日本版Travel Training(交通移動支援プログラム)の開発
国立大学法人筑波大学障害学生支援室 准教授 五味 洋一
(背景と目的) (先駆的事例ヒアリング) 従来から就労移行支援事業利用者を対象に、公共交通機関を利用した単独通所への支援を積極的に行ってきた社会福祉法人シンフォニー(大分県大分市)を訪問し、プログラムの具体的な内容、実施環境・条件等についての聞き取りを行った。結果、事業所側の条件として、@公共交通機関利用を前提とした事業所の立地、A全職員間での単独通所支援の重要性の共有、Bトラブル発生時への備え、C整理された支援プログラムが重要と考えられた。また、利用者側の条件として、@単独で徒歩による外出・帰宅が可能であるか、A他者を巻き込む強いこだわりがないか、が指摘された。その他、自律的な移動を促進するための環境整備として、@学齢期における系統的な外出の練習(学校教育)、A視覚的に路線の見分けができる工夫(バス会社)、B運転手に対する知的障害者理解の研修(バス会社)が指摘された。ニーズ把握のための実態調査(中間報告)【調査方法】知的障害のある子どもをもつ親の会に調査協力を依頼し、会員への調査票の配布・郵送での回収を行った(2016年2月29日現在、回収率49.3%)。調査項目は、@基本情報(性別、年齢、所持する手帳等)、A移動に関するスキル(コミュニケーション能力等ならびにバス・電車利用に関する55項目)、Bライフステージ別の移動の状況(公共交通機関へのアクセス、目的別の利用頻度、利用した移動手段、介助等の有無、課題等)とした。【分析対象(経過)】東京都・兵庫県内に居住する知的障害者74名を対象に簡易集計を行った。平均年齢は32.0歳(範囲:10〜73歳)で、療育手帳を持つ69名の知的障害の程度は、重度が31名(41.9%)、中度が18名(24.3%)、軽度が18名(23.3%)、不明が2名であった。【結果(経過)】 移動に関するスキルの状況の結果を図1に示す。36名(53.7%)*1は単独での外出が可能であり、単独外出可能群(n=25)と不可群(n=21)を比較したところ*2、可能群は認知、コミュニケーション、移動、公共交通機関利用の能力が全般的に高く、こだわり等の阻害要因が少ない傾向が認められた。 また、ライフステージ別の移動に関する課題(自由記述)からは、@不適切な行動(パニック、奇声、行動の停止、こだわり等)、A能力や特性に合わない物理的環境(人混み、表示の漢字が読めない、乗り換えの複雑さ、通路の狭さなど)B安全(多動による飛び出し、迷子など)、C周囲の理解(乗車拒否、奇異な行動への叱責など)、D緊急事態への対応(遅延、振替輸送など)」、E制度(PASMOでの障害者割引の利用不可、電車やバスの本数など)が主にあげられた。 (今後の予定)
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