バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第3回バリアフリー推進勉強会 in 関西 開催結果概要

2020年に向けてバリアフリー対策の現状と関西におけるこれからの課題

開催日
2016年4月25日(月曜日) 14:00〜17:20
開催場所
中央電気倶楽部 本館5階511号室
参加者数
97名
講師
東京大学大学院 工学系研究科 准教授 松田雄二氏
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 パラリンピック統括部長 中南久志氏
NPO法人DPI日本会議 事務局長 佐藤聡氏
話題提供者@
神戸ユニバーサルツーリズムセンター・NPO法人ウィズアス 代表理事 鞍本長利氏
話題提供者A
ハンドル型車いす問題を解決するために「行動する当事者の会」 代表 山名勝氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授、関西福祉科学大学 客員教授 三星昭宏氏
コメンテーター
大阪大学未来戦略機構 第5部門未来共生イノベーター 石塚裕子氏

講演概要

松田雄二氏「IPCガイドラインとパラリンピックアスリートの活動実態」

(以下、講演概要)

講師:松田さん

IPC (International Paralympic Committee)とは、国際パラリンピック協会の略で、パラリンピックを主催し、様々な関係団体を束ねています。このIPCのアクセシビリティガイドを基にして、オリンピック・パラリンピックが行われる毎に各開催地独自のガイドラインが作られて来ました。2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて「どのように施設整備していけばいいの?」となった時に、必ずIPCガイドというものに基づかないといけない訳です。

このガイドには2つの役割があります。一つ目が、会場やサービスを設計する際の包括的な基準を必要とする大会開催都市のニーズに応えること。二つ目が、世界中の観衆の為にアクセシビリティに関するベンチマークを造ること。世界を見渡しても建築基準を含め法整備がまだ不十分な中、単にスポーツイベントに限定されたものではなく、世界のアクセシビリティの向上を目指すという、高い理想を描いている訳です。

IPCガイドでは、オリンピック・パラリンピック大会だけのものではありません。また、建物や交通環境だけでもなく、サービスや情報伝達まで幅広くアクセシビリティに対する留意事項を示しています。日本の基準等には存在しない概念としえ、IPCガイドでは「付加アメニティ」や「車いす使用者に配慮した客室」など、様々な工夫も提案されています。現在調査研究として、実際の競技者にアクセシビリティの課題を聞いていますが、残念ながら多くの問題が残っています。IPCガイドを参考に、「完全に」ではなくてもなんとか「使える」ようにすることで、様々なチャンスが広がるのではないか、またIPCガイドにあるように「相手を理解する」ことで、様々な解決方法があるのではないかと感じています。

中南久志氏「大会準備におけるバリアフリー対策の進捗と課題」

(以下、講演概要)

講師:中南さん

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、主催者である国際オリンピック委員会IOCと国際パラリンピック委員会IPCから、オリンピック競技大会とパラリンピック競技大会をそれぞれ委託され、大会の運営を担う組織です。

IPCは『アクセシビリティガイド』を公表し、会場や指定される公式空港、更にはラストワンマイルと言われる最寄り駅から会場までのルート整備を、課題として投げ掛けています。従って、組織委員会としてまず着手すべきは、会場の整備とその会場に至るラストワンマイルの整備になります。ただ各国で法律が異なり、勿論IPCもその国の法律は無視できないため、法律も踏まえつつ、こういった整備を出来ないかと施設所有者等に投げ掛けることになります。一昨年11月に、内閣官房と東京都、組織委員会の三者で、アクセシビリティ協議会を立ち上げ、現在、東京大会に適用するガイドラインを検討しています。

今年度から会場、観客動線へのガイドライン適用が始まります。新国立競技場や東京都が建てるアクアティクスセンター等の3つの新設会場等には、ガイドラインに沿った基準で設計をして頂くようにお願いをしているところです。

最寄り駅の整備も組織委員会が手を出せるところではありません。東京都交通局、メトロ、JR東日本、その他の私鉄などの関係者の方々に「ここはこういうふうになりませんか。」とお願いしていくことになります。

まだまだ課題が多いですが、協力的な関係者の方もいらっしゃいます。そういった方々のご理解を得ながら、一歩一歩進んで行きたいと考えています。

佐藤聡氏「2020年東京大会に向けた提言」

(以下、講演概要)

講師:佐藤さん

2013年にアメリカで3つの野球場を見学しました。ヤンキースタジアムでは、チケットを買う普通の窓口の横に座席を選ぶ表が貼ってあり、よく見ると青い車いすマークが付いていて、これが全部車いす席でした。68ヶ所あり席は500席以上あると言われています。圧倒的な違いにびっくりしました。甲子園球場の31カ所で喜んでいる場合ではなかった。

球場の1層目の一番上がコンコースになっていて、そこにぐるっと一周車いす席がある。そして、2層、3層目にもちゃんと車いす席がある。一番前にも席が用意されている。日本ではほぼ1層目だけしかない。車いす席を水平、垂直に分散するというのが国際的な流れです。

ヤンキースタジアムでは、大きいエレベーターがずらっと並んでいた。3人が車いすで乗ったが、まだまだ乗れました。更に素晴らしいのは、2階や3階に行くのに車が通れる位の幅広のスロープがあり、ここを皆歩いて上の階に上がって行く。これが良いのは、災害が起きた時に車いすの人も逃げられることです。

帰国後アメリカの球場について調べると、ADA Standardsという基準があり、様々な事項が書いてありました。前の人が立ち上がっても車いすの視界がきちんとグランドレベルで確保できるよう、サイトラインの確保についても図入りで書かれていました。一方で日本のバリアフリー法には、サイトラインについて書かれていない。日本のバリアフリー法は遅れており、国際的な基準にバージョンアップしなければいけないなと感じました。

日本とアメリカの違いとして感じたのは、健常者と障害者の場を分けない。入口から出口まで全て健常者と同じルートということです。そして、通路、トイレも、どこに行っても広く、エレベーターも開放型です。チケットもアメリカはでWEBで買える。更に当日どの窓口に行っても買えるというふうにアクセスが全部同じです。

東京オリンピック・パラリンピックへの取り組みは、当事者参画を非常に進めて頂いています。アクセシビリティガイドラインの検討会の中にも、私達障害者団体をたくさん呼んで頂いています。そして、こちらからも意見をきちんと提案させて頂き、それを基にまた修正をして頂くということを、かなり丁寧にして頂いていると思います。従って、非常に良いガイドラインが今出来ています。

新国立競技場についても、アクセシビリティワーキングに当事者団体が参画し、何回も意見交換をし、最初の案からだいぶ手を入れて、今修正をして下さっています。このように当事者の意見をきちんと聞き、それを反映して行こうという機運がもの凄く高まっています。これは本当に嬉しいことです。更にオリンピック・パラリンピックだけではなく、日本全体のユニバーサルデザイン化を進めようということで、内閣官房が主催してユニバーサルデザイン2020関係府省連絡会議が始まりました。日本全体のユニバーサルデザインの提言をまとめるということを今やっています。夏に中間報告を出し、12月にまとまる予定ですので、是非こちらも注目して頂きたいと思います。

鞍本長利氏「ユニバーサルツーリズムの目指しているもの」

(以下、講演概要)

本当に介助が必要な人達が旅に出たいと思う時に、障害を持つ人達の前にある大きな扉の鍵は、日常的に介助している人が持っている。しかし、その鍵はなかなか使われない。何故かと言うと、本人は色んな所に飛行機や新幹線に乗って行きたいが、介助者が鍵を開けてしまうと、介助者自身が大変なことになるから。そこで、旅先で必要なサポートが得られるサービスはどうでしょうというのが一つの提案です。

これまでは出発地から介助者を同行させていくケースが多かった。例えば、旦那さんが車いすの奥さんと東京から有馬温泉に行く際には、介助者を東京から同行しており、介助者の人件費、交通費、宿代など様々な負担が発生していました。しかし今は、例えば神戸に来ると、介助が必要な方の抱えている問題に対して、必要なサービスを必要な場所できちんと提供することができる。ということは、夫婦二人で来ても、旦那さんと奥さんが別々にお風呂入ることが出来る。入浴介助以外にも、排泄介助や食事介助など必要なサービスは全て提供可能です。

このように日常的に介助者が抱えている問題を、訪れた街のネットワークで解決する仕組みを作っていく必要があると思います。全部が繋がって来ると、旅はもっともっと変わって来ます。

障害のある人達の抱えている問題を解決する仕組みは凄く大切です。そして、それが大前提にあった上で、今度は日常的に介助している人の抱えている問題を解決する。それが、私が今日お出しした資料に書いてある「いっしょに楽しむ」という大きな目標です。要は誰かが犠牲になるのではなく、旅を一緒に楽しむ。障害の有無に関わらず旅した時に一緒に楽しめる環境を、どう作り出して行くかということが大きな課題になっていると思っています。

「5−1=0」ですよというユニバーサルツーリズムの数式。これは勝手に私達が言っています。この数式を色んな講演で言います。この意味は、例えば5人家族の中で、1人の人がある日何らかの障害を持ったとする。そうすると今まで行けていた5人での家族旅行が、その1人を置いては、今後は行けなくなりますということです。これは実際に起こっていることです。

よく講演時に「ここに来られている人の中で、自身が車いす利用者になったとして、あなたはここに何の問題もなく来られますか?或いは、トイレをちゃんと使えますか?」という質問をする時があります。自分の問題として初めて認識してこそ、この問題は前に進んで行くのかなと思います。

私達は沖縄から北海道までネットワークを作って行きながら、訪れた街の中でその人達を支えられる仕組みを広めて行こうと思っています。

山名勝氏「報告、関西から見たオリ・パラ アクセス問題と進んでいる京阪神でのバリアフリーの取り組み、しかし!」

(以下、講演概要)

東海道山陽新幹線は、博多開通から座席配置は1回も変更されておらず、全く現状に合っていない。16両編成、定員1,323人に対して、車いす座席と表しているのは2座席しかない。IPC基準から言えばとんでもない数字です。新幹線で車いす座席と称しているものは、電動車いすのことは全く考えられていない。1座席だけを外してあるので、大きく見ても45pしかない。この中に入る車いすは殆どない。実態ははみ出して無理矢理乗っている。これを車いす座席といまだに言っている。

もう一つの大きな問題は、ハンドル型電動車いすの鉄道乗車制度というとても妙な制度が2003年にできた。車いすの人の鉄道利用を促進する為に作った制度ですが、これを鉄道に乗せないことに利用している鉄道事業者がいる。今、日本のハンドル型車いすの利用者で、本制度で乗れる資格を持っている人は全国で30人位しかいない。実際には40万人位使用者がいると言われているが、殆どの人は乗れない。従って新幹線は車いすの人を運ぶ能力を殆ど持っていない。これは大問題であります。

関西が持っているバリアフリー文化は、関東が持っている文化と比べると数段進んでいる。大阪モノレールでは、凄く簡易な方法で全駅、全扉に固定スロープと固定柵を組み合わせて設置して、段差隙間を解消し、自由に乗り降りが出来るようになった。認可に2年掛かったそうですが、頑張ってくれたお蔭で後から続く会社はとてもやり易くなった。

バリアフリー化の困難な駅に対し、果敢に取り組んで完璧な状態で仕上げたのが、阪神電鉄の三宮駅。電車を全く止めずに運行しながらやったという離れ業みたいなことですが、段差解消、隙間解消、そして、エレベーターの設置、これらを組み合わせて新しい試みをどんどんやった。

バスの残された問題はバス停です。バス停がきちんと15cmマウントアップされないと、ノンステップバスの機能は無くなる訳です。そして、運転手がきちんとバスを正着させることが大切。バス停をこのように乗り降りし易くするというのが残された問題です。

関西の障害者団体がアクセス関西ネットワークという団体を作り、障害者全体が関西での取り組みについて考えたり、運動したりしている。この団体では、バリアフリー化に貢献した交通事業者を表彰しようと、アクセス関西大賞いう表彰を始めました。第1回が阪神電鉄の取り組み。第2回は、段差隙間解消の先鞭を切った大阪モノレール(辞退)。第3回は大阪市交通局の取り組みを表彰しました。

2000年の交通バリアフリー法は劇的な効果を上げたが、まだまだ課題も多い。この交通バリアフリー法は目的が施設や経路の移動円滑化に限定されていて、利用するとか便利性という観点を全く持っていなかった。そこに色んな問題がある。もう一つはガイドラインの作成に対して、当事者の視点が少し弱い。例えば、全国一律の基準で作った為に、東京駅の新幹線ホームに9人乗りエレベーターが1基しかない。こんなことで間に合うわけがない。その辺りをどうクリアして行くかが課題です。一遍に全部やらなくても良い訳です。きちんと数値や目標を決め、それを達成して行こうという努力をすることが大事だと思う訳です。

第3回バリアフリー推進勉強会 in 関西の様子 第3回バリアフリー推進勉強会 in 関西の様子













コメンテーター(石塚裕子氏)総括

(以下、コメント概要)

松田先生からご発表のあったIPCのガイドラインは、観光バリアフリーに応用できるガイドラインであり、学ぶ所が多くありました。中南様からは、オリ・パラに向けての準備状況についてご報告があり、協力を求める主体が多様な中、課題が多いとお話がございました。佐藤様からは世界オリ・パラに向けたその世界基準を国内基準にというお話がありました。

実は私は関西から殆ど出たことがない人間で、つい先日までオリ・パラも他人事みたいな感覚を持っていました。今日のお話を聞いて、世界基準を国内基準にということは、我々日本のバリアフリー水準を上げるという意味で、非常に貴重な機会を迎えているということを改めて確認しました。オリ・パラの推進には課題が多い中で、関西の取り組み事例も参考にしていただき、全国で応援をしていかないといけないということを強く感じました。

当日の配布資料及び質疑応答