バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第49回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

福祉のまちづくりにおけるインクルーシブリサーチの可能性

開催日
2018年3月9日(金曜日) 15:00〜17:15
開催場所
TKP品川カンファレンスセンター カンファレンスルーム4F
参加者数
28名
講師
京都府立大学公共政策学部 実習助教 森口弘美氏

講演概要

森口弘美氏

(以下、講演概要)

講師 森口さん

インクルーシブリサーチとは、調査研究のあらゆるプロセスに知的障害者が参加することをめざす考え方である。この考え方を広めることで、バリアフリーやユニバーサルデザインのさらにその先の一歩となると考えている。

まず、「調査@みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」という取組みを2015年11月から翌年3月まで実施した。この取り組みのそもそものきっかけは、インクルーシブデザインへの興味だった。インクルーシブデザインとは、ものづくりやサービス提供などのデザインプロセスの上流に障害者が参加することをめざす手法であり、出来上がったものが個性的でユニークなものが多い。また、イギリスでは知的障害者が調査に参加しているということが次第にわかってきたが、日本では非常に少なかった。そこで、たんぽぽの家(奈良)でカフェを作る際に、知的障害者と大学生が調査者(リサーチャー)になってカフェのアイデアを出す研究に取り組んだ。結果として、「参加」がキーワードとなることがわかった。一つは、知的障害者の参加に加え、調査に協力する人の主体的な参加があったこと。二つめは、知的障害者とともに調査するために資料等をわかりやすくすることで、子どもや外国人にもアクセシブルになること。3つめは、どのように工夫すれば、知的障害者の意見を取り入れられるのか、「参加」について私たちが学ぶこと。

このカフェの調査の後で、海外では「インクルーシブリサーチ」や「参加型アクションリサーチ」等々の名称でたくさんの実践例があることがわかった。そこで、それらを参考に、「調査Aこれから社会に出る人たちが取り組む「私たちのくらし」調査」を2017年2月20日から21日の2日間で実施した。知的障害者は、高校卒業後に企業や作業所で働くことが多いが、知的障害者にこそ高等教育が必要であるという考えのもと、学校として運営している福祉事業所「福祉型専攻科」というものがある。そこで奈良の福祉型専攻科の協力を得て、若い知的障害者と同年代の大学生で自分たちの暮らしについて調査することに取り組んだ。当初は、差別体験について調査しようと考えていたが、専攻科の支援者から知的障害者には難しいテーマであるとの指摘があり、「困った経験・困った場面」を調査することにした。結果的には、暮らしのなかでの困ったことについて考えることで、合理的な配慮について調査することにつながった。調査では、3班に分かれ話し合った。例えば、B班では、1日目に挙がったさまざまな「困った経験」のうち「電車の駅での表示がひらがなで書かれていない」を取り上げ、2日目に「漢字が読めない人が、電車の駅をスムーズに使えるようになるにはどうすればいいか、何かあったら助かるか」ついて話し合い、「ひらがなのパンフレットを置いてもらう」「漢字を撮ったらひらがなにしてくれるアプリ」などの意見があげられた。このように日常的に意識していないことが、知的障害者と一緒に話すことでわかることもある。また、大学生が、知的障害者と話すために話し方を工夫したりすることは、今後の社会に出た時に合理的配慮を考えられるようになるための素地になる経験だと思う。

インクルーシブリサーチの視点としては、@知的障害者が調査の経験をすることでより上流に参加したくなること。A知的障害者の参加の方法はさまざまでいいということ。うまく参加できないときは発想をかえてみたり、私たちが変わってみる(=社会モデル)ことが大切。また、インクルーシブリサーチの可能性として、知的障害者が研修会の講師として仕事にすることができるのではないかと考えている。これは、障害者権利条約の第4条や第33条に挙げられている「監視」の役割を担うことにつながっていく。

質疑応答の様子

これまでの考えを整理すると、インクルーシブリサーチとは、多様な人が調査研究のプロセスのより上流に参加することでメカニズム(望ましくない悪循環)を変えることである。例えば、自治体において障害者福祉計画を策定するためのニーズ調査は、障害当事者からかけ離れた専門家が調査し、分析するため、本当のニーズを調べられていないのではないか。こうした調査のプロセスに知的障害者が関わることでまちづくりにコミットできるのではないか。知的障害者の高等教育の現状に照らしても調査ということが身近ではないため、調査に触れる機会を増やしていくことではないかとまとめられました。



関連リンク
当日の配布資料及び質疑応答