バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第5回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

ほじょ犬のことをもっと知ろう! 〜盲導犬ユーザーの移動と外出〜

開催日
2017年3月8日(水曜日) 15:00〜17:30
開催場所
中央電気倶楽部 5階ホール
参加者数
69名
講師
公益財団法人関西盲導犬協会 久保ますみ氏
盲導犬ユーザー 森永佳恵氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授 三星昭宏氏
コメンテーター
大阪大学未来戦略機構 第5部門未来共生イノベーター 博士課程プログラム特任助教 石塚裕子氏

講演概要

久保ますみ氏「盲導犬ユーザーと出会ったら?」

(以下、講演概要)

講師:久保さん

 自分で「補助犬のことをもっと知ろう」というセミナータイトルを指定しながら、実は少しこのタイトルには違和感を持っています。何故なら補助犬のことを知るよりも、補助犬を使っている方々のことをもっと知って頂かなければ、本当の改善には結びつかないと思っているからです。
例えば、今日車いすユーザーの方もおられます。車いすのことをもっと知ろうと聞いたら多分皆さん違和感があるのではないでしょうか。どこにブレーキがあり、車輪あり、どう動くといった、車いすの「いろは」を知ったとしても、車いすの知識で止まり、実際に車いすを使用されるお客様が来られた時の対応という、その先まで思い浮かばないと思います。
そこで、私が受け持つ前半のお話のタイトルは「盲導犬ユーザーと出会ったら?」としました。盲導犬にではなく、盲導犬ユーザーに出会ったらどうしようということを、この時間を通して皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 日本の身体障害者補助犬法では現在、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種類が補助犬とされています。

    

 では、身体障害者補助犬法とは何か。それぞれの立場で身体障害者補助犬法の中で義務付けられていることをご紹介します。
公的施設や公共交通機関、多くの方が利用できる施設、一定規模以上の事業所に関しては補助犬の受け入れは義務となっています。2002年に同法ができた当時、それまでは全く日本に無かった、補助犬を使っているユーザーのアクセス権が保障される素晴らしい法律ができたと言われました。
 一方で権利が保障される代わりに、ユーザーに義務も生じました。ペット犬ではなくて補助犬だと周りの方々にすぐ分かって頂けるよう、補助犬であることの表示が義務付けられました。また、使用者証や健康管理手帳の携帯も義務として挙げられます。そして、私達補助犬を育成する団体は、良質な補助犬を育成しなさいということも法律の中にはっきり書かれています。

    

 そして、この法律は補助犬を使っている方、育成している団体、それを受け入れる事業者だけでなく、国民にも補助犬ユーザーに対しては協力をするよう努めなさいという文言が書かれています。
身体障害者補助犬法と聞くと、一般の方にはあまり自分とは関係がない法律と思う方もおられるかも知れませんが、実は国民全体に関わっている法律なのです。

    

 日本で、盲導犬と認定される条件としては、国家公安委員会が指定した公益法人で育成され、或いは認定されていることが1つの要件になります。その国家公安委員会が指定した法人は11団体あります。従って、海外で育成された盲導犬は、日本では盲導犬とは言えないということになってしまいます。例えば海外で盲導犬を取得して日本に帰国された方の盲導犬は、補助犬法で言う盲導犬とは言えないことになります。一方で、日本で訓練を受けた盲導犬が海外で旅行に行った時には、日本の盲導犬は向こうでも盲導犬として認められている。では日本はこのままでいいのか。沢山の海外の方々がお越しになる2020年東京オリンピック・パラリンピックまであと3年の間に、解決しないといけない問題の一つではないかと思います。

    

 そして、盲導犬の要件の2つ目はハーネスを装着して、盲導犬という表示をすること。3つ目に、犬だけが認定を受けるのではなく、必要な訓練をきちんと修了した視覚障害者が使用していることが要件になります。

    

 盲導犬が生まれてから引退するまでの流れをご紹介します。
日本の盲導犬の多くはラブラドールレトリーバー種です。しかし、ラブラドールレトリーバーだったら何でも盲導犬になるという訳ではありません。盲導犬は訓練だけでなく、まずその犬が盲導犬としての素質を持っていることが大切です。
 そこでまず、ラブラドールレトリーバーの中でも盲導犬に向いている素質をもつ犬を繁殖犬として選びます。そして、選ばれた繁殖犬から生まれた子犬達を盲導犬として育てて行きます。ですから盲導犬として良い素質を持っている繁殖犬をどの協会でも持っています。そして、11団体の内8つの団体が協力し、優秀な繁殖犬を共有するなどのネットワークを組んでいます。このネットワークは、日本国内だけでなく、韓国と台湾の盲導犬協会とも協力しながら進めています。

    

 ところで、盲導犬を使っている人は、1日どれぐらい盲導犬に作業させていると思いますか?結構長めに考えている人が多いです。実はユーザーに話を聞くと、大体一日トータルで1時間位という方が多いです。ということは、1日の大半は、盲導犬は盲導犬をしなくていい時間を過ごしています。寝ることが大好きというのも盲導犬としての大事な素質の一つと言えます。訓練により動き回りたい犬をじっとさせているわけではないのです。

    

 ただ、いくら素質のある犬が生まれても、やはり適切な時期に適切な学習をしないと盲導犬にはなりません。そこでまずは、人間と一緒に暮らすことを犬に経験させるために、ボランティアのご家庭に預けます。そして1歳になったら訓練センターに戻り、そこから約1年間の訓練をします。

    

 そして、訓練した犬を使って安全に歩けるように、視覚障害者の方が4週間の共同訓練を受けます。言ってみれば運転免許を取りに教習所に通うようなものです。どんなに素晴らしいスポーツカーが置いてあっても、動かすテクニックのない人がエンジン掛けたらとんでもないことになります。犬も同じです。どんなに素晴らしく訓練された犬を使っても、安全に歩く方法を人間が分かっていなければ、安全には歩けない。そして、一緒に生活していく訳ですから、訓練だけでなく犬の世話についても習得して頂きます。

    

 この共同訓練を修了して初めて盲導犬とそのユーザーが誕生したということになります。盲導犬ユーザーの中には、盲導犬を使用して通勤する方もいれば、日々の通院、またハイキングやレクリエーションに出掛ける方もおられます。

    

 そして、犬の年齢が10歳になると引退させるようにしています。引退後は、引退した犬を世話して下さるボランティアの家庭で余生を過ごします。盲導犬を引退させた方は、次の盲導犬との共同訓練に入り、新しい盲導犬との生活を送り、そして、また10歳で引退させるという繰り返しです。これがざっと盲導犬が生まれてから引退するまでの流れです。

    

 次に、視覚障害についてお話しします。視覚障害者というと、よく全盲の方を思い浮かべる方が多いのですが、実は弱視の方、見えにくいけど少し見えますという人の方が数が多いです。視覚障害者の中で全く見えない人は大体1割から2割位といわれています。

    

 今日本で目が不自由になる原因としてよく挙げられるのは、糖尿病や緑内障という割と身近に聞く病気です。しかし、この病気になったら失明する、というわけではありません。これらの病気も上手にお付き合いをすると、視力低下を起こさないままの方もいれば、残念ながら視力が低下する方もいます。

    

 他にもう2つ病気があります。1つは中心が見えなくなる黄斑部変性症。高齢者の方に多いと言われています。もう1つが黄斑部変性症の逆のパターンで、徐々に見える範囲が狭くなる網膜色素変性症です。今日本で目が不自由になる原因として主に挙げられるのが、この4つの病気です。

    

 弱視の方は、全く見えない人よりも楽かというと、確かに視覚で確認できる便利な面もありますが、全盲の方より適切な援助を受けにくいという面もあります。弱視は、その方お一人お一人で見えにくさも違いますし、何が見えて何が見えないのかよく分かってもらえないことも多い。例えば、ぼんやりとしか見えなくとも全体的には把握できると、歩いていて何となく足下の色が変わったから、階段があるのではと注意を振り分けられたりします。従って、結構慣れている所では、視力が0.01もなくても、視覚障害を感じさせないぐらいスムーズに歩いている方もいます。しかし、そのような方でも、何か環境の変化があった場合には全盲の人と同じように、安全に歩くには手引きが必要な場合があります。しかし、いつもの様子から周囲の人は困っているとは思わずに、声を掛けにくいということもあります。

    

 また、弱視の方でも、自分の視力だけでは十分に安全を確保できなければ、全く見えない方と同じように、白杖を使って歩く方もいます。白杖は、視覚障害者が安全に歩くために使う杖です。
 2年程前に知り合いの学生がこんなツイッターが流れていることを教えてくれました。「こっちに向かって白杖を使って歩いてくる人が、目の前の俺のこと避けた。本当は見えているではないか」というツイートです。きっとその人にしてみれば、白杖を持っているイコール全く見えない方と思っていたのでしょう。しかし、今言いましたように、弱視の方でも安全に歩くために白杖が必要な方もおられるのです。また、同様に、盲導犬を使っている方々の中にも弱視の方はいます。

    

森永氏によるデモの様子 白杖は体の前で振って歩くというのが一般的な使い方です。体の前で振って歩いて何をしているかと言うと、例えば、これ以上行ったら地面がない、落ちるということを杖でさわって確かめているのです。階段であればどれぐらいの高さ、幅であるかを確かめます。下り階段では、最後の段まで行ったら杖先に床が当たります。これで階段が終わりということが確認出来ます。たった1本の杖ですが、視覚障害者が安全に歩くために最低限必要な情報を、この杖が与えてくれるのです。
 この杖とほぼ同じ役割をするのが、盲導犬です。杖と比べたら凄く色んなことをするのが盲導犬というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、基本は白杖と同じです。盲導犬の具体的な作業は、左側に寄って歩き曲がり角で止まる、段差の始まりで止まる、障害物を避ける、こういったことになります。


久保ますみ氏×森永佳恵氏の対談「私と異文化コミュニケーションしませんか?」

(以下、対談概要)

久保氏と森永氏の対談

久保氏:盲導犬を持とうと思われたきっかけは何ですか。自己紹介を含めてお願いします。

森永氏:森永と申します。よろしくお願いします。簡単に私の日常生活を紹介します。私は生まれつき弱視でしたが、少し見えていました。学校を卒業してから東京の都市銀行で銀行員として働いていました。その後、途中で書類が見えにくくなって来ましたが、疲れているからと思い、ずっと騙し騙し仕事をしていました。その後眼科のドクターに診てもらい「もうすぐ見えなくなるよ」と言われました。ショックでしたが、見えなくなるなら、見える人にはできない面白いことをしたいと思いました。その一つが盲導犬と歩くことです。当時、盲導犬は特別に選ばれた人が使うものだと思っていたので、一生の記念に一度だけ体験歩行をしようと思って、関西盲導犬協会の訓練センターに電話をかけました。体験歩行をしてみると、犬と歩くのがこんなに楽しく、またこんなに早く歩けるんだと思い、盲導犬を申し込みました。

久保氏:実際に盲導犬を使って、どんな生活をされていますか。

森永氏:今は整形外科で患者のリハビリテーションの仕事をしています。 特に私の職場は医療機関なので、犬の衛生面には気を遣っています。犬が臭かったり、毛が飛んだりしないように出来るだけの準備をして出勤しています。この子が盲導犬としてのお仕事をしている時間、つまり、私と一緒に歩いている時間は一日の内、1時間前後だと思います。家から駅まで、乗り換えの時、駅から職場まで、あと買い物。歩いている時間はそんなに長い時間ではありません。
ただ、歩くことだけでなく、じっと待っていることも、盲導犬の大切な仕事の一つです。一緒に迷ったり、一緒に失敗したり、一緒に嫌な思いもたくさんしていますが、この子がいてくれるお蔭で、私はそれ以上に楽しい思い出が沢山あります。この子は四頭目ですが、このように盲導犬と生活しています。

久保氏:白杖で歩いている時と盲導犬と一緒に生活している時との違いは何でしょうか。

森永氏:基本的には同じ仕事をしてくれるものだと思います。ただ、盲導犬が一緒だと孤独感がない。迷ってしまっても「あ、迷っちゃったね。どうしようか。誰かが来るまで待っていようか」と自分にちょっと余裕が出ます。駅のホームに電車が止まってドアが開いたなと思ったら、その時にドアの方向を指さして「ドア」と盲導犬に言ったら、ドアのところに行きます。杖の場合は探してくれません。盲導犬は色んなシーンで対応して探します。例えば「エスカレーターを探して」と言ったら、エスカレーターが見えていれば、エスカレーターまで歩いて行きますし、「階段を探して」という命令をすれば、階段を探してくれます。

久保氏:犬の世話が面倒臭いなという人は、盲導犬を持っていけるものでしょうか。

森永氏:犬の世話が面倒臭いというのは、正直私もたまには思います。しかし、この子達と長い間生活をしていると、面倒臭い以上のことを返してくれますので、今はそんなに大変とは思わないです。本当に面倒臭い人は止めた方がいいです。

久保氏:最近ホームから落ちてしまった事故が続けて起きました。それに関して関心をお持ちの方も多いかなと思います。今までの経験でプラットホームの形状で困ったことはありますか。

森永氏:結局くし形ホームだとか、ホームの幅が狭くなったり広くなったりということは、見えない私達にとって説明して貰って初めて知ることなのです。だから、情報が全くない私達にとって、説明して貰わなかったらずっと謎が解けない問題なのです。

久保氏:ホームがいつもとは違う状況で、困ったこと、危険を感じたことはありますか。

森永氏:びっくりするかも知れませんが、通勤で毎日使っている駅でも、人や物を避けて歩いているうちに方向が分からなくなることがよくあります。私にも本当に駅のホームから落ちてもおかしくなかったという経験があります。通勤でいつも使っている駅でのことです。その日は大雨が降っていて、雨の音がホームの屋根にザーザーと当たっていて、周りの音が聞き取れなかった。また、その雨の影響で電車が遅れていて、ホームに沢山の人がいました。ホームを歩いている内に、方向が分からなくなってしまいました。警告の点字ブロックにも気づかないで、ホームの端に立っていたみたいで、もう少し前に出ようと進んでみたら足元に床がなかった。その時新快速が入って来るアナウンスが流れました。新快速にはねられて死ぬのかと思った瞬間でした。その時は、後ろにいた人が思いっきり私を引っぱってくれて、今私はここにいるのです。ホームの状況、お客さんがいつもと違う、雰囲気が違うなどにより、ちょっとぶつかっても方向を失ってしまうことがあるのです。

久保氏:森永さんにとって歩きやすいホームとはどんなホームですか。

森永氏:今、私達視覚障害者が駅のホームを歩く時には、警告用の点字ブロックを伝って歩いて行きます。このブロックが私の命を守ってくれています。しかし、危険な所であるホームの端にしか敷かれていないブロックを、何で私達はそこにすがって歩いて行かなきゃいけないのかと感じます。もしホームにホームドアがあれば、安心してホームを歩くことができます。

久保氏:駅を利用して「これはよかったな」と思った体験はありますか。

森永氏:京都駅でのことです。自動改札に入ったら女性の駅員さんがいて「すいません、駅員ですが、お手伝いをしましょうか」と声を掛けて下さったのです。京都駅の在来線は全部自分なりに分かっているつもりでしたので、「すいません。有難うございます。分かるので大丈夫です」と返答したら、「そうですか。私後ろからちょっと見守りますね」と、少し後ろから見守る形で付いて下さったみたいです。そして、ホームに着いて、電車が来たから乗ろうかと思い、この子に「ドア」と指示し、乗ろうとした瞬間「あの、先程の駅員です。私これで失礼します。お気をつけて」と最後にちゃんと声を掛けて下さった。最後まで見守りながら、後ろから付いて来て下さっていたのだと感じました。きちんと最後まで声を掛けて下さったので、本当に素晴らしいなと感じました。


コーディネーター(三星昭宏氏)コメント

(以下、コメント概要)

現在ベストセラーになっているサピエンス全史という本の中で、我々人類が如何に犬と共に暮らして繁栄して来たかとをいうことが触れられています。2000年位前から視覚障害の人が犬を盲導犬として利用して来たらしいとされています。それくらい犬と人間の関わりの歴史があります。

インターネットやスマホが全盛の現在の世の中においても、我々人間が犬の力を借りて共存していることを、新しい形として、システム的に改めてしっかりと検討していかないといけないと思います。そういう意味では、真面目に研究しないといけない課題だと思います。

当日の配布資料及び質疑応答