バリアフリー推進事業

平成26年度 中間報告

研究助成名

視覚障がい者のための音サインを用いた屋外歩行誘導の研究(51-5)

研究者名

北海道科学大学工学部建築学科 講師 福田 菜々

 

研究内容

(研究の背景と目的)
視覚障がい者は、聴覚や触覚、ときには嗅覚といった感覚を利用しながら情報(手がかり)を環境に探り、的確に拾いあつめることで単独歩行を可能にしている。しかし、札幌のような積雪寒冷地では、冬季は雪により環境が著しく変化し、夏季であれば利用できる用法も有効にかつようできない場合が多い。例えば、視覚障がい者の歩行誘導支援策の代表例である視覚障害者誘導用ブロックも、雪に覆われると効果を失い、視覚障がい者は多くの不便を強いられている。また、積雪により車道と歩道との区別が付かず、いつの間にか車道に出てしまうことや、歩道の雪山を避けて歩くうちに方向を誤り、迷ってしまうことも少なくない。
視覚障がい者の外出行動に於いては、「道路に沿った歩行(直進歩行)」、「角を曲がる」、「道路を横断する」という3つの行動をいかに安全に、 かつ正確に行えるかが重要であり、これらの行動を誘導する支援の在り方が望ましいと考えられる。従来の視覚障がい者の誘導支援では、盲導鈴のように音サインを建物の入り口や駅の改札といった場所に配置し、目的地を示すものが多く見られる。しかし、本研究では、連続的に配置された音サインを巡ることで目的地までの経路を誘導する、いわば「歩行経路の提示(図1)」を目指している。
 視覚障がい者の道路横断については、すでに音響装置付信号機が普及しているように、音サインによる一定の誘導効果が示されている。また、筆者らは複数のスピーカーを連続は位置し、音サインを用いて一定幅の歩行経路を提示することで、ブロックからブロックまでといった一区間について、視覚障がい者にその範囲から逸脱しない直進歩行を促す効果があることを明らかにしてきた(文1)。この場合、音サインとして一般的に用いられてきた継続音(信号機に用いられる「ピヨピヨ」など)よりも、水のせせらぎ音のような連続的な定常音を用いることで、視覚障がい者は、微妙な音サインの音色変化(道路からの反射音と直接音との干渉による音色変化(カレーレーション))を聞き分け、直進歩行時の有効な手がかりとして活用していることを示した。  本研究では、次のステップとして「角を曲がる」という行動について、スピーカーを垂直向きに複数設置し、音サインによる屋外での誘導効果を明らかにすることを目的とする。

(研究手順)

法解釈学の一般研究手法である、文献研究を主たる研究手法に位置づける。また、旅客の権利の明確化を図ろうとする国際的な立法動向に鑑み、我が国における立法論の構築をも視野に入れて、インタビュー形式による内外における立法例、事例の収集も併せて実施することとする。

(研究方法)

  1. 北海道科学大学敷地内の一角に、図2に示す実験歩行路を設置し、視覚障がい者に対し、音サインによって「角を曲がる」という行動を誘導するとともに、曲がった後の正しい経路への誘導効果を検証する。X軸とY軸とが交わる0地点からスピーカー設置距離(2m)は、これまでの実験結果から、視覚障がい者がスピーカーを捉えやすい距離を参考に設定した。実験に用いる音サインは、周波数特性が実験場所の暗騒音のそれとは特徴が異なる2種類の連続的な定常音とし、互いに干渉しにくく、音色が異なるものを作成した(図3(再生音レベルを56dBAに設定した場合))。1つは、中心周波数が1kHz、片方は4kHzの水のせせらぎ音である。
     実験は、以下に示す2条件で行い、効果の差異を明らかにする。
    条件1 X軸・Y軸共に同種の音サインを用いる。直進歩行時同様、音サインの音色変化を感じながら、歩くと考えられる。周囲の環境の変化によって生じるカラーレーションは、日常的に視覚障がい者が単独歩行時に利用している(例えば、建物がなくなることによって、音の反響具合が変化し、交差点に出たことを認知することができる)。
    条件2 X軸とY軸で異なる音サインを用いる。盲導鈴による誘導同様、音サインを目的地として、それに向かって歩くと考えられる。まずは音サインAに向かって歩き、角にさしかかると、新しく聞こえてくる音サインBに向かって歩くことが考えられる。よって、意識がやや音サインに集中するため、環境の変化には気付きにくくなる可能性が考えられる。
    その他、曲がり角が近いことを知らせるため、「曲がり角誘導距離」を設定し、3mと5mの場合とで、どちらがより効果的であるかを調査する。

    実験と並行して、札幌市内に在住する視覚障がい者を対象に、無積雪期(夏季)と積雪期(冬季)における外出行動の相違点、および単独歩行における実態を調査するため、アンケート調査を実施する。冬季は、降雪・積雪の影響により、単独での外出が困難になると考えられ、夏季と比較し外出頻度が減少すると推察される。しかし、通勤・通学などで外出する視覚障がい者も少なからず実在すると考えられ、積雪地における冬季の外出行動時の問題点を洗い出すとともに、季節による環境の変化にとらわれず、積雪期にも利用できる視覚障がい者のための屋外歩行誘導の在り方を検討する。

    (今後の予定)

    アンケート調査を実施し、結果を随時点訳するとともに集計・分析する。L字型の歩行実験については、今年度の天候不良や積雪状態が芳しくないことから、来年度に実施する予定である。アンケート調査と歩行実験の結果を元に、実際の歩行空間への導入を目指し、具体的な誘導システムの方法を検討する。

 

 

 

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