バリアフリー推進事業

平成28年度 中間報告

研究助成名

移動困難者を対象とした自転車教育プログラムに関する研究

研究者名

公益財団法人公害地域再生センター 藤江 徹

 

研究内容

(1.研究の背景)
 自転車は、手軽で環境負荷の小さな乗り物として、多様なユーザーに利用されている。自転車は、健常者だけでなく、高齢者や、乳幼児連れ、障がい者、子ども等の移動時に何らかの困難を有している人たち(移動困難者)にとっても便利な交通手段である。運転免許を返納した高齢者にとって、自家用車を代替するパーソナルモビリティとして自転車は重要な交通手段である。また、保育園や病院など多くの子育て関連施設では車の利用を控えるよう求められることも多く、子育て層において子ども乗せ自転車は重要な交通手段となっている。
 しかしながら、我が国の自転車環境はそうした多様なユーザーに対応したものになっておらず、自転車ユーザー自体も自転車通行ルールや安全な乗り方に精通していないという状況にある。自転車ユーザーは自転車の乗り方を独力で学んだ者が多く、自転車の通行ルールや安全な乗り方を学ぶ場は現在ほとんど提供されていない。
 また、バリアフリー新法の制定後、都市部の歩道のバリアフリー化はすすみつつあるが、歩道を通行する自転車によって歩行者が安全を脅かされているという状況もある。警視庁の統計によると、日本国内での自転車関連事故のうち対歩行者の交通事故件数は平成13年から平成23年の10年間で約1.5倍に増加している。自転車と歩行者による交通事故の増加の原因としては、自転車は原則車道を通行することになっているにもかかわらず、自転車歩行者道が多い上に自転車通行禁止の歩道であっても歩道上を通行する自転車が多いためであると考えられる。高齢者は自転車事故に遭遇すると重大な負傷を負うことが多いため、自転車乗用中の死者のうち約6割が65歳以上である。統計には現れていないが、自転車から投げ出された5歳女児がトラックにはねられ死亡2)、自転車が車と接触し背負っていた乳児が死亡など、子ども乗せ自転車による事故では、子どもだけが死亡・負傷するいたましい事故が頻発している。
 移動困難者など多様なユーザーは自転車を安全に便利に乗り、さらに歩行者をはじめとした他の交通手段利用者とも共生して都市内の道路を利用するためには、多様なユーザーに対応した自転車教育が不足していると考えられる。現状行われている都道府県警察による自転車安全教育は小・中学生などの学生に偏っており、多様なユーザーを対象とした自転車安全教育はほとんど実施されていない上に、既往の自転車利用者に関する研究は児童を対象とした自転車教育に関する研究、一般利用者を対象とした研究がほとんどである。また、おやこじてんしゃプロジェクトのように子ども乗せ自転車を安全に乗せる自転車教育もみられるが、十分に普及しておらず、その効果は把握されていない。自転車ユーザーを画一的な健常者として捉えるのではなく、身体機能や判断力、乳幼児を乗せているなど、多様な主体として捉え、それぞれのユーザーに見合った教育プログラムの開発・評価は必要とされていると考えられる。

(2.研究の目的・意義)

自転車は身近で便利な交通手段として使われる一方で、自転車事故の増加や自転車が歩行者を脅かす状況は日常的に発生している。また、道路交通法の改正、自転車道の整備など自転車を取り巻く環境が大きく変わっているのに対し、自転車の安全教育は子どもの交通安全に特化したものが多く、多様な主体を対象とした自転車教育はほとんど行われていない。そこで、本研究では高齢者、障がい者、子育て世代、子どもといった移動困難者の自転車の利用実態を把握し、それに基づいた自転車が他の交通手段と共生できるバリアフリー環境を目指した教育プログラムの開発・評価を行うことを目的とする。多様な主体を対象とした教育プログラムは多様な自転車ユーザーの安全を守りスムーズな走行を助けるだけでなく、歩行者をはじめとした他の交通手段のユーザーの安全も守ることになると考えられる。

(3.主な研究手段)

  1. (1)自転車教育の先進事例の把握:既往論文および他国の先進事例調査
    (2)移動困難者の自転車の利用実態の把握:走行調査、アンケート調査およびインタビュー調査を行う。
    (3)自転車バリアフリー教育プログラムの開発:モデル授業の実施およびアンケート調査の実施(平成29年度に実施予定)
  2. (4.今年度の研究)
  3. (1)先進事例の調査
  4. 子ども乗せ自転車教育の先進事例として「おやこじてんしゃプロジェクト」のインタビュー調査を行った。おやこ自転車プロジェクトの勉強会では、子育ての経験がある人がファシリテーターを担っていた。そのため、一方的に情報を伝達するというのではなく、お互いに共感を得ながら親になってから再度自転車の乗り方を学ぶ必要性について納得してもらってすすむことができているとのことだった。保護者の多くは自転車に関しての情報や知識が少なく、安全意識が低かったが、勉強会を通じて意識が変わり、子どもに必ずヘルメットをかぶせるようになるなど、行動の変容もみられたとのことだった。
    また、自転車先進国であるデンマークの自転車教育について調査を行った。デンマークでは自転車を文化として捉え、国を挙げて子どもたちに自転車教育を行っており。12歳までに子どもたちは実際の安全状況下一人で運転できることを目的として、8,9歳と11,12歳で安全運転の自転車テストが実施されているそうです。このテストは1942年から行われている。また、デンマークは移民が多く、自転車の乗り方を知らないために交通事故が多いため、移民、特に子どもの保護者に対する自転車教育も行われている。
  5. (2)移動困難者の自転車の利用実態の把握
  6. @移動困難者の自転車利用実態調査(ビデオ撮影およびアンケート調査)
  7.  高齢者および子ども乗せ自転車利用者を対象に、自転車利用実態調査を行った。調査方法は、被験者が自転車に乗り走行している様子を後ろから追いかけて撮影し、走行後、アンケート調査票に回答してもらった。走行中の様子をビデオで撮影することにより、自転車マナーの遵守、自転車のバランスのとり方、ほかの交通への対応の仕方などに関して、認識と行動の間にどの程度の乖離があるのかを把握することができる。調査は、高齢者9人、子ども乗せ自転車9人、対照群(非高齢者)10人の計28人に対して行った。調査の結果、下記のことがわかった。
  8. ・高齢者に関しては、アンケート調査では自転車交通ルールを知っており守っているという回答が得られたが、走行調査では交通ルールを守れておらず、認識と行動の間のギャップが大きいことがわかった。
    ・子ども乗せ自転車利用者に関しては、アンケート調査の回答と走行調査での交通ルールの遵守の様子を比較すると、高齢者に比べると認識と行動の間のギャップは小さかった。
    ・高齢者の被験者において、歩行が困難であるがために自転車を利用しているケースがあり、バランスが悪いため、車道の端を走ると車体が傾くために車道の真ん中を通行しているケースが見られた。
    ・運転免許の有無で、交通ルールの認知の度合い、交差点における左右の確認の様子に違いがあり、運転免許の非保有者は標識やミラーなどを確認せずに走行している様子がうかがえた。
    ・高齢者が交通ルールの認識と行動の間に乖離が大きい理由として、運転免許を所有していないことが原因として考えられる。
  9. Aグループインタビュー調査
  10. 子ども乗せ自転車利用者のグループインタビュー調査を3回行った。走行調査調査の被験者を中心にした調査を1回、子育て広場を運営しているNPOに協力を得た調査を2回行った。
    走行調査の被験者を中心に行った調査では、自転車走行調査で撮影した動画を見ながら、映っている本人にこの時にどうしてこういう行動をとったのか?といったことを話してもらったり、参加者同士でこの交差点が見通しが悪くて危ない、この道は交通量が多くて危ないといった交通状況などを話し合った。 子育て広場での調査では、走行調査で撮影した動画から抽出した画像を元に、どういった運転が危険かを話し合った。
  11. その後、西淀川区内の地図に、自転車に乗っていて危ないと感じた場所、普段から気を付けている箇所などを書き込み、ヒヤリハットマップを作成した。その結果、細街路や交差点の見通しが悪い場所が危険個所として抽出できたほか、自転車専用道のように快適に自転車を走行できるような箇所であっても道に傾斜や落ち葉などがあるため子ども乗せ自転車の場合には危険個所になりうること、また、子ども乗せ自転車は一旦バランスを崩すと立て直すのは困難であることなど子ども乗せ自転車ならではなの危険個所がわかった。
  12. (5.次年度研究計画(予定))

次年度は今年度行った自転車利用実態調査およびグループヒアリング調査で得たデータをもとに、高齢者および乳幼児の保護者を対象とした自転車教育プログラムを検討する。
高齢者やおよび乳幼児の保護者を対象とした自転車教育教室を行ったり、自転車教育パンフレットを作成し、その効果を把握する。

 

写真:自転車走行調査で撮影した映像

写真:自転車走行調査で撮影した映像

写真:走行ビデオを見ている様子

写真:走行ビデオを見ている様子

写真:ヒヤリハットマップを作成している様子

写真:ヒヤリハットマップを作成している様子

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

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成果報告会