バリアフリー推進事業

平成24年度 成果報告

研究助成名

肢体不自由者・視覚障害者の移動支援のためのバリアフリー情報共有基盤の開発(3-一2)

研究者名

東京大学大学院 廣瀬通孝

キーワード

バリアフリーマップ、アクセシビリティ、バリアフリー情報、肢体不自由者、視覚障害者、アセスメント、クラウドソーシング、タッチスクリーン

研究内容

(研究目的)
肢体不自由者・視覚障害者が公共交通機関の利用時の他、市街地や施設内の移動の際でも支援可能なバリアフリー情報の共有基盤の開発を目的とする。具体的には、利用者の障害状況に合わせ、周辺のバリアフリー化/非バリアフリー情報の取得・提示を可能とし、各所に点在するバリアフリー情報を収集・共有できるソーシャルプラネットフォームを開発する。特に、本研究では、バリアフリー情報の取得・共有のための整理方法の開発と、提示方法に関する予備調査を中心に実施した。

(研究手順)
特に本研究では、以下の2点について研究開発を行った。これまでは肢体不自由を持つ者と予備的にシステムに関する検討を実施していた。このために、まずはシステムの実装や改良を行った。その次に、より多くの障害者が利用可能なシステムを創出するために、視覚障害者においてバリアフリー情報のニーズやICT機器の利用状況に関して調査を行い、提示手法の指針を導いた。具体的な研究方法を以下に示す。

(1)バリアフリー情報の蓄積・整理システムの開発
多様な環境で利用可能なシステムを創出するため、ウェブ技術を用いた蓄積・整理システムを開発した。本研究では、バリアフリー情報の蓄積・整理・提示を行うシステムの開発が最終目的であるが、本題項目では特にバリアフリー情報の蓄積および整理方法の開発を中心に行った。蓄積・整理方法を先に開発後に提示方法を具体化することで、情報量がある程度以上の環境を想定したユーザテストが行えると考えたためである。蓄積方法に関しては、既存情報の収集方法や、ユーザ自身による入力方法の開発を行った。また、既存情報の収集後の際の整理に当たっては、情報の蓄積・整理基準としてのXMLフレームワークを作成した。ユーザ自身によるバリアフリー情報の入力方法の開発については、簡易的なユーザインタフェースを試作し、特に容易に視覚で情報取得ができる者でテストを行った。また、この際の結果を元に、バリアフリー情報を蓄積しやすくするためのインタフェース開発指針をより具体化した。

(2)バリアフリー情報のニーズやICT機器の利用状況に関する調査
視覚障害者を始めとした視覚情報の取得に不具合のある者が閲覧・入力ができるシステムの開発を行うにあたって、調査を行った。具体的には、彼らが移動の際に必要とする情報の他、彼らのICT機器の使用状況について、インタビューやアンケートを通じて調べた。得られた集計結果を分析した上で、提示すべき情報について具体化し、開発にあたってのICT機器を選定・想定した上で、バリアフリー情報の提示・入力のためのシステムの設計指針を導いた。

(研究成果)
(1)バリアフリー情報の蓄積・整理システムの開発
1.大量の情報を、高利便性を保ちつつ包含的に蓄積可能なシステムの開発
情報蓄積および整理をするためのシステムとして、図1のシステム概要中の情報蓄積部を開発した。このシステムのコンセプトと実装状況を図2左図に示す。Google mapのような地図サイトと連動させることで、バリアフリー情報を地図情報に対応づけて蓄積できるようにした。また、肢体不自由者や視覚障害者などにインタビューを行い、格納すべきバリアフリー情報を具体化した。
2.既存情報の再利用手法の開発
ウェブ上に存在する様々なバリアフリー情報を集約しやすい仕組み作りを行った。具体的には、交通エコロジー・モビリティ財団が提供する「らくらくおでかけネット」の各駅のバリアフリー状況に、本システムからアクセスできるようにした。(表示例:図3の[Station]マーカ)。また、ユーザ自身が他のバリアフリー情報サイトにリンクを貼れるようにした。
3.ユーザにとって情報入力が行いやすいインタフェースの開発・改良
様々なユーザの情報システム環境を考慮し、ウェブベースのバリアフリー情報の入力インタフェースを設計・開発した(図4)。本システムはPCだけでなく、スマートフォンなどからの閲覧および情報共有が可能である。バリアフリー情報は地図上のマーカとして表示されており、地点ごとに状況が確認可能である(図3)。また、ユーザのモバイル機器の内蔵センサ情報を基に、通過地点のバリアフリー状況を推定するシステムの可能性について、試作機を基に評価した。さらに、実地調査により確認されたバリアフリー状況の共有や、クラウドソーシングによる情報入力の有用性について確認した。実地調査により共有された情報を図5に示す。また、PDF版のバリアフリーマップのように必ずしもアクセシブルではない情報源から、クラウドソーシングにより情報抽出・共有させた例を図6に示す。この際に入力された情報を分析した所、バリアフリー支援装置についてのコメントは短い一方で、バリアとなる場所に関するコメントほど長く記述されている事がわかった。バリア状況のコメントを整理することで、より入力の手間を軽減できるシステムが開発できる。
また、バリアフリー支援業務に携わる者に、本システムに入力された情報を評価させた結果、紙面版のバリアフリーマップには反映させきれない情報の共有にも利用可能であることが示された。今後はこれらシステムを更に洗練させ、図7に示すように、ユーザの状況に応じた様々な情報入力手法を更に開発・改良を行う。特に、実地入力されたバリアフリー情報の自動入力の可能性・有用性について、今後探っていく予定である。

(2)バリアフリー情報のニーズやICT機器の利用状況に関する調査
1.移動時に必要とする情報などに関する調査
特に視覚障害者において、移動時にどのようなバリアフリー情報が必要であるか、インタビューやアンケートを用いて調査を行った(延べ35名)。この結果、全盲者では上下階するための設備や横断歩道に関する位置情報、弱視者では特に夜間に周囲を見渡すための情報に対するニーズが高いと分かった。また、全盲者はリアルタイム情報提示を好む一方で、弱視者は事前情報提示を好むものが多いことが分かった。
2.ICT機器の使用状況に関する調査
特に視覚障害者において、ICT機器の使用状況や使い方について、アンケート調査を行った(2011.12〜2012.2、140名)。この結果、タッチスクリーン端末の所有者は約13%であった。この原因は、従来の携帯機器に十分に満足していた者が多かった点などが挙げられる。一方で、半数以上の者がタッチスクリーン端末を利用したいと答えていた。実際に、この1年後に行ったアンケート調査(2012.12〜2013.1、51名)では、所有率が40%を越えていた。これら端末の使用者は、視覚障害状況によらずスクリーンリーダーを使用していた。さらに1年後にも類似のアンケート調査(2013.12〜2014.1、186名)を実施したところ、タッチスクリーン端末の所有率は全体で38%となった。この際、スマートフォンでは34%、タブレット端末では13%で、平均使用年数は1.5年程度であった。視覚障害者におけるタッチスクリーン端末の普及の進展が分かったため、このような機器のアクセシビリティ機能に対応したシステムを開発することが有望であるとわかった。

図1システムの概要

図1システムの概要

図2情報蓄積部のコンセプト(左)とシステムデザイン(右)

図2情報蓄積部のコンセプト(左)とシステムデザイン(右)

図3地図表示部の例と各マーカの意味

図3地図表示部の例と各マーカの意味

図4入力インタフェースの表示例

図4入力インタフェースの表示例

図5入力インタフェースの表示例

図5入力インタフェースの表示例

図6様々なユーザ情報に対応するバリアフリー情報入力方法の概要

図6様々なユーザ情報に対応するバリアフリー情報入力方法の概要

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会