バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

認知症高齢者に配慮した公共交通施設のトイレの操作系設備に関する調査研究

研究者名

日本工業大学 野口 祐子

キーワード

認知症高齢者 公共トイレ 操作系設備 鍵 便器洗浄ボタン

研究内容

(研究目的)
平成27年、関係府省庁は共同で「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜」(新オレンジプラン)を策定した。その柱の1つ「認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進」では、「公共交通施設や建築物等のさらなるバリアフリー化の推進」が謳われている。 まちのバリアフリーは、多様な人々を含める方向で展開しているものの、認知症高齢者の暮らしにくさをハードの環境整備で解決しようとする動きは十分でない。
 一方、公共トイレの環境整備についても、これまでは人的なサポートで対応し、それをトイレの設備の使いにくさなど環境側の問題としてとらえる視点は十分でなかったと考える。高齢者は加齢と共に排泄に課題が多くなり、外出時に使用可能なトイレの有無が、外出の機会を大きく左右する。したがって、今回は公共トイレの課題を明らかにすることを目的に、家族等へのアンケート及びインタビュー調査をおこない、公共トイレでの困りごとの実態を把握し、さらに、軽度認知症高齢者が単独で一般便房を使用することを想定し、鍵や便器洗浄ボタンなどの操作系設備のわかりやすさ、使いやすさに焦点をしぼって検証をおこなった。なお、本研究をおこなうにあたり、「日本工業大学 人を対象とする倫理委員会」に審査を申請し、承認を得た(2017年8月26日、NIT倫審2017-0008号)。
(研究手順)

(1)インタビュー調査
対象者:認知症家族の会T支部の家族8名
実施期間:2017年10月〜11月
内容:公共トイレの利用上の問題についての実態把握
(2)アンケート調査
対象者:A施設デイサービス利用者またはその家族110名(有効回収数62件(回収率56.4%))
実施期間:2018年1月
内容:「高齢者のトイレ利用の困りごとに関する調査」公共及び家庭のトイレの利用実態と困りごと
(3)操作系設備(鍵や便器洗浄ボタン)の検証
対象者:A施設デイサービス利用者13名
実施期間:2017年11月13日、14日
内容:一般便房のモックアップを作成し、鍵4パターン(スライドラッチ2種類、打掛錠2種類)、ボタン類3パターン(便器洗浄ボタン、温水洗浄便座リモコン、呼出しボタンの組み合わせ3種類)を操作してもらい、使用する様子を記録。

(研究成果)

  1. (1)アンケート調査対象者(62名)の属性は以下の通りである。
    年齢:79歳以下12.9%、80〜84歳27.4%、85〜89歳25.8%、90歳以上27.4%、無回答6.5%
    性別:女性80.6%、男性16.1%、無回答3.2%
    要介護度:自立(非該当)8.1%、要支援1 19.4%、要支援2 21.0%、要介護1 22.6%、要介護2 6.5%、要介護3 11.3%、要介護4 4.8%、要介護5 0%、無回答 6.5%
    認知症の有無:あり(疑い含)45.2%、なし37.1%
    アンケート調査からは以下のことを把握することができた。
    @外出時は全体で4割、認知症ありの人は7割が紙パンツを利用している。
    A外出時トイレに付添うのは全体で3割、認知症ありの人は5割である。付き添う人の6割が個室内に一緒に入る。
    B外出時に利用するトイレは6割強が一般のトイレ、3割弱が多機能トイレである。付添いあり(同性)の場合は7割が多機能トイレ、付添いあり(異性※今回すべてが男性が女性を介助するケース)の場合は3割が多機能トイレ、4割強が一般のトイレを利用している。
    (2)インタビュー及びアンケート調査から、公共トイレ利用の困りごとは以下のようにまとめられる。
    @鍵や便器洗浄の方法が様々でわかりにくい。多機能トイレの自動ボタンもわかりにくい。操作方法の注意書きも様々。/A手すりが合わない。可動式の手すりの使い方がわからない。/B荷物置きが少ない。/C狭くてシルバーカーと一緒に入れない。/D多機能トイレが少ない。多機能トイレでも介助者が入ると狭い。/E紙おむつ・紙パンツの交換のためのスペースやごみ箱、身体を清潔にするための温水設備がほしい。/F男女別の一般トイレに入ったことで、はぐれた。行方不明になって見つからないという深刻なケースがある。/G男女別のトイレでは親子や夫婦などの異性が介助できず苦労した。介助する男性が女性トイレに入って変な目で見られた。/H介助者が、長距離歩くことができない本人と一緒にトイレを探せない、本人をどこかに待たせて探しに行くこともできない。
    さらに、公共トイレに対する要望をまとめると以下のようになる。
    洋式トイレ/転倒事故防止のための手すりの設置(家庭では転倒、骨折事故が起きている。便器周りだけではなく、洗面台や通路等なども必要)/分かりやすい操作ボタンや便器洗浄方法の統一化、機能の簡素化/ドアや鍵の開閉のわかりやすさ/ものを置くスペース/紙おむつ、紙パンツ交換のための広さや設備(フィッテングボード、ゴミ箱、自動販売機)/多機能トイレの増設(ベビーカーや子ども連れの利用が増えて空きがない)/シルバーカー、歩行器と一緒に入れる広めのトイレブース/多機能トイレの設備は特殊でわかりにくいため、一般のトイレに近いデザイン/異性介助のために男女が人目を気にせず一緒に入れるトイレ/男女別トイレに異性が入るための介助中のマークとその周知/トイレの位置をわかりやすく表示
    (3)操作系設備(鍵や便器洗浄ボタン)の検証
    @スライドラッチは、馴染みのある鍵ということもあり、問題なく操作できたが、一部の打掛錠で、開閉に必要な動作とは異なった動作で時間を要した人が2名おり、構造から動作を想像しやすい形状が求められることが把握できた。
    A便器洗浄ボタンについては写真の3パターンを検証し、正しくボタンを押せた確率は、左から53.9%、69.2%、84.6%となっており、ボタンによってわかりやすさが異なった。間違って押したボタンの9割が呼出しボタンで、色や形状などボタン全体で改善が必要であると考える。 

 

便器洗浄を押せた割合(53.5%、69.2%、84.6%)

便器洗浄を押せた割合(53.5%、69.2%、84.6%)

バリアフリー設備のご紹介

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