バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第47回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

障害当事者からみるバリアフリー法改正 〜真のバリアフリーへ向けて〜

開催日
2017年12月26日(火曜日) 15:00〜17:15
開催場所
御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター Room B
参加者数
69名
講師
DPI日本会議 副議長 尾上浩二氏
東洋大学 ライフデザイン学部 教授 橋儀平氏
話題提供
交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部 松原淳氏

講演概要

尾上浩二氏

(以下、講演概要)

講師 尾上さん

 現在、障害当事者としてバリアフリー法改正で改善してほしい13課題について、全国各地で要望書をもって国土交通委員会の国会議員へのロビー活動を進めている。バリアフリー法は、来年の通常国会に提出されることが見込まれており、そのためには来年3月頃に閣議決定がなされることが想定できる。逆算すると年内に改正内容が検討されるのではないかと考えている。提言する13課題は、学術的な研究課題ではなく、障害当事者としての日常的、実践的な課題である。


@地方のバリアフリー整備

 バリアフリー法(2006年)では、新築や大規模改修では基準適合は義務となっており、既存施設については努力義務となっている。また、旅客施設において基本方針では、1日あたり乗降客3,000人以上が対象となっており、東京や大阪以外の都市における多くの駅が対象となっていない。実際には、約9,500駅のうち、3,000人以上の乗降客があるのは1/3程度の3,600駅であるため、都市部と地方部のバリアフリー整備に大きな差がついてしまった。一方で、障害者権利条約第9条では、「都市及び農村の双方において…」と地方においてもバリアフリー整備が求められている。

A当事者評価の仕組み

 バリアフリー整備に取り組んだのにもかかわらず、動線上に段差(階段)のある多機能トイレなど障害者が利用できない、利用しにくいこともある。障害者の声をしっかりと聴いていれば、もっと適正なバリアフリー整備ができる。バリアフリー法には、PDCAやスパイラルアップの概念は取り入れられているが、仕組みが伴なっていない。海外では、イギリスのDPTAC(Disabled Persons Transport Advisory Committee)やアメリカのリハビリテーション法504条などで障害当事者を過半数のメンバーとする委員会が組織され、評価の仕組みができている。

B小規模店舗のバリアフリー化

 バリアフリー法は、ハートビル法(1994年)と交通バリアフリー法(2000年)が統合されたものであるが、建築物については対象の床面積2,000u以上は変わっていない。そのため、デパートやショッピングモールなどはバリアフリー整備が進んでいるが、日常的に利用するコンビニなどは対象とはなっておらず、全く進んでいない。新築時であれば、費用も大きくかわらないはずである。大阪の福祉のまちづくり条例では、ファミレスでは200u以上、コンビニでは100u以上と用途別に努力義務を課している。

C駅ホームの安全向上と単独乗車

 まずは、ホームドアの設置である。先日も視覚障害者のホームからの転落死亡事故が発生した。早急なホームの安全性の向上の改修工事が必要であり、それに合わせて車いす使用者の単独乗車ができるようにすることも重要である。近年、スロープ板による乗降支援が行われているが、降車駅への連絡などの手配が完了しなければ、車いす使用者は待たされることが多々発生している。そもそもスロープ板を利用しなければならないホームに大きな問題がある。好事例として、大阪市営地下鉄の千日前線では、段差20mm以内、隙間30mm以内を目標に掲げ取組んでいる。よくありがちな車いすスペースのところだけではなく、全車両の全扉に対応している。千日前線で注目すべきは既設線で実現したということだ。また、台湾地下鉄では全線・全駅段差なしを実現しているが、車両は日本製であり、日本でもできるはずである。

D避難所としての学校のバリアフリー化

 1995年の阪神・淡路大震災から学校のバリアフリー化について問題提起をしているが、解消されていない。災害時の避難所として、近所の小中学校となるが、入口に段差があることは多々あり、2011年の東日本大震災でも同じことが繰り返された。この原因として法制度では、支援学校は義務となっているが、それ以外の小中学校は努力義務となっているからである。大阪市では1992年に制定した大阪市ひとにやさしいまちづくり整備要綱によって、市内の95%の小中学校にエレベーターが設置されている。小中学校は、災害時の避難所だけでなく、選挙所、地域のイベントなどにも活用されることからも必要である。

 その他に、E空港アクセスバス・高速バスのバリアフリー化F音響式信号機Gホテルのユニバーサルデザイン化H共同住宅のバリアフリー化I車いす用席の予約システムも重要課題である。

 さらに、【J規模に応じたバリアフリー化】1日の乗降客が3,000人も300万人も同じ整備基準となっているため、エレベーター11人乗りとなっているが、IPCではエレベーターの標準が17人乗り、推奨が24人乗りとなっていること。【K新幹線・特急車両のフリースペース】車いすを折りたたんで座席に移るという設計のため、移乗できない障害者は通路にはみ出した状態でいなければならい。しかし、同型の台湾新幹線では車いすのまま乗車できるスペースが確保されていること。【L在来線は一車両に1ヵ所のフリースペース】障害者の社会参加や雇用環境が改善し、通勤などで多くの車いす使用者が乗車するようになったが、乗れるスペースが確保されていないことも改善が必要な課題である。

 また、バリアフリー法の見直しには、国際的視点から2つの2020がある。
 1つ目は、オリパラである。IPCが2013年にまとめた『アクセシビリティガイド』では、「アクセスは基本的人権であり、社会的公正の基本である」と「人権としてのアクセス」を明記している。さらに「アクセシビリティとインクルージョン」が重要であり、そのもとに「公平」「尊厳」「機能性」の原則を示しているが、バリアフリー法にはこの視点が欠けている。
 もう一つは、障害者権利条約に関する審査である。第9条では「障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者との平等を基礎として…(中略)…確保するための適当な措置」を批准国に求めている。現行のバリアフリー法では、基準を事業者が満たした結果、障害者が使えるとの考えであるため、移動の権利や尊厳、差別禁止が全く記載されていない。少なくとも、目的には、「障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会」の実現を明記すべきである。また、障害者等の定義として「日常生活又は社会生活に身体の機能上の制限を受ける者」と医学モデルに基づいたままであるため、社会的障壁の除去がバリアフリーであるという社会モデルへの変更が重要であるとまとめられました。

橋儀平氏

(以下、講演概要)

講師 橋さん

 1974(昭和49)年からこの分野に関わっているが、基本である「少数者への対応」を社会としてどう受け止めるのかについては、昔も今も変わってはいない。当然ではあるが事業者には「収益」が存在するため、大きなバリアとなっている。かつては、外出をする場合、まちには困難があふれていたが、みんなで乗り越える楽しみがあった。今後の日本において、こうした意識面での「共生社会」をも実現ができるかどうかが重要である。また、これまでの10年の成果は、バリアフリー基本方針が展開できたこと、こころのバリアフリーやスパイラルアップの浸透が図られたこと、鉄道事業者の意識変化ができたこと、体験学習の創出ができたこと、障害者就業等による多面的な当事者活動の展開ができたことが挙げられる。一方で課題として、建築物や公園のバリアフリー化の遅れ、自治体の人材育成の遅れ、技術開発における横の繋がりの欠如、オリパラ招致で明確になった国際基準との差異、社会モデルの未導入などが挙げられる。

 日本におけるこれまでのバリアフリー展開の特徴としては、市民、自治体職員の意識によりバリアフリー展開が大きく変わるということ。また、地方議員の理解、活動が大きな支えとなってきた。その一方で、福まち条例の有無が大きな成果となっていないため、バリアフリー基本構想を策定し、協議会の位置づけが重要となっている。本年2月、UD2020行動計画が策定されたが、もう一度、自分たちの行動を振り返り、進めていかなければならない。

 バリアフリー法改正に向けては、第1条目的と第2条定義は必須となる。建築物については、現行2,000u以上となっているが、面積基準の検討も必要であり、それにともない自治体への委任条例を促進していくべきである。また、基準適合の公表制度の確立、理想は障害当事者による適合審査ができればよいが、先行している韓国ではその運用が難しいという局面も見られる。さらに、バリアフリー基本構想の法的義務化も必要だが、それ以上に協議会設置の義務化を進めていくことが必要である。

最後に、バリアフリー社会の展望として、バリアフリー技術水準の到達点がみえる法改正であってほしい。また、自治体や事業者、設計者に明確に伝えられる基準やガイドラインが必要であり、具体的には法を超える柔軟な工夫やハードとソフトの連携などの法の運用が鍵となるとまとめられました。

松原淳氏

(以下、講演概要)

第47回勉強会の様子

 法改正までは行かないが、公共交通機関におけるバリアフリー化の課題としては多々ある。例えば、エスカレーターの片側空け、地方駅のバリアフリー化(構内踏切)、ホームと車両との段差・隙間、バス停の構造と正着、大型電動車いすやハンドル型電動車いす、歩行車の利用、手すりの構造や敷設、車両のステップ、フルフラットバス、車いすスペース、非常時・異常時の対応などの問題がある(配布資料、参照)。

 基準やガイドラインの達成が目的化してしまい、本質的なバリアフリー化の課題に取り組まれていないのではないと危惧している。



意見交換

(以下、意見交換概要)

事務局:地方部のバリアフリー化についてどうか。

講師(尾上):もともと交通バリアフリー法が制定された際には、基準に適合させるため、基本方針で5,000人以上などの網をかけ、それ以外は基本構想で自治体が進めていくという想定に立った法律のつくりであった。当初、基本構想は毎年50〜60件あったが、最近は年間10件程度の制定となっている。そのため、2006年のバリアフリー法では住民提案などで基本構想をつくりやすくしたはずだが、他の地方分権との兼ね合いもあり、基本構想の策定が自治体の中で、後回しになっている。つまり、今回の法改正で基本構想をよりつくりやすくなっても事態は好転しないのではないか。

講師(橋):バリアフリーネットワーク会議でも基本構想の義務化を提案しているが、なかなか進まない。地方分権もあり、自治体が様々なものをやらなければならないといっているが、市民や議員の半数以上の理解があればやれると思う。地方格差といわれているが、地方からはじまる法制度も多々ある。東京から離れたところで、やらねばならぬという義務感があるところに焦点をあてることもできる。

事務局:道路構造については、分権化したことで、ガイドラインが地方に移管されたことが課題となっているのではないか。

講師(橋):自治体ごとに道路のガイドラインをつくったが、それ以降、道路整備がまちまちとなっている。利用者からすると、区や市単位だけで移動していないので、法改正などで区切りなく取り組める仕組みとすべきである。

講師(尾上):障害者にとって、移動の自由や権利は人権に直結するものである。社会全体として、人権に直結するものであれば、国の基準があった上で、その上乗せとして自治体の基準があるべきである。例えば、公営住宅に欠格条項を国が決めていたが、2005年の改正でなくなった。その後、自治体に移管されたが、かえって欠格条項が増えたということがあった。これは、日本の社会では障害者の人権という捉え方が弱いことの表れである。

事務局:日本では、交通権ができなかったが、その影響はあるのか。

講師(尾上):移動の権利について、すべての市民が持っているが、やらねばならぬという意識が欠けている。IPC基準でもアクセスは人権であるということからはじまっているので、その点を法改正に盛り込みたい。

講師(橋):IPC基準では、先進諸国においてもアクセシビリティが進んでいないとの条文があり、バリアフリー法の基本方針でも掲げてきたが、できてないわけではないがさらに打ち出す必要がある。

事務局:例えば、ロンドンでは地下鉄で移動できなければ、バスで移動できればよい。要は、移動が達成できればよいとなっている。しかし、日本では交通機関に全任されていて、個々の対応となっているため、結局、鉄道、バス、タクシーに乗れない。他人任せになっているのではないか。

意見交換の様子

講師(尾上):切れ目のない移動、障害者が家から目的地、目的地から家までの全体の移動をどう確保するのかという発想が必要である。

講師(橋):先ほどの話題提供にもあったが、ロンドンでは障害当事者が自己決定のプロセスがとれるような構造となっており、日本には欠けている点があるので、議論が必要ではないか。

講師(尾上):移動の権利が明文化されていなく、今すぐに書き加えることができないとしても、インクルーシブや共生社会、合理的配慮、他の者との平等、尊厳などの文言を入れることは可能でないかというもう一つの論点である。

当日の配布資料及び質疑応答