バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

駅構内のカラーユニバーサルデザインのためのXYZ表色系を用いた見やすさの研究

研究者名

東京工業大学 加藤 洋子

キーワード

視認性 見やすさ 色覚 色弱者 XYZ表色系 L*a*b*色空間 測光色 ユニバーサルデザイン

研究内容

(研究目的)
視環境設計において、あらゆる利用者に配慮し、障害物やサインの視認性(見やすさ)を確保することは 重要である。これまで筆者らは、複雑な輝度分布でも明視の三要素(@視対象サイズ、A視対象と背景の 対比、B順応輝度)を表現可能な輝度コントラスト評価図(CA図)を提案し、定量的な視認性推定が可能で あることを示した。しかし、視対象や背景の色度が限定され、視対象や背景の色度分布が視認性に与え る影響について考慮されていない。本研究は、輝度と色度の双方を考慮した駅構内の設計に利用可能な視認性推定法を検討し、交通バリアフリーのため色弱者へ展開させることを目的とした。色弱者の人口は日本では320万人以上、世界では2億人いるといわれている。

(研究手順)

1.申請者らの既往研究である、輝度分布から視認性推定を行なう輝度コントラスト評価図(CA図)1)の考え方を、測光色(XYZ表色系XYZ刺激値, ただしYは輝度)へ展開する手法を提案
2.一般色覚者(一般型)を対象とした円形視標を用いた見やすさ評価実験、および、色度コントラストを示すaC-bC図およびXYZ表色系のxy色度図を用いた分析
3.色弱者(1型・2型)を対象とした円形視標を用いた見やすさ評価実験、および、色度コントラストを示すaC-bC図およびXYZ表色系のxy色度図を用いた分析

4.まとめ、今後の展望

(研究成果)

  1. 1.輝度分布による視認性評価およびXYZ刺激値を用いた評価への展開
  2. 申請者ら1)はこれまで、コントラスト・プロファイル法2)に基づき、視対象サイズごとに縦軸:輝度コントラスト(C値)、横軸:対数輝度平均(A値)として明視三要素を表現する輝度コントラスト評価図(CA図)を用いて、複雑な輝度分布でも視認性を定量的に推定できる手法を
    提案した(図1)。本研究において輝度を用いた視認性評価から測光
    色を用いた視認性評価へ展開するにあたり、L*を明度、a*b*平面で
    色相を表すCIE1976 L*a*b*色空間(図2)を参考にした。 

本研究では、XYZ表色系XYZ刺激値より、コントラスト・プロファイル
法2)を基にした円形視標のC値, A値の算出式(1), (2)1)を用いて計算対象のC値(CX, CY, CZ),A値(AX, AY, AZ)をそれぞれ算出し、CIE1976 L*a*b* 色空間を参考とした式(3)から算出する測光色コントラスト値(LC,aC, bC),測光色対数平均(LA,aA,bA)によって視認性を検討する。Lは輝度成分、aは[赤-緑]成分、bは[黄-青]成分を表す。

(CX, CY, CZ) = 0.775×log10(Xt, Yt, Zt) - 0.775×log10(Xb, Yb, Zb) …(1)
(AX, AY, AZ) = 0.087×log10(Xt, Yt, Zt) + 0.913×log10(Xb, Yb, Zb) …(2)

Xt, Yt, Zt :円形視標のXYZ刺激値Xb, Yb, Zb :背景のXYZ刺激値

測光色コントラスト      測光色対数平均

 LC = CY            LA = AY
 aC = CX - CY          aA = AX - AY
 bC = CY – CZ          bA = AY – AZ

2.一般色覚者(一般型)を対象とした見やすさ評価実験

一般的な色覚をもつ20代晴眼者8名を対象に、円形視標を用いた見やすさ評価実験を行った。既往実験1)と同様の実験室(図3)において、被験者は2.5[m]離れた27インチPCモニタ(EIZO Color Edge CG277)に提示される均一背景上の円形視標(図4)を両眼で観察し、見やすさを、5段階の評価尺度で回答する(表1)。円形視標の背景のXYZ刺激値、円形視標のXYZ刺激値、円形視標のサイズを変化させ、ランダムな順序で円形視標を提示し実験を行なった。

背景色D65(x=0.319, y=0.325)、背景輝度20[cd/m2]、視対象サイズ5[min]とし、背景と円形視標のaC,bC,LC を変化させ行なった被験者8名分の評価結果を図5に示す。被験者8名中4名以上で評価が得られたかをもとに、表1の凡例で示す。横軸:aC、縦軸:bCとし、原点は背景色と円形視標の色度が同一である。LC≒0の場合には、緑みの黄から菫色にかけて‘見えない’の評価が帯状に分布する。青の実線で示すS錐体の混同色線3)(混合色中心をx=0.1748, y=0.00444)とする)と一致し、中心視野のS錐体の分布密度が低いために生じる小視野トリタノピア3,5)の影響と考えられる。LCの絶対値が大きくなるほど視認性が向上することが確認できる。

3.色弱者(1型・2型)を対象とした見やすさ評価実験

1型1名の評価結果を図6、2型1名の評価結果を図7に示す。1型、2型ともに、輝度コントラストLCの絶対値が増加しても一定の範囲に‘見えない’の評価がある。一般色覚者と比べ、1型の場合は背景よりも明るい赤、2型の場合は背景よりも明るい緑の円形視標の際に、視認性が低いことが示された。1型はL錐体、2型はM錐体が機能していないもしくは機能が弱いため、このような結果となったと考えられる。

4.まとめ、今後の展望

本研究では、輝度分布から視認性推定を行なうCA図の考え方を測光色(XYZ刺激値, ただしYは輝度)へ展開する手法を示し、一般色覚者(一般型)および色弱者(1型・2型)を対象とした円形視標を用いた見やすさ評価実験を行なった。今後は、引き続き得られた実験結果を分析し、視認性推定モデルを構築する予定である。色度を考慮した視認性推定モデルが完成することで、設計者は、サイン計画や建築空間における段差や柱など障害物の視覚的安全性が確保できているか、色弱者にとって区別が難しい色の組み合わせでないかを計画段階から確認可能となり、カラーユニバーサルデザインに役立てられると期待している。

参考文献

1) 加藤洋子, 中村芳樹, 上口優美, 岩田三千子:晴眼者を対象とした円形視標の視認閾値に関する基礎的検討−弱視者を想定した輝度コントラスト評価図を用いた視認性推定法に関する研究(その1), 日本建築学会環境系論文集, 第83巻, 第743号, pp. 21-28, 2018.1
2) 中村芳樹:光環境における輝度の対比の定量的検討法, 照明学会誌, 第84巻, 第8A号, pp. 522-528, 2000.8
3) 篠田博之, 藤枝一郎:色彩工学入門定量的な色の理解と活用, 2007.4
4) Vos, J. J. and Walraven, P. L.:On the derivation of the foveal receptor primaries, Vision Res.,pp.799-818, 1971.11
5) Austin Roorda, David R Willams. :The arrangement of the three cone classes in the living human eye, NATURE,VOL 397, pp.520-522 1999.2

 

図1 輝度コントラスト評価図(CA図)の例

図1 輝度コントラスト評価図 (CA図)の例

図2 L*a*b*色空間

図2 L*a*b*色空間

図3 実験室概要

図3 実験室概要

図4 提示刺激の様子

図4 提示刺激の様子

表1 評価尺度および実験結果凡例

表1 評価尺度および実験結果凡例

図5 一般型8名の実験結果

図5 一般型8名の実験結果

図6 1型1名の実験結果

図6 1型1名の実験結果

図7 2型1名の実験結果

図7 2型1名の実験結果

バリアフリー設備のご紹介

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