バリアフリー推進事業

2019年度 一般部門 成果報告

研究助成名

ICTを活用した地域防災システムの在り方に関する基礎的研究

研究者名

神奈川工科大学 情報学部 小川喜道

キーワード

防災行政無線,スマートフォン・アプリ,シティズンサイエンス,避難所の音声明瞭度,高齢者,厚木市指定避難所,円卓会議

研究内容

(研究目的)
 自然災害の発生時において,いち早く避難行動を行うために,迅速かつ正確な情報提供を最終目的として,今回はその基礎的検討として音環境評価アプリの開発を行うこと、及び,厚木市指定避難所の音声伝達の現状を明らかにすることを目的とした.

(研究手順)

 防災行政無線の聴こえの状況確認のための,ノイズレベルとノイズに対する主観量の関係を明らかにするための物理量・主観量を同時計測するためのモバイルアプリケーションを開発した. 同時に,厚木市指定避難所である鳶尾小学校,相川公民館,神奈川工科大学の3施設の体育館を対象として,厚木市内の自治会役員・市民ら86名を対象とした音声の聴こえ評価実験(音声明瞭度試験)を行った. さらに,指定避難所の音声明瞭度試験を受けて,地域住民代表(各地域の自治会長),厚木市市長室,危機管理課,地域避難所関連施設(公民館長等),大学事務局(管財課)及び,大学教員,学生らによる円卓会議の第一回目を2019年12月に神奈川工科大学において開催した.

(研究成果)

  1. 個々人がスマートフォン上で地点ごとの騒音状況をアセスメントする基盤として,Acousess(Acousess = Acoustic + assess)というアプリケーションを開発した.本システムは,iPhone アプリケーションと分析用ウェブシステムから構成される.iPhoneアプリケーションは個々人での情報入力を主な機能とする一方で,ウェブサーバには各人から集められた情報の閲覧・編集機能が主に割り当てられている. フロントエンドアプリケーションは 1) 地図ビュー,2) 詳細入力ビュー,3) 共有結果閲覧ビューの3 つの画面を持っており,Xcode 8.3 (OS: Mac OS X 10.12.5)を開発環境としてObjective-C で記述されている.1)地図ビュー(Fig.1 左図)は基本となる画面として構成され,情報入力された地点と,各地点における大まかな状況を確認できるように作られている. 地点ごとの状況が簡易的に分かるよう,これらはマー カとして表示されている.また,新規情報入力や入力済みの情報の編集もこの画面を通じて行う.情報入力・編集の際には,地図ビューから 2) 詳細入力ビュー(Fig. 1 中図)に画面が切り替わる.詳細入力ビューでは,対象音の録音やその詳細をテキスト入力する機能の他に,この地点の写真を撮影できるようにした.さらに,地点ごとの騒音に対する印象についてスライダーで選択できるようにした.入力・編集された情報は,SQLite を利用してデータベース化され,JSON やXML など様々なデータ形式で出力できる.なお,iPhone での録音音源のLAeq を計測するに当たって,従来の騒音計での計測結果と比較の上で,簡易的な校正を行った.

    次に,音声明瞭度試験の結果の例をFig.2に示す.全施設における65歳以上と65歳未満の単語了解度の平均得点である.
    全体的に65歳以上の正答率が低く,話速が異なるSNR=- 9dBの条件((a),(b),(f))の話速が最も速い(f)では65歳以上の実験参加者はほとんど単語を聴きとれないことが分かる.SNR= +3 dBの場合((c),(d))及び,ノイズのない条件での正答率は,65歳未満は80 %以上,65歳以上は60 %を超えていることが分かった.降水量がやや強い場合(10 mm以上〜20 mm未満/h)の降雨騒音下の条件では,65歳未満で80 %程度,65歳以上は60 %程度の正答率であることが分かった.

    さらに,円卓会議でのコメントの一部を下記に示す.参加者が共通して,体育館のような空間では会議室等に比べて音声の聴きとりがより困難であり,特に高齢者は厳しい状況であることが体感できたと述べた.その他に,挙げられたコメントの一部を以下に示す.
    ・地域住民代表:実験に使われた音源等について詳しく知りたい.体育館では予想以上に聴きとり難いことが分かった.
    ・厚木市:スピーカの違いや位置でも聴きとりやすさが変わることも体感した.どのような改善策があるかを今後検討していきたい.
    ・地域避難所関連施設:結果をぜひ活用して欲しい.改善策の例が知りたい.
    ・大学事務局:施設自体の改善は容易ではないので,推奨されるスピーカ等のマニュアルができてくるとより良いのではないか.いずれにせよ,スピーカの購入等の検討は進めたい.
    ・その他:ヒアリングループや吸音材等について導入可能性を含め詳しく知りたい.

    今回の円卓会議では,音による情報提供だけでなく,視覚情報及び,ICTの活用,その他のアナログ技術の活用方法についても同時に検討・議論を進めてくことを全体の方針とした.情報提供ツールの選択性を多く提供することで,個々人により適した正確で便利な情報提供をめざしていく.

     

 

User interfaces of our applications to input and share real-world environmental noise conditions.

図1 User interfaces of our applications to input and share real-world environmental noise conditions.

Word intelligibility for each condition.

図2 Word intelligibility for each condition.

 

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会