バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第4回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

ターミナル駅におけるサイン表示の現状と課題

開催日
2016年10月26日(水曜日) 15:00〜17:00
開催場所
中央電気倶楽部 西館5階511号室
参加者数
131名
講師
摂南大学理工学部 住環境デザイン学科 教授 岩田三千子氏
NPO法人まちの案内推進ネット 理事長 岡田光生氏
アクセス関西ネットワーク 推進委員 山名勝氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授、関西福祉科学大学 客員教授 三星昭宏氏
コメンテーター
大阪大学未来戦略機構 第5部門未来共生イノベーター 博士課程プログラム特任助教 石塚裕子氏

講演概要

岩田三千子氏「大阪のサイン環境からユニバーサルデザインを考えよう」

(以下、講演概要)

講師:岩田さん

サインというと視覚に訴えるサインを思い浮かべるかたが多いかと思いますが、それ以外にも聴覚や触覚に訴えるものもあります。障害者、高齢者、子供、そして外国人といったように、情報入手困難者と言われる様々な方がサインを使います。私自身はサインをデザインするというよりも、サインを含めた空間をデザインする分野に携わっています。

生活環境におけるサインの課題ですが、どうしても視覚に頼るサインに偏っています。しかし、視覚による情報入手は全体の約8割と言われていますし、視認が困難な方々への配慮が重要だといえます。また、サインが置かれる環境の大規模化、複雑化等などの変化に対する対応も課題です。
ユニバーサルデザインの考え方は、ひとつは障害の有無、年齢、性別、人種などに関わらず、多様な人が有意に使える製品や建築のデザインということです。日本においては、このような考え方の下でデザイン手法そのものがユニバーサルデザインというようにも理解されています。
サインによって情報を入手する方法は、視覚だけでなく五感を活用します。視覚障害者施設などでは、曲がり角のサインとして、水の流れる音、鳥の鳴き声や臭いで示す事例もあります。

    

次にヨーロッパの事例から海外のサインをご紹介します。視覚、聴覚、触覚、嗅覚などを活用した様々なサインがあります。日本と比較すると、サインの重要性、デザイン性において違った面が発見できます。ツーリストインフォメーションのピクトグラムは、ヨーロッパでは「i」と示しています。建物の入り口や名称のサインについて、ケルン中央駅は行燈式で中から光らせて建物自体がサインとなっています。ドイツで見つけた建物入口の地面のサインでは、塗装や貼り付けシートではなく、モザイクの石の色で表していてとても綺麗です。ドイツやデンマークの自転車道の事例では、コントラストが大きく、自転車のピクトグラムも見やすく表されています。

    

最後に、日本のサインを調査した状況をお伝えします。日本福祉のまちづくり学会サイン環境特別研究委員会で企画し、学生や障害者の方が参加して難波地区と、梅田から谷町4丁目へのルートを調査しました。
梅田から谷町4丁目へのルートの調査についてですが、モニター3名には大阪駅前第2ビルから谷町4丁目のパスポートセンターを経由し、マッセ大阪に向かうことを教示しました。「谷町線東梅田駅」というサインが、ある所では「地下鉄東梅田駅」、またある所では「地下鉄谷町線東 梅田駅」となっていたりします。内照式のサイン看板の上に貼り紙で行先表示をしているのは、とても見にくい事例です。
東梅田駅では、天井吊り下げ式の看板は比較的分かり易かった一方で、地下通路の柱の内照式の広告看板は目立つ目線の高さに合わせて沢山ありました。大阪は広告が一番大事なのでしょうか。
しかし、切符売り場の近くてウロウロしていると、駅員さんが声を掛けてくれました。これはとても人的サポートが良かった事例です。
さて、谷町4丁目に着いてからです。サイン情報を探索しました。後からベタベタと沢山貼り紙がされていました。何故貼らないといけなかったのかと考えると、それは最初のデザインが悪かったからだと言えます。本来はサインが必要ない空間を作ることを目指すべきです。移動しやすく、分かり易く、見易いことなどがユニバーサルデザインであるはずなのに、谷町4丁目の大阪府庁付近のサインや表示は、グラフィックな意匠に拘り、見にくい事例、見つけにくい事例が多いです。
また、難波地区の調査では、車イス2名、弱視者2名、晴眼者9名にモニターとして参加していただき、「JR難波駅から南海難波駅で乗換すること想定して、案内表示(サイン)を利用して歩いて下さい」と教示しました。サインを見た場所、迷った場所を回答してもらい、ルート上にプロットしました。分岐が多いところで、案内表示を途中で見失ったという回答が、迷った原因の中で最も多かったです。
階層の構造が複雑な場所で、車イスの方はエレベータを利用するのに対して、有効なサインが無く、元に戻ってエレベータにたどり着くということが指摘されました。サイン表示面での照明の反射光、これを光膜反射グレアといいますが、それによって弱視者の評価が特に低かったです。

    

梅田、難波を調査して分かったのですが、表示面の文字が小さいという指摘が非常に多かったです。パソコン上でグラフィック・デザインしても、それを10m離れて見るのか、30m離れて見るのかによって、見え方が違います。現場の状況に合わせなければ、このような意見が出てきてしまうと思います。もう一つ、周囲の広告などがサインの見つけやすさを妨げていることが指摘されます。サインの重要性をこれからも伝えていきたいと思います。


岡田光生氏「『バリアフリーな移動』のための案内支援について」

(以下、講演概要)

講師:岡田さん

まちの案内推進ネットでは、移動円滑化の案内として、外出される方々に対して事前に情報提供をしたいということで、「えきペディア」というwebサイトを開設して、移動情報をシンプルなMAPにして公開しています。MAPにはエレベータやバリアフリートイレの位置を情報として付加しています。また札幌や福岡など他都市のNPOと協力をして案内冊子を作成や配布などしています。地方から大阪に行こうとした時に、行く前に大阪のマップを入手したいというニーズもあると思いますが、現在コンビニでその情報を出力できるようにもしています。

回答数2000票を得てかつてアンケート調査をしましたのでご紹介します。移動時の制約の有る無し、介助者と健常者のグループで比較しますと、特に介助者から迷ったという回答が多くありました。出口への誘導、地上への誘導に従って行ってみると、エレベータが無くて困ったという回答が多くありました。現場の案内で、移動に制約のある人が欲しい情報を的確に入手出来ているかというと、必ずしもそうではない結果であり案内表示システムとしての課題があり、各都市でも共通しているかと思います。

昨今地上出口がビルと一体化して分かりにくい事例もあります。MAPとともに写真を使って地下と地上との繋がりがわかるようエレベータの案内をしています。バリアフリートイレの情報も単にスペックだけ書かれても障がいの有り様で使用でき無い場合があり、写真を掲載しています。そうすると車いすの方が、実際に移乗出来そうか否かも分かります。地下鉄駅と主要なターミナルで、このようなバリアフリー情報をサイトで公開しています。

ターミナルでは、地下街管理者、道路管理者、鉄道事業者等の様々な方が個々に案内に取り組まれ、サイン表示の連携が必要であると言われます。案内図サインや誘導サイン、名称の表示であったり多くの課題があります。幸い梅田では、地域に共通する案内の仕組み、個々の地区の案内を補完するサブシステムが開発されました。誘導サインなどデザインは個々地区の意匠ですが、情報内容は結節箇所毎に案内対象施設をマニュアルで設定し、適用されています。その他特色として出口番号があります。地下通路にアルファベットと番号を付して、出口を位置特定し、ユニークに番号表示できるようにしています。

これはよく使われるエレベータですが、名前が無いため、人に説明するのに困ります。梅田では、この位置特定の仕組みがあるので、モデルの様な番号表示も可能です。地下、地上、デッキ上、連携した現場での表示とそれらの案内が大切になってきます。近畿運輸局とこのような取り組みの実証実験が出来ればと考えます。エレベータは民間のビルにも設置されています。しかし、地下鉄に繋がっているか否か分からない。民間ビル側或いは道路施設としてのエレベータの案内が、今後の課題ではないかと思います。

地下鉄駅やターミナルの交通機関間の乗換えを案内するバリアフリーMAPを作成していますが、これらwebサイトで整備されている情報をAPIで、事業者のwebサイトの案内にオプション、或いはサブシステムとして活用して頂ければ、不足している周辺施設や移動円滑化の情報を容易に補完し、提供できるのではないでしょうか。そうすると利用者に案内として提供される情報が繋がり、人々の回遊性も高まり、街で有効に時間を使って頂けるようになると思います。
お配りした神戸三宮ターミナルマップには広告が入っていますが、交通事業者、案内所、ホテル等に配布して上手くお使い頂きました。阪神三宮駅で使って頂いた例では、日本語、英語併せて一日で45枚位、年間にすると2万枚位の需要があると分かります。そこから考えて梅田であればどれくらい必要か考えられるかと思います。

これから向かう先の都市のターミナルのマップが事前に手に入れば、現地に着いた際に迷わないで済みますから、福岡、沖縄、関空などでの配布もしました。これから、都市間で相互に案内の連携を図っていくことは、ますます外国客が増える、高齢化が進む社会においては非常に大切であると思います。


山名勝氏「ターミナル駅のサイン表示 事例と考察」

(以下、講演概要)

講師:山名さん

私は車いすを利用しており、普段は移動制約者のアクセスの問題に取り組んでいます。同時にサインも重要な問題でありますので、やや専門的な視点からサインのことも考えています。

最近大阪ではサインのリニューアルが行われていて、その代表的な事例をご紹介します。

新大阪は、JR西日本、JR東海、阪急、大阪市交通局という4つの事業者が乗り入れています。とても複雑な駅です。サインの統一もやりにくい所です。3階のメイン通路です。課題は文字が小さいことです。近づかないと何が書かれているのか分かりません。JR東海の新幹線の箇所です。「のりば」の表示は大きくて見やすいです。問題は乗り場案内の掲示です。自分が乗る新幹線のホームがよく分からないです。逆にどのエレベーターに乗ればどのホームに行けるかのサインは非常に優れています。2階のJR西日本の乗り換え箇所です。リニューアルされて非常によく分かります。何番ホームに行くエレベーターかよく分かりますが、そのホームに着く列車がどこ方面行きなのかは、近づかないと分かりません。大阪駅北側の事例です。階段とエスカレーターはありますが、エレベーターの案内がありません。エレベーターの案内がなければ車いすの人々は途方に暮れてしまいます。乗換え案内はあっても、一部の移動制約者への案内がゼロの事例です。

大阪市交通局の事例です。記号と数字で表そうという考え方です。しかし、このサインだけではどこに出るのか分からなく、また文字も小さいと思います。 台北、上海、香港と比べると文字の大きさは1/4程度しかありません。漢字の特性はアルファベットに比べると圧倒的に文字数を少なく出来ます。その分文字を大きく作れます。更に漢字そのものをピクトグラムとして使用出来ます。日本とは発想が異なります。漢字を使う国のサインを考え直す必要があると思います。

最近の東京メトロの事例です。全て目的地までの距離が書かれています。大阪の事例では方向は分かっても、距離がありません。エレベーターの出る先の情報も不十分であります。地上に出てから情報があっても仕方がありません。 最近床サインが増えてきました。床サインを有効に使うのは分かり易いです。これを上手に使うと良いと思います。しかし、床サインは途中で終わってしまうととても不親切です。

次に外国の事例です。台北の駅の改札です。改札に入る前に方角別に行先情報が掲示されています。ホームでのエレベーターの案内も、方角と距離が出ていて親切です。エレベーターの塗装は非常に派手にされていて、塗装そのものがサインになっています。香港の事例です。このエレベーターに乗るとどの線に乗れますと表示がされています。カラーリングも中途半端ではなく一貫しています。

サインの機能は、初めて訪れた人が迷わずに目的地まで辿れるためのものでありますが、その機能が日本では十分に果たされているのでしょうか。決して綺麗に表現するものではないはずです。


第4回バリアフリー推進勉強会 in 関西の様子 第4回バリアフリー推進勉強会 in 関西の様子












コメンテーター(石塚裕子氏)コメント

(以下、コメント概要)

岩田先生からは、サインそのもののデザインではなく、サインのある環境をデザインしないといけないという重要なご指摘を頂きました。大阪の地下街の事例をご紹介頂きましたが、限られた空間の中で、サインと広告物の競合について、どのように共生させていくデザイン手法があるのかを、岩田先生に教えて頂ければと思います。

岡田先生からは、NPOという民間のお立場から様々な情報を整理するという中で、乗り換え経路に着目されて、地上と地下の空間の情報を一つにまとめて発信されているところが大きなポイントでありました。情報提供の方法として写真掲載し、利用者が自身の観点から利用できるかどうかを判断出来る情報を提供されているのは流石だなと感じました。また、事業者毎、管理者毎で整備される情報を、その枠を超えて繋げる役割を岡田様のエキペディアが担われているのがよく分かりました。

山名様のご発表ですが、大阪を中心に実際に利用された立場から事例を紹介いただきました。途中で見落としてしまうサイン、地上と地下のサインの共通性が必要というポイントをご指摘頂きました。また海外の事例もご紹介を頂き、20m毎にサイン或いは距離を表示するというような、日本でも参考になる事例のご紹介も頂きました。特に障害当事者の方々が、どのような点に着目してサインを利用しているのかを踏まえた整備の重要性を、改めて確認することになりました。


コーディネーター(三星昭宏氏)コメント

(以下、コメント概要)

私の所には障害当事者から多くの意見が寄せられます。各事業者は個々には非常によくサイン表示に取り組まれていますが、やはり情報が別々であり困っているという意見が8割位あります。

ドイツや北欧では運輸連合というものがあり、自治体からの公共交通への助成金の配分、ダイヤ、長期的な路線計画などが一元的に議論される場です。仕組みの違う日本に直ぐに当てはめられないのは分かった上ですが、このような場でサインも整備されれば、岡田さんがされているような取り組みも、持続可能になるかと思います。

岡田さんの取り組みについて皆様に知って頂きたいのですが、とても重要な取り組みをなさっています。日本の多くの大都市をカバーされています。しかし、財政的に考えますと、継続実施がとても困難な面もあります。殆どボランティアで実施されているこのような取り組みを、継続出来るような仕組みが必要だと思います。

当日の配布資料及び質疑応答