(研究目的)
高精細立体プリンタに対応し、かつ描画機能をもった触地図自動作成Webアプリケーションを開発し、このアプリケーションを普及させることで、触地図を作ることができる人や機関を増やし、より多くの視覚障害者に触地図を届けられる体制の構築を目指す。
(研究手順)
(1)高精細立体プリンタを導入し、これに対応し、かつ描画機能をもった触地図自動作成Webアプリケーションを開発する。(2)高精細立体プリンタで作成した触知記号の弁別性を触知実験で調べる。(3)新しい触地図自動作成Webアプリケーションの普及のため、視覚障害者、及びその支援者を対象とした触地図作成ワークショップを開催する。
(研究成果)
-
(1)高精細立体プリンタに対応し、描画機能をもった触地図自動作成Webアプリケーションの開発
開発したWebアプリケーションの画面を図1に示す。
-
テキストボックスに任意の建物や住所を入力すると、その位置を中心とした地図が表示される。利用者は、この地図を見ながら、地図の範囲や向きを調整する。
作成する触地図は、従来の立体コピー用と、高精細立体プリンタEasyTactix用の2種類から選ぶことができる。立体コピー用の触地図は、視覚的な一般の地図に触地図用の黒い道路線を重ね描きしたものである。黒い線の部分だけが発泡して触知できるようになる。一般の地図も描かれているので、目が見える人が視覚障害者に地図の説明をすることができる(図1は立体コピー用の触地図画像)。
- EasyTactix用の触地図画像はモノクロである。これは、EasyTactixはカラー画像もグレースケール化して立体化するためで、触知の妨げにならないようにカラー部分を含めていない(図2はEasyTactix用の触地図画像)。
- 編集機能をONにすると、表示する道路の種類をリストボックスから選んだり(図3左)、点字や墨字(一般の文字のこと)を地図に書き込んだり(図3真ん中)、注目地点を表す丸印を配置したりすることができる(図3右)。
-
(2)触知記号の弁別実験
EasyTactixでは、数mm程度の小さな記号でも十分な高さに立体化可能である。小さな触知記号なら、触地図の中の狭い場所にも配置できる。そこで、そのような小さな触知記号が触覚で弁別可能かどうかを調べる実験を行った。
- 図4のような触地図で用いられることが多い基本的な図形8種類を用意し、そのうちの一つを呈示し、それと同じ記号を探すという課題である。大きさ(記号の長辺の長さ)を3 mmから12 mmまで5種類に変化させてEasyTactixと立体コピーで触知記号を作成し、正確な弁別に必要なサイズを調べた。
-
視覚障害者1人に参加してもらった触知実験の結果、サイズが6 mmより大きな記号ではほぼ正確に弁別ができたが、サイズが6 mmより小さいと回答時間が長くなった。最も小さな3 mmの記号ではEasyTactixの方が立体コピーよりも正答率が高くなった。今後、実験坂者数を増やして実験の信頼性を向上させたい。
(3)触地図作成ワークショップの開催
新しい触地図自動作成Webアプリケーションの普及のため、視覚障害者、及びその支援者を対象とした触地図作成ワークショップを2回開催した。
1回目は、2019年11月1日から3日間開催された視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド2019」のイベント会場での開催である。触地図自動作成システムの説明は約50人が聴講し、その後の作成ワークショップには約10人の視覚障害者とその支援者が参加し、触地図作成を体験してもらった。同イベントの展示会会場ではシステムを3日間展示し、同システムにより容易、かつ短時間で触地図が作成できることと高精細立体プリンタによる触地図の触り心地を体験してもらった。
2回目は、2020年2月13日にNPO法人ヘレンケラー自立支援センターすまいるにおいて開催した。同センターの理事長、及び職員を対象に同システムを紹介し、盲ろう者施設における触地図システムの利用を検討してもらった。
|