バリアフリー推進事業

平成24年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 中間報告

研究助成名

道路交通環境下における知的障がい者の交通コミュニケーション能力の把握とその応用(3-一3)

研究者名

公益財団法人豊田都市交通研究所 三村泰広

 

研究内容

1.知的障がい者の交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での危険事象の把握

(1)交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での一般的危険事象の整理
歩道、横断歩道、交差点といった道路交通環境下における一般的な危険事象について、交通事故統計、既往研究等から整理した。また道路交通環境下での知的障がい者の課題事象について、既往研究の成果および、豊田市に所在する知的障がい者の就労支援等を行う福祉団体の関係者および豊田市社会福祉部障がい福祉課の担当者に対するヒアリング調査から整理した。

1)一般的危険事象
一般的危険事象について考慮するにあたっては、主に知的障がい者がどのような交通行動特性を行なっているかを踏まえ、特に頻出することが想定される事象に配慮しておくことが重要である。いくつかの既往研究を整理したところ、知的障がい者の交通行動特性として、買い物などの日常行動においては、徒歩や自転車、公共交通と分担率が高いこと、また自動車を自ら運転することはほとんどないことがわかった。
よってここでは、徒歩か自転車の2パターン、特に徒歩が多いと想定されることから歩行者対自動車、歩行者対自転車の一般的事故の傾向を整理した。その結果、歩行者横断中が全体の73%と多いこと、夜間は特に自動車からみて右から左に横断する歩行者と事故することが多いこと、自動車対歩行者事故の自動車は直進中が79%と圧倒的に多いこと、自転車対歩行者事故の被害は歩行者が圧倒的に大きいこと、事故時の自転車は一時停止などの交通法規を遵守しない割合が自動車に比べて非常に多いことなどを整理することができた。

2)道路交通環境下での知的障がい者の課題事象
歩道・車道および、公共交通の交通コミュニケーション能力が主に起因すると考えられる課題として、以下の表-1、表-2ような課題を整理することができた。またこれらの課題と具体的な交通行動との関係性について、これまでの既往研究や関係者とのヒアリング結果を参考にしながら、図-1のようなモデルを仮定し、次年度以降検証していくこととした。

 

表-1 歩道・車道通行時における課題


a.道路で自転車や自動車からベルやクラクションを鳴らされても避けようとしない
b.歩道で相手がこちらに気づいていないときに自転車のベルを鳴らすなど自分の存在を知らせたりするような行動を取らない
c.道路で人にぶつかったりしても謝ることができない
d.道路を横断するときに安全をちゃんと確認しないまま渡ってしまう
e.横断歩道や駐車場などで相手の車などが少しでも止まろうとすると、すぐに移動しようとする
f.狭い歩道を通るときに、自転車にぶつかりそうになるなどして怖い思いをすることがある
g.歩道が無い道路を通るときに、自動車にぶつかりそうになるなどして怖い思いをすることがある
h.照明の整備されていない暗い道路を通るときに、自動車にぶつかりそうになるなどして怖い思いをすることがある
i.視界を遮るような建物があるなど周りの道路が見えづらいところを通るときに怖い思いをすることがある
j.照明の整備されていない暗い道路を通るときに、不審者に襲われそうになるなどして怖い思いをすることがある
k.通り慣れた道路でも、自転車や自動車の量が多くなってしまうと、通れなくなってしまう
l.歩行者と自動車の信号が分離された交差点など、ふだんと異なる仕組みで動く信号交差点などでは、混乱をしてしまう
m.通り慣れた道路が工事などで通行止めになると、目的地に辿りつけなくなることがある
n.バイクなどの大きな音が鳴り響く道路だと、混乱をしてしまう

表-2 公共交通利用時における課題


a.電車やバスに乗ると他人に話しかけてしまう
b.切符をなくすなど困ったことが起きても駅員や運転手にうまく伝えることができない
c.電車やバスの中では、絶えず動きまわってしまう
d.鉄道やバスの中で乗客や運転手にぞんざいに対応されてしまうことがある
e.駅員や運転手などに早口で立て続けに話しかけられると混乱をしてしまう
f.電車のホームで落下しそうになるなど、怖い思いをすることがある
g.電車やバスの中で立ち続けることは難しい
h.乗車や降車の際の地面やプラットフォームと車両との段差が辛い
i.駅やバス停に設置されている時刻表や案内板を理解したり、確認したりすることは難しい
j.歩くのが遅いため、電車の乗り継ぎなどが間に合わないことがある
k.駅で突然、電車の入るプラットフォームなどが変更されても気づかず目的地の違う電車に乗ってしまうことがある
l.バスや電車の乗車拒否をされたことがある
m. 割引を受けるための療育手帳の提示を本人一人ではできない
n.バスや電車などで入口と出口が違ったり、出入口付近に人が多くいたりすると、車両から降りることができない
o.一度でも車内などで嫌な目に合うと同じ車両には乗れなくなる
p.電車の切符やバスの整理券を本人一人ではうまく使えない

(2)道路交通環境下での危険事象の調査
上記(1)で整理した知的障がい者の道路交通環境下における危険事象の実態を定量的に把握するため、アンケート形式による意識調査を実施する。調査概要を表-3に示す。対象者は豊田市に在住する約2,100名の知的障がい者のうち、歩行行動および健康面での支障がない方、すなわち療育手帳を保持、身体障がい者手帳および精神障がい者保健福祉手帳を保持しない当事者の介助者の方である。被験者の募集には申請者と過去の研究等で繋がりのある豊田市障害がい福祉課および関連施設等の協力を求めた。その結果、関連施設側の協力を得ることができた。現在、調査票の設計、実施調整等に時間がかかった関係もあり、調査実施に向けた調整段階にある。今年度中には調査の実施、結果の整理を実施する予定である。
主な調査項目は、個人属性、危険事象の経験数に影響すると想定される外出頻度や交通手段、その時の介助の必要性とともに、上記(1)で整理した危険事象の経験状況を調査する。併せて、介助者の特に交通活動に関する教育方針も調査する。

表-3 調査概要


調査時期:平成25年2月下旬〜3月上旬(予定)
調査対象:療育手帳を保持、身体障がい者手帳および精神障がい者保健福祉手帳を保持しない当事者の介助者の方
配布・回収方法:関連施設の協力による配布、郵送回収
配布数(予定):100〜200票程度
調査項目:
1)個人属性:主に、障がいの程度、他の障がい(ダウン症など)の状況、日常生活能力(厚生労働省調査を参考に作成)を調査
2)交通活動:目的別外出頻度、交通手段、介助の必要性
3)交通環境下での課題事象:既往研究をベースに作成し、関係法人(2名)の方、および豊田市障がい福祉課の担当者にチェックを頂いたもの。道路空間と公共交通空間の2視点から作成
4)介助者の教育方針
5)次年度調査(模擬市街地におけるフィールド実験)への協力意向

図1知的障がい者の交通コミュニケーションを起因とする課題が単独行動可否と活動頻度に与える行動モデル(仮説)図1知的障がい者の交通コミュニケーションを起因とする課題が単独行動可否と活動頻度に与える行動モデル(仮説)

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