本研究では先行研究に基づいて,(国研)産業技術総合研究所情報技術研究部門が開発したCHLAC 特徴25)に基づく動画像認識技術を用いて異常歩行動画像の検出評価を行った.分析の処理手順を図1に示す
本研究で研究の対象とした動画像は,事前に研究の目的などを説明し,同意を得られた6名の被験者(男性3名,女性3名,平均年齢24.16±3.54歳)から撮影した.研究用の動画像は,著者らが所属する研究室内の通路を進行方向に対して横方向から撮影できるような位置と,斜め上から俯瞰するような位置から撮影できる位置に,2,090万画素のデジタルビデオカメラ(Sony社製FDR-AX100)を三脚で設置して撮影した.各被験者には,実験室内を普段通り歩行する通常歩行の試行を3試行と,歩行中に後述の異常動作を行う異常歩行の試行を3試行,計6試行行わせた.本研究では,6名の被験者のうち5名分の通常歩行の動画像,計15の動画像を学習データとしたうえで,残りの1名の各動画像から逸脱度を取得することとした.5名分の通常歩行の動画像を学習データとした上で,残りの1名の各動画像から逸脱度を取得するという作業を,横方向から撮影された動画像及びななめ上方向から撮影された動画像共に被験者すべてに対して繰り返し,すべての動画像から逸脱度を得た.得られた各逸脱度については,まず歩き方(通常/異常)とカメラアングル(横/ななめ上方)に関する二要因分散分析で分析を行い,各要因や条件間での有意差を評価した.
(研究成果)
実験の結果得られた各条件の逸脱度の平均値と標準偏差を図2に示す.歩き方(通常/異常)とカメラアングル(横/ななめ上方)に関する二要因分散分析の結果,歩き方(通常/異常)の主効果(F(1,68)=58.727, p<.001)とカメラアングルの主効果(F(1,68)=5.732, p<.05),及びそれぞれの交互作用(F(1,68)=13.088, p<.001)が確認された.交互作用が確認されたため,それぞれの要因についてt検定を用いて個別に分析した.その結果,それぞれのカメラアングル(横/ななめ上方)で,歩き方(通常/異常)による逸脱度に有意差が認められ(横:p<.001,ななめ情報p<.01),カメラアングルにかかわらず異常歩行時には通常歩行時よりも有意に大きな逸脱度が得られることがわかった.また,通常歩行時にはカメラアングル間で逸脱度に有意差が認められなかったのに対し(n.s.),異常歩行時には逸脱度に有意差が認められ(p<.01),ななめ上方向から撮影した際に比べ,横方向から撮影した際には有意に大きな逸脱度が得られることがわかった.
我々の最終目標は,転倒の直接的な発生原因を真に明らかにし,その後の適切な対策につなげることであり,本研究で用いているような技術は,そのための作業を「効率化」するためのものである.そのため仮に多少の「見落とし」や「過検出」が生じても,それらについては手動で調整することも可能であろう.また,本システムを運用しながらある程度転倒や様々なインシデントが発生した動画像が集まってきた段階で,それらを学習データとして適宜モデルを再構築するなど,モデルやアルゴリズムのブラシアップは継続して実施していく仕組み(図3)を考えている.これを実現するため,今後は本技術を様々な施設などで実際に運用していきたいと考えている.