バリアフリー推進事業

2019年度 一般部門 成果報告

研究助成名

当事者主体のインクルーシブなコミュニティ減災モデルの構築

研究者名

大阪大学大学院人間科学研究科 附属未来共創センター 石塚 裕子

キーワード

インクルーシブ、復興、障害、小さな声、対話

研究内容

(研究目的)
 本研究は、障害当事者の参加が少ないとされる「防災」、「復興」のまちづくりにおいて、障害当事者をはじめとする「小さな声」の人々が、主体的に参加する状況とはいかにあるべきかを明らかにすること。そして、地域コミュニティにおけるインクルーシブな減災モデルとは何かを明らかにすることを目的とした。

(研究手順)

当初の研究計画では、当事者主体の研究会を設置し、勉強会や視察調査を重ねて住民とのワークショップを企画実施する予定であったが、協力者の体調不良などの理由により同意が得られず研究方法を変更した。研究対象であるNPO法人岡山マインド「こころ」(以下、マインドと示す)が実施している当事者の対話の場(テーブルまび)の参与観察を行い、そこから生まれた当事者による語りべの会を協働で実践した。

(研究成果)

  1. (1)被災地における障害当事者へのスティグマの構造

  2. 被災地における障害当事者のスティグマの構造が明らかになった(図1)。被災地では強い市民が配慮することで公的スティグマが生じ、障害当事者はそこから自己スティグマを増幅させる。そして復興まちづくりの場に参加しにくい構造的スティグマが固定化を図る。しかし、被災地における障害当事者が感じるスティグマは、非被災者と共通するものがある。このスティグマの悪循環を解消するには、「当事者が暮らしている土地で声をだすこと」が大切であり、、まちづくりとしては、小さな声の当事者が地域の担い手として参加できる場を提供することが必要であることが明らかとなった。
  3. (2)当事者が主体的に(防災)まちづくりに参加するとは‐「お互いの声をききあう」
  4. 語りべの会を実施してわかったことは、「お互いの声」を聞きあうことが大切であるということである。「お互いの声」を聞きあうことがきっかけで、支援者、非支援者、被災者、非被災者、障害者、非障害者といった関係性を越えて、お互いに尊重しあう新たな関係性が生まれる予感がするのである。これは近年、精神医療の分野で注目されているオープンダイアローグという実践システムに通ずる。障害当事者の地域でのさまざまな活動を通じて、地域の人々との対話が可能となり、お互いの声を聴きあい尊重しあうポジティブな感情を共有する機会となり、感情の共同化による新たな関係性を創っていった。これまで障害当事者参加のまちづくりでは「当事者の声」を聞くことが大切であるとされ、実践においても、研究においても「当事者の声」を聞くことが熱心に行われてきた。しかし、そこには聞く側の目的があり、障害当事者をエンドユーザーとしてのみ扱い、サービスを受ける者としての参加であった。しかし、市民として障害当事者は利用者であるとともに担い手でもあるべきである。障害当事者が主体となって「お互いの声」を聴きあう場となった語りべの会は、まちづくりの場において障害当事者が担い手としての役割を果たすひとつの可能性を示した。
  5. (3)インクルーシブなコミュニティ減災モデルとは
    マインドでは災害前から「テーブルまび」、「ビールと音楽の夕べ」などの活動を10数年続けてきた中で、少しずつ地域に根差してきた。その蓄積を土台に、災害後はいち早くまちに戻り、被災者交流会(まちコン)を主催した。避難所には行かず避難入院したことや、泥かきに参加しなかったこと、復興への取り組みが始まる中で体調を崩していることなどに自己スティグマを感じている中で、「まちコン」を主催することが、被災地における当事者へのスティグマからの解放につながったといえる。また、まちの住民からも「マインドのみなさんが交流会を開催してくれてありがたかった(2019.3.23)」、「ビールと音楽のゆうべを開催したいと尋ねられとき、すぐにぜひやろうと答えた(2019.7.19)」といった声が聞かれ、マインドの活動が地域にとって価値あるものとなり、地域の担い手として認知されることとなった。
    そのような変化の中、マインドの新たなリーダーとなりつつある矢吹氏は、「まちコン」の他にも被災者の聴き書き、語りべ「七夕会」などの経験を通じて「人とのつながり」を感じる機会が増えたという。「いろいろな活動をする中で、どちらかが変わっていくのではなく、地域の人と僕たちが一緒に変わっていくように思う(2021.01.08)」という。多田氏は「矢吹さんは、(本来苦手であった)大勢の人と出会う苦労を引き受けた」という。多くの障害当事者は、公的スティグマや構造的スティグマにより、地域の暮らしの中で当たり前に苦労する機会を奪われている。しかし、災害を機に矢吹さんをはじめマインドメンバーは、向谷地(2006)のいう「苦労を取り戻す」ことになったといえる。

    平時のあらゆるまちづくりの場面で、当たり前に障害者をはじめ多様な人が参加している場をつくっていくことが必要である。そして、そのまちづくりに防災・減災をおりこんでいくことが、インクルーシブなコミュニティ減災モデルといえる。

 

被災地における障害当事者へのスティグマ

図1 被災地における障害当事者へのスティグマ

語りべの会の様子

図2 語りべの会の様子

 

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会