1 訓練士対象の調査
訓練士から寄せられた画像は,駅ホーム(16枚14か所)交差点(80枚50か所),合計96枚,64か所であった。
触覚的コントラストが低いと思われる理由(図1と図6),周囲の路面の素材(図2と図7)を次に示した。
なお,同じ画像で重複する項目もそれぞれをポイントとしている。路面については,素材も分析した。
<駅ホームの結果>
調査の結果,駅ホーム,交差点共に「周囲の路面」が触覚的コントラストを低くしている原因として最も多かった(図1と図6)。また,周囲の路面の素材については,駅ホームではタイルが,交差点はインターロッキングが触覚的コントラストを低くしている具体的な場面として最も多かった(図2と図7)。
駅ホームにおいては,図5のように,内方線付きの新しいブロックと内方線なしの古いブロックが混在したケースがあり,勘違いを起こしえる非常に危険な敷設方法であると思われた。一貫性を持たせた補修が重要であろう。
交差点では,図8から図11のように周囲の路面の素材がインターロッキングで,ブロックがJIS規格外である例が挙げられた。それに加え点状ブロックと線状ブロックが混在(図9),劣化と敷設方法の混乱(図10)の例もあり,より触覚的コントラストを低くしている可能性が推測された。さらに,図11では道路自体もインターロッキングであり,「ブロックを伝えずにルートを逸脱することもあった」という報告もあり,非常に危険な場面であると思われた。図12では,溝がブロックに隣接しており,周囲の路面の素材のみではなく敷設環境への配慮も重要な視点であると考えられた。
<歩行訓練実施結果> 歩行訓練を実施した人数は16名。
触覚的コントラストが低いと訓練士が判断した場所での歩行訓練結果を以下に示す。
図18に示すように,周囲の路面の素材がインターロッキング,ブロックの素材がコンクリートの組み合わせが最も多く挙げられ,訓練中の当事者の様子としては,「何度も杖をふる」を筆頭に「ルートを逸脱する」,「引っかかる」と続いた。
<当事者向けアンケート調査結果> 回答数は81名。
伝いにくい場所の具体事例は119か所。そのうち交差点が27か所,駅ホームが19か所,駅構内が20か所,一般道路が27か所,そのほかが26か所であった。伝いにくい理由については,「周囲の路面とブロックの違いがはっきりしない」が32,「周囲の路面とブロックの高さの違いがはっきりしない」が33,その他が4であった。伝いにくい場所として挙がった15か所について,訓練士が現場を確認した。
歩行訓練を受けた経験のある人が約6割,そのうちの7割以上が単独歩行経験5年以上の人であったにもかかわらず,今回の調査でブロックを伝いにくいと回答した場所が119か所にのぼった。
今回の調査で,周囲の路面とブロックの触覚的コントラストに焦点を当てて聞いたが,回答ではブロックそのものの劣化や敷設方法に対する課題も多く挙げられており,ブロックに対する課題が複合的であることが分かった。
当事者からの改善点としては,「周囲の路面を平らにする」及び「ブロックと周囲の路面との素材の差をつけること」を望む意見が多くみられた。このことからも敷設の際,ブロックへの配慮のみならず,周囲の路面にも配慮することが必要であることが分かる。しかし,どのような素材のブロック,また周囲の路面の素材が良いのかまでは明らかになっていない。また,今回の調査では白杖や石突の種類も質問項目に入れたが,伝いにくさとの関係は明らかにならなかった。
<現地調査結果>
プロフィール,普段の歩行方法,歩行所用時間を表2に示した。神戸市布引の交差点の写真を図28と図29,浜松市の交差点の写真を図30と図31に示した。図中オレンジの線のルートで歩行。周囲の素材,ブロックは4か所ともコンクリートであったが,図29と図31の周囲はインターロッキングブロックであった。神戸,浜松での各1回目の所要時間について,有意水準5%で片側検定のt検定を行ったところ,いずれも有意差はなかった。なお,横切るブロックが発見できずに通り過ぎた神戸D,浜松D,色などの視覚で見分けた神戸Iはデーターから省いた。
5件法の結果を「わかりやすい」,「どちらでもない」,「わかりにくい」の3項目に集約し,カイ2乗検定を実施したところ(5%水準),横切るブロックについて,神戸1と神戸2で有意差がみられた。所要時間では差がなかったが,神戸1の分岐の方が神戸2よりもわかりやすいと当事者は感じていた。浜松においても4名全員が,浜松1のブロックは「とてもわかりやすい」と回答し,横切るブロックも3名が「とてもよくわかる」,1名が「どちらでもない」とし,「ややわかりにくい」「わかりにくい」と回答した者はいなかった(表3)。データーが少なく,統計での検証はできなかったが,当事者は,浜松2より浜松1の敷設の方がわかりやすいと感じていると思われた。
普段ブロックに足を乗せずに歩行している者は,13名中3名であった(表2)。「普段の歩行方法と異なったためわかりにくかった」という意見があったこと,ローラーチップを使用していた2名とも横切るブロックを通過したこと等,通り過ぎた要因は様々考えられるが,神戸2,浜松1の交差点で分岐のブロックが発見できず,通り過ぎた者が存在しているという事実は見逃せない。現実場面でブロックを発見できないことは,交差点での危険な状況につながりかねない。
聞き取り調査では,わかりにくい理由として「周囲の路面がガタガタしているとわかりにくい。どれがブロックか迷う」,「周辺がぼこぼこでなければ良い」「ブロックはしっかりしているが,タイルの段差は自分たちをだましている」,「周囲がタイル状なのでブロックとの境目が微妙」があがった。改善点として「ブロックの左右30cmは平らな路面にしてほしい」,「3枚1セットで」,「周囲がタイルみたいになっていたがそうでなければもっとわかりやすかったのでは」などの意見が聞かれた。ブロックが明確でも周囲の路面とのコントラストの重要性が示唆された。
(まとめと今後の課題)
本研究において,素材に関しては,周囲の路面の素材がインターロッキングブロック,ブロックがコンクリートの場合に触覚的コントラストが低くなる可能性が示唆されたが,より精査していく必要性がある。また,素材のみならず,周囲の環境,劣化,ブロックの規格などの複合的な課題も明らかになった。
断言できることは,ブロック自体の規格もさることながら,同時にブロックの周囲の路面の状況や環境など広範囲にわたりブロックが活用できるかを検討することが重要であることがわかった。当事者にとって有効にブロックが活用でき安全な歩行につながるように,今後も歩行訓練士会として啓発を進めていきたい。
(謝辞)
当事者から119件,訓練士から96枚の画像が寄せられ,13名の当事者による現地調査の協力を得られた。協力いただいた方々に感謝の意を表したい。