バリアフリー推進事業

平成26年度 成果報告

研究助成名

視覚障がい者のための音サインを用いた屋外歩行誘導の研究(51-5)

研究者名

北海道科学大学工学部建築学科 講師 福田 菜々

キーワード 歩行誘導 音サイン 曲折

研究内容

(研究目的)
視覚障がい者の外出行動においては「道路に沿った歩行」、「角を曲がる」、「道路の横断」という3つの行動をいかに安全に、かつ正確に行えるかが重要であり、これらの行動を誘導する支援が必要である。本研究では、連続的に配置された音サインを辿ることで目的地までの経路を誘導する「歩行経路の提示」を目指しており、「角を曲がる」行動について、屋外における音サインの誘導効果を明らかにする。
(研究手順)

北海道科学大学敷地内にL字型の歩行路を設営した。2軸(A・B軸)が交わるO地点を中心に、図1に示す6カ所にスピーカーを設置した。実験に用いる音サインは、中心周波数が1kHと4kHzにある2種類の連続的な定常音(水音)と札幌の音響信号機で用いられている断続音(ピヨピヨ)とした。条件は4つを設定した(条件1:AB軸ともに1kHz水音のみ(2軸同種音)、条件2:A軸1kHz水音、B軸4kHz水音(2軸異種音)、条件3:AB軸ともに1kHz水音とし、角の2つは断続音(2軸同種音+角断続)、条件4:A軸1kHz水音、B軸4kHz水音に角の2つは断続音(2軸異種音+角断続))。被験者は16名の視覚障がい者(全盲)である。それぞれの条件開始前には、実験者が歩行路を手引きし、音場を体験させた。実験では左右への曲折を検証するため、各条件を往復させた。

(研究成果)

  1. 全ての条件におけるゴールへの到達率を求めた。被験者一人につき1条件を往復させているため、各条件の総数は32本となる。到達率は総数に対するゴールまで辿りつけた歩行数の割合であり、全ての条件で80%以上であった(表1)。すなわち、どの条件においても被験者の80%が曲がり角で方向転換した後に、直進歩行を再開してゴール地点に到達できている。偏軌量が途中で2mを超える歩行も見られるが、その後に軌跡が修正されてゴールへ到達している歩行も少なくない。

     仮に歩道の幅員を3.6mとした場合、偏軌量が2mを超えると実空間では車道にはみ出す。表1および図2より、各条件で歩行路から逸脱した歩行は往路で多く、復路では少ない。一方で、偏軌量が2mを超えた歩行は復路に多く見られた。したがって、復路では偏軌が大きくなりながらも完全に逸脱はせず、ゴールへ到達している歩行が多いことがわかる。また、条件1と条件3については、曲折直前で逸脱している件数が多く、曲がり角が認識されにくいと推察される。

    曲がり角(交点O)を基準にして、AB軸に向けてそれぞれ2m(2'm)、7m(7'm)、9m(9'm)、11m(11'm)、13m(13'm)、15m(15'm)、17m(17'm)の14地点にて偏軌量を測定し、条件毎に全体の平均値(絶対値)を求めた(図3)。平均偏軌量を計算する際は、逸脱件数と偏軌が2mを超えた件数は除いてある。両端のひげは95%信頼区間を示す。結果は往復ともに条件3で平均偏軌量は最も小さく、次いで条件2が小さい。また、条件3は往復の平均偏軌量の差が小さく、安定している。条件1ではその他の条件よりも偏軌量が大きく、音サインの誘導効果は最も小さいと推察される。

     図4は、横軸に各条件での曲折前(2?7m区間)の平均偏軌量、縦軸左は曲折後2'm?7'm区間の平均偏軌量、さらに、縦軸右は各条件での曲折後7'm?17'm区間における2m毎の平均偏軌量を示す。条件4往路、復路、そして条件1往路、条件3往路は曲折前後ともに偏軌量が小さいことがわかる。

     曲折後7'?17’区間における平均偏軌量を考慮すると、この値が小さいほど方向転換後も正しい直進性を維持していると考えられるため、条件3の往路・復路や条件2の往路では曲折後7'm?17'mの平均偏軌量が小さく、曲折後の直進性が高いことを示唆している。しかし、曲折後7'm?17'm区間の平均偏軌量は最大でも500mmに満たず、直進性はどの条件でも高く維持されているといえる。なかでも、条件3の往路、条件4の復路の誘導効果は高く、安定しているといえる。

     4条件のうち、角を曲がる行動が最も行いやすいと被験者に判断されたのは条件4であった。表2に理由を示すが、多くが曲がり角付近の断続音と、軸の連続音の特徴の違いが、曲がり角の位置をわかりやすくしていると指摘しており、かつ、2つの軸にそれぞれ異なる周波数の連続音を用いることで、軸の変化がわかりやすかったと評価している。条件3については断続音によって曲がり角の位置のわかりやすさが評価されている一方で、その断続音がノイズになると評価する被験者も見られた。条件4のように、軸ごとに音サインの種類を変えることと、さらに角の位置を示す別の音サインが配置されていることは、より多くの被験者によって「角を曲がる」行動がしやすいと評価されるといえる。

     実験結果から、軸変化をわかりやすくするためには少なくとも2種類の音サインをそれぞれの軸に用いること、そして曲がり角の認識のしやすさを高めるためには、さらに別種の音サイン(断続音)を配置することが望ましいと考えられる。

 

図1 実験歩行路(北海道科学大学敷地内)

図1 実験歩行路(北海道科学大学敷地内)

写真1 実験時の風景(実験当日は、積雪路面に50cm毎のグリッドを引き、被験者の踵の着地点がわかりやすいようにした。実験者は被験者を追跡しながら足元をビデオカメラで撮影し、その動画を元にCAD図面をおこした。両足の踵の着地点をプロットし、それらの中点を求め、繋ぎ合わせた線(身体の重心があるところ)を歩行軌跡とした(図2参照)。

表1 逸脱数と到達率および偏軌が2mを越えた件数

表1 逸脱数と到達率および偏軌が2mを越えた件数

図2 条件1における全被験者の歩行軌跡

図2 条件1における全被験者の歩行軌跡 (全体的な傾向としては、スタート地点からやや偏軌しはじめ、曲折後の方が偏軌量は大きくなる。しかし、多くの被験者はスピーカーの位置を概ね捉えており、スピーカー直下の偏軌量は小さい傾向にある。
 また、歩行路を逸脱してしまう被験者は、適切なタイミングで曲がり角を発見できず、そのまま通り過ぎてしまう傾向が見られた。この傾向は特に条件1往路と条件3往路で多く見られた。 )

図3 各条件における全体の平均偏軌量(mm)

図3 各条件における全体の平均偏軌量(mm)

図4 曲折前後の偏軌量と曲折後の直進性

図4 曲折前後の偏軌量と曲折後の直進性

表2 角を曲がる行動が最もしやすい条件

表2 角を曲がる行動が最もしやすい条件

バリアフリー設備のご紹介

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