バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第33回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

利用者が感じる「明るさ」「見やすさ」「眩しさ」の設計
〜輝度コントラストを用いた公共空間の視認性評価〜

開催日
2016年6月28日(火曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム6C
参加者数
66名
講師
東京工業大学環境社会理工学院 教授 中村 芳樹氏

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

    

(以下、趣旨説明概要)

2011年3月の東日本大震災の発生後、節電のため鉄道駅の照明は消されて暗くなり、ロービジョン者にとって歩きにくい環境となった。震災後に慶応義塾大学の中野教授が実施した「駅の光環境に係る不便さ調査」によると、通路は人が多くて歩きにくい(ぶつかる、早く移動できない)、地上から地下へ至る階段に入った時に暗い、柱や曲がり角等が発見しにくい等の課題があることが明らかになった。それを踏まえ、エコモ財団では、旅客施設でのロービジョン者の移動の手掛かりと課題について調査を実施し、これまでの照度だけの照明計画ではなく、輝度コントラストを用いて設計することで、ロービジョン者や高齢者等が安全に移動する空間をつくりだす重要性を示した。

第33回勉強会は、照度と輝度を一体的に評価し、より人の見え方に近いシミュレーションを用いて照明計画を行う必要性をテーマに開催する。

中村芳樹氏「利用者が感じる『明るさ』『見やすさ』『眩しさ』の設計 〜輝度コントラストを用いた公共空間の視認性評価〜」

(以下、講演概要)

講師 中村さん

私の専門は、建築設計であり、特に環境工学の照明設計と色彩設計である。よりよい照明や色彩を設計するには、当然のことだが、さまざまなモノが人にどのように見えるかを考えながら設計することが必要であり、このような考え方に基づいて、具体的に照明・色彩設計を進めるための方法を研究している。今日の話題は、光の無駄使いをなくそうという内容である。光があるだけでは、明るさを感じないし、モノを見ることができない。必要なモノがちゃんと見えるか、空間にふさわしい明るさを感じることができるかを、根拠に基づいて推定した上で、照明や色彩を設計しなければならない。

◇なぜJISの照度基準では設計できないのか。

例えば、マサチューセッツ工科大学のチャペルは、円筒形の天窓から光が降り注ぐ構造となっている。天窓は直径4メートルぐらいで、天窓の輝度を30cd/m2程度とすると、この光源の光度は377cdとなる。天窓を点光源とみなすと、天窓からから離れれば離れるほど照度は低くなる。天窓付近(地上から9メートルぐらい)の照度は377ルクス(以下、lx)であり、天窓から3メートル離れると約42lxとなる。ところが、このチャペルを訪れてみると、天窓から遠く離れた祭壇付近が一番明るく見える。エーロ・サーリネン(Eero Saarinen)は、このチャペルを設計するにあたって、祭壇付近が一番明るく見えるような工夫をした。よく見ると、天窓の周囲から糸が釣り下がっていて、その糸に金属板(モビール)が結びつけられている。その金属板の間隔が、天窓付近では疎に、祭壇付近で密になっている。われわれは、目に光が入射して初めて明るさを感じるから、この場合、この金属板に当たって反射した光が目に入射することによって明るさを感じ(輝度の効果という)、祭壇付近には多くの金属板が設置され、反射して目に入る光がもっとも多いため、祭壇付近がもっとも明るく見える。このように、ただ光があるだけでは、すなわち、単に照度が高いだけでは、私たちは明るさを感じないし、何も見えない。天窓と祭壇の間の空間には、確かに光が存在するが、このモビールがなければ、真っ黒となり何も見えないのである。

私たちの目に入る光を設計してはじめて、明るく見せることができる。すなわち、明るさを感じさせるために目に光が入ることを考慮し、照度だけでなく輝度も設計することが必要である。均等拡散面(光沢のない面)の輝度と照度は、反射率が一定ならば比例の関係にあり、その反射率もマンセル値を用いて推計できる。照明設計にあたっては、照度だけではなく、輝度を作りだす面、すなわちは光を反射する面を考えることが重要であり、すでに輝度の設計は建築学会や照明学会などで規準化されている。そして、水平面だけでなく、われわれから目から大きく見える、壁面や天井面の照度、輝度が求められ、その推定には3次元の照明シミュレーションが必要となる。ところが、明るさ、グレア(まぶしい光)、視認性といった検討が必要な見え方(アピアランス)は、対象輝度だけでは決まらない。アピアランスを検討するには、輝度だけでなく背景とのコントラストの情報を加えることが不可欠である。

◇コントラスト・プロファイル法について

第33回勉強会の様子

一方、ディスプレイ上で写真を見たとき、ディスプレイ上にはRGBのドットから出力される光が並んでいるだけで、各ドットから出力される光の違いだけで空間があるように見える。われわれの目は、写真のような画像を知覚するという機構をもち、輝度画像は精度の高い白黒写真といえ、あまり難しいモノではない。雑誌などに掲載された写真は適正露出で撮られているため、数値としては正確とは言えないが、相対的な関係は保存されるためリアルに見える。輝度画像は、数値をもった正確な写真であると考えればよい。露出情報やホワイトバランス情報が与えられれば、写真から輝度画像を生成することは可能である。アピアランスを考える時は、まずは照度ではなく輝度で考え、さらにコントラストを加えて検討することが重要である。そして輝度画像、すなわち精度の高い写真があれば,輝度コントラストの効果と輝度の絶対値の効果を抽出することができる。この効果を抽出するための方法がコントラスト・プロファイル法である。この方法を使えば、現実環境の複雑な輝度分布においても、視認性や明るさやグレアを検討しようとする対象のサイズ、輝度コントラスト(C値)、対数輝度平均(A値)を客観的に算出することができ、求められた値をCA図(横軸:対数輝度平均、縦軸:輝度コントラスト)にプロットすれば、その効果を正しく評価できる。また、CA図が作成できれば、等明るさ曲線やグレア評価などに応用でき、多角的に評価することができる。

◇まとめ

照明設計を行う際、照度設計だけでなく3次元照明シミュレーション・ソフトを使って輝度画像を作成し、輝度コントラストを算出、評価することで、利用者の安全、安心、快適な空間を生み出す照明設計となる。

当日の配布資料及び質疑応答