バリアフリー推進事業

平成26年度 中間報告

研究助成名

日本版Travel Training(交通移動支援プログラム)の開発

研究者名

国立大学法人筑波大学障害学生支援室 准教授 五味 洋一

 

研究内容

(背景と目的)
知的障害児者は、その社会的な状況判断能力等の低さから道路交通環境下において安全面の課題に直面しやすく、外出の機会そのものが抑制されてしまうことが少なくない1)。本研究は、知的障害児者の「移動」に係るこれらの課題を解決する方策のひとつとして、米国で1950年代から取り組まれてきたTravel Training(交通移動支援プログラム;以下、TTPとする)2)の導入を指向するものであり、基礎的な実態把握と日本版Travel Trainingプログラムの試案開発を目的とした。TTPは、障害のある人や高齢者、その他介助を必要とする人を対象に、移動や公共交通機関の自立的な利用を促進するために提供される1対1のトレーニングであり、Orientation(交通機関のシステムを説明するための活動)、Familiarization(実際の交通機関を利用する活動)とともに、米国Ester SealsにおけるTravel Instructionの中核的な構成要素である3)。指導に際しては、関係者からの情報や実地での移動スキル等の評価に基づいた指導計画が作成され、系統的な1対1のトレーニングと効果評価が行われる4)。わが国においても、学校教育での交通安全教室や生活単元学習、障害福祉サービスである生活訓練や就労移行支援の一環として、OrientationやFamiliarization相当する教育や支援は行われているものの、TTPのような系統的な教育実践の場は乏しく、各ライフステージで必要に応じて保護者が練習を行っているケースが多いものと推測される。本研究では、知的障害児者のライフステージ別のニーズ把握(研究1)と、国内外における先駆的な実践事例の分析(研究2)を通じて、日本に適用可能なプログラム試案の作成を行うものであり、以下は初年度の経過報告である。

(先駆的事例ヒアリング)

従来から就労移行支援事業利用者を対象に、公共交通機関を利用した単独通所への支援を積極的に行ってきた社会福祉法人シンフォニー(大分県大分市)を訪問し、プログラムの具体的な内容、実施環境・条件等についての聞き取りを行った。結果、事業所側の条件として、@公共交通機関利用を前提とした事業所の立地、A全職員間での単独通所支援の重要性の共有、Bトラブル発生時への備え、C整理された支援プログラムが重要と考えられた。また、利用者側の条件として、@単独で徒歩による外出・帰宅が可能であるか、A他者を巻き込む強いこだわりがないか、が指摘された。その他、自律的な移動を促進するための環境整備として、@学齢期における系統的な外出の練習(学校教育)、A視覚的に路線の見分けができる工夫(バス会社)、B運転手に対する知的障害者理解の研修(バス会社)が指摘された。ニーズ把握のための実態調査(中間報告)【調査方法】知的障害のある子どもをもつ親の会に調査協力を依頼し、会員への調査票の配布・郵送での回収を行った(2016年2月29日現在、回収率49.3%)。調査項目は、@基本情報(性別、年齢、所持する手帳等)、A移動に関するスキル(コミュニケーション能力等ならびにバス・電車利用に関する55項目)、Bライフステージ別の移動の状況(公共交通機関へのアクセス、目的別の利用頻度、利用した移動手段、介助等の有無、課題等)とした。【分析対象(経過)】東京都・兵庫県内に居住する知的障害者74名を対象に簡易集計を行った。平均年齢は32.0歳(範囲:10〜73歳)で、療育手帳を持つ69名の知的障害の程度は、重度が31名(41.9%)、中度が18名(24.3%)、軽度が18名(23.3%)、不明が2名であった。【結果(経過)】 移動に関するスキルの状況の結果を図1に示す。36名(53.7%)*1は単独での外出が可能であり、単独外出可能群(n=25)と不可群(n=21)を比較したところ*2、可能群は認知、コミュニケーション、移動、公共交通機関利用の能力が全般的に高く、こだわり等の阻害要因が少ない傾向が認められた。

 また、ライフステージ別の移動に関する課題(自由記述)からは、@不適切な行動(パニック、奇声、行動の停止、こだわり等)、A能力や特性に合わない物理的環境(人混み、表示の漢字が読めない、乗り換えの複雑さ、通路の狭さなど)B安全(多動による飛び出し、迷子など)、C周囲の理解(乗車拒否、奇異な行動への叱責など)、D緊急事態への対応(遅延、振替輸送など)」、E制度(PASMOでの障害者割引の利用不可、電車やバスの本数など)が主にあげられた。

(今後の予定)

  1.  アンケート調査の対象者を拡大して継続実施するとともに、先駆的な事例からの情報収集として、@米国でTTPを受けた経験を有する知的障害者の保護者へのインタビュー、A文献および現地視察(ニューヨーク市特別教育学区District75)によりTTPの分析を行い、日本版TTPの試案作成を行う。

    【注】*1 単独外出に関する項目について回答のあった67名に対する割合.*2 各群ともすべての項目に回答のあった者のみ分析対象とした.

 

 

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