バリアフリー推進事業

平成24年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 中間報告

研究助成名

肢体不自由者・視覚障害者の移動支援のためのバリアフリー情報共有基盤の開発(3-一2)

研究者名

東京大学大学院 廣瀬通孝

 

研究内容

【研究の目的,実施範囲】
 バリアフリー新法(2006)施行以来,障害者など身体に不自由のある者を対象に,市街地や建物内のバリアフリー化が進んでいる.しかし、バリアフリー情報は局所的・断片的で時に入手しにくい.そこで本研究では,肢体不自由者・視覚障害者が公共交通機関の利用時の他,市街地や施設内の移動の際でも支援可能なバリアフリー情報の共有基盤の開発を目的とする.具体的には,利用者の障害状況に合わせ,周辺のバリアフリー化/非バリアフリー情報の取得・提示を可能とし,各所に点在するバリアフリー情報を収集・共有できるソーシャルプラットフォームを開発する.本助成研究では,バリアフリー情報の取得・共有のための整理方法の開発と,提示方法に関する予備調査を中心に行う.

【これまでの実施状況,今後の見込み】
(1)バリアフリー情報の蓄積・整理システムの開発
1.大量の情報を,高利便性を保ちつつ包含的に蓄積可能なシステムの開発
 情報蓄積および整理をするためのシステムとして,図1 のシステム概要に示す情報蓄積部を開発した.このシステムのコンセプトと実装状況を図2 左図に示す.Googlemap のような地図サイトと連動させることで,バリアフリー情報を地図情報に対応付けて蓄積できるようにした.この際,独自のXML フレームワークを設計することで,様々なサイトのバリアフリー情報を齟齬なく整理できるようにした.また,肢体不自由者や視覚障害者などにインタビューを行い,格納すべきバリアフリー情報を具体化した(視覚障害者のケースは後述).

今後は,インタビューなどから必要とされたバリアフリー情報を整理した上で,XML フレームワークの拡張を行う.その上で,様々な情報をユーザが共有しやすい仕組み/インタフェースの設計・開発を行う.

2.既存の情報の再利用手法の開発
 ウェブ上に存在する様々なバリアフリー情報を集約しやすい仕組み作りを行った.具体的には,交通エコロジー・モビリティ財団が提供する「らくらくおでかけネット」の各駅のバリアフリー状況に,本システムからアクセスできるようにした(表示例:図3 の[駅情報]).また,ユーザ自身が他のバリアフリー情報サイトにリンクを貼れるようにした.
 なお,計画書では多くのサイトを挙げたが,更なる研究を経て,サイトによってはバリアフリー情報とは関係が薄いものが多いと分かった.このため,今後は既存のバリアフリー情報の再利用だけでなく,選別に当たっての基準を具体的にしていく.

3.ユーザにとって情報入力が行いやすいインタフェースの開発・改良
 まず,様々なユーザの情報システム環境を考慮し,ウェブベースのバリアフリー情報の入力インタフェースを設計・開発した(図4,5).本システムはPC だけでなく,スマートフォンなどからの閲覧および情報共有が可能である.バリアフリー情報は地図上のマーカとして表示されており,地点ごとに状況が確認可能である(図3).また,ユーザのモバイル機器の内蔵センサ情報を基に,通過地点のバリアフリー状況を推定するシステムの可能性について,試作機を基に評価した.

今後は,これらシステムを更に洗練させ,図6 に示すようにユーザの状況に応じた様々な情報入力手法を開発・改良を行う.この際,実地でのバリアフリー情報入力を様々なユーザにさせることで評価を行い,改良指針の具体化,改良と進めていく予定である.

(2)バリアフリー情報のニーズやICT 機器の利用状況に関する調査
1.移動の際に必要とする情報などに関する調査
 特に視覚障害者において,移動時にどのようなバリアフリー情報が必要であるか,インタビューやアンケートを用いて調査を行った.具体的には,個々人の見え方に対応してどのようなバリアフリー情報が必要であるかについて調べた.この結果,全盲者では上下階するための設備や横断歩道に関する位置情報,弱視者では特に夜間に周囲を見渡すための情報に対するニーズが高いと分かった.また,全盲者はリアルタイム情報提示を好む一方で,弱視者は事前情報提示を好むものが多いと分かった.
 今後は,これらの結果を基に視覚障害者向けのインタフェースの設計指針を具体化する.その上で,視覚障害者向けのインタフェースの開発を進めていくこととする.

2.ICT 機器の使用状況に関する調査
 特に,視覚障害者において,どのようなICT 機器を使っているか,どのような使い方をしているかについて調査を行った.具体的にはアンケートを通じて,携帯端末・PC・タッチスクリーン端末の使用・普及状況について確認し分析した.アンケート実施時期は2011/12 月~2012/1 月であり,分析や追試などの実施時期は~2012/7 であった.
 本調査の協力者では携帯電話/パソコンの保有率は90%を超過したが,それでもタッチスクリーン端末では約13%であった.この原因は,従来の携帯機器に十分に満足していた者が多かった点などが挙げられる.一方で,半数以上の者がタッチスクリーン機器を使用したいと答えた.このため,今後はタッチスクリーン端末の使用者の増加が見込まれる.したがって,本研究で実装したようなスマートフォン向けのインタフェースは,彼らが使用する上で有用であると示唆された.一方で,タッチスクリーン端末の使用者は,全盲・弱視といった障害状況によらずスクリーンリーダを使用していた.なお,好まれるタッチスクリーン端末に関しては,視力が弱まるにつれて必要とする画面サイズは大きくなるが,全盲者が必要とする画面サイズは小さい方が好まれると考察された.つまり,弱視者においては,これまでに開発したインタフェースのリーダビリティ改善を行うことで対応可能であると言える.一方で,全盲者の場合は,音声読み上げに対応したようなインタフェースの実装が必要であると言える.

3.(2)1 および(2)2 の調査結果を基にした設計指針の作成
 今後,上記の二つの結果を基に,インタフェース設計指針を具体化する.その上で,試作・評価などを行なっていくつもりである.

図1システムの概要図1システムの概要

図2情報蓄積部のコンセプト(左)とシステムデザイン(右)図2情報蓄積部のコンセプト(左)とシステムデザイン(右)

図3地図表示部の例と各マーカの意味図3地図表示部の例と各マーカの意味

図4入力インタフェースの表示例図4入力インタフェースの表示例

図5入力インタフェースの表示例図5入力インタフェースの表示例

図6様々なユーザ情報に対応するバリアフリー情報入力方法の概要図6様々なユーザ情報に対応するバリアフリー情報入力方法の概要

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会