バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第41回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

公共施設におけるトイレのデザインとは 〜バリアフリーを越えたその先へ〜

開催日
2017年5月26日(金曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム3A
参加者数
49名
講師
設計事務所ゴンドラ・代表/一般社団法人日本トイレ協会・副会長 小林純子氏
非営利団体法人Check・代表理事 金子健二氏

講演概要

小林純子氏

(以下、講演概要)

講師 小林さん

1980年代からの都市のアメニティの見直し、女性の社会進出、バリアフリー化等を背景に公共トイレの改善が取り組まれ始めた。施設別として、@商業施設では、来客する客の7割を占める女性客に対して店内での滞在時間を増やし、購買力につなげる狙いで美化に取り組まれている。A交通機関では、鉄道や道路など民営化を期に利用者へのサービスの見直しとして取り組まれている。B学校では、商業施設より10年ぐらい遅れて、校舎の老朽化により和式や暗いなどの理由で子どもたちが使用できなくなっているため、深刻な問題となっており、早急な対応が必要となっている。C公衆トイレでは、改築・改修は進んでいるが、無人管理のため汚損や犯罪行為があり、メンテナンスが追い付かない状況である。

そこで、公共トイレ設計時の目標として、イメージを変え、ほっとする空間にして、誰でも享受できるようにしたい。また、全体計画とトイレを一体で考え、たった一人になれるまちや施設の中の個人空間とする。そして、他人と共有する場所として常に快適さを持続させることを掲げている。しかし、現状分は、様々な障害者がいるなかで、バリアフリートイレはいまだに途上であり、ユニバーサルデザインも一部でしか実現していない。また、地域、施設間、新築・改装等に格差があり、難しい問題があるといえる。

○起点となった公共トイレ設計について

1989年に実施したチャームステーションがある。これからの公衆トイレをコンセプトとして、女子トイレにおいては個室性を高めるため、斜めに設置するとともにブース内に手洗を設置した。一方、男子トイレにおいては女性視点から小便器の横並びを不自然に思い、卍字型に配置した。さらに、父子トイレを設置したが、時期尚早であったため、利用頻度が少なかった。また、1990年の東村山児童公園トイレでは、安全性を考慮し、ある程度の距離感を持たせた。しかし、夜間の破壊行為やいたずらに度々見舞われ、改修を繰り返すしかなかった。そこで学んだことは、過去の結果を知り、コンセプトを確立する、基本機能を具現化し、付随要素をデザインする。その上で、ユニバーサルデザインを検討するとともにメンテナンス者と協議が重要である。

○公共トイレが抱える現状の課題

湘南ステーションビル平塚ラスカでは、20年間にわたり、改修・改善に取り組んできた。設計方針として、@フロアコンセプトに合わせた利用者層の想定、A施設構造による制約条件と利用者層の想定を基に様々の利用者ニーズの当てはめ、B湘南の海をイメージした明るくゆったりをデザインコンセプトとした。

改善の活動として、メンテナンスに関する取り組み・会議を定期的に行い、毎年200名以上に同一アンケート調査を実施し、時代ニーズとともに改修を行った。その結果、経年における課題として、@構造体の都合で段差が発生していること、A材料の欠損、Bシールの汚れ、C備品の盗難や目的外の設備利用などが挙げられた。また、アンケート調査からは、40%以上がトイレ利用のみで来店し、90%が施設を選択するときにトイレ環境を重視することが分かった。さらに、60%以上がお気に入りのトイレがあり、当該施設においては「3F」、「3.5F」が多かった。これは、改札に近いことが要因であるが、その他にもお気に入りのトイレにする理由として「清潔」「明るい」「落ち着いて利用できる」が重要な要素であった。

なお、一般の人の30%が多機能トイレの利用実態があることがわかった。主な目的は、「排泄」であるが、休息や身繕いなどもある。一方で、使わない理由として、場所がわからない、一般トイレを利用するためなど、全般的に関心が低いことが分かった。

さらに、1994年からのメンテナンス会議(計69回)では、要改善点が870項目にもなったが、解決できないこととして、@踊り場であるための段差、A狭さ、B井戸水、C洗面第の水はね、備品の欠損等が挙げられた。

○誰もがいつでも利用できるトイレにする

外出先に利用しやすいトイレがあることは、安心して社会生活をおくることである。排泄行動は、障害者をはじめ、高齢者や乳幼児連れなど百人百様であるため、きめ細やかにその要求に対応できる方法を検討する必要がある。新築の場合にはある程度、対応することは可能であるが、改築になった場合には本当の障害者のニーズを知っていなければ、応用がわかならない。また、相談にのってくれる人とのネットワークを構築しておく必要がある。

そのためにも実態を知ることは重要であり、例えばA駅西口のトイレ利用実態では、総数約8800人に対して多機能トイレ利用者は144人(1.6%)となっており、主な利用者はスーツケースの使用者であった。また、B百貨店では8割が子ども連れの方であった。

まとめると、多機能トイレの利用は、利用者数としては意外と利用されていない、1か所しかないことが多いので、かち合う場合や故障の場合には代用ができない、公共トイレの面積は狭いため、すべてのニーズに対処することは難しい、機能分散は利用者にはわかりにくく、サインや案内が必要である。

○持続する快適さを創るについて

快適さの維持は、メンテナンスに左右される。そのため、メンテナンスの方法、体制の見直しや清掃管理に関して、設計段階から管理会社や清掃者がかかわることが重要である。

金子健二氏

(以下、講演概要)

講師 金子さん

「旅をするためにどんな準備をするか?」を考えた場合、健常者に比べ、障害者はより多くの情報が必要となる。特に、トイレ、移動手段、バリアフリー化、食事対応など。実際、これらの情報はどこにあるかはわからない場合が多い。また、自治体や民間施設によって、情報内容が様々である。その場合、旅行会社などは電話やネットで確認し、利用者に提供しているが、情報の一元化は行っていない。理由とすると、情報を公開することで、他社が情報の流用を行ってしまうからである。そのため、車いす使用者に対して一元化されたトイレ情報を提供しようとはじめた取組みである。トイレや多機能トイレの情報がすべての地図などに載ることを目標としている。

現在は、「Check A Toilet」という多機能トイレの情報を共有するサイトを展開しており、日本全国で約67,000か所の情報を集約し、カーナビや地図サービスと提携を図っている。表示内容は、できる限りわかりやすくするため、マークなどにして、情報を絞っている。また、単に情報を集めるだけでなく、スマートフォンを活用した社会貢献活動も実施している。例えば、ボランティア活動の一環として、終業後に1時間のトイレチェック活動を行ったり、小学生の総合学習で行ったりしている。

また、花火大会、お祭り、マラソン大会などの一時的な大規模イベントにおいて、企業のCSR活動とタイアップし、トイレマップを製作・提供している。その中で、トイレシェアリングと名付け、地域全体でトイレを貸し出し、ビルや商業施設などの「公共トイレ化」も推進している。これらの取組みの経済波及効果を算出したところ、外出時間が延び、3千万円もの価値があった。

質疑応答の様子

さらに、最近では多機能トイレの扉について調査を行ったところ、「施錠されたドアの前で誰もいないトイレを待っていた」「3人に1人がトイレ使用中に自動ドアが開いてしまった経験がる」ことがわかったため、利用方法についての普及促進を行っている。

最後にバリアフリー化のその先には、例えば、ITを活用した多機能トイレの利用制限やチャリティトイレ、予約・リアルタイムでの利用状況の把握システムなどが技術的には開発可能であると思う。

当日の配布資料及び質疑応答