バリアフリー推進事業

平成20年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

視覚障害者への歩行空間提示を目的とした、感触の異なる床仕上げ材の識別容易性に関する研究(248-1)

研究者名

国立障害者リハビリテーションセンター研究所 小林吉之

キーワード

視覚障害者、歩行、誘導、視覚障害者誘導用ブロック、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、建築、床仕上げ材

研究内容

研究目的

現在、視覚障害者の安全な歩行のために広く歩道などに敷設されている視覚障害者誘導用ブロック(以下ブロックと記す)は、その有用性が世界的にも評価されている。しかし同時にブロックを利用しない人にとってはその突起が余計なバリアをなりうる事も指摘されており、現在のブロックは必要最低限しか敷設されていない。

このような背景から近年屋内など安全性が高く確保されている空間で、素材の感触の異なる床仕上げ材を組み合わせることで、視覚障害者に歩行空間を提示するという試みが実施されている。下記にその一例を挙げる。・国際障害者交流センタービックアイ(大阪府堺市)、・東京都千代田区役所(東京都千代田区)、・柏瀬眼科(栃木県足利市)

しかしこれらの施設では、どの程度、どのような差を床仕上げ材間に持たせれば視覚障害者が歩行中に識別できるのか、定量的・客観的な検証は行われていない。そこで本研究では、これまで我々が行ってきた先行研究の治験を基に、視覚障害者が感触の異なる床仕上げ材を歩行中にどの程度正確に識別できるのか、その識別容易性を定量的に検証することを目的とする。本研究の背景と目的に関する概略図を掲載する。本研究を通じて、視覚障害者が識別しやすい床仕上げ材間の特性を定量的に明らかにしていくことで、今後より精度高く、容易に識別できる床仕上げ材の開発に繋げることを長期の目標としたい。

研究手順

本実験では、次の5種類の床仕上げ材を被験者に提示した。表面を磨いた石タイル(ミガキ)、バーナー加工によって表面を粗くした医師タイル(バーナー)、カーペットタイル(カーペット)、ゴムタイル、磁気製警告ブロック(警告ブロック。被験者は、末梢神経障害を有さない視覚障害者10名(男性5名、女性5名)及び末梢神経障害を有する視覚障害者4名(男性2名、女性2名)であった。被験者は全員全盲の視覚障害であったが、光覚弁などの可能性も考えられたため、実験条件を統一する目的で、実験中被験者にはアイマスクを着用させ、また足音も手がかりとならないようホワイトノイズを流したヘッドフォンを着用させた。

被験者は、前半にミガキを後半に上記5種のうちいずれか1種を敷設した、計5通りの歩行路を歩行し、歩行中に前半部(ミガキ)から別の素材に床仕上げ材が切り替わったと感じた時点で立ち止まるように指示された。前半と後半の床仕上げ材が異なる歩行路4種はそれぞれお4種ずつ、また前半も後半もミガキを提示した歩行路は20試行繰り返した。これは、もしすべての組み合わせが同数ずつ繰り返された場合、前半と後半の床仕上げ材が異なる組み合わせが多くなってしまい、被験者に停止を促してしまうため、前半と後半の床仕上げ材が異なる組み合わせと同じ組み合わせの割合を1対1としたためである。更に、床材が切り替わる箇所が毎回同じとならないように床材の切り替わり地点を5カ所ずつ用意し、全ての実験条件をランダムに提示することで被験者の予見を防いだ。実験ではまず白杖を使用しない条件での実験40試行を行い、その後休憩を挟んで白杖を使用する条件40試行を行った。

研究成果 図2には末梢神経を有さない視覚障害者の結果を、図3には末梢神経障害を有する視覚障害者の結果をそれぞれ示す。実験の結果、末梢神経障害を有さない被験者らは、白杖を使わない試行でもほとんどの素材を高い正答率で識別していることが確認された。一方末梢神経障害を有する被験者らは白杖を使わない場合、警告ブロック以外は正答率が非常に低く、足裏の感覚だけでは今回提示した床材の差を識別できないことが確認された。しかし白杖を利用すると、どちらの群でもほとんどの素材を9割以上の確立で識別できることが確認された。また、いずれの群もゴムタイルの識別率は非常に低かった。これは本研究で使用したゴムタイルの特性が、基本の素材として提示したミガキの特性に非常に近かったためであると考えられる。今後は末梢神経障害を有する被験者に対する実験を増やし、より信頼性を高めていく必要がある。
 

図1 ベースモデル

 

図2 電動アシスト装置の取付

 

図3 試作機の試験走行の様子

 

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介