道路交通環境下における知的障がい者の交通コミュニケーション能力の把握とその応用(3-一3)
公益財団法人豊田都市交通研究所 三村泰広
知的障がい者、道路交通環境、交通コミュニケーション
(研究目的) (研究手順) (1)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での課題事象の把握愛知県豊田市に在住する知的障がい者の介助者を対象とした意識調査を通じて把握 (2)知的障がい者の道路交通環境下の交通コミュニケーション能力の測定歩道、横断歩道通行時における交通コミュニケーション能力を上記の意識調査と実証実験を通じて把握 (3)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を応用した道路交通環境整備の方向性(1)(2)の結果を踏まえた知的障がい者のための道路交通環境整備の方向性を明示 (研究成果) (1)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での課題事象の把握知的障がい者の「歩道、車道環境」と「公共交通環境」の2つの交通環境における「対人」「対空間」「対システム(交通・社会など)」の視点からの課題について、愛知県豊田市に在住の423名の知的障がい者の介助者に対する意識調査結果から整理したところ以下のような成果を得た。 1)歩道、車道環境の課題対人:5割の方が能動的に相手に意思疎通を試みることが難しい 2)公共交通環境の課題対人: 5割程度の方が緊急時などにその問題を車掌等に伝えられず、さらに相手が早口だったりする(対応が適切でない)と混乱してしまう (2)知的障がい者の道路交通環境下の交通コミュニケーション能力の測定1)交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の整理上記の課題事象から集約される重要な交通コミュニケーション能力について主成分分析を通じて整理し、以下のような成果を得た。 2)知的障がい者の特徴からみた交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の測定1)の結果を踏まえ知的障がい者の特徴からみた交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の傾向を整理した結果以下のような成果を得た。 @交通コミュニケーション能力と知的障がい者の特徴の関係性・個人属性からみた場合、特に総合能力、能動的意思疎通能力は年齢、障がいの程度、知的障がい以外の症状(特に脳性マヒ、ダウン症、自閉症)、多動・攻撃・自傷・破壊・収集などの特性によって大きく異なることがわかった。 A介助者の教育方針と知的障がい者の特徴の関係性・個人属性からみた場合、総合教育量は年齢、知的障がい以外の症状、多動・攻撃・自傷・破壊・収集などの特性によって異なり、特に高齢、脳性マヒ、ダウン症などや多動などの特性があると外出抑制型教育が重視されることがわかった。 ・交通行動からみた場合、総合教育量は同行の必要性が明確な場合には多くなる。また使用する交通手段の頻度は教育のスタイルによって大きく差が生じていることがわかった。 3)実証実験を通じた交通コミュニケーション能力の測定9名の被験者とその保護者を対象とした道路交通環境下での交通コミュニケーション能力として、@対人(回避が困難と予想される視覚障がい者の対向者)、A対車(対車両)、B対物(障害物)への対応状況をビデオ観察調査を通じて実施し、以下の成果を得た。 (3)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を応用した道路交通環境整備の方向性(1)(2)の結果を通じて以下のような道路交通環境整備の方向性を示すことができた。 1)個人属性を加味したサポート体制の構築脳性マヒ、ダウン症、高齢などの個人属性により交通コミュニケーション能力が低いと考えられる方々に対しては、STSなどによる支援体制の強化、構築が重要となる。 2)外出抑制型教育から外出促進型教育への転換支援個人属性からみた場合に外出抑制型教育である必要がない方々に対する外出促進型教育への転換を促すセミナー開催、パンフレット作成など様々な形で支援する。その際、特に実証実験で課題が見えた「人」、特に視覚障がい者や妊婦、高齢者といった歩行に制限がある対向者とのコミュニケーション教育を充実させる。 3)合理的配慮がなされた道路交通環境整備の実施知的障がい者の交通コミュニケーション能力のうち、特に「突発的変化への対応能力」は教育的対応でもってしても解決が難しいことが予想されるため、当該能力が必要とされる課題については、空間整備などのハード的対策を進めていく必要がある。具体的には以下のような具体的事象に対して提案を行う。 |