交通環境対策事業

アメリカでのカーシェアリング拡大の動き 〜 Zipcarの例 〜

1980年代後半にスイスやドイツで始まり、欧州各国に普及しつつあるカーシェアリングですが、近年、車社会の典型といわれるアメリカでも拡大の兆しを見せています。例えば、わずか1年で1000人の会員を集めたカーシェアリング会社や、既に3都市で営業しており5年後には会員33万人、車1万台をめざしている会社があります。一方、ワシントンの地下鉄は、駅のそばにカーシェアリング会社のための駐車場を確保し、地下鉄利用者の利便性を高めるサービスを始めました。今回は、このうちのボストンのZipcarについて紹介します

Zipcarとは
ボストンのカーシェアリング・ベンチャー企業Zipcarは2000年6月の創設以来、1年余りで会員数1000人を突破し、2001年9月にはワシントン進出を実現、さらにニューヨークへの進出も計画中です。

1.概要

(1)事業規模

2000年6月に開業したボストンでは会員1400人、車両65台、駐車ステーション104ヶ所に、2001年9月に開業したワシントンでは会員70人、車両17台、駐車ステーション26ヶ所に達しています。ボストンでは、45万人の人々が歩いて7分で同社の車両のどれかにアクセスできる計算になるといいます。 使用車両は、フォルクスワーゲンのニュー・ビートル、ゴルフ、パサート、ホンダのシビックなどです。

(2)料金体系

会員は入会金30ドル、年会費75ドル、それに保証金(退会時に返却)300ドルを支払います。利用料金は時間・距離併用制で、ボストンの場合、時間料金単価5〜8ドル/時間(駐車ステーションによる)、距離料金単価0.4ドル/マイル(注:1マイルは約1.6km)です。ワシントンの場合、時間料金単価6〜9ドル、距離料金単価はボストンと同じ0.4ドル/マイルです。

(3)利用手順

利用者はインターネットで予約を入れます。予約時刻に駐車場に行き、カードを車のフロントガラスの特定箇所にかざします。その利用者の予約がある場合のみドアが開き、車を発進できます。利用データは同社のサーバーに無線で送信されます。利用終了後は同じ駐車場に車を返却します。利用料は月1回、まとめて利用者のクレジットカードに請求されます。

2.特色

(1)急成長

会員獲得のための広報にはあまり費用をかけなかったようですが、マスメディアによる報道や利用者などの口コミが予想以上の効果を上げ、1年余りで会員数が1000人を超える急成長を遂げています。

(2)高めの料金水準

アメリカやカナダの他のカーシェアリング先行事例に比べると高い料金水準です。ボストンやワシントンの高い地価が反映されたためと思われます。

(3)居住者と就業者の混合

法人会員も募集しており、居住者だけでなく、就業者も重要な利用者となっています。ちなみに、同社ホームページで紹介されている会員5名のうち3名は就業者です(他の2名は主婦と大学院生)。

(4)その他

同社は、個人投資家やベンチャー・ファンドから資金を調達しており、公的な支援や事前の実験も無く設立された純粋のベンチャー企業です。 他方、ハイテク・システムをとり入れているのも特色です。

3.評価

(1)会員の評価

会員からは、「便利だ」「予約や利用が簡単」「車所有に伴う手間や維持費が不要」「自宅からも職場からもアクセスできる場所にある」「駐車場が確保されているのがいい」「安い」「交通量や大気汚染の軽減になる」などの賞賛の声があがっています。

(2)社会的評価

同社は、カーシェアリングの普及は車の台数や車の利用を減らし、交通渋滞の緩和や都市空間の有効利用に貢献するとしています。事実、同社の利用者の47%が、同社サービスを享受できることを理由に車の購入を延期するか取りやめています。一方、11%の利用者が、同社会員になったことによりマイカーを売却しています。なお、セカンドカーとしての利用者は16%とのことです。カーシェアリングの社会的効果に注目し、周辺の自治体やデベロッパーの関心も高まっているようです。

4.公的支援の動き

純粋民間企業としてスタートした同社ですが、最近になって公的な支援の動きが出てきました

(1)駐車場確保のための支援

ボストン圏の自治体(ケンブリッジ市など2市1町)が同社に対し、無償または格安料金で駐車場を提供しています。ボストン市議会議員グループが、大規模不動産開発案件や市営駐車場にカーシェアリング用の駐車場の確保を義務づける法案を提出するとの報道もあります。

(2)ワシントンDC圏での公的支援

ワシントンDC圏のアーリントン郡は、同郡の事業者のZipcarまたはFlexcar(同じくワシントンDC圏に2001年秋に進出したカーシェアリング会社)への入会を推進するため、1事業者当たり当初費用500ドルまでを支給しています。一方、ワシントンDC圏のアレキサンドリア市も同市の住民や事業者によるカーシェアリング利用を推進するために支援を行っています(例:個人の場合、1年目の入会金や会費105ドルまで)。さらに、1人でマイカー通勤している人がカーシェアリングに参加して公共交通機関通勤へ移行するように、先着25人に1ヶ月定期を無料で進呈しています。

5.採算

採算性に関しては公表された情報はほとんどありませんが、2001年4月の同社作成資料では、2001年夏には収支均衡の見込みとしています。

6.わが国への示唆

同社のこれまでの急成長の背景には、アメリカの場合、ベンチャー企業への投資に前向きな投資家や投資ファンドが少なくないこと、カーシェアリングに関連する法規制が緩やかなことなど、我が国と比べると様々な条件の違いがあります。しかしながら、ボストンやワシントンのように公共交通網がある程度発達している一方で、駐車場確保の難しい都市は我が国には少なくありません。例えば、居住者と就業者の両方をターゲットとして利用の平準化をはかるなど種々の工夫をすれば、我が国の都市でもカーシェアリングの普及の可能性があることを示唆しているといえます。

(注)このニュースは、Zipcarのウェブサイト、ならびに同社に関する多数の新聞・雑誌記事(同社ウェブサイトに一覧あり)等に基づいて交通エコモ財団が作成したものです。

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