バリアフリー推進事業

平成26年度 中間報告

研究助成名

異常検出技術による転倒の実態解明手法の開発(51-1)

研究者名

(独)産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センター 研究員 小林 吉之

 

研究内容

(目的と概要)
本研究の目的は,(独)産業技術総合研究所情報技術研究部門(以下「産総研ITRI」)が開発してきたCHLAC特徴量に基づく異常検出アルゴリズムを用い,映像から転倒やそのインシデントの発生シーンを検出できる技術の開発やその運用方法について研究し(1年目),更に当該技術を実験的に運用して将来的な転倒シーンデータベースの立ち上げに繋げること(2年目)である.
 本年度は上記の計画に基づいて,これまでに開発した検出技術を手軽に使用できるようにするための,「汎用転倒シーン検出エンジン制御ソフトウェア」を開発し,当該ソフトウェアを用いた検証実験を実施した.

(汎用転倒シーン検出エンジン制御ソフトウェア)

本ソフトウェアは,異常検出アルゴリズムをGUI(Graphical User Interface)で直感的に用いることができ,任意に指定された動画についてアルゴリズムに基づいて処理を行い、結果を出力できるものである.本ソフトウェアは,学習機能と検出機能の二つの機能を有し,それぞれ入力部,異常検出部および出力部で構成される.学習機能における入力部では,AVI形式で保存された動画を入力できる(図1a左).また検出機能における入力部では,AVI形式で保存された動画だけでなく,USBで接続されたカメラから取得される動画像を直接入力する機能も持つ(図1a右).異常検出部は,前処理機能,特徴抽出機能,学習機能,異常検出機能の4つの機能を有し,入力された動画像について,CHLAC特徴量に基づく異常検出アルゴリズムを実行する.その際,必要なパラメータについてはGUIで調整することができる(図1b).出力部(図1c)は,異常検出部で得られた結果をグラフで表示する機能,および検出した異常状態を動画としての書き出す機能を有する.

(ソフトウェアを用いた検証実験)

  1. 今回開発したソフトウェアについて,実験室内で撮影した模擬的な転倒(屈み込み)やつまずき(歩行中のスキップ)の動画を用いて検証実験を行った.検証実験に用いた動画像は,進行方向に対して横から撮影できるように設置した614万画素のデジタルビデオカメラ(SOINY-PJ800)を用いて撮影した,申請者本人が実験室内を歩行している以下の15の動画とした:通常の歩行を撮影した動画9試行分(通常歩行),歩行中に屈み込む動画3試行分(模擬転倒),および歩行中にスキップする動画3試行分(模擬つまずき).各シーンはそれぞれの対象者が1人で通路を右方向に歩いている状態のものとし、画面にフレームインする前からフレームアウト後までを約10秒のファイルとして切り出した.切り出した動画像の例を図2上段に示す.
     今回の検証実験では,6試行分の通常歩行を学習に用い,残りの通常歩行3試行分,模擬転倒3試行分,模擬つまずき3試行分を検証に用いた.その結果,模擬転倒および模擬つまずきともに,通常歩行時よりも大きな異常度を示すことが確認された(図2下段).ただしその傾向は各種パラメータの設定によって大きく変わることから,本研究の目的に最適な設定を今後検討する必要がある.

    (実環境の防犯カメラに近い画角での実験(撮影))

     これまでの異常検出技術で評価してきたすべての動画像は,対象を側面から撮影したものであった.これは現在用いているCHLAC特徴量は,その特性上,人が画面の奥から手前に歩いてくるような映像では検出性能が落ちることが想定されているためである.一方実際の防犯カメラは,歩行者の顔を撮影できるように進行方向の正面の天井部分に設置されていることが多い.また時間と共に明るさが変化する環境では,明るさに応じて複数の教師画像が必要となる可能性が考えられる.そこで本研究では,対象者の進行方向の正面及び斜め前方から俯瞰するような動画を撮影し,検出性能を評価することとした.
     検証実験に用いた動画像は,614万画素のデジタルビデオカメラ(SOINY-PJ800)を用いて撮影した,以下の15の動画とした:通常の歩行を撮影した動画9試行分(通常歩行),歩行中に屈み込む動画3試行分(模擬転倒),および歩行中にスキップする動画3試行分(模擬つまずき).各シーンはそれぞれの対象者が1人で通路を右方向に歩いている状態のものとし、画面にフレームインする前からフレームアウト後までを約5秒から10秒のファイルとして切り出した.切り出した動画像の例を図3上段に示す.
     今回の検証実験では,6試行分の通常歩行を学習に用い,残りの通常歩行3試行分,模擬転倒3試行分,模擬つまずき3試行分を検証に用いた.その結果,対象者の横から撮影した際の動画と同様に,模擬転倒については通常歩行時よりも極端に大きな異常度を示すことが確認された(図3下段).一方模擬つまずきについては,多少なりとも大きな異常値は確認できたものの,模擬転倒ほど極端なものではなかった.今後は各種パラメータの最適化をしたり,技術の改良などを行うことでより精度を上げていく必要がある.

    (今後の展望)

    今年度の研究によって,撮影された動画像から転倒やそのインシデントの発生シーンを検出するソフトウェアを構築することができた.今後はより実際に近い環境で動画像を撮影し,転倒シーンデータベースを構築するための知見をためていきたいと考えている.

 

学習・検出機能ウィンドウ

図1.学習・検出機能ウィンドウ

検証実験で用いた動画例と結果例

図2.検証実験で用いた動画例と結果例

実環境に近い画角での動画例と結果例

図3.実環境に近い画角での動画例と結果例

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会