バリアフリー推進事業

平成27年度 成果報告

研究助成名

リニア中央新幹線開通に伴う駅周辺の再開発に関する調査研究〜様々な立場から見たバリアフリー整備〜

研究者名

社会福祉法人AJU自立の家わだちコンピュータハウス 所長 水谷 真

キーワード

乗換の利便性

研究内容

(研究目的)
名古屋駅周辺の再開発に係る名古屋市のまちづくり構想では、各分野の検討の場が設置され、整備内容の検討がされる中、今後は整備計画の策定、設計、施工と進められる。今回の駅周辺の再開発を機に国際レベルのターミナル駅を提唱する名古屋駅は、鉄道やバス等への乗換の利便性を向上し、ビジネス拠点、交流拠点に相応しい魅力ある駅を目指している。しかし、現在の名古屋駅(名駅)は「迷う駅、めいえき」と汚名が付くほど分かりにくく移動がしづらい状況である。そのような汚名を払拭するには、しっかりとしたまちづくり構想を確立し、それらを裏付ける根拠として様々な立場にある人たちの意見を盛り込むことが不可欠と考える。本研究は1日乗客数100万人を超す巨大駅の利便性を改善し、誰でも使いやすく分かりやすい駅に生まれ変わるよう取り組む。

(研究手順)

基礎情報調査1 → 第一回ユニバーサルデザイン研究会 → 基礎情報調査2 → 第二回ユニバーサルデザイン研究会 → 福まち学会東海北陸支部主催セミナー → 第三回ユニバーサルデザイン研究会 → 提言書作成

(研究会構成員)

  1. 当事者、学識者、地元のまちづくり団体

    (目的)

     当該地区の課題の整理
    当該地区のバリアフリー化に向けて、実現可能性のある方法の検討

    研究会及び調査を始める前に現在の名古屋駅やその周辺、また名古屋市のまちづくり構想の進み具合など、議論を進める上での基礎情報を集める。
    研究会では障害当事者と学識経験者、地域の団体の関係者を集め、基礎情報の確認と共通認識の確認をし、それぞれの立場からの経験や課題、要望など、これから具体的な取り組みにつながるよう議論を進める。
    基礎情報を基に、障害当事者を中心に実地調査を行う。
    セミナーではこれまで名古屋駅がどのように変わってきたかを学び、実際に行った実地調査の結果から、名古屋駅の問題点を明確にする。

    (研究成果)

    1基礎情報調査
    基本計画段階から様々な利用者の意見を取り入れるため、対象者を肢体不自由だけでなく、視覚障害、聴覚障害、知的障害、精神障害、難病、また、障害者以外にも高齢者、子育て支援等の団体を対象にした。基礎情報を得るために必要な交通機関の調査については、鉄道機関、バス、タクシーを対象にした。また、その乗り換えに大きく影響する地下街の状況や商業施設、駅周辺の整備についても調査の範囲に入れ、実際の利用に近い経路をイメージした。
    2実地調査
    当事者団体と連携して名古屋駅の移動について調査を行った。鉄道機関だけでなく、複雑な構造になっている地下街も経路に入れ、実際に移動しながら車いすの場合と徒歩の場合の所要時間を計測した。また移動した経路の距離を計測し、所要時間と比較した。
    調査日は2015年10月11日日曜日10時から
    グループ構成は車いす利用者を含んだ4〜5名のグループ
    調査経路はエレベーターを利用した車いす使用者の経路、階段を利用した徒歩の経路、一方の方向だけでなく復路も計測、通過ポイントを設定
    計測の結果、両方の計測方法ともに一部の経路に大きな差が表れた。時間がかかった要因としては、地下を経由することが多く、階段やエスカレーターに比べてエレベーターの設置数が最小限(ほぼワンルートに一基)であり、機材も小さく(11人乗り)デパートとの兼用により待ち時間も長い。また、案内表示の少なさや分かり難さが上げられる。通路が狭くなっている箇所もあり、人の流れに影響(よけたり、ぶつかりそうになったり)を受けた。距離についてはエレベーターの待ち時間や人の影響はないが、それでも5倍以上の差が出た経路があった。今回の調査は改札から乗換の改札までを計測したが、ホームへ通じるエレベーターが限られていることや、改札からホームへ下りるエレベーターまでの距離、ホームへ下りた後の乗降場所までの距離が長いなど、様々なところで車いす使用者と徒歩との差が生じた。
    3名古屋駅ユニバーサルデザイン研究会の実施(全3回)
    今回の調査研究において、障害者団体の活動と名古屋市に対する事業としての提案を同時に行ってきた。実地調査を行ったように多くの障害者とサポーターが参加し、現状の名古屋駅に問題があるという事を実際に利用しながら証明し、新聞やテレビでも大きく取り上げられた。そして、その調査の結果を整理し、障害者団体が名古屋市へ要望書を提出した。また、当法人は2005年に開港した中部国際空港のユニバーサルデザインコンサルティング業務を委託し、様々な障害者(約1500名)から意見や要望を聞き取り、その上での最大公約数となる落としどころを見つけ出し、設計の段階に提案をしてきた。そうしたことにより「誰にも優しく安心して利用できる空港」と呼ばれたことから、その経験を今回の名駅周辺再開発構想にも導入できるよう、名古屋市に提案し続けてきた。しかし、今回のプロジェクトは中部国際空港のように更地からの建設ではなく、既存の駅を稼働させながら変えていかなければならないこと、また、それぞれの敷地や建物のオーナーが違うことから、名古屋市が構想を立てても具体的な取り組みが進まないという状況は変わらなかった。本研究会において様々な立場の方の意見を伺いながら進めてきたが、障害種別以外にも子育て世代や外国人、キャリーバッグ使用者などのヒアリング、また、案内所のスタッフや交番の警察官などに普段どのような問い合わせや意見があるかを調査する必要性を強く感じた。サインについての議論は、駅自体の構造が決まっていないので、既存の表示の仕方やピクトグラムについての提案などを出し合うまでにとどまったが、サインの多さによる混乱が懸念されることから、どのような構造であれば最小限のサインで収まるかを研究することが必要と感じた。またサインを表す時に色を多く使用しているケースがあるが、今回、色の見え方や感じ方が異なる色弱者の意見が参考になった。日本の先天性の色弱者は男性で20人に一人、女性で500人に一人の割合でいると言われ、色覚タイプが多様であることから自身が色弱者であることを認識していない人もいる。見え方の異なる例として、信号の赤と緑が同じように見える方や、最近では赤の点滅を黄色の点滅と思い込み交差点で事故を起こしてしまったというケースもある。駅の問題としては鉄道の路線を色で分けているケースがあり、アルファベットを組み込んだり形で表す等、カラーユニバーサルデザインという考えを取り入れる必要性も感じた。

 

 

バリアフリー設備のご紹介

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