バリアフリー推進事業

平成21年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

安全な車いす降行のためのスロープ形状に関する実験研究(344-2)

研究者名

独立行政法人建築研究所 建築生産研究グループ 布田健

キーワード

車いす、勾配、スロープ、踊り場形状、安全、 降行、被験者、衝突と軌跡

研究内容

研究目的

本研究は、スロープ降行時における車いす使用者の走行安全性確保を目的とし、スロープ勾配と踊場形状について、被験者実験からその安全性を明らかにしようとするものである。現在、踊場長さについては「高低差750mmごとに1500mm以上の踊場を設ける」とバリアフリー新法などで決められているが、その根拠として車いすの昇行自走時においては休息が必要であるため、そのような使用を想定した踊場寸法であると考えられる。一方降行時を考えた場合、車いすの方向転換や制動のしやすさといった観点から踊場の寸法を決める必要があり、この問題については今のところあまり検討されていない。十分な踊場長さを用意しないと壁への衝突など事故につながる危険性もあり、本研究では車いすの降行自走時におけるスロープの「勾配」「長さ」と、踊場の「広さ」「形状(曲がり角度)」の関係について、車いすの走行軌跡から必要な踊場寸法について分析した。

研究手順

スロープの @勾配、A高低差、B踊場の形状(図1)といった条件を変化させ、車いすに乗った被験者にスロープを降りてもらい、天井から吊したCCDカメラ及びDVデッキでその様子を撮影した。実験で用いたスロープは(独)建築研究所が所有する勾配可変スロープ(写真1)を使用し、条件とする勾配を設定した。実験項目の一覧を表1に示す。なお、映像を分析するにあたっては、それぞれの走行軌跡の違いを見るため、以下の2点に整理し検討を行った。
1.勾配の違いによる走行軌跡の違い
2.高低差および踊場での操作の違い(*1)による走行軌跡の違い

*1・・・この実験では、図2のような踊場形状を想定し、無理のない車いす操作で「停止」「90度回転」「180度回転」を行ってもらったため、壁による車いす操作の拘束については検討していない。なお、車いすの走行速度や軌跡、制動距離の計測には、スポーツや医療など様々な分野で使用されている映像解析ソフトDIRTFISH4.5を使用した。

研究成果

1.勾配の違いによる走行速度・制動距離の違い

表1に示すスロープについて、9名の被験者に車いすで降行してもらった。走行パターンは(1)自然降行(自分の意思で車いすのスピードや方向をコントロールしてもらう)、(2)急ブレーキ降行(斜路では方向操作にとどめ踊場で初めてブレーキをかける)の2パターンとした。その実験の様子を写真2に示す。車いすは、サイズ(全幅61[59]×全高79×全長100cm)、車輪サイズ(前輪5×後輪22インチ)、重量(17.0kg)の自走用のものを使用した。
  表2及び表3は、踊場到達時の車いすの走行速度及び制動距離について、スロープ勾配毎に示した結果の一例である。各スロープの高低差は375mmと揃えた。まず自然降行に着目すると、勾配が急になるに従い走行速度の増加がみられた。これは急になるほど斜面方向への推進力は強くなるためハンドリムを使った制動には力が必要となるからだと考えられる。一方、踊場における制動距離を見ると、勾配にかかわらずほぼ一定の値となり、今回の速度の範囲(0.8〜1.2m/s)であれば制御下であったと推測される。次いで、急ブレーキ降行を見てみると、自然降行と比較し走行速度及び制動距離共に大きくなっている。また、勾配が急になるに従い走行速度は増加する傾向がみられる。しかし制動距離に関しては、現在のところ一定の傾向はみられない。これは、ブレーキのタイミングなど個人差が大きいためと考えられ今後の分析が必要である。
  なお写真3の制動距離では、いずれの勾配においても自然降行の場合は現行基準の寸法内であるが、被験者間での差(写真3)や高低差375mmでの結果であることを考慮すると、踊場長さ1.5mで十分とは言えない。また、避難などを想定した急ブレーキ降行では、明らかに踊場寸法が足りていない事が分かる。

2.踊場での操作の違いによる走行軌跡の違い

踊場での進行方向により必要とする踊場寸法は異なり、またその形状により車いすの操作に違いが出る。写真5及び写真6は、90度回転時(かね折れ型を想定)及び180度回転時(折り返し型を想定)の走行軌跡を分析した一例である。これを見ると、いずれの場合も1.5mを超えて曲がっており、単に停止するよりも広い寸法が必要となっている。また、180度回転時にはスロープ幅も1.5m近く必要であり、これは現行の基準よりも大きい。次に写真4図8の感覚評価と照らし合わせてみると、女性被験者のほうが特に操作に難しさを感じ、回転半径も大きくなる傾向にあった。今後の課題としては、スロープの勾配や高低差、踊場の形状の違いによって、最適寸法を個別に提示する必要があると言える。

 

スロープの構成要素

図1 スロープの構成要素

 

表1 実験項目一覧(「停止」、「回転」は踊場での操作)

実験項目一覧

 

勾配可変スロープ

写真1 勾配可変スロープ

 

踊り場での操作とスロープ接続形状の関係

図2 踊場での操作とスロープ接続形状の関係

 

実験の様子

写真2 実験の様子

 

勾配と踊り場侵入時の速度

表2 勾配と踊場進入時の速度(高低差一定)

 

勾配1/20、高低差375mmでの制動距離

写真3 勾配:1/20、高低差:375mmでの制動距離

※自然降行(左3名:女性、右3名:男性)

 

勾配と制動距離

表3 勾配と制動距離(高低差一定)

 

操作の違いと操作性の評価

表4 操作の違いと操作性の評価

 

踊り場での90度回転(左:女性、右:男性)

写真5 踊場での90度回転(左:女性、右:男性)

 

踊り場での180度回転(左:女性、右:男性)

写真6 踊場での180度回転(左:女性、右:男性)

 

バリアフリー設備のご紹介

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