目的に据えて、決められて時間内でどんなアクションを起こすか、どこへ逃げるかをメンバー全員で考え、避難行動をする。

この梅田地下街では車いすユーザーなど移動に困難が伴う人たちの課題をみんな想定していた。しかし、自閉症の子供を持つ親子や盲導犬ユーザーが「まちなかで人が右往左往し、混乱と殺到している中でパニックで動けなくなりました。」とギブアップされた。

この瞬間、移動に制約がある人だけではなく、いろんな立場から当事者なんだということを実感する回となった。

「まちなか被災シミュレーション」は移動、情報、適応など様々な障害がある人達にとって、非常時に街はどうなのかを、みんなで気づき、振り返ることを行っている。参加者には障害当事者とよそから来た人、地域住民、市役所のまちづくり課職員などそれぞれの立場から意見を交わし、そのまちの災害想定への再発見の機会となっている。


■なぜ、今まちなか被災シミュレーションなのか

昔は、地域の中での人の繋がりが濃密であった。助け合いや気づき、配慮がご近所、地域内であった。しかし介護保険制度が導入された時期(2000年)以降、地域や人との繋がりが段々と希薄になって来ているのを実感している。ひと昔前には、近所のおじいちゃん、おばあちゃんが困っていれば、声を掛け合っていた状況が、今ではそのおじいちゃんやおばあちゃんを担当するヘルパーやケアマネと言われる専門職が関わっているから大丈夫だろうと地域住民は安心している。福祉制度が社会的に定着した反面、これが地域にとって非常時の声掛け、助け合いに躊躇が入るという困った事態に直面している。

昨年の大阪北部地震でも、通勤通学時に被災した知的障害者がいた。平時には決まったルートでの通勤通学をしている。そういった人達の中には、障害特性としていつもと違う状況に置かれる、現状が把握できない中で長期間車内などに閉じ込められると、判断や適応できずにパニックとなる人もいる。

このような事態に備え、例えば、ある駅のある部屋を、非常時に自分の身をどう処していいか分からない人々を収容するためのスペースとすることを、普段からアナウンスをしておく。そうすると、そのような方々の保護者もまずはその部屋のある駅に連絡を入れて、探している人の消息を確認することが出来ることもある。

また、バスについては、車内ディスプレーの文字情報が少ない印象がある。従って非常時には、現在の状況、今後の見通し、そしえ、見通しが不明であれば、明らかにできない理由などを、文字情報としてディスプレーに流すのも一案だと考える。これにより情報に制約のある人たちにとっても、安心してバスを利用することが出来る。

今後もまちなか被災シミュレーション活動を各地で行って行くので、是非興味関心のある方々は、積極的にご参加頂きたいと思う。


波那本 豊 氏

(以下、報告概要)

当事者目線の話を中心にコメントする。まちなか被災シミュレーションの活動を始めて8年なる。活動のきっかけは東日本大震災だった。地震後2ヵ月頃に現地に行ったのですが、公共交通機関が止まっており交通手段がレンタカーしかなく、被災の恐ろしさを痛感させられた。ヘルパーと共に被災地(福島県南相馬市を中心に)を見て回った。その後大阪に帰ってから、何が出来るかを考えていた時、丁度まちなか被災シミュレーションの活動に誘われた。まちなか被災シミュレーションに参加者された方たちに、被災の現場は想像以上に恐ろしい状況になっていることや自分が実感したことなどを伝えることができることだと想い伝えている。

まちなか被災シミュレーションは「移動、情報、適用の困難」という3つのテーマがあり、そのテーマを参加された人々へ伝えることが、もう一つ自分ができる役割だと想い活動をしている。

公共交通機関のバリアフリー化が進み身体だけじゃなく知的や精神の障がいがある人たちが出れる世の中になった。災害が起きたとき、障がいがある人たちがどんなことが不安を感じるかその時どんなことをしてもらいたいかを報告させて頂きます。

視覚障がい者の場合、電車やバスが途中で止まってしまった時は復旧見込みやなぜ止まったかを案内放送して欲しい。安全な場所へ誘導して欲しいということ。トイレの場所を伝えて欲しいこと。その際、トイレの前までの誘導で終わらず、中に共に入って便器やトイレットペーパー、洗浄ボタンの場所まで教えて欲しい。また、車内の中では、振替輸送の案内についても、放送だけでは分からないので、出来れば振替先のホームまで誘導をお願いしたい。駅員がいない無人駅が増えている現状がある中で、出来るだけ増やさないで欲しいという意見を聞きました。

聴覚障害者の方からは、手話が出来ない障害者もいるので、筆談で構わないので、コミュニケーションを取って欲しい。

身体障害者の方からは、電車が駅以外で止まってしまった時の乗降介助、誘導について不安がある。また、長時間駅などに留め置かれた場合には、お手洗いの問題が出てくる。また、バスやタクシーに対しては、被災時にどこで降ろされるか分からないという不安がある。

宿泊せざるを得ない場合の支援や、電動車いすへの充電の配慮という細かな不安がたくさんある。

そんな不安材料を一つでも多く、改善できるように公共交通機関の方たちと話し合いながら改善できるように今後も活動をしていきたいと思います。


【主な質疑応答】

(質問者)

バスの車内アナウンスについて、どのような内容のアナウンスをすれば安心と考えるか。

(回答者・椎名氏)

まずは、バスが動く・動かないの方針を伝えて欲しい。そして、動かないのであれば、その理由を伝えて欲しい。そして同様に、復旧時間の目安と、目安が分からない場合にはその理由を聞かせて貰えると安心する。

事業者においては、緊急時にドライバーが乗客を案内するケースバイケースを想定した問答集的な資料を事前に作成するのが良いと思う。

(質問者)

京都市の事例に「観光客一時滞在施設への誘導」とあったが、障害者を含めてどのような施設に誘導することが効果的か。

(回答者・石塚氏)

緊急避難用の広場を指定して、そこで情報提供する計画となっている。避難場所としては、耐震性が確保された大きなホテルなどが設定されている。

分野を跨ぐような対策が必要となる。災害バリアフリー対策はまさに盲点と言える。各事業者が日頃行っている訓練や点検において、災害時にはどうするという視点を加えて、当事者参加の点検、訓練を行って欲しいと考える。

(質問者)

実施されているまちなかシミュレーション活動の成果とは具体的に何だと言えるか。

(回答者・椎名氏)

まちなかシミュレーション活動の参加者については、被災時を想定した知恵や発想を植え付けられていると思う。そして、実施地域に対しては、マニュアル作りとは逆の事、つまり、みんなで分からないことを確認し合っている。地域で気になる箇所やその地域での課題をそのまちの気づきとして問題提起を明確にしていくことを成果として捉えている。

(回答者・波那本氏)

当事者も入って何度も避難訓練をすることが大事であると思っているので、そのことを伝えていることが成果だと思っています。