バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

歩行訓練用触地図キットの有効性評価に関する研究

研究者名

成蹊大学 理工学部 豊田 航

キーワード

視覚障害,歩行訓練,触地図,キット,認知地図

研究内容

(研究目的)
申請者は,視覚障害者に対する歩行訓練のニーズに適う触読性が高い触地図を簡便に作製可能な歩行訓練用触地図キット(以下,触地図キット)を開発した.本研究の目的は,この触地図キットの歩行訓練における有効性を実証することである.

(研究手順)

本研究では,実際の歩行訓練で触地図キットを使用する事例研究と,従来歩行訓練で行われてきた音声説明との比較評価実験により,触地図キットの有効性を検証した.

(研究成果)

  1.  第一に,事例研究では,2017年4月から2018年2月にかけて計9つの事例を収集した.ほとんどの事例で視覚障害者と歩行訓練士の双方が触地図キットの有効性を実感した.特筆すべき事例について詳しく述べる.合目的的サンプリングにより,視覚経験がない先天盲であり,環境の空間認識が不得意な視覚障害者が選ばれ,触地図を用いた歩行訓練を行った.空間認識に関する本人の申告として「空間の意味を学んだ記憶がなく,意味がわからない」,「俯瞰的に何かを見るということが全く想像できない.俯瞰という言葉を初めて聞いた」と述べた.
     4日間にわたる歩行訓練の結果,驚くべきことにこのような視覚障害者に対しても,触地図キットが歩行に寄与することが確認できた.重要な発見は以下の2点である.(1)俯瞰的な認知地図を構築することができない先天盲視覚障害者であっても,触地図を利用した歩行訓練を繰り返し行うことによって,ルートの全体像や歩き方の理解および記憶を促すことができること.(2)歩行訓練の最初の段階では,高さが低い平面的な触地図を導入しても認知地図を構築することが困難であるため,立体的な触地図を使用すべきであること.さらに,歩行訓練での視覚障害者の行動観察,視覚障害者の触地図キットを読む際の触読の様子,インタビュー記録の結果から,長期的に触地図を用いた歩行訓練を行うことで,当該視覚障害者が俯瞰的な空間イメージを獲得できるようになる可能性も示唆された.これは臨床上重要な知見である. 
     第二に,従来歩行訓練で行われてきた音声説明との比較評価実験により,触地図キットの有効性を検証した.実験参加者は音声のみによって環境の説明を受ける群(音声条件)と,触地図と音声を併用して環境の説明を受ける群(触地図条件)に割り当てられた.実験参加者は初めに所定のコースを実験者の誘導で一通り環境説明を受けた後(説明セッション),その後単独で歩行した(歩行セッション).最後に半構造化面接によるインタビューを行った(インタビューセッション).
     説明セッションにおける実験参加者の自発的な質問内容(既に説明した内容に関する質問が多いか,ルート全体の復習を求めた実験参加者の割合など),歩行セッションにおけるパフォーマンス(ゴール到達率,迷った回数,ランドマークの発見率など),インタビューによる主観評価(触地図キットの有効性に関する主観評価スコア,今後歩行訓練での利用を希望するかなど)を評価指標とした.
     実験の結果,説明セクションにおいて視覚障害者が自発的に行う質問の内容から,触地図キットが音声のみによる説明よりも,環境のより良い理解を提供していることが明らかになった.さらに歩行セクションにおける触地図条件のパフォーマンスの高さは,触地図キットで得た環境に関する知識が,実際の歩行に適用されることを確認した.その後のインタビューセッションでは,すべての視覚障害者が触地図による効果(環境イメージができる,位置関係が分かるなど)を実感して音声のみの説明よりも優れていることを報告し,将来受けるであろう歩行訓練で触地図キットを使用することを望んだ.すべての結果が一貫して,触地図キットが音声のみによる説明と比較して有用であることを示し,触地図キットの有効性を確認できた.
     以上より,本研究によって歩行訓練における触地図キットの有効性が実証された.

 

 

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