バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第51回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

地域交流の提供と交流の拡大に対する効果と交流の拡大が健康に及ぼす影響

開催日
2018年6月28日(木曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター バンケットルーム8C
参加者数
27名
講師
富山大学都市デザイン学部 准教授 猪井博登氏

講演概要

猪井博登氏

(以下、講演概要)

講師 猪井さん

近年、健康を維持するために人とのつながりが重要といわれている。イギリスでは、議員提案により孤独対策担当大臣が任命されたとの報道があった。一方、これまでアメリカの大都市では自動車中心になり、人間不在の状況が市民のつながりを少なくさせてきたと考えられている。そこで、自動車を使うことを前提としたまちづくりは人と人との交流を妨げたり、多様性を失わせてしまっているのではないかとの問題意識をもち、公共交通を使うことで交流が促進でき、健康になるのではないかと思い、研究を開始した。

研究背景として、年々、高齢者の近所の人たちとの交流は減少している(平成23年高齢者の経済生活に関する意識調査)。一般的に、交流回数が低下すると、健康リスクが上昇すると言われている。そこで、利用者同士の距離が近く、地域に密着した地域公共交通に交流の種があるのではないか、最終的に健康の維持・増進に寄与するのではないかと仮定した。

研究目的として、地域公共交通の利用が地域交流に影響し、その上で地域交流が健康に影響しているのかを分析した。方法として、コミュニティバスに乗り込んで乗客の車内での交流実態を調査するともに、バス利用者だけでなく、地域住民へのアンケート調査を行った。調査対象は、兵庫県西宮市生瀬地区。この地域は、西宮市の北部に位置し、宝塚市と隣接している。40年以上前に宅地開発された急勾配な住宅地である。最寄駅からの高低差が大きく、高齢者にとっては車以外では外出しにくい環境であり、高齢化率は平均29.8%であるが、住区によっては50%を越える。

この地域には、2015年10月から「ぐるっと生瀬」という名の小型バスが運行されている。1便あたり約5人の利用があり、車内に2人以上乗り合わせる時間は全体の65%で、交流できる環境であると期待できた。本調査における交流の定義として、「会話」(3回以上)と「会釈」(3回未満)とした。その結果、利用者の8割以上が交流をしており、半数程度が車内で会話をしていた。また、交流調査の分析(三元配置分散分析)を行ったところ、会話が活発に行われるかは各利用者によるところが大きいことがわかった。加えて、運転手が積極的に乗客とかかわることで、交流の量が変化することがわかった。しかし、運転手には運輸規則があり、交流の障壁となっているのであれば、緩和することも必要となる。

次に、地域公共交通による地域交流と健康への影響について検証するためにアンケート調査を実施した。質問事項においては、「地域交流」として3つ(家を行きかう交流、家以外の場所で会う交流、電話をかける交流)に分類した。また、健康については、DASC-21(簡便で短時間に「認知機能」と「生活機能」の障害を評価できるアセスメントツール)を活用した。アンケート結果として、「ぐるっと生瀬」はほとんどの人が知っており、4割の人が利用したことがあった。利用目的は、買い物が多く、便利だからという理由であった。なお、少数ではあるが、車内が楽しいからとの意見もあった。また、バスが運行されていることでもたらされる効果として、住みやすさが向上するという意見の他に、地域住民間のふれあいが増えるやコミュニケーションが増えるなどの意見もあった。なお、車内において、会話はしているが、新たなお友達はあまりできていない。しかし、バス利用者と地域交流の関係を分析すると、利用しない人より利用する人の方が、地域交流が活発であるという関係性は見出すことはできた。一方、DASC-21で記憶、見当識、問題解決、家庭内外のIADL、身体的なADLを集計すると、全体では約5%、高齢者(65歳以上)は約10%に認知症の可能性があるが、既存の調査事例の数値と変わりないことがわかった。

質疑応答の様子

地域交流に関するアンケート結果とDASC-21による結果を踏まえ、車内の交流と地域内交流、さらに健康の関係性を説明するための共分散構造分析を行った。その結果、全年齢を対象とすると、有意なモデルが得られなかったが、高齢者を対象としたモデルでは有意な結果が得られた。具体的には、バス車内での交流は、地域交流につながり、地域交流が健康につながる。ただし、バス車内での交流が、健康への直接の影響は確認できなかった。

結論とすると、地域公共交通を利用する人の方が、地域交流が活発な傾向があり、高齢者においては、バス車内での空間を共有することが地域交流を活発化させ、健康状態に良好な効果を及ぼすことが示唆された。課題としては、現段階としてどれが因果なのかわからない。あくまで1時点でのデータに過ぎないということであり、同じ人に継続的な調査を行い、時系列で変化をみることにより因果関係を明らかにすることがあげられる。

当日の配布資料及び質疑応答