バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第6回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

"手話言語条例"の制定と今後の課題

開催日
2017年10月25日(水曜日) 15:00〜17:30
開催場所
中央電気倶楽部 5階511号室
参加者数
71名
講師
大阪府 福祉部 障がい福祉室 自立支援課 副主査 館山裕樹氏
公益財団法人大阪聴力障害者協会 会長/大阪ろうあ会館 事務局長/一般財団法人全日本ろうあ連盟 理事(福祉・労働委員会委員長) 大竹浩司氏
指定討論者
近畿大学 理工学部 社会環境工学科 准教授 柳原崇男氏
西日本ジェイアールバスサービス株式会社 代表取締役社長 小川喜一氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授、関西福祉科学大学 客員教授 三星昭宏氏
コメンテーター
交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部長 坂下晃氏

講演概要

館山裕樹氏「大阪府手話言語条例の概要と取組内容」

(以下、講演概要)

講師:館山氏

 大阪府 福祉部 障がい福祉室 自立支援課の館山と申します。

 大阪府では平成29年3月29日に大阪府“手話言語条例”を施行しました。手話言語条例の正式な名称は、「大阪府言語としての手話の認識の普及、及び習得の機会の確保に関する条例」です。条例は全部で5条立てです。1条で目的、2条で言語としての手話の認識の普及、3条から5条は手話の習得の機会に関する条文になっています。
 条例の制定までの歴史の中で皆様にお伝えしたいのは、明治13年のミラノ会議で手話を使用することを禁止する決議がなされています。この状況が長く続いていました。教育の現場では、このミラノ決議に基づいて手話を使わずに、口話のみで授業を行われて来ました。21世紀になってからこのミラノ会議の決議を撤回するという動きが、ようやく出て来て、手話が言語として認められる動きが出て来ました。

 日本でも障害者基本法という法律があります。その条文の中に、「言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段」と規定されています。法律に言語と規定されており、手話はまさに言語であります。
 “手話言語条例”というものが、鳥取県を皮切りに全国で108の自治体で制定されています。大阪府では今年の3月29日に公布、施行されましたが、条例が施行されるまでに、平成28年4月に手話言語条例検討部会という部会を立ち上げました。本日お越しの大竹会長もメンバーであります。手話を言語として考えた時に、どういったことを条例に定めるべきかを部会で議論し、平成28年8月に提言を取りまとめました。
 障害者基本法第3条では、「言語(手話を含む。)」と明記されています。昨年の検討部会を開いている最中に府民調査を実施しました。「手話が言語であることを知っていましたか?」という内容でサンプル調査をした結果、その回答からは、約4割しか言語として認識していませんでした。法律で定められているにも関わらず、十分に浸透していない現状が明らかとなりました。

 具体的な取り組みです。言語としての手話の認識の普及については、府の広報媒体などを通じて普及啓発を行っています。その他に、メルマガ、ホームページなどにも積極的に取り上げてもらい、普及啓発を行っています。府民アンケートですが、2回目をこの9月に実施しました。条例施行の効果だと思うのですが、56.4%まで認知度が上昇しました。
 乳幼児に着目した取組み「こめっこ」が注目を浴びています。親が健聴で手話を使えず、乳幼児が聴覚障害の場合、その子供は言語に触れる環境が全くないことになります。このような場合、日本語の習得などに後々支障があるという研究結果もありますので、大阪府としてはそこを重点的に支援すべきだということで、0歳から手話に触れる機会を確保、保障する取り組み「こめっこ」を、大阪聴力障害者協会を実施主体に、日本財団の助成を受けて、共に連携して進めているところです。
 乳幼児期手話言語獲得ネットワークの構築運営です。「こめっこ」の取組みは、月に2回の実施なので、各機関とのネットワークを構築して、「こめっこ」で得た課題、ノウハウを共有して、更に広げて行こうとしています。
 中途失聴者を主な対象とした手話講座です。これは条例が出来る前から取り組んでいる事業です。中途失聴された方は、手話を使えない方が多いです。そういった方々向けに講習会を開催しています。
 社会人向け手話講座の開催です。幅広い社会人向けに手話講座を実施する事業ですが、まずは、聴覚障害のある児童等が在学する学校の教員等を対象とする手話講座を開催しています。現在府立の聴覚支援学校が4校あります。聴覚支援学校ですので、児童生徒は聴覚に障害のある子供達ですが、そこに手話が出来ない先生が、人事異動で突然赴任することもあります。赴任が決まった時から手話を猛勉強しているということで、そこは府として支援すべきとなり、そういった先生向けに講座を実施しています。今後は更に幅広い社会人向け手話講座を、業界団体、保護者向けに行う予定です。
 手話に関して取り組む企業の登録顕彰です。企業様において様々な社会貢献活動をされていますが、それが手話に関するものである場合に、登録、表彰する制度を立ち上げて運用しています。
 企業との連携です。例えば、株式会社サイレントボイスという民間企業と連携し、大阪聴力障害者協会に監修いただき、手話動画を作成しました。取り組みを進めるにあたっては、民間の独自の取組みと連携していかないとなかなか広がって行かない現状があります。大阪府としては、民間との連携を模索しているところです。


大竹浩司氏「いつでも安心して行き来できる社会をめざして」

(以下、講演概要)

講師:大竹氏

 公益社団法人大阪聴力障害者協会会長の大竹浩司と申します。


 東京オリンピックが2020年に開催されます。オリンピックやパラリンピックは皆様ご存じだと思います。一方、耳の不自由な人達の世界大会をご存知でしょうか。デフリンピックと言います。4年に一回夏冬に開催されます。しかし、この名前があまりにも広がっていないので、私達当事者としては、是非皆様に知って頂ければと思います。


 ここから本題です。

    

 皆さんの知る情報は、テレビやラジオといった音声からの情報が多いです。ろうあ者の場合、テレビには字幕が付いていることもありますが、手話(テレビ画面)はまだまだ少ないです。全国放送には字幕が付くことも多いですが、地方の放送では予算の関係か、字幕が少ないのが実情です。地方のテレビ局への財政的な支援があれば、もっと増えるのかなと思っています。

    

 日常生活では、近所付き合いや自治会など様々な活動がありますが、ほとんどは手話を知らない人が多いので、ろうあ者はなかなか溶け込むことが難しいです。中にはろうあ者が積極的に参加する、或いは、周りの方々のサポートもあって、積極的に手話の勉強を積み重ねていきましょうという輪が広がっている面もありますが、なかなか難しい状況にあります。
 職場も状況は同じではないでしょうか。会社の中にも聞こえない方が働いています。その方が手話を必要とする場合、会社としても手話を勉強できる場所、時間を増やして頂ければ、聞こえる、聞こえないに関係なく仕事がスムーズにできるようになると思います。もし、社内に聞こえない人がいる場合には、是非積極的に取り組んで頂ければと思います。

    

 手話は私達ろうあ者が人として生きていく為のコミュニケーション手段です。手話通訳者、要約筆記者の派遣という制度があります。利用すればろうあ者は話を見て分かり、安心して質問出来る情報保障が増えます。今日も手話通訳者が来ています。皆さんとお話が出来る場となっています。しかし、社会はまだまだ少ないのが現状です。
 また、聞こえなくなった原因は人によって違っています。私は生まれた時から聞こえません。家の近くの聾学校に通っていました。口話教育で声を出すという発音練習をしました。人の口の形を見て読み取るという練習もしました。しかし、限界があります。例えば「たまご」と「たばこ」は同じ口の形なのです。このような例がたくさんあります。口話教育に限界があると感じました。でも学校では、休み時間には先輩達と手話で会話をし、授業が始まると口話と、使い分けをしていました。
 小学校から中学校の時くらいに聞こえなくなった子供の場合は、声は出せます。そして、その後手話を何とか覚えたという方もいれば、社会人になってから何らかの原因で聞こえなくなって、手話を身につける人もいます。そのような場合は、手話を身につけるのは簡単ではないだろうと思います。ですから、文字情報が欲しいという方々もいます。
 つまり、ろうあ者とのコミュニケーション方法は様々であります。本人に合ったコミュニケーション方法でお話をするのが大切だと思います。ろうあ者が全て手話をする訳ではないのです。
 たぶん皆さんも聞こえない方と会った時に、直ぐに対応出来る方法は筆談だと思います。しかし、忙しい時は書く内容が短くなり、ろうあ者からみると、時間が掛かると気遣って筆談のお願いも遠慮してしまいます。また筆談途中で理解できてなくてもわかったと返答してしまうろうあ者もかなりいると思います。私も同じです。相手によりますが、筆談も分かるまで安心して書いて貰えるということがいちばんです。
 音声での会話と同じように、手話での会話は、自分の思いを直ぐにそのまま伝えることが出来る最高の方法です。例えば会議では、聞こえる方は聞きながら資料を見ること出来ます。しかし、ろうあ者はそれが出来ない。お話をされる方の横に通訳者がいて、それを見て理解します。その後に資料を見るという流れです。つまり手話を見ることと、資料を見ることに分かれます。
 会議の際にいつもお願いするのですが、発言者の内容は手話通訳者を見て理解しますが、その時点ではまだ資料を読めていません。資料を読めば考える時間が必要となります。このことを司会の方が知らないと、次の質問時間などが始まってしまいます。「ご質問ないですか?」と司会者が問うて、無ければ次に進んでしまいます。その時私達はまだ資料に目を通している真最中です。これは合理的配慮の一つですので、きちんと考えて欲しいといつも言っています。でもまだまだ配慮が足りないのが実情です。

 医学モデル、社会モデルという言葉を覚えて下さい。医学モデルを聞こえない人でいうと、子供が生まれて聞こえないと分かった場合、補聴器を付ける、口話など訓練をします。聞こえる人に近づける訓練をするということです。聞こえる人に近づけるという考え方を医学モデルと言います。
 社会モデルは、聞こえないことによる社会的障壁をなくす、音声を聞き取れないので、文字情報を出す、手話通訳者を増やすなど、そのような方法で聞こえない人が社会の中で孤立しない、情報を得ることが出来る、聞こえる人と交流することが出来る社会に変えていく。バリアは社会に原因があるという考え方を社会モデルといいます。

    

 障害者差別解消法が昨年4月から施行されました。皆さんの中には馴染みのないことかも知れませんが、ろうあ者の立場で一緒に考えてみたいと思います。

 交通関係の事例の一つです。駅ホームにアナウンスがありますが、ろうあ者には聞こえません。文字情報が最近は増えていますが、田舎の駅ではまだまだありません。
 差別解消法では、社会的な障壁を無くすには、合理的配慮が必要と書いてあります。民間の場合は努力義務となっています。役所など公的場所は法的義務となっています。民間の方も是非取り組んで頂ければと思います。
 合理的配慮の提供義務とあります。何故かと言いますと、差別解消法では過重な負担がある場合には、合理的配慮の不提供に当たらないと書かれています。問題は提供出来ない理由によります。一つ目の事例で、身振りや筆談で話すことは過重な負担ではありません。
 二つ目は、タクシーに乗る際に筆談して見せると乗車拒否された事例です。ろうあ者と分かって乗車拒否するのは明らかな差別です。メモを見て行く場所が分かれば、直ぐに対応する姿勢が必要です。タクシー会社も研修を重ねて欲しいと思います。
 三つ目は、聞こえないことを理由に旅行の申込を拒否された事例です。聞こえる人の付き添いが必要と言われました。聞こえない人が参加した場合、旅行中の対応が出来ないという理由で拒否されました。このような事例は今でも時々起こっています。旅行会社がサービス提供する中で、聞こえない人に別の条件を付けることは良くありません。
 さっき、過重な負担がある場合には合理的配慮の不提供にならないと説明しました。しかし、ツアーの出発までに時間がある場合には、聞こえない人の為にどうすればよいかを相談する時間が十分にある訳ですから、その相談することなく、聞こえる人と一緒でないと駄目というのは、やはり良くない事例だと思います。
 次の事例は高速バスの予約です。電話で予約という方法が多いです。しかし、私達は電話が出来ません。電話だけの対応は、電話が出来ない人を排除してしまいますので、問題だと思います。現在は音声に代わる情報、例えばメールやファックスなどを挙げています。これが聞こえない人への合理的配慮の提供となります。

 今年の6月中旬頃。大雨で新幹線が止まりました。たまたまそこに聞こえない人が乗っていました。新幹線は夕方4時半に東京を出発しましたが、京都を出た所で止まってしまいました。新幹線が停電で止まり、車内は真っ暗になりました。聞こえない人の場合は、真っ暗になってしまうとお手上げです。聞こえる人は暗くても話しが出来ます。聞こえない人は、手話が見えないので話しになりません。地震が起こった時の停電も、夜だと困ります。トンネルの中で停電になると見えなくなり困ります。
 夜19時55分に京都を出発して、翌日1時10分に新大阪に着きました。車内は音声放送があったみたいですが、聞こえない人には分かりません。文字情報が電光掲示板にあれば安心できるのですが、文字はすぐには出て来ませんでした。一体いつ動き出すのかずっと不安だったとのことです。何か起こった時には、車掌さんがマイクで話されるのですが、災害が起こった時の対応までは考えられていないのが実情です。幅広く対応して頂きたいと思います。

 色々な法律があります。障害者権利条約は国連が制定し、手話が言語であると明記されています。それから、障害者基本法は障害者の憲法と言われています。ここにも手話が言語に含むと記されています。2011年に障害者基本法が一部改正されました。その前に原案が国から出て来ました。それを見ると手話が言語であると書かれていませんでした。それに私たちは憤慨し、当時官房長官だった枝野さんに話しました。枝野さんは当時手話に対して理解があったので、手話は言語に含む旨を法律の中に書き込むことができました。

    

 障害者権利条約の第9条21条に、情報バリアフリーが必要であるという文章が入っています。障害者基本法では21条、22条が情報アクセス手段ということで、選択の機会の保障。そして、差別解消法では第5条に施設の改善、整備が努力義務として書かれています。鉄道機関もここに含まれます。また、国がバリアフリー法を見直すということを聞いています。見直しが6月に発表されました。それを受けて国交省がどのように取り組んでいくのか、見届けていきたいと思います。

    

 全日本ろうあ連盟が目指している情報コミュニケーション法(仮)は、聞こえない人に対して情報のやり取りが出るよう、手話や要約筆記を含めたコミュニケーションを保障するものです。見えない人には点字などです。発達障害者に対しても、その障害の内容に合わせて保障の制定を求めるものであります。
 また、手話言語法(仮)は、言語であるのに、手話の教育、普及などを定めた根拠がないことを解消することを目指して制定を求めるものであります。地域で制定される条例の場合、手話言語条例が大阪市や熊取町で制定されました。堺市では、言語条例と情報コミュニケーション条例が制定されています。他の自治体では現在検討中というところが結構あります。

    

 最後に皆様に二つお願いしたいことがあります。一つは、関わる社員皆様に対して、その障害者はどのような人なのか、そして、その方への対応をどうすればよいのかということを、研修を積み重ねて理解して頂きたいです。
 二つ目は、聞こえない場合は、目に見える情報が大切です。電光掲示板などで情報をお示し頂きたいと思います。電車のホームでは、見えない人も、聞こえない人も安心して行くことが出来るようにし欲しい。聞こえない人は、電車の通過音やアナウンスは聞こえませんので、もうすぐ電車が来ますということが文字で分かると安心します。また急な事故、人身事故など、事情が分からないことも多いです。

    

 聞こえない人への対応方法について、分からなかったら私共ろうあ団体にご相談下さい。今日のような場所で勉強して、障害のあるないに関わらず全ての人が社会に参加でき、自由に行き来できる、そのような社会を共に作っていきたいと思います。宜しくお願いいたします。最後まで見て頂き有難うございました。


パネルディスカッション

(以下、主な質疑応答)

三星名誉教授:
 私は近畿大学の社会環境工学科で40年お世話になりました。約4千人の子供達を卒業生として送り出して来ましたが、1人だけ聴覚障害の女子生徒がいました。非常に頭の良い子でした。しかし、問題は授業をどうするかでした。手話で別の講義をするのか。手話を出来ない場合はどうするのか。取りあえずの対応は、出来るだけ黒板に板書しましたが、限界がありました。コミュニケーションはやはり顔色を見ながらします。中には板書が苦手でしない先生もいました。とても苦労をした記憶があります。
 最後の決定的な苦労は就職でした。立派な企業に是非ともチャレンジさせたかった。しかし、聴覚障害があるということで殆どの役所、企業では受験さえもできなかった。現実に受験できても、試験のやりようもないということでした。仮に入社したとしても会社側が対応出来ないという現実でした。そのような社会を変えていかないといけないということを痛感いたしました。
 色々なコミュニケーション手段がありますが、その中で手話についてはこの20年ほどで社会的に広まって来ました。鳥取県では条例を作りました。同時にJR鳥取駅では、駅員さん全員が、手話が出来るそうです。今回お話頂く西日本ジェイアールバスサービスさんのお話を非常に楽しみにしています。聴覚障害者がどんどんと社会参加出来る道を作っていかないといけないと痛切に感じています。本日は指定討論者として西日本ジェイアールバスサービスから小川社長がお越しです。手話に取り組まれた動機、経過、手話を受講された社員が増えたことで、接客サービスや会社がどのように変わったのかなどをお話頂ければと思います。

小川社長:
指定討論者:小川社長 ご紹介いただきました小川です。西日本ジェイアールバスではアドバイザー、西日本ジェイアールバスサービスでは社長をしています。
 私共の会社概要と、バリアフリーの取組みについてご紹介します。私共の会社はジェイアール西日本グループの一員で、西日本ジェイアールバスは昭和62年、国鉄の分割民営化の一年後に出来たバス会社です。西日本ジェイアールバスは高速バス事業の比率が74%、一般乗り合い事業5%、貸切事業1%で、バス事業で8割を超えています。バス会社からすると珍しくバス事業の比率が高い会社です。西日本ジェイアールバスの高速バス路線図ですが、一日で約330本運行しています。年間250万人にご利用いただいています。
 西日本ジェイアールバスサービスは、国のインバウンド対応の一環で、ジェイアール西日本のグループ会社を挙げて、戦略的な子会社を作ろうということで、一昨年の10月に西日本ジェイアールバスが中心になり、日本旅行と共に作った会社です。
 西日本ジェイアールバスの窓口は現在5カ所あります。写真は大阪駅内の大阪駅高速バスターミナルの窓口です。設備面では、現時点で窓口にコミューンとマイク、コミュニケーションボードを備えています。写真にはありませんが、画面を自分で操作し、座席の予約が出来る指定席型の券売機も4台設置しています。また、バスの指定券は電話予約センターだけではなく、インターネットでも予約が出来るようになっています。
 手話の講習会ですが、第5回目から参加し、昨年までで50名近くのメンバーに手話の指導をして頂きました。本年も営業部長を初め4名が参加しています。西日本ジェイアールバスでは部長職自らが、忙しい中一生懸命に参加しています。
 西日本ジェイアールバスでは、手話検定試験を講習会参加者全員が受験するよう支援をしています。4級以上の試験合格者に対しては、手話バッチを制服に着用させています。制服には決められた物以外の着用は認めていませんが、規程を変えて手話バッチの着用を認めています。
 この手話講習会参加者が中心となって、企業内で手話サークルの輪が広がって行けばよいなと私は考えています。只、好きな者だけが集まってサークル活動をすると、本来の趣旨を逸脱する可能性があります。志しのあるしっかりと講習会を受けたメンバーで、各地でサークルを立ち上げてくれればよいなと考えています。
 その他にサービス介助士2級の資格取得を進めています。サービス介助士のメニューには手話の他に、目のご不自由な方への対応、車いす利用者への対応など、様々な項目がありますので、この資格取得を中心に進めています。
 会社としては取得支援をしていますが、あくまでも社員のやる気に任せています。現在接客に従事する社員は672名います。その内404人が取得し、取得率は60パーセントです。せめて8割の人にはこのような資格を持ってほしいと考えています。引き続きこれらの取組みが継続していけるよう、工夫を重ねて推進して行きたいと考えています。
 手話講習会への参加のきっかけです。交通エコロジー・モビリティ財団から参加しませんかというお話がありました。社員を参加させて何が出来るのだろうかと若干躊躇したのですが、参加させる以上は、社内で位置づけを整理しないといけない。単に打ち上げ花火のように2、3年で終わってしまうと、その間に参加した社員には申し訳がない。継続的に長く取り組めるにはどのようにするが良いのかを考えました。会社から社員へのスタンスと、社員が参加する気持ちを高めることをどう融合したらよいのかを見極めるのに5年かかりました。
 一方、私も一緒に参加することで、嫌だなと思った管理職もいたと思います。しかし、業務命令ですので、一緒に行ってもらいました。嫌だ嫌だと言っていても、いつの間にか面白くなって、手話サークルを立ち上げてくれた管理職もいます。このような取り組みで現在に至っています。

柳原准教授:
 私からはコメントと感想、そして、質問をさせていただきます。
 館山さんへの感想です。手話は言語であり、手話を学ぶ機会が現状整備されていないということで、それらの権利を確保していきますというお話でした。私も不勉強で、まさか手話を学ぶ機会、環境がまだまだ整っていなかったというのには驚きでした。やはりこのような条例の下で、推進していくのは非常に重要であると感じました。
 大竹さんからは、法律面、当事者ならではのお話など、非常に広くお話を頂きました。私が特に印象に残ったのは、地域や職場においてどうしても孤立してしまうという点です。特に一般の方と、地域や職場においてコミュニケーションが取れないという点で、これを今後どのように改善していくかは、大きな課題だと思います。障害のある方へのコミュニケーションスキル、障害を理解して対応するスキルを、一般市民が如何にして身につけるのかが非常に重要だと思います。
 小川社長のお話です。合理的配慮は公的部門では義務化されていますが、民間部門は努力義務となっています。民間でも何とかお願いしますというお話が大竹会長からありましたが、その部分をまさに小川社長のお会社で実践されています。自主的に研修を受けられて、そして、その輪を継続的に広げようとされている姿は、まさに合理的配慮を努力義務で行っていらっしゃる事例を聞かせて頂いたものだと思います。
 世の民間企業が情報保障に如何にして取り組んでいるかに目を向けて頂いて、それを各企業で努力し、仕掛けていくことが今後重要かと思います。

坂下部長:
 エコモ財団は、手話教室の開催を15年続けています。きっかけは、出来ることから始めていこうということでした。つまり、我々は何か行動を起こさないといけないだろうということだったそうです。日本人の考え方としては構えがちですが、行動を起こすにも、構えて何も出来ないよりはやった方が良いです。
 また、交通サポートマネージャーと言いまして、交通事業者向けの接遇介助をする研修会を行っています。この研修会の大きな特徴は、障害当事者を講師として迎え、当事者が先生になって、接遇介助を教えるということを売りにしています。受講された交通事業者からは、初めて当事者とお話をした、初めて当事者の生活を知ったという意見が非常に多いです。
 我々がこれから当事者に向けて何かしようとする時には、まずは当事者の障害を理解しないといけません。
 先ほど大阪府の取組みの中に「こめっこ」という取組みがありました。やはり、ろうあ者にとって手話は母語です。お母さんが語り部となって伝えてくれるもの、これが一番重要ではないかということです。小さい頃から触れ合って初めて覚えるものだと思います。
 我々はなかなか障害者との触れ合う機会がありません。しかし、小さい子供の頃から、そのような触れ合い、コミュニケーションを取っていれば、接遇介助は簡単にできると思います。そういうことを我々はどんどんと考えて行かないといけないと思います。

大竹会長:
 西日本ジェイアールバスサービスのお話はすごく嬉しく思いました。筆談しかないかと、不安を持って窓口に行きます。しかし、小川社長のような会社が増えていくと、そこに手話の出来る人がいて、直ぐ話が通じ、そして、安心して色々なことを聞くことが出来る。そして、安心して申込ができ、旅行に行けます。これは本当に良い取組みであり、嬉しく思っています。
 しかし、現状はそのような例は少ないです。ツアーの申込をしたら、相手に身構えられてしまいます。社員に対して研修をして、聞こえなくても対応方法が色々とあることを理解して頂き、それを広めていってほしいです。また、積極的に聞こえない方を採用して頂き、環境を整えて頂ければ嬉しく思います。宜しくお願いいたします。

大阪府・館山副主査:
 手話言語条例においても、第5条で事業者の手話習得の機会の確保について定め、また府が支援すると定めているところです。しかし、行政だけでできることには限界があります。民間企業として独自に取り組まれていることに対して、大阪府としてもどんどんと連携して、ネットワークを広めていくという取組みをしないといけません。
 実際行政だけで言語としての手話を広めていくには限界があると、携わっていて感じているところです。今日民間の会社の方々がお越しだと思いますので、当社では手話について取り組んでいるというところがあれば、大阪府にお話しを頂ければ、事業連携協定などを締結し、取り組みの輪を一緒に広めたいと考えています。

三星名誉教授:
 条例制定後、民間との連携協定以外に、具体的な取り組みとして他に付け加えることはありますか。また、NPO等との連携は出来つつあるのでしょうか。

大阪府・館山副主査:
 社会人向け手話講座を聴覚支援学校の教員向けにまず始めているところですが、この取り組みを民間の会社にも広げていきたいと考えています。あとは「こめっこ」の取り組みを、ネットワークを通じて浸透させたいと思います。
 手話動画を作るにあたって、民間の団体と連携協定を結び、府内の福祉関係機関とも「こめっこ」の取り組みを連携して行っています。条例をきっかけにして、今まで点であった関係が、徐々に面になって来ていると感じているところです。

柳原准教授:
 職場で手話を学べる取組みを広げていきたいというお話がありましたが、いくら大阪府が受け皿を作っても、参加する企業が無ければ始まりません。企業に声をかけて、企業のトップがいいよねとなり、社員レベルに落とした時に、積極的に継続して参加してくれる仕組み、また、モチベーションを維持していくためにはどのようにしたらよいでしょうか。

小川社長:
 私達が参加した段階では、社員には超過勤務命令を出して参加させました。休みの日は、出勤扱いにし、休みを振り替えさせました。勤務の面で企業として面倒を見ました。テキスト代等の費用も会社で面倒を見ることにしました。
 しかし、仮に私が転勤になってしまうと、あの人がいた間は良かったけど、次の人からは全く手話教室が見向きもされなくなったということでは、受講した社員には申し訳ないので、企業として維持していく仕組みが必要となりました。
 サービスマニュアルという教本があります。そこに手話での挨拶、基本的事項を入れて、会社としてマニュアル化し、認めているという姿勢を示しました。また、ボーナスや昇給昇格の時に、若干配慮するという強硬手段を取ってでもやろうという姿勢で進めました。
 しかし、そこまでやると企業として何をやっているのだという話になります。企業の評価はやはり数値です。数値化する取り組みを行いました。大阪駅バスチケットセンターの4級以上の取得者を50%以上にするなど、ザクッとした数値目標でありますが、企業として社内で数値目標化をすることにしました。
 社員に何のメリットがあるのか。若干昇給昇格でプラスになるかも知れませんが、それだけではなく、私と一週間に1回、それも2時間半くらい話しができるチャンスができるのです。身近に管理職と気軽るに交流できることが、意外に面白いということを若い社員に思ってもらうこともメリットの一つと考えました。
 そして、最低でも5年間は続けて引っ張って行こうと思っていました。このようなことを5年間も行うと歴史が生まれるのです。結果、今習慣・歴史になりつつあると思います。
 今手話講習会参加者を募集すると、行きたいという人もいますし、行きたいとは言わなくても、行くかと問うと、行きますという人もいます。行きたいという社員よりも、問えば行きますという社員を増やすことが、底辺を広めるために大事だと思います。
 やりたい人達は、サークルで集まっています。手話を一緒にやろうということで、色々な電鉄会社に行ったことがありますが、みんなサークルを持って、和気あいあいとやっています。しかし、これでは会社へのパワーになっていないことが課題だと思います。従って、逆の作り方をしました。会社から持って行って、最終目標がサークルだということです。サークルから始まると、上に持って行くのに凄い労力、時間が掛かると私は思います。

来場質問者:
 コミュニケーション支援ボード等の各種ツールを配備されていますが、それらを配備したことによる、聴覚障害者とのコミュニケーションの利用頻度はどうでしょうか。
 認定資格取得者に対して、その所要費用と報奨金を出すには、内規化が必要だと思いますが、どのような取り組みをされましたか。

小川社長:
 取組み前は、聴覚障害者がお見えになると困って窓口がザワついていました。私も窓口に行って見ましたが、件数は月に一回あるか無いか位でした。しかし、手話バッチを付けるようになると、一日3件くらい聴覚障害者が来られていることが分かりました。
 最初は手話が十分ではなかったのですが、一生懸命にやっていると、「有難う」と手話を返してもらい、窓口の職員が感激している姿を何度か見られました。やって良かったと思いました。
 ところが、コミュニケーション支援ボードやコミューンを入れて、伝達方法が沢山出来たこと、また、窓口に来なくても切符を買えるようになったことで、今どんな感じなのかを実際に窓口に行って聞いてみたのですが、実際にはよく分からないというのです。全く来られていないかというと、そうでもない。今は券売機を押すと、自分が好きな座席のチケットをストレスなく買うことが出来るのが現状です。会社としてはチケットを買える手段を多様化したので、仕方ないのかなと思っています。
 会社としての資格制度の中に、他の資格制度の付加要求が社員からあった際に、手話検定4級以上の取得を組み込みました。見直すには会社の経営会議に諮る必要があるので、資格制度から外しにくくなったと思っています。

大竹会長:
 40年前に私が協会の役員になって以降、社会状況が少しずつですが変わって来ています。条例もそうですが、10年前には想像もできなかったことです。長いスパンで見れば、将来も変わっていくと思います。心配はしていません。皆様の取組み如何だと思います。
 会社内で手話を学ぶことは良いことだと思います。手話を使って聞こえない人と話せて、嬉しかった、感動したという意見が多いです。会社の中で学んだ後は、聞こえない人との交流の場を作るとか、聞こえない人を会社で採用すれば、自然と手話が必要となり広まっていくと思います。
 聞こえない人は電話が出来ないから考えてしまうというのは昔の話です。今はファックスやメールもあります。ただ聞こえない人へどのように対応して良いか分からないのが現状だと思います。
 手話通訳者の数もなかなか増えない。手話通訳の大きな役割は職場での会議です。聞こえない人がその中に入って、議論を交わす。聞こえない人も議論についていくためには、通訳者が必要となります。そういう意味で手話通訳者を社員として採用する。そのようにして頂ければよいと思います。10年後を期待しておりますので、皆様よろしくお願い致します。

小川社長:
 手話が出来るという社員はバッチを着用しています。着用率5割を目指しています。将来的には、バッチを付けないのが当たり前というのがあるべき姿だと思います。
 耳の聞こえない知り合いがいるのですが、カラオケに何人かで行こうとなった時に、行っても聞こえないから誘っても仕方ないと長い間思っていたのですが、その方が付いて来られたのです。画面に字幕が出るので、耳の聞こえない方もとても盛り上がっておられたのを覚えています。私達が考える普通というのは、場面によっては異なるということが、まだまだたくさんあることを思い知らされました。

坂下部長:
 手話講習会を15年続けていますが、かつては危機的な状況もありました。参加人数が減っているのです。我々としては輪を広げようという考えがベースにありました。それは、ここに来れば手話で話せるというような、手話の基地を作ってもいいのではと思っています。ろうあ者と会えるというベースを作れればというような方向転換をしています。従って、OBの方にも声をかけています。私は手話教室を継続して行きたいと考えています。

柳原准教授:
 障害は社会が創り出しているものだというお話がありました。社会が変われば、障壁がなくなるという意味でもあります。この情報バリアというのもまさに社会が創り出しているものであります。社会が変われば、情報バリアは無くなると思います。小川社長からは、手話バッチを付けないのが当たり前という話がありましたが、小川社長の会社が当たり前に存在するような社会が、今後目指すべきところだと思います。
 交流の場、知り合いになる場というのは大きいかと思います。気心の知れた、友達のような関係になると、どういう配慮をすれば良いのかが分かります。交流の場を如何にして創って、一般の方に障害のある方とのコミュニケーションのスキルを高めてもらうかということも、同時に進める必要があるかと思います。そうすると、多様な方々が住む共生社会が実現できるのだろうという気がします。
 大竹会長が10年後に期待とおっしゃっていました。今大阪は万博を誘致していますので、それが終わったら、デフリンピックを是非大阪でやりましょう!

当日の配布資料及び質疑応答