バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第32回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

旅客施設の階段昇降と手すりの安全性について 〜飾りじゃないのよ、手すりは〜

開催日
2016年5月28日(土曜日) 14:00〜17:00
開催場所
AP品川アネックス Q会議室
参加者数
42名
講師
元千葉工業大学 教授 上野 義雪氏
話題提供
手すりについて考える会(大阪)

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

(以下、趣旨説明概要)

『バリアフリー整備ガイドライン』において、「手すり」の記載はあるものの、実際の手すりの設置には、手すりの目的・用途を満たしていないものがある。また、階段昇降機が設置されていると手すりが使用できない場合や、壁面と手すりの隙間が全くなく、握れない場合などの問題がある。そこで、手すりの重要性について議論するために本勉強会を開催する。

手すりについて考える会

(以下、話題提供概要)

近年、関西地域でも旅客施設、公園、観光地(寺社仏閣)、水族館等に波形手すりの設置が広がっている。波形手すりのメーカーのホームページでは、従来の直棒よりも波形は利便性・安全性が高いと謳われている。しかし、階段の昇降に手すりを必要とする障害当事者から「使いにくい」という声が少なからず上がっていたため、この波形手すりは、メーカーが言うように本当に使いやすく、安全なのか疑問を抱き、自主的に検証するため「手すりについて考える会」を発足させた。

障害当事者を中心に波形手すりについてアンケート調査を実施したところ、「73%」が使いにくいと回答した。使いにくい点として、「握りにくい」「手を沿わせにくい」「どこを持って良いか迷う」との意見が多かった。また、現地測定の結果、階段の段数と波形手すりの波形の数が一致していなく、手すりの設置の高さが、階段の「下段」「中段」「上段」でそれぞれ異なるところが判明した。

【障害当事者報告】

話題提供者:長谷川さん、西平さん

西平氏(痙直型両麻痺:ロフストランドクラッチ使用)は、落下の危険性があり、足元だけではなく手元にも注意が必要なため、直棒以上に気を使わなければならない。また、階段をリハビリの場としても利用しているため、機会が奪われていると指摘した。

長谷川氏(両上下肢機能障害)は、波形手すりはつかんだり、離したりする動作が必要なため、非常に危険であると指摘した。


話題提供者:細江さん、三原さん

三原氏(視覚障害:白杖使用)は、手すりの傾き具合で階段構造の状況を判断しているため、波型だと手すりの傾き具合が分からず、階段の状況が判断できなくなったと指摘した。

まとめとして、日常的に手すりを必要とする人たちにとって、波形手すりの使用は困難となっており、波形手すりの安全性等の検証、ユーザーの声を反映する仕組みの構築がまだ不十分であることから、不特定多数の利用者が想定される公共空間において波形手すりを導入することは、好ましくないと指摘した。


上野義雪氏「階段を安全に利用するための手すりの重要性について〜インテリア計画・人間工学の視点から〜」

(以下、講演概要)

講師:上野さん

最近は、ものづくりを安易に考えるようになったが、物づくりには最終的な「評価」が重要である。物の価値について科学的に分析し、定量的に検証することは大切である。つまり、物づくりには、正しい評価がなければ、出来たとは言えない。

手すりにおける基本な考え方は、「火災や地震などの非常時に使用できること」である。非常時にエレベーターやエスカレーターが使用できないとき、階段は最後の命綱(脱出経路)となり、手すりは手がかりになる。

階段手すりの高さについては、建築基準法で具体的に決められていない。ただし、住宅の場合、手すりの高さは85cm程度となっているが、用途等は明確になっていない。

手すりの役割としては、「歩行用」「階段用」「墜落、転落防止用」「動作補助用」に区分できる。特に階段手すりには、転落防止と歩行補助が重要である。階段の昇降における動作として、「昇る」場合は、身体の引き上げ動作に伴い、手すりの持ち替えと摺り動作が必要となるため、手すりは直線性と鉛直性が求められる。反対に「降りる」場合は、重力方向のブレーキ動作に伴い、手すりの摺り動作が必要となるため、手すりは直線性と連続性が求められる。

手すりの形状は、「直棒(異形を含む)」「絞り」「波形」に分類でき、それぞれの特性によって用途も違う。手すりの形状別に階段での昇降時間、身体距離、感覚評価を行ったところ、総合的評価として「絞り手すり」が最も高かった。また、手すりは非常時に手がかりとなる設備でもある。そのため、開眼時、視覚遮断(アイマスク使用)時による手すりの形状別に使用性評価を行ったところ、やはり「絞り手すり」の評価が最もよかった。

結論として、階段手すりの機能条件は、(1)手になじみやすい径・形状・材質であること、(2)階段勾配に対応する手すりの形状であること、(3)直線性・連続性に影響を与えない形状であることが必要となる。

さらに、電車やバスの車内において水平手すりや車いすスペースに設置されている手すりは、「直棒」より「絞り」の方がよい。なお、手すりの性能を簡単に評価するためには、抵抗がなくなるように手袋を使えばわかりやすい。最近はデザイン性が優先されている。例えば、座席間に設置されている手すりは湾曲した(R形状)が主流となっており、さらにヘアライン加工で滑りやすくなっているが、安全性を考慮すると「直棒」で「絞り」形状がよい。

また、トイレに設置されている手すりは、縦と横手すりで機能が違っているため、縦と横手すりを結ぶ斜め手すりは危険である。某大手家電メーカーのドラム式洗濯機のチラシには車いす使用者の利用方法を考えていないため、間違った内容で宣伝していたり、最近のIC改札機の残額等表示画面は奥側から手前に変わったため、改札通過の動作では確認できなくなった。このように、改善した場合でも、改悪になることがある。

最後に、「たかが手すりではない」、手すりを中心に手がかりとなる設備(身体支持具)の気がかりを見つけること。そして、対応することが大事である。

◇人間工学について

第32回勉強会の様子

私の経験上、物づかいにおいて不十分な三教育があった。(1)不十分な教育で卒業生を誕生させてしまった。例えば、建築学において建築基準法は教えても、バリアフリー法などは十分に教えられなかった。(2)就職先でも企業等に余力がないので教育する余裕もなく、多くを知らずに物づくりを行っている。(3)ユーザーは、選び方も、使い方も知らないで物を購入し、間違った使い方をしている。今や、ネットで簡単に様々なものを買える時代になったため、本当の使い方がわからず、間違った使い方をしていることが多々ある。

そのため、これからの使い手の専門家は、領域の広さと深さを身につけて、確かな物づかい、手応えのある物づかいが必要となっている。また、生活における人間工学の実践で賢く生きるためには、「1.みること」@気がつく(知覚すること)、A気が利く(配慮ができる)、B行動ができる、「2.比べてみる(比較)」、「3.疑問をもつ」が重要である。

当日の配布資料及び質疑応答