バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第17回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

発達障害者を知る!〜当事者研究とコミュニケーション支援の最前線〜

開催日
2014年11月11日(火曜日) 14:00〜17:05
開催場所
ハービスPLAZA 会議室8〜10
参加者数
59名
講師
東京大学先端科学技術研究センター 特任講師 熊谷晋一郎氏
東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員 綾屋紗月氏
兵庫県立福祉のまちづくり研究所 研究第一グループ・研究員 大森清博氏
コーディネーター
近畿大学 名誉教授 三星昭宏氏

講演概要

はじめに澤田より、今回のワークショップは大阪で初めての開催となるため、当財団の目的や沿革等の概要と、バリアフリー教育訓練(BEST)の実施や手話教室の開催など関西の交通事業者向けに行っている取り組み内容を中心に説明を行いました。

講師:熊谷さん

次に、熊谷氏より発達障害をわかりやすく理解するため「当事者研究」について解説いただきました。「当事者研究」とは、障害や病気を抱えている当事者が、困りごとの解釈や対応について、医者や支援者にまかせっきりにならず、自身の困りごとについて研究の対象として捉えなおし、似たような経験をもつ仲間と共有することで、困りごとの原因やメカニズムについて考える実践であると指摘されました。当事者研究の歴史は、精神障害からはじまり、発達障害や依存症、認知症に徐々に広がっています。なお、当事者研究には2つの意義があります。1つは専門家では創造できなかった新しい学術的知識の仮説が行われること、2つ目は当事者が研究に参加することによる回復支援ができること。1990年代以降、発達障害当事者によるエッセイなどが発表されはじめ、近年では学術論文などによりさらに発展しています。その結果、専門家が考えていた発達障害は一面的であったことがわかってきました。

そこで、2012年から当事者研究を中心に添えた新学術領域研究として「構成論的発達科学」に取り組んでおり、医学、心理学などの外部観測的な人間科学や、ロボット学、情報学などの構成論との協働を行い、新たな支援法を検討しています。

具体的な事例として、発達障害当事者研究の中から「人の顔を部分的な特徴で見てしまうため全体像がわかりにくい」という仮説が提案されました。この仮説を検証するために、自閉症者のスキャンパターンを調べた結果、ランダムな順序でスキャンしていることがわかりました。一方で健常者は、ある決まった順序でスキャンしています。

講師:綾屋さん

続いて、綾屋氏より、「発達障害の当事者研究について」と題し、お話いただきました。「当事者研究」とは、当事者(困りごとを抱えた本人)が仲間とともに自分自身の困りごとを研究(観察・仮説・実験・共有)すること。綾屋氏の場合、身体内外からの刺激や情報を細かく大量に拾い過ぎてしまうため、意味や行動のまとめあげがゆっくりの状態となってしまい、情報と情報の連携・つながりを感受しにくくなってします。つまり、たくさんの感覚情報を処理できず、頭を埋め尽くしてひどく苦しくなる感覚飽和の状態となってしまうということです。例えば、視覚については、フォーカス機能が働き、モノの全体ではなく、一部(パーツ)を注視してしまうため、その情報を大量に記憶することで苦しさが生まれます。また、聴覚については、耳に届くすべての音から雑音(ノイズ)の除去が難しく、あらゆる音が押し寄せることで飽和になります。さらに、入眠時に映像や音声などのフラッシュバックが起きることがよくあると説明されました。

また、言葉には現実・意味を伝える機能と目的・行為を伝える機能の2種類があります。通常は、その時、その場面でどちらを伝え、どちらを受け取るかは多数派の人々の習慣のなかで自然と決まってきます。自閉スペクトラム症者が「空気が読めない」と言われる所以のひとつとして身体性の違いによって、その多数派の習慣を自然と身に着けることができないことが考えられます。それゆえ自閉スペクトラム症者の中には、単刀直入にはっきり伝えるとうまくいくタイプの人たちがいることが指摘されました。

コーディネーター:三星さん

(質疑応答その1を挟み再開)

次に、大森氏より、「発達障害者とのコミュニケーション支援について」と題し、お話いただきました。現在、発達障害者へのコミュニケーションエイドとして、ローテクなもの、ハイテクなものがあります。ローテクなものとしては、コミュニケーション支援ボードや絵カード、ハイテクなものとしてはトーキングエイドやスーパートーカーなどがあります。近年、情報通信技術(ICT)の進展に伴ってスマートフォンやタブレット端末などの携帯型情報端末が普及しています。これらは、インタフェースがシンプル、かつ直観的に利用できるので発達障害者や知的障害者向けの支援機器として研究が進められています。その結果、コミュニケーション支援や自立支援、家庭との連携で有効に活用できることがわかりました。今後は、普及するために事例を発信していくことが重要であるとまとめられました。

当日の配布資料及び質疑応答