バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第7回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

発達障害における当事者研究の現状について

開催日
2013年10月31日(木曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンス7D
参加者数
25名
講師
東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員 綾屋紗月氏

講演概要

勉強会の様子

「発達障害」における基礎知識、特にコミュニケーション障害の問題点を抱える自閉症スペクトラムについて解説するとともに、当事者研究の手法や成果、また発達障害当事者団体の活動についてお話いただきました。

【熊谷さんによる解説】

発達障害とは、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)を総称した名称であり、今回は自閉症スペクトラムを中心に解説いただきました。また、impairment(インペアメント)とdisability(ディスアビリティ)の違いですが、障害学では障害を2段階にわけて考えています。impairmentは当人の持つ身体の特性、disabilityは当人の身体状況と社会環境との間に生じる齟齬です。しかし自閉症スペクトラムは、診断基準の中に社会性に関する記述が含まれており、「disabilityのimpairment化」が生じていると言えるのではないかと思われます。

勉強会の様子

さらに、自閉症スペクトラムの診断件数はこの15 年で10 倍以上に増加しているが、impairment レベルでの増加であるかどうかはわからず、impairmentの増加以外の原因として、人々の認知の広がりや、診断基準の変化など社会文化的な環境上の変化が指摘されています。ただし、両親の出生年齢の高齢化など、impairmentレベルの増加の原因も多少は報告されています。

また近年、さまざまな分野の研究成果としてわかったことは、自閉症スペクトラムは千差万別であること。具体的には、遺伝要因の多様性、神経解剖学的な多様性、臨床像の多様性が報告されています。

これからの当事者研究の取組みとしては、自閉症スペクトラムについての概念を、impairmentとdisabilityの区別やカテゴリー内部の多様性に気を付けながら再構築することであり、一人ひとりの経験・体験からボトムアップに記述することが必要であると指摘されました。

【綾屋さんによる講演】

「自閉症スペクトラム」と診断名がついて安心した部分もあるが、「社会性/コミュニケーションの障害」という診断基準には納得していない。なぜなら、例えば聴覚障害であれば、聞こえないという身体特性(impairment)がまずあり、それによって、社会と関わる際にコミュニケーション障害(disabilities)が生じている、と2段階で障害をとらえている。しかし、自閉症スペクトラムは「社会性/コミュニケーションの障害」が診断基準となっているため、どこまでが当人の変わることができる点で、どこからが社会環境が変わるべき点なのかを、区別できない状況にあるからだ―。

勉強会の様子

そこで綾屋さん自身が当事者研究を進めるうえでポイントとしたのは、@「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」からは出発しない、A「自閉症スペクトラムとは何か」ではなく、個々人の体験を言い当てる言葉を探る、の2点でした。例えば綾屋さんには、身体内外にある数多くの情報が次々と意識に届けられ、たくさんの感覚情報を処理できず苦しくなる「感覚飽和」が生じるそうです。道端の枯れ葉の気持ち悪い模様をアップで見てしまって驚いたり、ファミレスのようなにぎやかな場所で周囲の話し声やBGMなどすべての音が同じボリューム感で聞こえてしまったりすることで、不調を引き起こしてしまうこともあるそうです。他にも、時として視覚情報が部分的であり、全体像をとらえることができず、多くの他者との認識のズレが生まれることもあれば、何かの行動を起こそうとする時、自分の意志とは無関係に想起された他者像に、乗っ取られるような感覚になってしまうなど、様々な問題を抱えています。しかしながら、当事者研究を行うことによって困難を言葉にし、人と共有できるようになることで「自分の軸」が生まれ、とても生きやすくなったそうです。また人との関係においても、他者との適度な距離を保てるようになってきたと感じているとのことでした。

現在、綾屋さんは、Alternative Space Necco(ネッコ)という団体のフリースペースで、月2回、Necco当事者研究会を開催しています。この団体では、発達障害者の雇用促進や精神保健福祉士による相談事業、当事者によるピアサポートなどを行っています。このような発達障害者コミュニティで当事者研究をすることによって、個々人が抱く問題点を共有し、研究を進めているそうです。例えば一言で『コミュニケーション障害』と言っても、より詳細に見ていくと、「周囲の音がシャットアウトできず相手の声が聞き取れない」人もいれば、「興味のあるときだけハッとして集中力を発揮できるが、それ以外の時は基本的にぼんやりしている」ため、多くの人と同じようには周囲の情報をキャッチしておらず、他者との齟齬が生じている人もいる、など、一人一人の特徴が見えてくるとのことでした。

このように、発達障害者が抱える問題について当事者研究することで、個々人の状況を整理し、構造を見出し、「自分の問題」なのか、「社会の問題」なのかを切り分け、「自分の軸」を見定めていくことを目指しているそうです。

当日の配布資料及び質疑応答