バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第7回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

認知症者の外出と公共交通機関における対応

開催日
2018年3月30日(金曜日) 15:00〜17:40
開催場所
中央電気倶楽部 5階511号室
参加者数
77名
講師
京都市岩倉地域包括支援センター長 松本惠生氏
京都バス株式会社運輸部 高野営業所長 桝本克尚氏
神戸市交通局高速鉄道部駅務総括所 名谷管区駅長 阪上和也氏
若年性認知症当事者 曽根勝一道氏
支援者 下薗誠氏
交通エコロジー・モビリティ財団 松原淳
コーディネーター
近畿大学 名誉教授、関西福祉科学大学 客員教授 三星昭宏氏

講演概要

松原 淳 「全国調査からみた認知症者の対応の現状と課題」

(以下、講演概要)

○認知症について

22年度の資料では認知症の方は、全国で440万人、65歳以上の高齢者の15%になると言われています。最新のデータで行けばもっと進んでいるという状況にあります。そして、医学的にはMCIという軽度の認知症の方は、380万人でもっと多くいます。この方々は認知症の症状が出ているかも知れないという方です。認知症になることは、年齢と共に必然的なものです。若年性の認知症もあるということもご認識いただければと思っています。

医学的には色々な認知症のタイプがあり、そして、色々な症状がある。とにかく個人差が大きい。1日24時間認知症かと言うと、また違う。日によったり、時間によったり、場所によったり、色々出てくる。症状が出ないということもあります。

認知症は、ある時急に始まるのではなくMCIの時期がある。気が付かない場合が非常に多い。私の友人の脳外科医に話を聞くと、「40代を過ぎたら誰だってもうアルツハイマーだよ。」と言われました。それが症状として発症するかどうかは、また違う話だということでした。また発症しても有意義な社会生活を送れるかどうかは、社会や家族など周りの環境が非常に左右します。ということは、私達周りがどう支援をするかが非常に重要なことになると思います。

○アンケート結果について

8割以上の事業者で、何らかの認知症者と思われる方に遭遇しているということでした。どういう状況かと言うと、やり取りがおかしい、まごついている、バスの事例では終点になっても降りないで座ったまま、タクシーの事例では行き先を告げられない、お金を持たないで乗るという事例でした。

その時に認知症者へどういう対応をしたのかというと、家族の連絡先が把握できた場合は家族に連絡し、分からない時は警察に連絡するケースが非常に多かったです。また、対応の問題点として、認知症かどうか判断が難しいとの回答がありました。コミュニケーションの取り方が分からないという意見もありました。

従業員に対するマニュアル作成している事例は殆どありませんでした。今後作る予定もないという会社が大半でした。マニュアルがあるという会社は11で、その内、自社で作ったのは3例、更に2例は紙切れ1枚で終わっているという状況でした。

認知症と思われる方を保護した場合の連絡先は、警察が大半を占めています。認知症の方の支援窓口は地域包括支援センターですが、そこが連絡先というのは極僅かです。 認知症の方の基礎知識を学ぶ機会はありますかに対する回答は12例ありました。講師は自社の社員・職員を呼んでいるということでした。また、全国でやっている講座に、認知症サポーター養成講座があります。オレンジリングが貰えます。そういう講座を受ける機会ありますかと聞くと、設けていないが殆どです。

認知症の方が公共交通機関を利用する際の事業者からの意見です。やはり付き添いの方と一緒に行動してほしいという意見は当然ありました。前向きな話として、マニュアルを作って具体的に取り組みを推進していきたいという意見がありました。

今事業者は、認知症の方に気づいて対応に困っているのが現状です。何も対処していないので、警察に頼っている現状だと思います。是非地域包括支援センター等との連携を促進しないといけないというのが、私の提案です。

○イギリスの事例の紹介

イギリスのヨークという所に調査に行きました。駅での事例です。パニックになった認知症者の方を発見すると、駅に教会のような落ち着いたスペースがあり、そこに連れて行って、紅茶を一杯飲ませて落ち着かせる。すると本人は「あ、大丈夫よ」と言って解決するケースが殆です。事情を聞くと「その方はこの駅までは平常に来ていた。で、パニックになった。だから落ち着かせれば、また元に戻るのだ」ということでした。要は警察沙汰にはなっていないということです。

ブラッドフォードのバスターミナルの事例です。係員がたくさん見守っています。訪問した時、たまたまあるおじさんが犬を連れてバスターミナルをグルグルと小1時間回っている。それで「あのおじさんどうしたの」と聞くと、「あの人は認知症の方よ」とのことでした。毎日来るそうです。要は分かっていて無言で見守っている。また、認知症の方だけではなくて、高齢者、障害者も含めた全ての方が使うコミュニケーションカードを作っていました。こういうものをお年寄りが持って乗車していました。

イギリスの現状ですが、認知症の方に特別な対応をするのではなく、高齢者、障害者の対応の一環として行っている。積極的な外出がとにかく大事と言っていました。それが日本との大きな違いです。セーフスペースという一時的に保護して落ち着かせる場所が非常に有効だということでした。

○認知症おでかけサポートカード

交通機関に乗る時に使って下さいということで、私共で認知症のおでかけサポートカードを作りました。切り取って、パスケースに入れる、或いは、首から提げてご活用できるように作りました。また、今後交通機関の方を対象にマニュアルを作って、教育をしていきたいと思っています。こういう活動をやっていることは、結局将来の自分のためにやっているのだという認識で取り組んでいるのが実態です。有難うございました。


松本 惠生 氏「交通事業者、警察などと協力した外出支援の取り組み」

(以下、講演概要)

○京都市岩倉地域包括支援センターの活動

左京区では以前から認知症の方が行方不明になった時に、皆で見つけられるように、地域の方と一緒に声かけの訓練等をやっていました。しかし、交通機関に乗られることもあり、地域だけでやっていても完結しないということで、京都バス、京都市交通局等と一緒に訓練をするようになりました。

訓練の特徴です。一部車両やバスを貸し切り、その状況下で行方不明の方が出たという想定で駅員、バス運転手等と一緒にお声かけをして、遠くに行かれることを防ぐというロールプレイを、シナリオを書いてやっています。2016年からは、「認知症になっても外出を続けられる」をテーマに、「私は認知症です。あなたの支援を必要としています」などと書かれたヘルプカードを使って実施しています。

○認知症者の事例@

事例をご紹介します。滋賀県出身の70代男性の方です。私達が知る前から警察はご存じだったらしいです。線路すぐ横がお住まいのアパートです。アパートの横の地面を耕して野菜を作っておられました。そして、そこからあちこちに石を投げ続けられ、鉄道会社の方もネット張り、警笛鳴らすなどしていました。畑では鍬で掘ります。そして、邪魔な小石が出てきます。畑にはそぐわないからポイって投げたら、たまたま後ろに線路があったという事情のようです。

この方には、介護保険サービスでデイサービスに行っていただきました。畑仕事が好きなので、畑仕事ができるデイサービスに行って貰いました。今は喜んで行って、収穫などしてらっしゃいます。デイサービスに行かれて以降、線路の中に入る、或いは、石を投げるということはもう殆どなくなりました。

これは認知症サポーター講座を小学校でやる時に使うスライドで、私達こんなふうに伝えています。頭の中の海馬、つまりイソギンチャクのような形をした記憶の壺に例えています。イソギンチャクの手のようなものが伸びています。若い時は壺がしっかりしています。大事な情報は常に壷の中にメモリーとして入れられています。そして、いらない情報は省くということを頭の中でできている。

正常な老化の場合、情報を留めるという力が少し落ちてしまう。更に手が短くなっています。

認知症の方の場合、この情報をつかむ手自体がもう伸びていないです。よって、つかめない。だから新しいことが壺の中に入らない。「聞いていない」ということになります。でも昔から入っている壺の底のモノは残っている。つまり、昔のことはよく覚えています。認知症が進行すると、壺が上から崩れています。つまり、記憶力が落ちていきます。上にある、新しい記憶から落ちていく。認知症の方がこれから会社に行かないといけないと言い、背広を着て、電車に乗って行こうとするのは、記憶が残っている時代に戻っているということが言えるかも知れないです。

先ほどの畑仕事の好きなおじいさんも、若い頃に何をやっていたのかを聞かないと、行動が読めない。その方が今どの時代を生きているのかを理解することが、僕達には必要なのです。

○認知症者の事例A

この絵は女性の方ばかりです。車イスの方が4人いらっしゃいます。皆さん認知症の共同生活の家で暮らしている方です。日頃のクループホームでの様子です。リビングでこう寛いでいる人、もやしの芽を一生懸命摘んでいる人、新聞を見ている人など、様々です。

テレビ見ていい笑顔で笑っています。トトロを見て笑っている方です。この後にたまたま認知症をテーマとした番組の放映があって、この方はそれを見ながら「こんな風になりとうないな」とおっしゃっていました。

一方で、得意なことは凄く上手です。体に染みついている。薄い玉子焼きを上手に作られます。また、「包丁なんか持たせたら駄目だ」と言う人もいるのですが、包丁を持っても、上手に使われます。

○認知症ワークショップなどの取り組み

今年は交通関係者の方々に集まっていただき、認知症になっても外出を諦めないワークショップをやっています。当事者の方に交通機関へのお願いごと、日頃使っていて困る事などをお話して、どうしていったらいいのかを、みんなでグループワークをさせてもらっています。

これは叡山電車の「乗ったら健康にええ電」という街づくりプロジェクトです。ここにいらっしゃるのは結構高齢の方ばかりです。電車の中で1駅毎に体操が決まっていて、到着する時には体ができ上がっていて、そこから遠い所へウォーキングをする健康列車です。面白いですね。こんなことができたらいいなと思っています。

これは岩倉地域で開催している認知症カフェです。叡山電車は、ビアガーデンみたいなことを、駅を使ってなんかなさるのです。ビアガーデンが出来るのであれば、認知症の方のカフェもいいでしょうとお願いをしています。認知症の方に電車に乗って来ていただいて、この駅で演奏会など楽しく一日を過ごすことができればと思っています。

交通事業者の皆さんにお願いしたいことです。行方不明になってしまう可能性がある方もご利用されますので、その可能性の芽は摘んでいただきたいと思います。

認知症でも初期の方にはどんどん外出して楽しく生活する。そして、出掛けたい所に行くというのが一番良いです。そういう方をサポートしていただける交通事業者であって欲しいと思います。認知症の人を地域から排除せず、優しい交通機関として、これからも是非ご協力をお願い致します。


ノ本 克尚 氏「認知症者などお困りの方への取り組み」

(以下、講演概要)

○現場で直面する状況

認知症もしくは認知症の疑いのある方の単独でのご乗車は、少なからず事例があります。営業所の担当者として、適切な対応と判断を迫られる場面も多く経験させてもらっています。殆どの場合現場で直接運転士が対応します。

一番多いケースは、終点まで乗車し、そこで降りることもお金を支払うこともなく、ぼーっとしておられるか、おろおろしておられる。運転士が見かねて声を掛けると、話が噛み合わない。そして、営業所に「認知症を疑われる方がいる」と報告が入ります。営業所から直ぐに行ける距離ならいいのですが、起終点ですと、事情を聞いた上で警察へ連絡し、保護を要請するケースが大半です。

只、こういった分かり易いケースで保護できる時はいいです。しかし、同じようにバスに乗ってこられても、降りる時に普通にお金をお支払いされて行かれる方の中に、実は保護すべき対象者の方がおられたかも知れないケースをスルーしている懸念があります。

しかし、だからと言って、運転士が少し違和感を持ったお客様に対して「お客さんここどこか分かりますか」とそんなことを聞いた日には、もう心配しているのか、喧嘩を売っているのか分からないということにもなります。その適切な対応が一体どういうものなのかという認識、知識を、我々は持っていません。従って、運転士にも「こういう時はこうすればいいんだよ」という方向性を示せないままに、「臨機応変」という便利な言葉で、現場の対応に任せて、凌いで来たのが実情です。

○松本センター長との出会いから始まった認知症者対応訓練

丁度そんな時、平成26年の春頃に、岩倉地域包括支援の松本センター長からお声掛けいただき、介護事業者、警察、交通事業者等の連携によって、認知高齢者を見守るという活動を教えていただきました。認知症の方の外出を周りでサポートするという考え方は、新鮮に聞こえたのを記憶しています。

交通事業者側で認知症、高齢者に対する知識、認識が深まり、どういった対応をするのがベターなのかを専門家の方に教えてもらえること、そして、地域の方との繋がりがより密接になることは、凄くプラスになると考えました。こういった活動がきっかけで、1人でも危険な目に遭うかも知れない高齢者をお守りすることができれば、値打ちのあることだと思いました。そして、実車を使用して実際の路線を運行しながら認知症、高齢者に対する見守り、声かけ訓練を行う話がトントンと進み、同年秋に訓練を実施したところです。その後、松本センター長に「京都バスはこういった活動に非常に積極的な素晴らしい会社だ」と持ち上げられてしまいました。テレビ、新聞の記者連れて来られたり、交通政策を提言するコンサルに引き合わせてもらったり、社会的な関心の高さを感じました。それからはできるだけ積極的に取り組むように意識しています。

○実態の認知症者への対応事例

私の印象に残っている実際の対処事例です。郊外を走っているバスから「裸足で乗っておられるお客様が終点付近でおられます」と営業所に連絡が入って来ました。「どこで降りたいのですか」と伺っても通じない。私は丁度その時営業所におりましたので、「とにかく終点で降りてもらわずに、何とかうまいこと言いながら、折り返しの運行の便に乗って貰ってくれ」と指示し、直ぐに社用車でそのバスを追いかけました。バスに追いついた後も話は噛み合いませんでした。あまり不安にさせないようにということで、他愛もない世間話をしながら、最寄りの交番へご一緒させていただき、保護要請したということもありました。

本当に行方が分からなくなってしまった方もおられます。介護事業所から「こういう方が行方不明になっています」という顔写真つきの捜索依頼文が届きます。そういったものが届くと、運転士の掲示板に貼り情報を集めます。また、車内外の映像を約1週間分記録しているドライブレーコーダーを搭載していますので、警察から要請があれば、データを開示して行方不明者の足取りを検証するのに協力しています。

○まとめ

我々交通事業者は、お客様を安全・安心・快適に目的地までお送りすることを最大の使命としています。認知症、高齢者の方がお一人で乗降することで危険が生じるということであれば、お客様の安全を守れるということにはなりません。そうならないために我々は色々な知識を身につけて、見守るべき人を見誤らない。そういった適切な対処が行えるよう、準備を常に心がけていきたいと思っています。


阪上 和也 氏「認知症者を含む要支援者への駅係員の対応」

(以下、講演概要)

○対応事例@

私自身の体験としましては、高齢のお客様との対話の中で、お客様を認知症者と思い込み、目的の駅までのご案内をゆっくり丁寧に説明していると、「年寄り扱いをするな。一度言えば分かる」とお叱りを受けたことがありました。直ぐにその方にお詫びし、お見送りをしましたが、結局その方は1時間後に「行き方が分からない」と窓口に戻って来られました。

○対応事例A

改札機での行動や第三者からの依頼により駅係員が気づくケースです。各駅では認知症者の方で、警察には保護要請をせず、ご案内したケースも数多くあります。実際に私自身が体験した事例です。改札内でお客様が数十分じっと立っておられました。外見上高齢のお客様で、暫くするとキョロキョロされていたので、お声かけをしました。その時のお話ぶりで軽度の認知症と思われました。安心していただくために、私自身の口調や手ぶりをゆっくりと、そして、顔の表情をできるだけ柔らかくしながら状況をお伺いしました。また、方向感覚がにぶり易い地下駅だったので、紙と鉛筆を使い、視覚的に目的地まで分かるようにご案内し、そのメモもお渡ししました。その後ホームまでご案内し、車掌側の車両にご乗車いただき、車掌に事情と降車駅を伝えました。このようにお客様が認知症と思われる場合にどのような対応が求められるかは、知識と経験も必要になります。つまりお客様の状況に応じてきめ細かな応対が求められると考えます。

○駅係員の認知症者への気づき

認知症のお客様の特徴として、駅係員は大きく分けて3つのケースで気づきます。

1つ目は自分の居場所が分からなくなった様子で窓口に来られる場合。これは本人の申し出により気づくケースです。2つ目は、お一人で駅構内やホームで暫く滞在しているのを発見する場合。これは駅係員が気づくケースです。3つ目は、他のお客様に案内されて駅窓口に来られる場合。これは第三者が気づき、駅係員が依頼を受けるケースです。これらの3つのケースは様子を伺い判断をします。いずれの場合もお客様ご自身の名前、目的地、ご住所、家族構成、お世話になっている施設などの情報を聞くために、ゆっくりと丁寧にお伺いします。

○駅係員の対応の流れ

対応の流れです。対応の流れ@として、目的地までご案内できる場合を紹介します。ご本人様が目的地を分かるものを持っている場合は、乗降する駅間で駅係員が連携をとり、乗車時間、運行番号、乗車位置を確認し、お客様をホームまで案内します。また状況に応じて乗務員に伝え、降車駅まで見守るように連携を図ります。この時のポイントはお客様から伺った降車駅までの道のりや目的地など、視覚的に分かるようにメモ用紙に大きく記載し、お客様ご本人に手渡すことです。これはご本人様が目的地までにまた忘れてしまった場合にお役に立てていただくようにするためです。特に、地下線内では方向感覚を失い易く、そういった場合の防止になると考えています。

対応の流れAです。ご家族の連絡先などをご本人が持っていらっしゃる場合は、駅係員から連絡します。その際、家族などが直ぐに迎えにいらっしゃる場合はよいのですが、仕事などの都合で長時間お迎えに来られないという場合は、お客様ご自身も不安に感じられることが多く、最寄り駅の警察署に連絡し、保護要請を依頼することもあります。

対応の流れBです。身寄りの方の連絡先も目的地も分からない場合です。駅係員は連絡先が分かるもの、例えば敬老優待乗車証など連絡先の書いたメモを手掛かりに、出来るだけ身寄りの方へ連絡しようとしますが、それでも身寄りが分からない場合、目的地が分からない場合、行き先が読めない場合は、最寄りの警察署に連絡し、保護要請を依頼します。

○保護要請について

保護要請についてご説明します。ご家族や身寄りの方から行方不明の捜索依頼があった場合、まず最寄りの警察署に連絡を入れていただくようにご案内します。その後駅では行方不明者の方の特徴などをお伺いし、全駅を統括している事務所である管区に保護要請の依頼を行い、管区より全駅に対して駅間ネットワークという回線とIP告知放送システムを使用し、情報提供をします。各駅ではそれを基に駅係員に周知します。

駅間ネットワークでの情報連携方法です。左側のパソコンが管区にある端末です。このパソコンを使用し、保護要請内容を電子メールで全駅に送信すると共に、IP告知放送システムで一斉送信します。各駅ではこの右側の端末で一斉放送を受信します。尚、車イス乗降対応や窓口業務などで駅係員が放送内容を聞けなかった場合でも、不在時の放送録音機能がついていますので、駅係員が聞き直すこともできます。

地下鉄沿線の警察署より保護要請依頼を受けることもあります。所轄警察署より管区にFAXが送信されます。管区ではそれを受けて全駅にFAXで展開し、情報共有します。各駅において当該者を発見した場合は、所轄警察署に連絡を入れるという流れになっています。警察署からの要請内容は、人物の特徴、行方不明場所、時間などが記載されています。警察署によって様式は異なりますが、中には写真入りのものもあります。また認知症など、行方不明者の捜索は平成29年10月から直近までの2ヶ月平均で毎月4、5件発生しています。

○まとめ

最後にまとめです。私共の地下鉄沿線でもオフィス街のある駅と、神戸西部の住宅地がある駅ではお客様の人数や年齢、また職業などが大きく違います。高齢者、若者、通勤者など利用主体毎のきめ細かなニーズを把握した上で、その駅毎でお客様のニーズに合った窓口応対をすることが求められると考えています。今回の勉強会を参考に、私共も日頃から駅係員と情報共有しながら、様々な事例を共有し、サービスの向上に努めて参りたいと思っています。これからも安全・安心にご乗車いただけるよう努めて参りますのでどうぞよろしくお願い致します。


曽根勝 一道 氏×下薗 誠 氏「交通機関を利用する際の困りごと」

(以下、講演概要)

【下薗氏】

曽根勝一道さんの以前のお仕事を教えて下さい。

【曽根勝氏】

学校の教師をしていました。校長をしていました。子供と遊ぶ事が大好きで、よく子供と話をしていました。

【下薗氏】

では、趣味を教えて下さい。

【曽根勝氏】

アウトドアが好きです。

【下薗氏】

ハイキング程度の山登りではなく、険しい山を登っていらっしゃった時期があります。家庭を放っておいて山に登っては、奥さんに叱られた。「チョモランマまで登ろうか」というような山登りの友人がいらっしゃるというような方です。さて、アルツハイマーになる前に、おかしいなと自分で思ったようなきっかけは何でした?

【曽根勝氏】

自分は今なぜここにいるのかとかね。あと、それを隠すということが多かったように思います。

【下薗氏】

いつも「鍵がない。」と言っていたり、或いは、車をぶつけて帰ってきたり。ぶつけたことを隠して修理に出すが、請求書を奥さんに見られて全部ばれるというような感じです。

ここに空気入れの写真があります。なぜかたくさん 買ってきて、家に8本あったそうです。奥さんが近所に配ったらえらく喜ばれたと言っていました。

そんな感じで、家では奥さんは「なんで?なんで?な」と思いながら暮らし、曽根勝さん本人も「どうしたんやろ」と思って暮らしていました。夫婦の生活の中でも、ギクシャクし、イライラも募ります。

病院に行き、お医者さんに告知された訳です。「告知」と書いてあるのですが、最初に曽根勝さんと奥さん から出てきた言葉は「宣告」でした。告知はこれから先のことを考えられるために行うもの、宣告はそこで終わりと思わせるもの です。その時は宣告と捉えたそうです。

曽根勝さん、先生からの告知の時のお気持ちはどうだったですか?

【曽根勝氏】

もう僕の人生は終わりかなというような気持ちになっていました。いつも人と遊ぶことが大好きだったのですが、アルツハイマーということが分かって、自分はこれからどうしていったらいいかなということで、困っていました。

【下薗氏】

それから6年の間、人に会うことを避け、外に出ること自体も少し避けるようになりました。

6年という時間が費やされましたが、今このように人の目の前に出るようになりました。色んな所で活動されることになりました。それはなぜかを今から聞いていきます。

まず、友人のことからいきます。認知症になったらどういうふうに接していいか分からなかったり、遠ざかっていくことが結構多いですよね。曽根勝さんの友人の場合どうだったですか?

【曽根勝氏】

アルツハイマーという病気のことは分かっていたのですが、それを友達にも言えず、隠そうとしていた自分だったと思います。

【下薗氏】

それで、曽根勝さんはお友達に「僕はアルツハイマーの認知症になったんや」と伝えたのですね。その後、友人はどうでした?

【曽根勝氏】

「曽根勝、アルツハイマーになったかって、分かったらそれでいいやん」というような感じでした。みんなアルツハイマーということを分かってくれていたから、本当よかったなと思います。

【下薗氏】

曽根勝さん、色んな事を経験して前に出て来たのですが、認知症になって何か良かったことってありますか?

【曽根勝氏】

友達が「曽根勝、どうしたんや」と言ってくれる。そして、友達が順番に来てくれるっていうか、そういうことをしてくれていたのだなということが後で分かりました。

【下薗氏】

私達は、どこにでも行けるということを証明しようとしています。旦那さんが認知症になると、奥様がそのサポートをする訳です。これは西九条にある「こばやし」という立ち飲み屋さんです。こういう立ち飲み屋さんに奥さん方は行けているのかというとなかなか行けない。でも我々は、こういう場所で後輩や同僚や先輩と一緒にこれから頑張っていこうよと、涙流したり、肩組んだり、笑ったりした場所でもあります。こういう所に奥さんも一緒に来て、一緒に楽しもうということをやっています。今はこの「こばやし」が認知症の聖地と言われています。

認知症と分からなければ普通に接するのに、認知症と分かると何故か距離をおいたり、フィルターを通してその人を見たりという行動が起こっている。現実はそうですよね。認知症の曽根勝というふうに今見ていると思います。そういうフィルターは、本来はあってはならないと思っていて、それを皆さん方に理解してもらうために、一生懸命今こういう 活動を行っています。

ニンチ 徘徊撲滅キャンペーンです。3月25日の新聞に出ました。この缶バッジの普及を我々は全国に向けて いろんな仲間と一緒に行っています。

専門職の 方で、認知症の人のこと を「 ニンチが入った」、「 ニンチが掛かって来た」という言葉を使っている現状があります。認知症は認知症であって、ニンチではない。

徘徊も、当てもなくウロウロするということが辞書に書かれていますが、実際は目的を持って出て、その後その目的が分からなくなる。従って、「徘徊」いう言葉も使わないということを、3年位前からやっています。すると3月25日の朝日新聞で「私達は徘徊とはもう呼びません」と宣言するトップの記事が載りました。

「ニンチ」「徘徊」という話を耳にした時のことを曽根 勝さんに 聴くと、バカにされた、蔑まれたと思ったというようなことをおっしゃいました。専門職が ニンチと使ってしまうと、一般の方々も認知症のことを ニンチと言うようになります。そして、蔑むことにイコールで繋がります。

曽根勝さん、電車で通おうとした時に、券売機で切符を買おうとしますよね。行先までの切符を、ボタンを押して買うことは、曽根勝さんにとってどうですか?

【曽根勝氏】

自分はできるなって思いますね。

【下薗氏】

どこに行くのかが少し分かりづらくないですか?

【曽根勝氏】

そうですね。言われても「あ、また忘れたな」というような事が多かったと思います。

【下薗氏】

曽根勝さんも含め、とにかく戸惑ってしまい、不安とパニックが出てきて、どうしていいか分からなくなってしまうっていうことがよくあると聞いています。

「もう俺は外出ができなくなったのだ」「私はもう駄目だ」と悲しい思いをする。そして、帰ろうとすると、帰り道が分からない。見つけた一般の人は、それを徘徊と呼んでしまったりする。心が傷ついているのに徘徊と呼ばれ、更に警察に連れて行かれて家に帰る。皆さんが認知症だったら如何ですか。

駅の改札口でも立ちすくんでしまうことがあります。何度も何度も同行する奥さんを振り返って確認をして通ります。駅によっては、光で案内したり、色分けしていますが、なかなか通る所が分からない。そういう時には、短い間でいいのでちょっとお手伝いをしていただけるヘルプマンがいてくれたらいいなと思います。ただ駅員だけがやるということには、違和感があります。やはり利用している一般の方々も同じようにヘルプマンであってほしい。ヘルプマンを啓発する活動も、鉄道会社だけではなく、行政や様々な方が協力して推し進めて行くことよってできるのじゃないかと思います。

お手洗いの話です。男性同士であればトイレには行けます。しかし、奥さんと二人の場合はどうしましょうか?当然トイレに行きたいから焦ります。トイレはここだと伝えても、トイレのどこだっていう話になる訳です。更に、人が多く出入りしていると、自分がどっちを向いているか分からなくなってしまう。解決するには、トイレヘルプも含めて案内見守りサポーターというものがあればと思います。

この時に私達が思ったのは、例えば構内の柱にヘルプボタンでもあればと思いました。本人が押さなくても奥さんが押せば「トイレに連れて行ってもらえませんでしょうか」と言える訳です。特別視しようとするのではなく、できない所を人が手助けをするという形へ持って行くことが大切だと思います。

タクシーでは、自分で閉める、開けることが分からないから、開ける所に立ってしまい転倒する心配がある。あと荷物をよく忘れてしまうので、注意していただきたいと思います。

困りごと、戸惑うことは人によって違いがあります。決して全てできなくなっている訳ではないのです。出来るだけ多くの人と関わることで、元気、チャレンジ、勇気を授けてくれると思います。ゆっくりと笑顔で接していただくと、例えその出来事を忘れたとしても、安心した嬉しい感情は私達にも残ります。こういう活動をこれから一人ずつできるようになっていければ、温かい地域、街が生まれてくるではなかろうかと思っています。

これは曽根勝さんの好きな言葉です。「認知症、それがどうした。俺は俺だ」

最後に曽根勝さん、皆さんに何か伝えたいことはありますか?

【曽根勝氏】

アルツハイマーという病気になった時は、もう僕は人の前に出るような人間じゃないのだと思っていました。ところが、こうして下薗さんとの出会い、出会いとはすごく大事なのだと感じています。上手に言葉にできない ですが、これからも少しでも人に温かい事ができることになったら嬉しいなと思います。できるだけ頑張って、周りの人にも喜んでもらえるような事を一杯できたらなと思っています。


コーディネーター(三星昭宏氏)コメント

会場から質問をお受けしたいと思います。どんな内容でも、初歩的な事でも結構です。

質問者@

実際をどう駅員に伝えていこうかなと思いながら聞いていました。実際にお話をして、なかなか埒が明かないとなった時、我々はやはり警察にということになる。例えば地域包括支援センターという所と駅は連携をした上で、そちらにご相談するという対応がいいのか。現実的な対応としてアドバイスをいただければと思います。

質問者A

私自身は自閉の障害を持っていて、特に初めての駅、混雑している所ではどっちの方向に行ったらいいのか結構パニックになる。やはりその自閉の障害は、環境、人、物に慣れて行くのに凄く時間がかかる脳の障害です。認知症の方の話などを聞いて、かなり共通している所があると感じた。

質問者B

駅員、運転手だけに任せられない現状もありますので、やはり利用者のサポートが当然必要となって来ます。その場合、どのようなタイミングで声を掛ければいいのかをお教え下さい。

質問者C

認知症の方は、見た目で分かりにくい。先程お声かけすることでお叱りを受けてしまった、或いは、ゆっくり話すと「もっと早く」というふうに言われた、というお話がありました。係の者も人間ですので、お叱りを受けるとやはり躊躇します。そういった所で、どのように現場で理解が深まって行ったのかをお教え下さい。

講師(松本氏)

交通セクターから警察に連絡して頂き、警察側からその家族に連絡が入ると、家族のダメージは大きいかと言うと、それは確かにあると思います。しかし、どうしても警察に繋いで貰わないといけない方もいらっしゃる。ですから、それは必ずしも悪い事ではない。必ず警察に繋げるルートは交通セクターとして、持っておいて下さい。

警察で保護されたらどんな空間で待たされるか…。私の知っている警察署では、窓も無い机とイスだけの取調室みたいな所にずっと座らせられます。その環境は認知症の人にはとても辛い。

私達は日頃相談事業を行っていますが、その内9割が認知症の方の相談です。ですから、交通セクターの皆様も認知症の理解を深める取組をすすめて頂きたい。マニュアルを作るよりも、30分でも結構ですし、皆様も認知症の研修をどこかでやっていただきたい。認知症当事者を呼んで一緒にお話を聞く場を持って下さい。

講師(ノ本氏)

時間的に余裕があるような時は、こちらで十分時間をかけて支援センターに連絡をすることもできる。ただ、運転手1人で、起終点でもう発車しないといけない状況下では、どうすることもできません。そういった場合には、警察の方からも要請があり、とにかく人命優先で警察に連絡してほしいとされています。そこから先の待遇は、警察にも啓発にお付き合いいただいて、もうちょっと優しい対応をしていただけるよう、警察にお願いをしていく形になるのかなと思います。

声かけとか見守りは、やはり公共交通では不特定多数の方が乗っておられますので、全てに目を配るということはなかなか難しい。やはり色んな人が、地域とコミュニケーションをとって行くのが一番だと思います。

講師(阪上氏)

特徴としてニュータウン地区など住宅街があるような場所では、お客様で認知症の方というのは、駅係員の方で面識ができて来ると、対応が出来る。しかし、三宮などの都心部の駅で、初めてお会いする方になって来ると、その時に連絡先が分からない場合は、警察に頼るというのが現状になっています。

講師(松原氏)

今の厚生労働省でも、認知症の方を地域で何とか探しましょうと、SOSネットワークシステムを作ろうとしている。ところが、電車に乗って行方不明になる場合、すぐに遠くに行ってしまう。となると、地域では対応できなくなってしまう。国でも全国規模で対応するようなシステムに、今現状なっていない。その場合には、当然地域包括支援センターでは対応できない場合もあると思います。

講師(下薗氏)

私達の地域の取り組みを少しご紹介します。電車に乗って岡山まで行ったという事例が私達の地域にもありました。私達の地域では、シールを我々で作って、認知症サポーター養成講座を受けた各お宅の玄関1,000戸に、そのシールを貼っていこうという努力をしています。それはなぜかと言うと、シールを貼っている見覚えのある所は、自分の地域だと思う訳です。だから、そこから出て行くと少し戸惑う訳です。シールを見かけると、まだ自分の地域にいるのだ、或いは、この近くに私の家があるのだと分かるようにできる。

気に掛ける人達を沢山作ることで、道に迷っているかもしれない人がただの散歩に変わり、声かけがされて、お家へ連れて行ってもらえる。私達の地域の中では、近くに私たちのような関係者はいるし、住人の方々の認知症理解も深い。そしてそのような地域に自分の家はある。このようなゆるやかで温かい関係性が必要であるということを地域から発信していくことが大切と思い努力しています。

コーディネーター(三星氏)

どういう時にどういう声かけをすればよいのか。事業者及び一般市民の方々に期待する事は何でしょうか。

講師(曽根勝氏)

とにかく話をすること。会ったら「こんにちは」と話す。「何かして欲しいことがあったら言ってね」とか。そんなことぐらいです。

講師(下薗氏)

答えはどう声かけをしたらいいのかではなくて、「どうしはりました?」とか、「なんか困ってはります?」と普通に聞けばいいと思います。誰であろうと同じことなんじゃないかなと思います。決して構える必要はないと思います。

講師(松本氏)

交通事業者が本当にお忙しいということは、よく分かっています。従って、乗客の人の力を是非借りて下さい。アナウンスで「困っている方がいたら是非声をかけて下さい。駅務室にどうぞ言いに来てください」というようなアナウンスがあってもよいと思います。啓発シールを車内に貼ってもよいと思います。

講師(ノ本氏)

認知症の方に関わらず困っている人というのは、何となく見たら分かりますよねっていう話です。係員として現場に出た時に「ひょっとして分からへん事を返されたらどうしよう」とドキドキしながらも、やはり困っている人を助けないでどうするのかという気持ちで、気軽に声を掛けて行きます。声を掛けて、困ってしまった時には、結構周りの人が助けてくれます。

困っている人がいたら、自分が役に立つかも知れない。そういう熱意を持って人と接して行けたらいいといつも思っています。

講師(阪上氏)

声かけのタイミングは、やはり経験がものを言う世界かも知れません。先程マニュアルを作る方がいいのか、よくないのかというお話がありました。しかし、知識として知っておくことがまず何よりも大事と思います。例えば、聴覚障害がある方では筆談が必要だ、或いは、認知症の方であれば、その目的、状態をどう探って行けばいいのかを、駅の係員の中で知っておく必要がある。そういう意味でマニュアルの作成、知識を増やしていく事が必要なのかなと思っています。